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迷子危うきに近寄らず (2)

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 そこへ最初の料理が運ばれてきて、自然に話題も移り変わった。
 シモンたちは、王都の春祭りを観光した帰りだと言う。

「じゃあ、これからご自宅に帰るところですか?」
「いえ、予定が変わりました」
「あら? じゃあ、次はどちらへ?」
「次か……。私は次にどこへ行ったらいいんでしょうね……」

 急に悄然としてしまったシモンに、アンジーは眉根を寄せていぶかしむ。

「どこへ行ったらいいのかって、迷子じゃあるまいし」
「ああ。迷子のようなものかもしれません」
「行く当てもないのに、この町に来ちゃったんですか?」
「そういうことになりますかね……」

 まったくわけがわからない。
 行く当てがないなら、おとなしく家に帰ればよいのではないか。なぜ予定を変えてまで、別方向に向かっているのか。

「実は、人を探しているんです」
「へえ。どんな人なんですか?」
「月の妖精かと思うほど美しく、清らかな人です」
「ふうん」

 他人の恋路にはまったく興味のないアンジーはしらけた顔をしたが、それをじっと見つめてからシモンは尋ねた。

「そう言えば、雰囲気がよく似てるな。アンジー、ほかにお姉さんはいない?」
「兄弟は兄が二人いるだけです」
「そうかあ」

 肩を落としてため息をつくシモンが少し気の毒になり、アンジーは彼の尋ね人について質問した。

「きれいな人って以外に、何かもっと情報はないんですか? 名前とか」
「名前はたぶん、ヒルデです」
「どんなおうちのヒルデさんですか?」
「…………」

 名前以外の情報は何もないらしい。
 しかしヒルデなんて、この国においては極めてよくある名前だ。大通りで「ヒルデ!」と叫べば五、六人は女性が振り返るだろうと思われるくらいに、ありふれた名前なのだ。探すにしてももうちょっと情報を得てからでないと、やみくもに歩き回るだけでは見つかる前に寿命が尽きる。
 アンジーは呆れて、くるりと目を回した。

「全国にいったい何人ヒルデさんがいると思ってるんですか」
「わかってます。わかってますけど、探し出したいんですよ……!」

 これは前途多難そうだ。
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