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ひげの功罪 (2)

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 その表情の変化を見てとった商会長は、肯定するように微笑んでうなずいた。

「おわかりですか? それが人々の頭の中にある、典型的な人物像なんですよ」
「なるほど、そういうことか。理解しました。ありがとうございます」

 アンジーは商会長に純粋な尊敬の眼差しを向けた。

「すごい。いくら説明してもわかってくれなかったのに」
「第三者の視点からだと、理解しやすいのかもしれませんね」

 商会長は、人好きのする笑顔をアンジーに向けた。
 その商会長の顔を、ふとアンジーはしげしげと眺めた。

「商会長さんは、おひげがないんですね」
「商売人は、原則的にひげはご法度ですよ。うちみたいな小さいところは、特にね」
「そうなんですか?」
「そういうものです。商売人が偉そうに見える必要はありませんし、何よりご婦人受けが悪くなるのが痛いですねえ」

 アンジーは「へえ」と相づちを打ちながら聞いていたが、視界の端でシモンとユリスが死にそうな顔をしているのに気づいた。

「どうしたの、二人とも。具合悪い?」
「いえ。ご婦人受けが悪かったのか、と思っただけです……」

 衝撃をまったく隠せていない青年たちに、商会長は苦笑いする。

「あくまで商売人の話ですから。貴族のかたは、また別かと思いますよ」
「お気遣い、痛み入ります……」

 アンジーは青年たちを気の毒そうに見やって、慰めの言葉を口にした。

「だから、ほら、ヒルデ嬢と会う前にわかってよかったじゃありませんか。ね?」
「うん、そうですよね……。アンジー、助言ありがとう」
「どういたしまして」

 商会長は客人たちの様子を観察しつつ、そつなく話題を変えた。

「ところで、皆さんの今後のご予定はもうお決まりですか?」

 アンジーは「うーん」と首をかしげながら、シモンに向かって尋ねた。

「次はクライスベルクに向かうのがいいんじゃないかと思ってるんですけど、シモンさん、どう?」
「クライスベルクですか。何がおいしいところなのかな?」

 クライスベルクを選んだ意図をまったく理解していない様子の質問に、アンジーは呆れた顔を見せた。

「食べ物で選んだわけじゃありませんよ。クライスベルクと言ったら、ケスマン商会の本部がある町じゃないですか」
「あ、ああ。なるほど」

 ケスマン商会とは四大商会のひとつで、織物問屋として知られている。そしてクライスベルクは、織物の町だ。
 商会長は笑いながら、とりなすように口を挟んだ。

「どの商会の本部がどこにあるかなんて、貴族のかたには自領のことでもなければ、どうでもいいことですからね。ご存じないかたのほうが多いものですよ」

 シモンは、やや気まずげな顔でうなずいた。

「勉強不足で面目ない。アンジーたちがそれでよければ、クライスベルクでお願いしたいな」
「もちろん!」

 アンジーは確認するようにミリーを見やり、彼女がうなずくと、シモンに向かって快諾した。
 その日、アンジーたち四人は旅を続けるための準備をしたり、祭りが終わって落ち着きの戻った町の中を散策したりしてのんびり過ごした。
 そして翌日の朝、別れを惜しみつつクライスベルクを目指して出発したのだった。
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