ざまぁされちゃったヒロインの走馬灯

海野宵人

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ざまぁされちゃった王子の回想録

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 生活苦から脱却するには、領地を富ませる必要がある。

 だが私に与えられているのは、ろくに作物が育たず、羊の放牧だけで何とか生計を立てているような貧しい領地だ。頭に詰め込まれた学問は、この問題の解決にはあまり役に立たなかった。代わりに助けてくれたのが、妻の養父、私にとっての義父である男爵だ。

 彼は領地経営の基本を私にたたき込み、「何か特産品を作るべき」と指針を示してくれた。

 この特産品は、ミミのおかげで生まれた。
 この地域では牧羊が盛んなだけあって、羊毛を使った伝統的な編み物がある。生成りの糸で編むのだが、模様が複雑で目が詰んでいるので厚みがあり、風を通さず、保温性が非常に高い。この領内の家庭で女性たちは、この模様で編んだセーターを夫や子どもに贈る。寒冷な気候の中で暮らすための、生活の知恵だ。

 ミミはこの模様に関心を持ち、セーターではなくタペストリーやベッドカバーを製作した。美的感覚の鋭い彼女ならではの作品で、伝統的な模様の組み合わせでありながら、上品な華やかさを併せ持っている。

 庶民向けのセーターなどは大した値段で売れないが、これなら貴族向けに売り出すことも可能だと私は判断した。ミミにしてみたら、金をかけずに美しいものに囲まれて暮らしたかっただけなのだろうが、領民にとっては大きな転換となった。

 ミミがデザインしたものを領民に作らせ、貴族向けに販売することにする。
 模様が独特な上に複雑なので、模倣は難しい。だから希少性があり、この領ならではの特産品とするのに申し分なかった。

 義父に相談すると、販路を確立してくれた。

 義父とその長男、すなわち私の義兄は、中堅規模の商会を持っている。うちからは、そこに卸すだけでいい。しかも義父の長女は伯爵家に嫁いでいて、彼女が貴族の間での宣伝にひと役買ってくれた。まさに至れり尽くせりだ。

 お陰で領民の収入は大きく増加し、それにともなって税収も安定した。税収の安定は、領主の生活の安定でもある。増加した収入の大部分は領内の整備に充ててしまったから、私たちの生活が劇的に向上したわけではないが、余裕があるのとないのとでは気持ちが変わる。
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