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竜将軍大会第三回戦:策士クルシュ VS 魔弓使いナルギス
・第三回戦:VS魔弓使いナルギス - 勝ち筋なし -
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昨晩、イーラジュ様に警告された。
弓は剣の3倍、魔法は10倍強い。
ナルギスはこれまで戦ってきた相手とは方向性の異なる技巧派であるので、油断すれば敗北も有り得ると。
今一つ実感のわかない警告だったが、こうして大闘技場の舞台で向かい合ってみると、やっと少しわかった。
「おこんにちはー、皆様っ! 皆様のアーツ・モーリーちゃんよぉーっ!」
ナルギスは近接武器を持っていなかった。
よっぽど接近されない自信があるのか、白く神秘的なショートボウだけを身に着けていた。
接近戦に持ち込めば、一見は簡単に押し込めそうにも見える。
しかしそうはならなかったからこそ、ナルギスはこの舞台に立っている。
「お待たせしちゃってごめんなさいねぇー!! 本日の余興はこれで終わりっっ!! これからついに本日の大目玉!! 竜将大会・準々々決勝・第三回戦!!」
第三回戦ともなれば、既にそこはベスト16到達者の大舞台。
試合も1日1試合のお楽しみとなり、サーカスや歌劇、拳闘による余興が主となっている。
「奥様に大人気!! 謎のクールビューティ魔弓使い!! ナルギス!! VS 頭悪そうに見えて意外と頭脳派!!? 奇跡の策士クルシュの試合を執り行うわよーっ!!」
さもなれば醜態は見せられない。
私たちは見せ物として、見応えのある試合を披露する義務があった。
「先に謝っておくよ……。この試合、ボクの一方的な勝利となるだろう」
「へぇ、言ってくれるじゃねぇかよ……?」
「ボクと君の力の相性がそう物語っているのさ。君はボクの半径2メートル以内に、一度も入ることなく敗北する」
虚勢には聞こえなかった。
ナルギスは本気でそうなると確信していた。
「いいぜ、その挑戦状受けて立つ!! お前たちの願いを踏み付けて、俺は勝つっっ!!」
気迫が炎となって私を包んだ。
今日まで私が戦ってきた相手は全て格上。ナルギスもまたそうなのだろう。
「フ……。本当に、まぶしくて敵わないな……。君は目障りなほどに、真っ直ぐで……ボクはそこが気に入らないみたいなんだ……」
「真っ直ぐで何が悪いっ!!」
真っ直ぐに言葉を跳ね返しておいてなんなのだが、私には彼女の気持ちがよくわかった。
彼女は深い挫折の味を知っているのだろう。
ガムシャラに夢を追い求める者が目障りなのだ。
視界に入るだけで苛つくのだ。
諦めないで前に進もうとする者、全てが。
「夢……希望……そんな物にすがって何になる……? 不可能なことは不可能だと、認めるのが大人じゃないのかい……? 君は本当に、この先の強者たちを押し退けて、優勝できると信じているの……?」
彼女の言葉は私には響かなかった。
私は諦めることなく、不敵に笑い返した。
「ったりめぇだろっ!! 立ちはだかる相手全てぶちのめして、俺は最強の男となる!!」
私の返答はナルギスに響かなかった。
哀れむように彼女は私を見た。
「君は恩人だ……。恩人である君を、絶望と挫折が待つその夢から目覚めさせてあげるよ……。大きすぎる夢は人を不幸にさせるだけなんだ……」
ナルギスは私から大きく距離を取り、その白いショートボウに矢をつがえた。
私は剣を抜き、刀を盾にした。
「では始めましょうか、ご両雄!! これより竜将大会準々々決勝、ベスト8を賭けた熾烈な戦いの始まりよ!! さあっっ、さあさあさあっっ、試合開始よっっ!!」
銅鑼の音が響くと、ナルギスはすかさず先制の矢を矢放ってきた。
私はそれを刀で難なく受け流した。
落ちた矢はかすむように透けてゆき、やがて実体を失って消えた。
なるほど、弾切れ知らずの魔法の弓というわけか。
続いてナルギスは私の周囲を周りだした。
走りながら矢の連射を放ってきた。
こんな妙な戦い方は見たことも聞いたこともなかった。
「おい、ムダだぜ! そんな弓、いくらでも弾ける!」
「フッ、それはどうかな……?」
なぜナルギスはこんなムダな動きをする?
体力を消耗し、命中精度を下げるだけなのに、なぜ駆ける?
何かが妙だった。
このままここでガードを続けるのは、間違っている可能性がある。
それにイーラジュ様も言っていた。今度の相手はこれまでと違うと。
私は様子身を止め、ナルギスを斬るために突撃した。
するとナルギスは私から逃げた。
私はそれを追った。
「なっっ?!」
ナルギスの矢を斬り払おうとしたところで、何かが俺の足をつかんだ。
俺はそのせいで転びかけ、なんとか矢を避け、踏みとどまった。
「うおぉっっ?!!」
その絶好のチャンスをナルギスが見逃すはずがない。
私の肩を狙った矢が、肩の少し上を切り裂くように通り抜けた。
「本当に、申し訳ないと思っているよ……」
「ナ、ナンジャコリャァァッッ?!!」
私の足を緑色の腕が握りしめていた。
よく見るとそれは得体の知れない植物で、私は大地にガッチリと拘束されてしまっていた。
「き、斬れねぇ……っ?! ぬぁっっ?!」
その植物はいやに強靱だった。
ちょっと天下の名刀で薙いだところで、斬れたのは断面の4分の1ほど。
隙だらけの私の脚にナルギスは再び弓矢を放ってきた。
「これも防いでしまうんだね……。恐るべき動体視力だ……」
「こ、こいつ……っ」
こいつ、強い……。
これまでの相手とは、強さの方向性が全く違う……。
自分の都合のいい環境を構築し、ジワジワと外堀を埋めてくるタイプだ……。
「ボクの言葉の意味、わかっただろう……。君は勝てないんだ……」
「や、やってみねぇとわかんねーだろがっっ!!」
「わかるよ。ボクは砦に陣取る弓兵のようなもの。君は砦の壁を一度もはい上がることなく、ボクに敗北する……」
草でできた腕は、完全に切断すると黄緑色の粒子となって消えた。
しかしまた不用意に飛び込めば、またこのトラップに足を奪われるのは見えている。
「無限に撃てる弓矢に、罠だらけの闘技場か……頭いいな、お前……」
「そうさ、この戦術に死角はない。……君は十分よくやったよ。今回はここで降参して、また一年、地道に修行を積めばいいじゃないか……」
「いや、そうもいかねぇんだわ……」
ここで負ければクルシュ基金の残金は、ゼロに限りなく近い数字を示すだろう。
誰かさんが、バレな賭け方ばかりしているせいで!
「考えてほしい。君に勝ち筋はないはずだ」
弓が私を狙ってまた絞られる。
ナルギスのやる気のない射撃を私は何度も斬り払った。
私は再び突撃した。
しかしステップにフェイントをかけたところで、トラップを回避することはできなかった。
なんど繰り返しても私はトラップに引っかかり、そのたびに矢を撃ち込まれた。
会場に諦めムードが広がっていった。
今回の試合は私に賭けた者の方がずっと多く、ふがいない私に時折、罵声の言葉が降り注いだ。
前回はあんなにも応援してくれたというのに、観客というのは手前勝手なものだ。
盛り下がった会場は歓声に乏しく、いやに静かなものだった。
「がんばって下さい、クルシュさんっっ!!! 負けないで!!!」
そんな私の耳に、なんの奇跡か声と声の間をぬって、ココロさんの応援の声が届いた。
いや、それは私の幻聴だったのかもしれない。
だがそれは、手詰まりに陥っていた私を再び燃え上がらせるのに十分だった。
私はココロさんにいいところを見せたい。
ティティスにも、ついでに困ったあのカロンにも、私は私のカッコイイところを見せたいのだ!
バカな男だと笑われようとも、私はそういう人間なのだ!
私は女性にもっとチヤホヤされたい!!
弓は剣の3倍、魔法は10倍強い。
ナルギスはこれまで戦ってきた相手とは方向性の異なる技巧派であるので、油断すれば敗北も有り得ると。
今一つ実感のわかない警告だったが、こうして大闘技場の舞台で向かい合ってみると、やっと少しわかった。
「おこんにちはー、皆様っ! 皆様のアーツ・モーリーちゃんよぉーっ!」
ナルギスは近接武器を持っていなかった。
よっぽど接近されない自信があるのか、白く神秘的なショートボウだけを身に着けていた。
接近戦に持ち込めば、一見は簡単に押し込めそうにも見える。
しかしそうはならなかったからこそ、ナルギスはこの舞台に立っている。
「お待たせしちゃってごめんなさいねぇー!! 本日の余興はこれで終わりっっ!! これからついに本日の大目玉!! 竜将大会・準々々決勝・第三回戦!!」
第三回戦ともなれば、既にそこはベスト16到達者の大舞台。
試合も1日1試合のお楽しみとなり、サーカスや歌劇、拳闘による余興が主となっている。
「奥様に大人気!! 謎のクールビューティ魔弓使い!! ナルギス!! VS 頭悪そうに見えて意外と頭脳派!!? 奇跡の策士クルシュの試合を執り行うわよーっ!!」
さもなれば醜態は見せられない。
私たちは見せ物として、見応えのある試合を披露する義務があった。
「先に謝っておくよ……。この試合、ボクの一方的な勝利となるだろう」
「へぇ、言ってくれるじゃねぇかよ……?」
「ボクと君の力の相性がそう物語っているのさ。君はボクの半径2メートル以内に、一度も入ることなく敗北する」
虚勢には聞こえなかった。
ナルギスは本気でそうなると確信していた。
「いいぜ、その挑戦状受けて立つ!! お前たちの願いを踏み付けて、俺は勝つっっ!!」
気迫が炎となって私を包んだ。
今日まで私が戦ってきた相手は全て格上。ナルギスもまたそうなのだろう。
「フ……。本当に、まぶしくて敵わないな……。君は目障りなほどに、真っ直ぐで……ボクはそこが気に入らないみたいなんだ……」
「真っ直ぐで何が悪いっ!!」
真っ直ぐに言葉を跳ね返しておいてなんなのだが、私には彼女の気持ちがよくわかった。
彼女は深い挫折の味を知っているのだろう。
ガムシャラに夢を追い求める者が目障りなのだ。
視界に入るだけで苛つくのだ。
諦めないで前に進もうとする者、全てが。
「夢……希望……そんな物にすがって何になる……? 不可能なことは不可能だと、認めるのが大人じゃないのかい……? 君は本当に、この先の強者たちを押し退けて、優勝できると信じているの……?」
彼女の言葉は私には響かなかった。
私は諦めることなく、不敵に笑い返した。
「ったりめぇだろっ!! 立ちはだかる相手全てぶちのめして、俺は最強の男となる!!」
私の返答はナルギスに響かなかった。
哀れむように彼女は私を見た。
「君は恩人だ……。恩人である君を、絶望と挫折が待つその夢から目覚めさせてあげるよ……。大きすぎる夢は人を不幸にさせるだけなんだ……」
ナルギスは私から大きく距離を取り、その白いショートボウに矢をつがえた。
私は剣を抜き、刀を盾にした。
「では始めましょうか、ご両雄!! これより竜将大会準々々決勝、ベスト8を賭けた熾烈な戦いの始まりよ!! さあっっ、さあさあさあっっ、試合開始よっっ!!」
銅鑼の音が響くと、ナルギスはすかさず先制の矢を矢放ってきた。
私はそれを刀で難なく受け流した。
落ちた矢はかすむように透けてゆき、やがて実体を失って消えた。
なるほど、弾切れ知らずの魔法の弓というわけか。
続いてナルギスは私の周囲を周りだした。
走りながら矢の連射を放ってきた。
こんな妙な戦い方は見たことも聞いたこともなかった。
「おい、ムダだぜ! そんな弓、いくらでも弾ける!」
「フッ、それはどうかな……?」
なぜナルギスはこんなムダな動きをする?
体力を消耗し、命中精度を下げるだけなのに、なぜ駆ける?
何かが妙だった。
このままここでガードを続けるのは、間違っている可能性がある。
それにイーラジュ様も言っていた。今度の相手はこれまでと違うと。
私は様子身を止め、ナルギスを斬るために突撃した。
するとナルギスは私から逃げた。
私はそれを追った。
「なっっ?!」
ナルギスの矢を斬り払おうとしたところで、何かが俺の足をつかんだ。
俺はそのせいで転びかけ、なんとか矢を避け、踏みとどまった。
「うおぉっっ?!!」
その絶好のチャンスをナルギスが見逃すはずがない。
私の肩を狙った矢が、肩の少し上を切り裂くように通り抜けた。
「本当に、申し訳ないと思っているよ……」
「ナ、ナンジャコリャァァッッ?!!」
私の足を緑色の腕が握りしめていた。
よく見るとそれは得体の知れない植物で、私は大地にガッチリと拘束されてしまっていた。
「き、斬れねぇ……っ?! ぬぁっっ?!」
その植物はいやに強靱だった。
ちょっと天下の名刀で薙いだところで、斬れたのは断面の4分の1ほど。
隙だらけの私の脚にナルギスは再び弓矢を放ってきた。
「これも防いでしまうんだね……。恐るべき動体視力だ……」
「こ、こいつ……っ」
こいつ、強い……。
これまでの相手とは、強さの方向性が全く違う……。
自分の都合のいい環境を構築し、ジワジワと外堀を埋めてくるタイプだ……。
「ボクの言葉の意味、わかっただろう……。君は勝てないんだ……」
「や、やってみねぇとわかんねーだろがっっ!!」
「わかるよ。ボクは砦に陣取る弓兵のようなもの。君は砦の壁を一度もはい上がることなく、ボクに敗北する……」
草でできた腕は、完全に切断すると黄緑色の粒子となって消えた。
しかしまた不用意に飛び込めば、またこのトラップに足を奪われるのは見えている。
「無限に撃てる弓矢に、罠だらけの闘技場か……頭いいな、お前……」
「そうさ、この戦術に死角はない。……君は十分よくやったよ。今回はここで降参して、また一年、地道に修行を積めばいいじゃないか……」
「いや、そうもいかねぇんだわ……」
ここで負ければクルシュ基金の残金は、ゼロに限りなく近い数字を示すだろう。
誰かさんが、バレな賭け方ばかりしているせいで!
「考えてほしい。君に勝ち筋はないはずだ」
弓が私を狙ってまた絞られる。
ナルギスのやる気のない射撃を私は何度も斬り払った。
私は再び突撃した。
しかしステップにフェイントをかけたところで、トラップを回避することはできなかった。
なんど繰り返しても私はトラップに引っかかり、そのたびに矢を撃ち込まれた。
会場に諦めムードが広がっていった。
今回の試合は私に賭けた者の方がずっと多く、ふがいない私に時折、罵声の言葉が降り注いだ。
前回はあんなにも応援してくれたというのに、観客というのは手前勝手なものだ。
盛り下がった会場は歓声に乏しく、いやに静かなものだった。
「がんばって下さい、クルシュさんっっ!!! 負けないで!!!」
そんな私の耳に、なんの奇跡か声と声の間をぬって、ココロさんの応援の声が届いた。
いや、それは私の幻聴だったのかもしれない。
だがそれは、手詰まりに陥っていた私を再び燃え上がらせるのに十分だった。
私はココロさんにいいところを見せたい。
ティティスにも、ついでに困ったあのカロンにも、私は私のカッコイイところを見せたいのだ!
バカな男だと笑われようとも、私はそういう人間なのだ!
私は女性にもっとチヤホヤされたい!!
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