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港町シュラウプナー (2)
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しばらくそうしてふざけあっていたが、ふとミリーは笑みを消して真剣な顔つきになり、次の町での注意事項をアンジーに話し始めた。
「今向かっているのは、北の港町シュラウプナーです」
「うん。魚料理のおいしい町!」
「そうですね。でも、今お話ししたいのはそこじゃなくて。港町って、王都と比べると治安が悪いんですよ」
「へえ」
「だから絶対に、絶対に、絶っ対にひとりで知らない場所へ行ったりしないでくださいね」
「はい、姉さま」
アンジーが素直にうなずいたのを見て、ミリーは頬をゆるめた。
「『世界で最も罪深い一区画』なんて言われてる、危険な場所まであるんですよね……」
「なにそれ面白そう」
「アンジー!」
「ごめんなさい」
つい名称に興味を引かれてよけいなことを口走ったアンジーは、本気で怒った目をしたミリーに叱りつけられ、思わず反射的に首をすくめて謝罪の言葉を口にしていた。
「でも、何がそんなに罪深いの?」
叱られてもなお興味津々なアンジーに、ミリーは「うーん」と眉根を寄せながら、どう説明したものか思案する。
「たとえばアンジーみたいな美少年が護衛もつけずに迷い込んだら、あっという間にさらわれて奴隷にされちゃうような場所ってことです」
「え、こわっ」
実のところ「世界で最も罪深い一区画」とは、シュラウプナー市内にある歓楽街のことだ。
シュラウプナーは港町であり、港町とはすなわち船の出入りする町のことであり、船が出入りすれば当然、乗組員である船乗りたちが町を訪れることになる。そうした船乗りたちに需要が高いのが、歓楽街だ。そして歓楽街につきものなのが、娼館である。しかし娼館などという場所は人身売買で成り立っているようなものだから、治安のよい場所であるわけがない。
シュラウプナーの歓楽街は、ほかのどの港町に比べても多種多様な娼館が取りそろえられていることで知られている。そこが「世界で最も罪深い」と言われるゆえんなのだ。
しかしミリーは、箱入り娘のアンジーにそうした詳しい説明をするつもりはなかった。
とにかく「絶対に近寄ってはいけない、こわい場所がある」ということだけ理解してくれれば、それでよかった。娼館の多様性について具体的な説明を求められても困るし、無垢なアンジーには聞かせたくもない。
いくらか青ざめて口もとを引きつらせているアンジーの表情を見て、脅しがきちんと効いていることがわかったミリーはほっと安堵のため息をつき、小さく笑みを浮かべた。
「今向かっているのは、北の港町シュラウプナーです」
「うん。魚料理のおいしい町!」
「そうですね。でも、今お話ししたいのはそこじゃなくて。港町って、王都と比べると治安が悪いんですよ」
「へえ」
「だから絶対に、絶対に、絶っ対にひとりで知らない場所へ行ったりしないでくださいね」
「はい、姉さま」
アンジーが素直にうなずいたのを見て、ミリーは頬をゆるめた。
「『世界で最も罪深い一区画』なんて言われてる、危険な場所まであるんですよね……」
「なにそれ面白そう」
「アンジー!」
「ごめんなさい」
つい名称に興味を引かれてよけいなことを口走ったアンジーは、本気で怒った目をしたミリーに叱りつけられ、思わず反射的に首をすくめて謝罪の言葉を口にしていた。
「でも、何がそんなに罪深いの?」
叱られてもなお興味津々なアンジーに、ミリーは「うーん」と眉根を寄せながら、どう説明したものか思案する。
「たとえばアンジーみたいな美少年が護衛もつけずに迷い込んだら、あっという間にさらわれて奴隷にされちゃうような場所ってことです」
「え、こわっ」
実のところ「世界で最も罪深い一区画」とは、シュラウプナー市内にある歓楽街のことだ。
シュラウプナーは港町であり、港町とはすなわち船の出入りする町のことであり、船が出入りすれば当然、乗組員である船乗りたちが町を訪れることになる。そうした船乗りたちに需要が高いのが、歓楽街だ。そして歓楽街につきものなのが、娼館である。しかし娼館などという場所は人身売買で成り立っているようなものだから、治安のよい場所であるわけがない。
シュラウプナーの歓楽街は、ほかのどの港町に比べても多種多様な娼館が取りそろえられていることで知られている。そこが「世界で最も罪深い」と言われるゆえんなのだ。
しかしミリーは、箱入り娘のアンジーにそうした詳しい説明をするつもりはなかった。
とにかく「絶対に近寄ってはいけない、こわい場所がある」ということだけ理解してくれれば、それでよかった。娼館の多様性について具体的な説明を求められても困るし、無垢なアンジーには聞かせたくもない。
いくらか青ざめて口もとを引きつらせているアンジーの表情を見て、脅しがきちんと効いていることがわかったミリーはほっと安堵のため息をつき、小さく笑みを浮かべた。
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