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竜将軍大会第一回戦:至上最強の素人クルシュ VS 棒術王バース
・開会式にて - 賞金【金20】 -
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6月3日、私は竜将大会の開会式に出た。
そこで待ちに待った金20の賞金を手にした。
手持ちの金は支度金としてイーラジュ様の道場に入れてしまっていたので、それは私の貴重な軍資金と言ってよかった。
「ふっ、ふふふっ……臨時収入……臨時収入! おお、なんていい響きの言葉なんだ……」
金1で約2万円ほどの価値がある。
つまり私は40万円分だけ、これからキョウの都で遊び倒せるということだった。
「何に使うかな。せっかくの新しい人生、買い物だってケチケチしねぇで、豪快にいきてぇな」
私は大会会場である闘技場の暗い廊下を歩く。
20本の黄金の輝きが私を魅了していた。
金1は小枝のような小さな棒で、それが私の財布の中でジャラジャラと輝いている。
やはり買うなら漫画だろうか。
この金で最近見つけた愛読書・青騎士物語を全巻買ってしまうのも悪くない。
「ん……?」
いつの間にやら私は大闘技場の外へと出ていた。
そして明るい日差しに顔を上げると、見知った顔が私を待ち伏せしていた。
「ティティス? ココロさん……?」
二人はそろって私に手を差し出していた。
「イーラジュ様のご指示で、賞金をいただきにまいりました」
「なっ、何ぃっっ?!」
私は財布を背中の後ろに隠した。
「どうせお酒とかつまんないことに使っちゃうんでしょ? そのお金、うちの商会に投資しない?」
「お、お前らっ、俺から賞金をむしり取る気かっ?!」
ティティスは両手を腰に当てて、さもそれが当然であるとうなずく。
ココロさんは少し申し訳なさそうに私を見たが、意思は変わらないようだった。
「急に気が強くなって、賞金をムダにしてしまうお弟子さんをこれまでたくさん見てきました」
「だからあたしたちが預かってあげる」
「断るっ、お前らは俺のカーチャンかっ!!」
ティティスが私の後ろに回り込んだ。
彼女たちは力ずくでも私から金20を奪い取るつもりのようだ。
「ですが、そんな大金を持ち歩くだけでも不用心というものです」
「お金持ってると狙われるよー?」
「女中の立場から申し上げても、金20をお部屋に置かれるのは困ります……」
「クルシュは開会式にきたみんなに顔を知られたんだよ? コイツは今、金20を持ってるんだって」
だからおとなしく金を渡せと、二人はまた私に手のひらを突き出した。
「わかったよ……」
どちらにしろ本戦初戦に勝てば、金40の賞金が入る。
さらに二回戦で勝てば倍の金80と、ごく小さな願いを叶えてもらえるという。
私は金18を財布から出して、二人に半分ずつ渡した。
「ちょっとー、そのお金はー?」
「漫画くらい買ってもいいだろ……」
「あっ、漫画ですか! 漫画ならいいと思います!」
「何買うの?」
「青騎士物語という本だ。この前絵巻屋で一巻を買ったんだが、一人の女をかけての男と男の戦いに迫力があった。あれはいずれ伸びる!」
恋愛漫画が幅を利かせるこの世界でも、探せば私好みのバトル漫画もあるものだ。
恋愛6:バトル4といった塩梅なのがやや残念だが、この世界にも熱いバトル漫画が存在した!
「あ、それ売れなくて打ち切られたらしいよ?」
「 な…………なんだとぉぉーーっっ?!! 」
商業漫画市場は、異世界でも等しく厳しかった……。
打ち切り……こんなにいい漫画が、なぜ、打ち切りに……。
「心中お察しいたします……。本当に、残念ですよね、打ち切り……」
「そんなに面白かったの? そんな反応されるとなんか気になるなぁ……」
こんなことならもっと早く買い支えるべきだった……。
ああ、私は明日から何を楽しみに生きれば――
「え、野球……?」
その時、私の隣をベースボールウェアをまとったおじさんが通りすがった。
私はそれについつぶやいてしまった。
「お……? おい、そこのあんちゃん! もしかしてお前もヤキュウファンか!?」
「い、いや、ファンってわけじゃねぇけど、知ってはいるぜ、その格好……?」
ベースボールウェアを着てバットを担いでいる変なおじさんだった。
たくましく鍛え上がった肢体と、酒でも入っていそうな赤ら顔が特徴の、野球おじさんというよりも――ヤジでも飛ばしていそうな野球オヤジだった。
「おおーっ、同志よーっっ!! 俺は一塁手だっ、お前はポジションどこだーっ!?」
「ガ、ガキの頃はレフト……いや、ライトだったかな……?」
お菓子が貰えるから、子供の頃に参加していただけなんだが……。
しかしなんでこんなところに、野球選手が……?
「ティティスちゃん……」
「あーこれ、気づいてないね、両方……」
「ど、どうしよう……?」
「お金は徴収したし、ほっとこー?」
「え、ええ……っ」
これも聖帝の仕業だろうか。
まさか野球文化まで広めていただなんて。
「おお、外野かっ! 俺もたまに外野をやるんだ!」
「そ、そうか……。おっさんはスラッガーなのか?」
野球はできないし、そこまで詳しくない。
ボロが出る前に逃げ出したい。
そこで待ちに待った金20の賞金を手にした。
手持ちの金は支度金としてイーラジュ様の道場に入れてしまっていたので、それは私の貴重な軍資金と言ってよかった。
「ふっ、ふふふっ……臨時収入……臨時収入! おお、なんていい響きの言葉なんだ……」
金1で約2万円ほどの価値がある。
つまり私は40万円分だけ、これからキョウの都で遊び倒せるということだった。
「何に使うかな。せっかくの新しい人生、買い物だってケチケチしねぇで、豪快にいきてぇな」
私は大会会場である闘技場の暗い廊下を歩く。
20本の黄金の輝きが私を魅了していた。
金1は小枝のような小さな棒で、それが私の財布の中でジャラジャラと輝いている。
やはり買うなら漫画だろうか。
この金で最近見つけた愛読書・青騎士物語を全巻買ってしまうのも悪くない。
「ん……?」
いつの間にやら私は大闘技場の外へと出ていた。
そして明るい日差しに顔を上げると、見知った顔が私を待ち伏せしていた。
「ティティス? ココロさん……?」
二人はそろって私に手を差し出していた。
「イーラジュ様のご指示で、賞金をいただきにまいりました」
「なっ、何ぃっっ?!」
私は財布を背中の後ろに隠した。
「どうせお酒とかつまんないことに使っちゃうんでしょ? そのお金、うちの商会に投資しない?」
「お、お前らっ、俺から賞金をむしり取る気かっ?!」
ティティスは両手を腰に当てて、さもそれが当然であるとうなずく。
ココロさんは少し申し訳なさそうに私を見たが、意思は変わらないようだった。
「急に気が強くなって、賞金をムダにしてしまうお弟子さんをこれまでたくさん見てきました」
「だからあたしたちが預かってあげる」
「断るっ、お前らは俺のカーチャンかっ!!」
ティティスが私の後ろに回り込んだ。
彼女たちは力ずくでも私から金20を奪い取るつもりのようだ。
「ですが、そんな大金を持ち歩くだけでも不用心というものです」
「お金持ってると狙われるよー?」
「女中の立場から申し上げても、金20をお部屋に置かれるのは困ります……」
「クルシュは開会式にきたみんなに顔を知られたんだよ? コイツは今、金20を持ってるんだって」
だからおとなしく金を渡せと、二人はまた私に手のひらを突き出した。
「わかったよ……」
どちらにしろ本戦初戦に勝てば、金40の賞金が入る。
さらに二回戦で勝てば倍の金80と、ごく小さな願いを叶えてもらえるという。
私は金18を財布から出して、二人に半分ずつ渡した。
「ちょっとー、そのお金はー?」
「漫画くらい買ってもいいだろ……」
「あっ、漫画ですか! 漫画ならいいと思います!」
「何買うの?」
「青騎士物語という本だ。この前絵巻屋で一巻を買ったんだが、一人の女をかけての男と男の戦いに迫力があった。あれはいずれ伸びる!」
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打ち切り……こんなにいい漫画が、なぜ、打ち切りに……。
「心中お察しいたします……。本当に、残念ですよね、打ち切り……」
「そんなに面白かったの? そんな反応されるとなんか気になるなぁ……」
こんなことならもっと早く買い支えるべきだった……。
ああ、私は明日から何を楽しみに生きれば――
「え、野球……?」
その時、私の隣をベースボールウェアをまとったおじさんが通りすがった。
私はそれについつぶやいてしまった。
「お……? おい、そこのあんちゃん! もしかしてお前もヤキュウファンか!?」
「い、いや、ファンってわけじゃねぇけど、知ってはいるぜ、その格好……?」
ベースボールウェアを着てバットを担いでいる変なおじさんだった。
たくましく鍛え上がった肢体と、酒でも入っていそうな赤ら顔が特徴の、野球おじさんというよりも――ヤジでも飛ばしていそうな野球オヤジだった。
「おおーっ、同志よーっっ!! 俺は一塁手だっ、お前はポジションどこだーっ!?」
「ガ、ガキの頃はレフト……いや、ライトだったかな……?」
お菓子が貰えるから、子供の頃に参加していただけなんだが……。
しかしなんでこんなところに、野球選手が……?
「ティティスちゃん……」
「あーこれ、気づいてないね、両方……」
「ど、どうしよう……?」
「お金は徴収したし、ほっとこー?」
「え、ええ……っ」
これも聖帝の仕業だろうか。
まさか野球文化まで広めていただなんて。
「おお、外野かっ! 俺もたまに外野をやるんだ!」
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