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ひげの功罪 (1)

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 朝食の席では、商会長の一家もシモンとユリスの大変身に驚いた様子を見せた。
 商会長夫妻が一番驚いたの点は、やはり年齢だったようだ。男爵を相手どってリンダの件を解決した手腕や肝の据わり方を見て、てっきりもっと上の年齢だと思っていたらしい。

「や、こんなお若いかただったとは……」
「踊り比べで活躍なさるのも、道理だわ」

 夫妻が口々に驚きを言葉にするのを聞いて、やっとシモンは「ひげがなくても、見られないほどひどい顔というわけではない」と納得したようだ。
 アンジーとミリーの言葉では納得しなかったくせに、とアンジーは少し面白くない。いくらかすねた顔で、まるで告げ口するような口調で商会長に話しかけた。

「シモンさんは、ひげがないと自分の顔は地味すぎるって言うんですよ。そんなことありませんよね?」
「まったくありませんね」

 アンジーの言葉に、商会長はちらりとシモンを見やってから当然のようにアンジーの意見を肯定する。自分が槍玉に挙がったことに当惑して、シモンは目をしばたたいた。
 アンジーは商会長の同意を得て得意そうに鼻を鳴らし、さらに追撃する。

「絶対、ひげがないほうがいいですよね」
「うーん。それは時と場合にもよりますから、一概には何とも」

 しかしこれに対しては、商会長は言葉をにごした。同意が得られなかったことに、アンジーは不満そうな顔になる。アンジーの表情を見て商会長は笑い声を上げて、理由を説明した。

「たとえば、男爵邸で対応してくださったあの場では、ひげは有効だったと思いますよ」

 前々日の男爵とのやり取りを思い浮かべ、やっとアンジーは納得した。
 あのときは身分を笠に着てでも男爵を威圧する必要があった。確かにそういう目的であれば、ひげをたくわえている見た目は有利に働いたかもしれない。

「確かにそうですね。でもシモンさんは、女性の気を引くのにもひげがあったほうがいいと思ってるみたいなんですよね」
「ひげ、だめですか……?」

 二人のやり取りを見て、商会長は「ふむ」と言葉を切って考え込んでから、シモンに向かって質問した。

「シモン卿は、芝居をご覧になったことはおありですかな?」
「はい、数回程度ですが」
「なら、思い出してみてください。劇中でヒロインの相手役となる俳優にひげはありましたか? 劇中でひげを生やしているのは、どんな役柄の役者でしたか?」

 シモンは顎に手を当て、視線を上方にさまよわせながらしばらく考えた。
 劇中でひげを生やしている役というと、だいたいは学者、軍人、王や宰相といった壮年の貴族などだ。一方で、白馬に乗って姫を救いに現れるような王子さまがひげをたくわえていることは、まずありえない。

 そう気づいて、シモンは瞠目した。
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