22 / 29
ざまぁされちゃった王子の回想録
22
しおりを挟む
生活苦から脱却するには、領地を富ませる必要がある。
だが私に与えられているのは、ろくに作物が育たず、羊の放牧だけで何とか生計を立てているような貧しい領地だ。頭に詰め込まれた学問は、この問題の解決にはあまり役に立たなかった。代わりに助けてくれたのが、妻の養父、私にとっての義父である男爵だ。
彼は領地経営の基本を私にたたき込み、「何か特産品を作るべき」と指針を示してくれた。
この特産品は、ミミのおかげで生まれた。
この地域では牧羊が盛んなだけあって、羊毛を使った伝統的な編み物がある。生成りの糸で編むのだが、模様が複雑で目が詰んでいるので厚みがあり、風を通さず、保温性が非常に高い。この領内の家庭で女性たちは、この模様で編んだセーターを夫や子どもに贈る。寒冷な気候の中で暮らすための、生活の知恵だ。
ミミはこの模様に関心を持ち、セーターではなくタペストリーやベッドカバーを製作した。美的感覚の鋭い彼女ならではの作品で、伝統的な模様の組み合わせでありながら、上品な華やかさを併せ持っている。
庶民向けのセーターなどは大した値段で売れないが、これなら貴族向けに売り出すことも可能だと私は判断した。ミミにしてみたら、金をかけずに美しいものに囲まれて暮らしたかっただけなのだろうが、領民にとっては大きな転換となった。
ミミがデザインしたものを領民に作らせ、貴族向けに販売することにする。
模様が独特な上に複雑なので、模倣は難しい。だから希少性があり、この領ならではの特産品とするのに申し分なかった。
義父に相談すると、販路を確立してくれた。
義父とその長男、すなわち私の義兄は、中堅規模の商会を持っている。うちからは、そこに卸すだけでいい。しかも義父の長女は伯爵家に嫁いでいて、彼女が貴族の間での宣伝にひと役買ってくれた。まさに至れり尽くせりだ。
お陰で領民の収入は大きく増加し、それにともなって税収も安定した。税収の安定は、領主の生活の安定でもある。増加した収入の大部分は領内の整備に充ててしまったから、私たちの生活が劇的に向上したわけではないが、余裕があるのとないのとでは気持ちが変わる。
だが私に与えられているのは、ろくに作物が育たず、羊の放牧だけで何とか生計を立てているような貧しい領地だ。頭に詰め込まれた学問は、この問題の解決にはあまり役に立たなかった。代わりに助けてくれたのが、妻の養父、私にとっての義父である男爵だ。
彼は領地経営の基本を私にたたき込み、「何か特産品を作るべき」と指針を示してくれた。
この特産品は、ミミのおかげで生まれた。
この地域では牧羊が盛んなだけあって、羊毛を使った伝統的な編み物がある。生成りの糸で編むのだが、模様が複雑で目が詰んでいるので厚みがあり、風を通さず、保温性が非常に高い。この領内の家庭で女性たちは、この模様で編んだセーターを夫や子どもに贈る。寒冷な気候の中で暮らすための、生活の知恵だ。
ミミはこの模様に関心を持ち、セーターではなくタペストリーやベッドカバーを製作した。美的感覚の鋭い彼女ならではの作品で、伝統的な模様の組み合わせでありながら、上品な華やかさを併せ持っている。
庶民向けのセーターなどは大した値段で売れないが、これなら貴族向けに売り出すことも可能だと私は判断した。ミミにしてみたら、金をかけずに美しいものに囲まれて暮らしたかっただけなのだろうが、領民にとっては大きな転換となった。
ミミがデザインしたものを領民に作らせ、貴族向けに販売することにする。
模様が独特な上に複雑なので、模倣は難しい。だから希少性があり、この領ならではの特産品とするのに申し分なかった。
義父に相談すると、販路を確立してくれた。
義父とその長男、すなわち私の義兄は、中堅規模の商会を持っている。うちからは、そこに卸すだけでいい。しかも義父の長女は伯爵家に嫁いでいて、彼女が貴族の間での宣伝にひと役買ってくれた。まさに至れり尽くせりだ。
お陰で領民の収入は大きく増加し、それにともなって税収も安定した。税収の安定は、領主の生活の安定でもある。増加した収入の大部分は領内の整備に充ててしまったから、私たちの生活が劇的に向上したわけではないが、余裕があるのとないのとでは気持ちが変わる。
3
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
伏して君に愛を冀(こいねが)う
鳩子
恋愛
貧乏皇帝×黄金姫の、すれ違いラブストーリー。
堋《ほう》国王女・燕琇華(えん・しゅうか)は、隣国、游《ゆう》帝国の皇帝から熱烈な求愛を受けて皇后として入宮する。
しかし、皇帝には既に想い人との間に、皇子まで居るという。
「皇帝陛下は、黄金の為に、意に沿わぬ結婚をすることになったのよ」
女官達の言葉で、真実を知る琇華。
祖国から遠く離れた後宮に取り残された琇華の恋の行方は?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王宮勤めにも色々ありまして
あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。
そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····?
おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて·····
危険です!私の後ろに!
·····あ、あれぇ?
※シャティエル王国シリーズ2作目!
※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。
※小説家になろうにも投稿しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
【完結】私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね
江崎美彩
恋愛
王太子殿下の婚約者候補を探すために開かれていると噂されるお茶会に招待された、伯爵令嬢のミンディ・ハーミング。
幼馴染のブライアンが好きなのに、当のブライアンは「ミンディみたいなじゃじゃ馬がお茶会に出ても恥をかくだけだ」なんて揶揄うばかり。
「私が王太子殿下のお茶会に誘われたからって、今更あわてても遅いんだからね! 王太子殿下に見染められても知らないんだから!」
ミンディはブライアンに告げ、お茶会に向かう……
〜登場人物〜
ミンディ・ハーミング
元気が取り柄の伯爵令嬢。
幼馴染のブライアンに揶揄われてばかりだが、ブライアンが自分にだけ向けるクシャクシャな笑顔が大好き。
ブライアン・ケイリー
ミンディの幼馴染の伯爵家嫡男。
天邪鬼な性格で、ミンディの事を揶揄ってばかりいる。
ベリンダ・ケイリー
ブライアンの年子の妹。
ミンディとブライアンの良き理解者。
王太子殿下
婚約者が決まらない事に対して色々な噂を立てられている。
『小説家になろう』にも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
白い結婚はそちらが言い出したことですわ
来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる