26 / 29
ざまぁされちゃった王子の回想録
26
しおりを挟む
まんまと騙され、胸が張り裂けるような思いをさせられたことを怒るべきだったのかもしれない。けれどもそんなことより、私の大事なミミと子どもたちが実は生きていると聞いて、安堵のあまりへたりこみそうになった。
「どうして事前に教えてくれなかったんですか」
恨み言を口にしながら、ミミの声が聞こえてくるような気がした。「だって、あなた大根なんですもの」と、彼女ならすました顔で言いそうだ。おそらくミミたちの最期を看取りに来た神官は、弟の息の掛かった者だったのではないか。その目をあざむく必要があったのだろう。
「あの子たちは、殿下の弱みになるからです。あの子たちがいると、あなたは強くなれないでしょう」
義父の言葉は、私の胸を鋭く深く突いた。「そんなことはない」と言いたかったが、自分のこれまでの行いを省みれば、とても口にはできない。
でも、だったらなぜ、無事を知らせてくれたのだろう。
私のもの問いたげな視線に、義父は苦笑をこぼしてから答えた。
「あの子を弱みにしないでいただきたい。あの子は、あなたの強みになれる子です。そのように育てました」
そして「うちの子はみんなそうですがね」と誇らしげに付け加える。
義父が危ぶんでいたのは、ミミと子どもたちがそばにいる限り、なすべきことをなすだけの強さが私にはないのではないか、ということだった。だが今の私は、以前の私とは違う、とも義父は言う。
以前の私は窮地に陥ったときに、誰に相談することもなく、ひとりで完結して答えを出していた。そう言われると確かにそのとおりで、返す言葉もない。
けれども、ミミと一緒になってからは、他人の話に真摯に耳を傾けることがどれほど大事かを学んだ。それと同時に、信頼できる周囲の人間を頼ることもできるようになった。
だから今の私であれば、妻子の無事を知らせても大丈夫だろう、と義父は判断したそうだ。その信頼を、決して裏切るまい。
私の決意を、義父は微笑んで受け入れた。
別れ際に義父は、ふと思い出したというように振り返る。
「そうそう、あの子から伝言があります」
私が続きをうながすように首をかしげると、義父は言葉を続けた。
「『ジョルジュ、愛してる』と」
それを聞いて再び、私の目に涙がこみ上げてきた。
義父は困ったように微笑んで私の肩を叩き、涙がこぼれ落ちる前に背を向けて去って行った。
「どうして事前に教えてくれなかったんですか」
恨み言を口にしながら、ミミの声が聞こえてくるような気がした。「だって、あなた大根なんですもの」と、彼女ならすました顔で言いそうだ。おそらくミミたちの最期を看取りに来た神官は、弟の息の掛かった者だったのではないか。その目をあざむく必要があったのだろう。
「あの子たちは、殿下の弱みになるからです。あの子たちがいると、あなたは強くなれないでしょう」
義父の言葉は、私の胸を鋭く深く突いた。「そんなことはない」と言いたかったが、自分のこれまでの行いを省みれば、とても口にはできない。
でも、だったらなぜ、無事を知らせてくれたのだろう。
私のもの問いたげな視線に、義父は苦笑をこぼしてから答えた。
「あの子を弱みにしないでいただきたい。あの子は、あなたの強みになれる子です。そのように育てました」
そして「うちの子はみんなそうですがね」と誇らしげに付け加える。
義父が危ぶんでいたのは、ミミと子どもたちがそばにいる限り、なすべきことをなすだけの強さが私にはないのではないか、ということだった。だが今の私は、以前の私とは違う、とも義父は言う。
以前の私は窮地に陥ったときに、誰に相談することもなく、ひとりで完結して答えを出していた。そう言われると確かにそのとおりで、返す言葉もない。
けれども、ミミと一緒になってからは、他人の話に真摯に耳を傾けることがどれほど大事かを学んだ。それと同時に、信頼できる周囲の人間を頼ることもできるようになった。
だから今の私であれば、妻子の無事を知らせても大丈夫だろう、と義父は判断したそうだ。その信頼を、決して裏切るまい。
私の決意を、義父は微笑んで受け入れた。
別れ際に義父は、ふと思い出したというように振り返る。
「そうそう、あの子から伝言があります」
私が続きをうながすように首をかしげると、義父は言葉を続けた。
「『ジョルジュ、愛してる』と」
それを聞いて再び、私の目に涙がこみ上げてきた。
義父は困ったように微笑んで私の肩を叩き、涙がこぼれ落ちる前に背を向けて去って行った。
1
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説

王太子の愚行
よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。
彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。
婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。
さて、男爵令嬢をどうするか。
王太子の判断は?

私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」
仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。
「で、政略結婚って言われましてもお父様……」
優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。
適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。
それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。
のんびりに見えて豪胆な令嬢と
体力系にしか自信がないワンコ令息
24.4.87 本編完結
以降不定期で番外編予定

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで
あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。
怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。
……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。
***
『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい
LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。
相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。
何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。
相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。
契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる