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竜将軍大会第三回戦:策士クルシュ VS 魔弓使いナルギス

・第三回戦:VS魔弓使いナルギス - 不屈のクルシュは絶対に諦めない -

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「こうなったら……」
「やっと諦めてくれるのかい……? 魔法の使えない君は、ボクには勝てない」

「勝負だ、ナルギス!! 俺はお前を倒してっ、もっと女の子にちやほやされるんだっっ!!」
「バカだろうっ、君っっ!!」

「今さら気付いたかよ!! バカじゃなきゃここに立っていねぇ!!」
「わからない男だな、君は……っ! いいか、クルシュ!! 世の中はそんなに甘くない!!」

「うるせーっ、勝手に決めんなっっ!!」
「目障りなんだよっ、その夢を信じて疑わないところがっっ!!」

 ならばわからせてやる。
 私は突撃前に、軽く仕込みを入れた。

 この奇策は1度しか使えないだろう。
 効果があるかもわからない。
 もしなかったら、私はキョウの民たちの笑い話にされるだろう。

 だが、さっきのココロさんの声が私にこの奇策をくれた!
 この奇策はきっと通じる!
 ダメならダメで、他の方法を試せばいい!

 かつて偉大なる指導者もこう言った!
 諦めたら試合はそこで終了だ!

「よし、いくぜ……?」
「挫折すればいいっっ、ボクのようにっ!!」

「挫折!? 社会人を舐めるなよ、小娘がっっ!! 挫折など、噛みしめ過ぎてもはや味などせぬわぁぁっっ!!」

 私は刀を鞘に戻し、居合いの構えでナルギスに飛び込んだ。
 いや飛び込むと同時に、私は鎧の籠手を抜き取り、投げ付けた!

「なっ、何っ?!」

 成功だった。
 あの緑色の腕が私の投げた籠手デコイをつかんだ。

「防具を、投げるぅ?! そんなっ、非常識なっ?!」

 いける……!
 私はナルギスに迫った。
 ナルギスは私から逃げた。
 だから私は新たなデコイとして、次に肩鎧を投げ付ける。

「逃がさんっっ!!」
「くっっ、自動発動にしたのが裏目に出たか……っ、こ、このっ、このバカッ、う、うわああっ?!」

 ナルギスは軽装だ。逃げ足が早い。
 私はナルギスを追い続けるために、身に着けている物を次々と投げた。

 鎧がなくなったら靴だ。
 靴がなくなったら上着だ、肌着だ、ズボンだ!

「ひっ、ひぃぃっっ?!!」
「貰ったぁっっ!!」

「こ、このっ、この変態っっ!!!」

 鞘だ、そして、パンツだ!!
 全てのデコイを使い果たしたところで、私はナルギスの首に突き付けることに成功していた。

「やっと、たどり着けた……」

 ナルギスは動きを止めた。
 即死回避の術がかかっているとはいえ、抜き身だ。下手に動くべきではない。

「俺はお前のことを友達だと思っている。特に女の子が大好きなところが、とても他人とは思えん。俺は友達を傷つけたくない、降参してくれるな……?」
「ひっ、ひう……っ!」

「ん……?」
「キモい……」

 別人のような弱々しい声で、ナルギスはそう言った。

「え、何が?」

 そう問いかけると、私の鼻先に指が突きつけられた。

「キモい! キモいっキモいっキモいっキモいっっ!!」

「お、おいっ、キモいはないだろっ!?」
「パンツ履けこの変態っっ!!」

「し、試合中にパンツなんて履き直していられるかっっ!」
「君は、キモい……!」

 わ、私は傷ついてなどいない……。
 たかが百合っ子に股間を見られて、恐怖の目でキモいと言われただけのこと……。
 私はこの程度、なんともないとも……別に、なんとも……。

「んふっ、プリチィなお尻してるのねぇ……♪」
「試合中にチャチャ入れんなよ、モーリー」

「試合はもう終わりよ」
「終わり……?」

「チェックメイト! ミスターの勝ちってことよ! そうよね、ナルギス選手?」
「パンツ履け……」

 私は刀を引っ込めて、鞘とパンツを装備し直した。
 よっぽど脱ぎながら迫ってくる対戦相手が恐ろしかったのか、あのトラップ魔法は消滅していた。

「意外と純情なんだな、お前?」
「ごめん……ハディージャ……ボク、負けちゃったよ……。よりにもよって、こんな、変態に……」

 私の言葉はナルギスに聞こえていなかった。
 私は司会のモーリーに右腕を掲げられた。


「勝者!! 脱げば脱ぐほど強くなる変態脱衣剣士・クルシュ!! ねぇ、見て見てーっ、この胸板っ、このかわいい乳首っ♪ ミスミセスもミスターもこんの見せられたら大興奮っっ♪ 行きつけの店でポールダンス踊ってほしいくらいだわぁーっ♪」


 急に上着が着たくなった。
 着たいのにモーリーが俺の腕をガッチリとロックして離さない。


「最終オッズはクルシュ選手の勝利に1.6倍!! あら出世したものねぇ!! ま、とにかくっ、本命狙いのミセスミスターッ、おめでとぉございまぁぁーっすっっ!!」


 今日の歓声はいつもと違った。
 それは意外な大穴の勝利ではなく、期待されていた本命の大勝利を祝福する大歓声だ。

 加えて今日は黄色い歓声というか、女性陣の声が嫌に大きかった。
 テンションの上がったミス・ミセス・マダムの高い声が私の耳を少し痛くさせた。

 かつ、男受けもよかった。
 男たちのバカ笑いが会場のあちこちから届いていた。

「いいわぁ……アアタ本当に、いいわぁ……♪ こんなに試合が盛り上がったの、久しぶりよぉ……♪」
「そろそろ、手ぇ離してくれねぇ……?」

「ね、後で飲みに行かない……? ムキムキマッチョマンがいっぱいのお店を知ってるの!!」
「離せっつってんだろっ、おわっ?! おまっ、おっぱい触んなよ、この変態っ!」

「変態さんは、そっち♪」

 言われてみればまあ、そうかもしれなかった。


 ・


 キョウコさんが貴賓席から飛び降りてきた。
 キョウコさんは荘厳な口調で、私に金160の賞金を与え、小さな願いはあるかと問うてきた。

 私の願いは既に決まっていた。
 たとえお人好しとバカにされようとも、私はナルギスのやつがそう嫌いではなかった。

 ナルギスは私と同じ、挫折を繰り返し味わってきた負け組の人間だ。

「ヤツカハギ帝国の偉大なる帝よ!! 私の願いを聞いてくれ!! 私の願いは――友人であるこのナルギスに、願いの権利を譲ることだ!!」

 聖帝は私の願いに笑った。
 イーラジュ邸でドンチャン騒ぎをやったときのような、心根の暖かいお爺さんの声で笑った。

「よかろう、許可する」
「毎度毎度、おかしな願いばかりで、ご迷惑をおかけする!! では、私はこれにて失礼!!」

 これは聖帝の御前だ。
 ナルギスは目を剥いて私の行動に驚いていたが、私語を漏らすことはなかった。

 私は鎧と衣類をまとめて会場を去った。

「ナルギスよ、聞いての通りだ。何か、叶えたい小さな願いはあるかな……?」

 もはや最後まで聞くまでもないだろう。
 ナルギスはこう願う。

『大切な友人、ハディージャの目をどうか治して下さい』と。

 こうして互いの表情を確かめ合うこともできない恋人同士は、当たり前の幸せを取り戻しました。
 めでたし、めでたし。

 後はティティスが無謀な賭事さえ止めてくれれば、私だってめでたしめでたしで帰れるのだか……。
 ああ、頭が痛い……。

 偉大なる帝よ、ティティスのバクチ狂いを治して下さい。

 次はそう願うのも、悪くないのかもしれなかった……。

―――――――
 スキル覚醒
―――――――

極限状態を乗り越えたことで、クルシュの中のスキルが覚醒した

【ストリッパーLV1】
 衣類や装備のパージ速度に+400%のボーナス
 忙しい朝も安心、あのル○ンダイブも可能に
【投擲LV4】→【投擲LV5】
 外野フェンス側から本塁までのノーバウンド投球が可能な程度の凄い投擲力
【魔法耐性LV1】
 ファイアーボルトを撃たれてもレベル1の火傷で済むほどのほんわか耐性
【ネイキッド】
 脱げば脱ぐほどちょっとだけ気が強くなる
 ざっくり言うとただの変態

以上
―――――――
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