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竜将軍大会第三回戦:策士クルシュ VS 魔弓使いナルギス
・カロン・オボロス(職業:貧乏漫画家) - 出版事業を始めよう -
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「買い切りの契約もそりゃあるけどさー」
「まああるな」
生前の業界の話であるが、そういった契約も当然ある。
「でもこれから爆売れが確定してる漫画が印税ゼロって、これ悪意100%じゃーん♪」
「おら……騙されるところだったべか……?」
「そうゆーこと。付き合い切った方がいいよ、こんなやつ」
「ティティス様……っ! おらっ、ティティス様にも感謝しねぇといけねぇだぁっ! ありがとうござんますぅぅ!!」
カロン先生は仏にするようにティティスに拝んだ。
ティティスは精神的にも健康的な女性だ。
嫌がるどころか、ヒーローのようにそれに笑って返した。
「しかし、問屋なしでどうやって配本する?」
問屋を使わないということは、自力で在庫を管理し、自力で商品を各地に配送するということである。
「もちろん、新商会を設立にするに決まっていますわ!」
「新商会、だと……?」
「ええ、わたくしたちの商会です。漫画の在庫をわたくしたちで管理しながら、お父様の商会と取り引きするのです。これで全国津々浦々に、この素晴らしき図書を送り届けることが可能になりますわ」
つまり自分たちが出版社をかねた問屋になるということか。
本屋をやっていた頃はその問屋の横暴に悩まされたものだが、その私が問屋側に立つことになろうとは。
「……悪くない」
「でしょっ!?」
「だが問題が1つある。この計画……たぶん、いや確実に、ムチャクチャ、金かかんぞこれ……?」
「そこでクルシュ基金の出番なのだーっ!」
「なんだそりゃ……」
「なんとクルシュに賭けたお金が当たりに当たって、今ね、金526あるよ!」
金526。雑な計算で1052万円。
それだけの金があれば、小さな商会を築くことも可能だろう。
「いや、冗談だろ……?」
「マジマジ、1回戦と2回戦のオッズやばかったしー!」
「お、お前……っ、どんだけバカな賭け方したんだ……!?」
「ま、クルシュのオッズも上がってるから、次からはこうもいかないけどね。でもっ、優勝さえすれば、さらに、どかーんっっ!!」
バクチはもう止めてほしい……。
俺が試合に負けたら、運転資金が全て吹っ飛んでいたとか、そういう悪夢を想像してしまう……。
「大丈夫っ、絶対クルシュが優勝するし!」
「この女、イカレてやがる……」
「だって私が最初にクルシュを見い出したファン第一号だし!」
しかしこの話、いい話だ。
私は元書店員、晩年は書店経営者だった。
店を潰してしまったことを、今でも残念に思っている。
転生して視野が広がってからは、もっと上手くやれたのではないかと、時々思い返してしまう。
「わかった、次も勝って、賞金は新商会の運転資金に回すことにしよう」
「やった! それじゃあたしたち、これからは共同経営者だね!」
「おうっ、商会の名前も決めないとな!」
「そうだねっ、あたしワクワクしてきたーっ!」
盛り上がる私たちの隣で、静かに震える女性が一人あった。
「か……勝手に、とんでもないことに、なってるべよ……なってるべよぉ……」
可哀想だが逃がしてやる道理はない。
私たちは彼女のパトロンであると同時に、彼女は私たちの最重要取引先なのだから。
「資金調達は俺に任せろ」
「うんっ、経営はあたしに任せて!」
「決まりだな」
「がんばろうねっ、クルシュ!」
私たちは堅い握手を交わした。
一人の優秀な漫画家を私たちで支え、やがてはもっと多くの作品を支援し、販売してゆこう。
私の目標は最強の男となること。
スーパーヒーローそのものになることだが、生前の事業にも深い未練があった。
「お……お世話になりますだ……。このご恩は、一生忘れないだ……! い、一生、お二人に付いて行きますだ! おら、面白い続きを描いてお見せしますだっ!!」
こうして今日から俺たちは事業を始めることになった。
ティティスの決断には驚かされたが、問屋に騙されていた事情もろもろを知れば、遅かれ遠かれこうなっていただろう。
「よろしくな、カロン先生。いや、カロンでいいか」
もちろんその仲間であるカロンとも握手を交わした。
もはや他人ではないので丁寧語も止めた。
「お、おら……おら……っ、今月は手ぇ洗わねぇべさ!! おらっ、おらっ、この右手だけでご飯10杯いけるだぁよぉ……っ!!」
「あはははっ、女の子のファンができてよかったね、クルシュ!」
そうなのだが、今一つ嬉しくないのはなぜなのだろう。
カロンはこんなに美人なのに、なぜ風呂に入りたがらないのだろう。
「カロン、これは俺からの要望なんだがよ……?」
「おお、なんだべさ!?」
「毎日歯を磨き、3日に1回は風呂に入ると約束しろ……お前、一応、恋愛漫画家なんだから……」
「風呂は月に2,3回でいいと思うべ……」
「よくねーよっ、風呂に入るのが契約条件だよっ!」
私は編集者に憧れていた頃があった。
しかしこうして、かわいらしいが人間として問題があり過ぎる彼女を見ていると思う。
編集者さんって、とても大変なのですね……。
「お、おらを小綺麗にさせて、クルシュ様はどうするつもりだべ……っ?!」
「どうもしねーよっ! 風呂入らねー残念な姿を読者に見せるわけにはいかねーんだよっ!」
「で、でも、入浴は嫌いだす……」
「犬猫かっ!」
人は毛皮を捨て、服をまとうことで進化した生き物ではあるが、いくら着飾ったところでその者の本質は決して変わらないようだ。
私にはもう見えた。
次にカロンに会った時に、その頭がフケまみれの雪景色になっていることが……。
「まあまあ、カロンのサポートはあたしに任せて、クルシュは大会に集中しなよ」
「おらも応援に行くべっ! バトルシーンの参考にさせてもらうべよっ!」
一日中机に向かい、漫画を描き続ける道をあえて選んだやつらだ。
漫画家たちというのは、私たちとは根本的に頭の作りが違うようだった。
「しかしお前が抜けて平気なのか?」
「へ? 何がー?」
「昨日は実家の仕事が忙しかったんだろ? 実家を手伝わなくて平気か?」
「昨日……? 昨日はそんなでもなかったけど?」
「……ん?」
「え、何?」
「いや、別に、なんでもない」
「ふーん……?」
妙だな。昨日は忙しく、なかったのか……?
「まああるな」
生前の業界の話であるが、そういった契約も当然ある。
「でもこれから爆売れが確定してる漫画が印税ゼロって、これ悪意100%じゃーん♪」
「おら……騙されるところだったべか……?」
「そうゆーこと。付き合い切った方がいいよ、こんなやつ」
「ティティス様……っ! おらっ、ティティス様にも感謝しねぇといけねぇだぁっ! ありがとうござんますぅぅ!!」
カロン先生は仏にするようにティティスに拝んだ。
ティティスは精神的にも健康的な女性だ。
嫌がるどころか、ヒーローのようにそれに笑って返した。
「しかし、問屋なしでどうやって配本する?」
問屋を使わないということは、自力で在庫を管理し、自力で商品を各地に配送するということである。
「もちろん、新商会を設立にするに決まっていますわ!」
「新商会、だと……?」
「ええ、わたくしたちの商会です。漫画の在庫をわたくしたちで管理しながら、お父様の商会と取り引きするのです。これで全国津々浦々に、この素晴らしき図書を送り届けることが可能になりますわ」
つまり自分たちが出版社をかねた問屋になるということか。
本屋をやっていた頃はその問屋の横暴に悩まされたものだが、その私が問屋側に立つことになろうとは。
「……悪くない」
「でしょっ!?」
「だが問題が1つある。この計画……たぶん、いや確実に、ムチャクチャ、金かかんぞこれ……?」
「そこでクルシュ基金の出番なのだーっ!」
「なんだそりゃ……」
「なんとクルシュに賭けたお金が当たりに当たって、今ね、金526あるよ!」
金526。雑な計算で1052万円。
それだけの金があれば、小さな商会を築くことも可能だろう。
「いや、冗談だろ……?」
「マジマジ、1回戦と2回戦のオッズやばかったしー!」
「お、お前……っ、どんだけバカな賭け方したんだ……!?」
「ま、クルシュのオッズも上がってるから、次からはこうもいかないけどね。でもっ、優勝さえすれば、さらに、どかーんっっ!!」
バクチはもう止めてほしい……。
俺が試合に負けたら、運転資金が全て吹っ飛んでいたとか、そういう悪夢を想像してしまう……。
「大丈夫っ、絶対クルシュが優勝するし!」
「この女、イカレてやがる……」
「だって私が最初にクルシュを見い出したファン第一号だし!」
しかしこの話、いい話だ。
私は元書店員、晩年は書店経営者だった。
店を潰してしまったことを、今でも残念に思っている。
転生して視野が広がってからは、もっと上手くやれたのではないかと、時々思い返してしまう。
「わかった、次も勝って、賞金は新商会の運転資金に回すことにしよう」
「やった! それじゃあたしたち、これからは共同経営者だね!」
「おうっ、商会の名前も決めないとな!」
「そうだねっ、あたしワクワクしてきたーっ!」
盛り上がる私たちの隣で、静かに震える女性が一人あった。
「か……勝手に、とんでもないことに、なってるべよ……なってるべよぉ……」
可哀想だが逃がしてやる道理はない。
私たちは彼女のパトロンであると同時に、彼女は私たちの最重要取引先なのだから。
「資金調達は俺に任せろ」
「うんっ、経営はあたしに任せて!」
「決まりだな」
「がんばろうねっ、クルシュ!」
私たちは堅い握手を交わした。
一人の優秀な漫画家を私たちで支え、やがてはもっと多くの作品を支援し、販売してゆこう。
私の目標は最強の男となること。
スーパーヒーローそのものになることだが、生前の事業にも深い未練があった。
「お……お世話になりますだ……。このご恩は、一生忘れないだ……! い、一生、お二人に付いて行きますだ! おら、面白い続きを描いてお見せしますだっ!!」
こうして今日から俺たちは事業を始めることになった。
ティティスの決断には驚かされたが、問屋に騙されていた事情もろもろを知れば、遅かれ遠かれこうなっていただろう。
「よろしくな、カロン先生。いや、カロンでいいか」
もちろんその仲間であるカロンとも握手を交わした。
もはや他人ではないので丁寧語も止めた。
「お、おら……おら……っ、今月は手ぇ洗わねぇべさ!! おらっ、おらっ、この右手だけでご飯10杯いけるだぁよぉ……っ!!」
「あはははっ、女の子のファンができてよかったね、クルシュ!」
そうなのだが、今一つ嬉しくないのはなぜなのだろう。
カロンはこんなに美人なのに、なぜ風呂に入りたがらないのだろう。
「カロン、これは俺からの要望なんだがよ……?」
「おお、なんだべさ!?」
「毎日歯を磨き、3日に1回は風呂に入ると約束しろ……お前、一応、恋愛漫画家なんだから……」
「風呂は月に2,3回でいいと思うべ……」
「よくねーよっ、風呂に入るのが契約条件だよっ!」
私は編集者に憧れていた頃があった。
しかしこうして、かわいらしいが人間として問題があり過ぎる彼女を見ていると思う。
編集者さんって、とても大変なのですね……。
「お、おらを小綺麗にさせて、クルシュ様はどうするつもりだべ……っ?!」
「どうもしねーよっ! 風呂入らねー残念な姿を読者に見せるわけにはいかねーんだよっ!」
「で、でも、入浴は嫌いだす……」
「犬猫かっ!」
人は毛皮を捨て、服をまとうことで進化した生き物ではあるが、いくら着飾ったところでその者の本質は決して変わらないようだ。
私にはもう見えた。
次にカロンに会った時に、その頭がフケまみれの雪景色になっていることが……。
「まあまあ、カロンのサポートはあたしに任せて、クルシュは大会に集中しなよ」
「おらも応援に行くべっ! バトルシーンの参考にさせてもらうべよっ!」
一日中机に向かい、漫画を描き続ける道をあえて選んだやつらだ。
漫画家たちというのは、私たちとは根本的に頭の作りが違うようだった。
「しかしお前が抜けて平気なのか?」
「へ? 何がー?」
「昨日は実家の仕事が忙しかったんだろ? 実家を手伝わなくて平気か?」
「昨日……? 昨日はそんなでもなかったけど?」
「……ん?」
「え、何?」
「いや、別に、なんでもない」
「ふーん……?」
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