24 / 36
本編
アニス、話を聞く
しおりを挟む
クレメントの姉は、少しも大事になんかされていなかった。それどころか、妊娠中にたびたび毒を盛られてさえいたと言う。ただ、毒が回る前に不思議な現象が起きて、毒が消えたから生きながらえることができただけだ。状況から考えれば、胎児だったアニスが生存本能から解毒していたと見て間違いないだろう。
そんな不思議なことが何度もあったから、クレメントの姉は、聖冠を腹に当ててみることを思いついたのだ。彼女はこれを慶事として夫に報告したが、前国王は無事に生まれるまでは伏せておくよう指示した。
もちろん「無事に生まれるまでは」なんてのは、ただ時間を引き延ばすための方便だ。やつは無事に生まれさせるつもりなんて、さらさらなかったのだから。
アニスが無事に生まれると、前国王は下っ端の使用人に「魔国に捨ててこい」と命じた。「本当に聖女なら、赤ん坊であろうと魔を討つだろう」などと、無茶苦茶を言って。監視をつけられた使用人は、命令どおり魔国に向かうしかなかった。国境に着くと無事を祈りながら、そっと結界の内側に押し込み、後ろ髪を引かれる思いで帰途についたそうだ。
そしてアニスを産み落とした母親は、そのまま亡くなった。毒を使うまでもない。産後の弱ったところを放置して、そのまま死なせた。そのくせ、母も子も助けられなかったと大げさに嘆いてみせたものだから、クレメントの一族はすっかり騙されてしまったのだった。
その喪が明けた頃、前国王は後妻を得た。これこそが、やつの当初からの計画だった。政略結婚によりクレメントの一族の後ろ盾を得つつ、本当に王妃としたい者をその座につけるのが目的だったのだ。
隠されていた真実が明らかになり、クレメントの一族は激怒した。すぐさま水面下で淡々と準備を始め、わずか数か月で王族を下すことになった。もともと王家と双璧をなすくらいには、力のあった一族だ。王権を手にするのは、それほど難しいことではなかったらしい。
ましてや入念に根回しした上での不意打ちだ。王権の上にあぐらをかき、ろくに臣下との間に信頼を築いてこなかった前国王には、なすすべもなかった。
──ここまで話を聞き終わり、魔族一同はドン引きである。人間、こええ。
いや、魔族だって酔った勢いでけんかくらいするよ? でも同族で殺し合いするとかさあ……。しかも妊婦に毒を盛るなんて、マジであり得ない。
だいたい王位って、望んで就くもんじゃなくない? 誰かがやらないと国が回らないから、適性のある誰かが仕方なく貧乏くじ引かされてやるもんだと思ってた。だけどどうやら、人間の国では違うらしい。適性とか関係なく、世襲制なんだと。よくそれで国が回るな。
……いや、回ってなかった。回ってないからアニスの母親は殺されたし、アニスはここに捨てられたんだよ。
言葉を失った魔族の中で、シェムがいち早く我に返ってクレメントに尋ねた。
「ええっと、それで『前国王』ってことは、今はあなたが国王なの?」
「まさか。王位に就いたのは、私の長兄です」
「そうなんだ」
何が「まさか」なのか、さっぱりわからん。しかし追求する気力は、魔族の誰にも残っていなかった。きっと人間にとっては、疑問に思うまでもなく当然の話なんだろう。シェムのおざなりの相づちに、精神的な疲労が見てとれる。
俺はクレメントにむかって、うなずいて見せた。
「とりあえず、話はわかったよ」
「そうだね、あなたが誠意をもって対応してくれたであろうことは、理解した」
シェムも同意する。──けど。けどなあ。やっぱり、アニスを行かせたいような国じゃない。クレメントが個人的に誠意を見せただけであって、快く送り出せるような環境とはとても思えないんだよ。
でも前回来たときに「最終的に決めるのは本人」と言ってしまった。不安があろうが、約束は約束だ。クレメントがアニスに頼み事をすること自体は、邪魔しようとは思わなかった。
「姫、お願いです。我が国に、戻って来てはいただけませんか。姫を害する者はすべて排除し、しかるべき処罰を与えました。虫のいいことを言っているのは、重々承知しています。ですが、もう姫にすがるしか、我が国に未来はありません」
未来がないって、どういうこと? 疑問に思った俺たちの表情を見たからか、クレメントは続けて説明した。
「勇者が魔獣討伐を頑張ってくれていますが、追いついていない状況なのです」
勇者に頼りっきりのように聞こえるが、実際そうらしい。ある程度以上の強さの魔獣は、人間だけでは束になってかかっても、討伐がなかなか難しいと言う。
そこはまあ、だいたい想像がつく。人間って、魔族でいえば、全員が小型種みたいなものだ。サイズだけ見れば中型種に近いが、能力的には小型種と変わらない。小型種ほどの魔力も持たない代わりに、小型種よりも腕力は少し上といったところだろう。
魔族だって、中級以上の魔獣を駆除するのに小型種を駆り出したりはしない。それは中型種の仕事だ。そして人間の中では、中型種に相当する能力を持つのは、勇者と聖女しかいないというわけだった。
だが、やっぱり腑に落ちない。我知らず、疑問が口を突いて出ていた。
「だったら、勇者も聖女もいない時代はどうしてるんだ?」
「不思議なことに、普通の人間だけで対処できない魔獣が出現するとき、勇者と聖女は必ずいるのです。そうでなくては、とっくに人間は滅亡していたでしょう」
ふうん。ずいぶんとまた、綱渡りな歴史を歩んで来たものだ。たった二人の存在に、種族の命運がかかっているだなんて。
大変だな、とは思う。中型種を何人か派遣すれば、それだけで人間たちの問題は簡単に解決するだろう。が、これまでの歴史から考えて、それはあり得ない。
大昔には、実際そうして手を貸していた時代もあったという。しかし人間は、すぐに感謝を忘れる。ほんの二、三十年もすれば、助けられたことなどなかったかのように、攻め入って来るのだ。
もちろん、その都度撃退していた。人間がどれほどの軍勢となって攻めて来ようが、中型種にとって敵ではない。とはいえ、魔族の人口の大半を占めるのは、小型種なのだ。
ドワーフは別にして、小型種は総じて体格も腕力も人間に劣る。魔力があると言ったって、基本的な防御や強化魔法を使える程度。魔法攻撃に回せるほどの魔力なんて持ってやしない。人間が大挙して攻め入ってきて、しかも奇襲をかけられたりしたら、ひとたまりもなかった。
こうして中型種が駆けつけるまでの間に、小型種が虐殺されるという事件が何度も起きてしまう。そしてついに、魔族は人間と決別することにしたのだ。最終的には一切の交流を絶ち、結界を築くことになった、というのが魔族と人間の間にあった歴史だ。
そんな不思議なことが何度もあったから、クレメントの姉は、聖冠を腹に当ててみることを思いついたのだ。彼女はこれを慶事として夫に報告したが、前国王は無事に生まれるまでは伏せておくよう指示した。
もちろん「無事に生まれるまでは」なんてのは、ただ時間を引き延ばすための方便だ。やつは無事に生まれさせるつもりなんて、さらさらなかったのだから。
アニスが無事に生まれると、前国王は下っ端の使用人に「魔国に捨ててこい」と命じた。「本当に聖女なら、赤ん坊であろうと魔を討つだろう」などと、無茶苦茶を言って。監視をつけられた使用人は、命令どおり魔国に向かうしかなかった。国境に着くと無事を祈りながら、そっと結界の内側に押し込み、後ろ髪を引かれる思いで帰途についたそうだ。
そしてアニスを産み落とした母親は、そのまま亡くなった。毒を使うまでもない。産後の弱ったところを放置して、そのまま死なせた。そのくせ、母も子も助けられなかったと大げさに嘆いてみせたものだから、クレメントの一族はすっかり騙されてしまったのだった。
その喪が明けた頃、前国王は後妻を得た。これこそが、やつの当初からの計画だった。政略結婚によりクレメントの一族の後ろ盾を得つつ、本当に王妃としたい者をその座につけるのが目的だったのだ。
隠されていた真実が明らかになり、クレメントの一族は激怒した。すぐさま水面下で淡々と準備を始め、わずか数か月で王族を下すことになった。もともと王家と双璧をなすくらいには、力のあった一族だ。王権を手にするのは、それほど難しいことではなかったらしい。
ましてや入念に根回しした上での不意打ちだ。王権の上にあぐらをかき、ろくに臣下との間に信頼を築いてこなかった前国王には、なすすべもなかった。
──ここまで話を聞き終わり、魔族一同はドン引きである。人間、こええ。
いや、魔族だって酔った勢いでけんかくらいするよ? でも同族で殺し合いするとかさあ……。しかも妊婦に毒を盛るなんて、マジであり得ない。
だいたい王位って、望んで就くもんじゃなくない? 誰かがやらないと国が回らないから、適性のある誰かが仕方なく貧乏くじ引かされてやるもんだと思ってた。だけどどうやら、人間の国では違うらしい。適性とか関係なく、世襲制なんだと。よくそれで国が回るな。
……いや、回ってなかった。回ってないからアニスの母親は殺されたし、アニスはここに捨てられたんだよ。
言葉を失った魔族の中で、シェムがいち早く我に返ってクレメントに尋ねた。
「ええっと、それで『前国王』ってことは、今はあなたが国王なの?」
「まさか。王位に就いたのは、私の長兄です」
「そうなんだ」
何が「まさか」なのか、さっぱりわからん。しかし追求する気力は、魔族の誰にも残っていなかった。きっと人間にとっては、疑問に思うまでもなく当然の話なんだろう。シェムのおざなりの相づちに、精神的な疲労が見てとれる。
俺はクレメントにむかって、うなずいて見せた。
「とりあえず、話はわかったよ」
「そうだね、あなたが誠意をもって対応してくれたであろうことは、理解した」
シェムも同意する。──けど。けどなあ。やっぱり、アニスを行かせたいような国じゃない。クレメントが個人的に誠意を見せただけであって、快く送り出せるような環境とはとても思えないんだよ。
でも前回来たときに「最終的に決めるのは本人」と言ってしまった。不安があろうが、約束は約束だ。クレメントがアニスに頼み事をすること自体は、邪魔しようとは思わなかった。
「姫、お願いです。我が国に、戻って来てはいただけませんか。姫を害する者はすべて排除し、しかるべき処罰を与えました。虫のいいことを言っているのは、重々承知しています。ですが、もう姫にすがるしか、我が国に未来はありません」
未来がないって、どういうこと? 疑問に思った俺たちの表情を見たからか、クレメントは続けて説明した。
「勇者が魔獣討伐を頑張ってくれていますが、追いついていない状況なのです」
勇者に頼りっきりのように聞こえるが、実際そうらしい。ある程度以上の強さの魔獣は、人間だけでは束になってかかっても、討伐がなかなか難しいと言う。
そこはまあ、だいたい想像がつく。人間って、魔族でいえば、全員が小型種みたいなものだ。サイズだけ見れば中型種に近いが、能力的には小型種と変わらない。小型種ほどの魔力も持たない代わりに、小型種よりも腕力は少し上といったところだろう。
魔族だって、中級以上の魔獣を駆除するのに小型種を駆り出したりはしない。それは中型種の仕事だ。そして人間の中では、中型種に相当する能力を持つのは、勇者と聖女しかいないというわけだった。
だが、やっぱり腑に落ちない。我知らず、疑問が口を突いて出ていた。
「だったら、勇者も聖女もいない時代はどうしてるんだ?」
「不思議なことに、普通の人間だけで対処できない魔獣が出現するとき、勇者と聖女は必ずいるのです。そうでなくては、とっくに人間は滅亡していたでしょう」
ふうん。ずいぶんとまた、綱渡りな歴史を歩んで来たものだ。たった二人の存在に、種族の命運がかかっているだなんて。
大変だな、とは思う。中型種を何人か派遣すれば、それだけで人間たちの問題は簡単に解決するだろう。が、これまでの歴史から考えて、それはあり得ない。
大昔には、実際そうして手を貸していた時代もあったという。しかし人間は、すぐに感謝を忘れる。ほんの二、三十年もすれば、助けられたことなどなかったかのように、攻め入って来るのだ。
もちろん、その都度撃退していた。人間がどれほどの軍勢となって攻めて来ようが、中型種にとって敵ではない。とはいえ、魔族の人口の大半を占めるのは、小型種なのだ。
ドワーフは別にして、小型種は総じて体格も腕力も人間に劣る。魔力があると言ったって、基本的な防御や強化魔法を使える程度。魔法攻撃に回せるほどの魔力なんて持ってやしない。人間が大挙して攻め入ってきて、しかも奇襲をかけられたりしたら、ひとたまりもなかった。
こうして中型種が駆けつけるまでの間に、小型種が虐殺されるという事件が何度も起きてしまう。そしてついに、魔族は人間と決別することにしたのだ。最終的には一切の交流を絶ち、結界を築くことになった、というのが魔族と人間の間にあった歴史だ。
63
お気に入りに追加
193
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
聖女の代役の私がなぜか追放宣言されました。今まで全部私に仕事を任せていたけど大丈夫なんですか?
水垣するめ
恋愛
伯爵家のオリヴィア・エバンスは『聖女』の代理をしてきた。
理由は本物の聖女であるセレナ・デブリーズ公爵令嬢が聖女の仕事を面倒臭がったためだ。
本物と言っても、家の権力をたてにして無理やり押し通した聖女だが。
無理やりセレナが押し込まれる前は、本来ならオリヴィアが聖女に選ばれるはずだった。
そういうこともあって、オリヴィアが聖女の代理として選ばれた。
セレナは最初は公務などにはきちんと出ていたが、次第に私に全て任せるようになった。
幸い、オリヴィアとセレナはそこそこ似ていたので、聖女のベールを被ってしまえば顔はあまり確認できず、バレる心配は無かった。
こうしてセレナは名誉と富だけを取り、オリヴィアには働かさせて自分は毎晩パーティーへ出席していた。
そして、ある日突然セレナからこう言われた。
「あー、あんた、もうクビにするから」
「え?」
「それと教会から追放するわ。理由はもう分かってるでしょ?」
「いえ、全くわかりませんけど……」
「私に成り代わって聖女になろうとしたでしょ?」
「いえ、してないんですけど……」
「馬鹿ねぇ。理由なんてどうでもいいのよ。私がそういう気分だからそうするのよ。私の偽物で伯爵家のあんたは大人しく聞いとけばいいの」
「……わかりました」
オリヴィアは一礼して部屋を出ようとする。
その時後ろから馬鹿にしたような笑い声が聞こえた。
「あはは! 本当に無様ね! ここまで頑張って成果も何もかも奪われるなんて! けど伯爵家のあんたは何の仕返しも出来ないのよ!」
セレナがオリヴィアを馬鹿にしている。
しかしオリヴィアは特に気にすることなく部屋出た。
(馬鹿ね、今まで聖女の仕事をしていたのは私なのよ? 後悔するのはどちらなんでしょうね?)
全てを奪われ追放されたけど、実は地獄のようだった家から逃げられてほっとしている。もう絶対に戻らないからよろしく!
蒼衣翼
ファンタジー
俺は誰もが羨む地位を持ち、美男美女揃いの家族に囲まれて生活をしている。
家や家族目当てに近づく奴や、妬んで陰口を叩く奴は数しれず、友人という名のハイエナ共に付きまとわれる生活だ。
何よりも、外からは最高に見える家庭環境も、俺からすれば地獄のようなもの。
やるべきこと、やってはならないことを細かく決められ、家族のなかで一人平凡顔の俺は、みんなから疎ましがられていた。
そんなある日、家にやって来た一人の少年が、鮮やかな手並みで俺の地位を奪い、とうとう俺を家から放逐させてしまう。
やった! 準備をしつつも諦めていた自由な人生が始まる!
俺はもう戻らないから、後は頼んだぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる