12 / 70
竜将大会予選:ソコノネの迷宮編
・大会予選:ソコノネの迷宮 - 予選11回突破のトッパ -
しおりを挟む
真っ先に連想したのはフードコートだった。
ソコノネの迷宮の地上施設は、デパートのフードコートによく似ていた。
外周は様々なテナント。
内周は人が休めるテーブル席。
そして中心核には多数のエレベーターが密集していた。
私は入って後ろ側にある受付に立ち、あの青い竜のコインを見せた。
「はい、クルシュ様ですね。正午になったら番号でお呼びしますので、施設内でしばらくおくつろぎ下さい」
「あ、ああ……。なんか、お役所みてぇだな……」
あるいは職業安定所……?
事務対応しかしてくれない受付の前を離れ、適当な席で待った。
中央のエレベーター群の前には大きな時計が設置されている。
あと17分待てば試験開始の時刻だった。
参加者たちがひっきりなしにエレベーターに乗り込み、地下へと消えてゆく光景は不気味だ。
「おや、確か貴方は、クルシュさんでしたか」
「へ……? あっ、アンタは、この前の――」
「トッパです。いや、奇遇ですなぁ……?」
「あ、ああ……」
苦手な人に会ってしまった。
「私は57分に出発です。貴方は?」
「00分だ。トッパさんも大会参加者だったのか」
「ええ、こう見えて私、常連なんですよ。私の予選通過回数、知りたいですか?」
「あ、ああ、参考に……。それとこの前は、悪かったよ、軽率な発言だったよ……」
「私、これでも竜将大会の予選を11回突破しているんです。トッパだから突破ってね、うふふふ……」
「それは凄いな」
人は見かけによらない。
私の目にはそこまで強そうには見えなかった。
「信じてないね、君? ほら、このコイン見て下さいよ、ここにサファイアが埋め込まれているでしょう? これが本戦入りした猛者の証なんですよ、ほら……っ」
そんなコインを彼は11枚もひけらかしてくれた。
やはり、彼とは気質が全く合いそうもない。
へぇ、11回もアンタ負けているのか。
場をわきまえない突然の自慢に対して、皮肉を言ってやりたくなった。
「おっと、時間のようだ」
「はぁっ、助かった……」
「運がよければまた下で会おう」
「下……?」
「ソコノネの迷宮は時折、混線を引き起こすのだよ。特に大会中は分単位で参加者を迷宮に降ろしているからね、ブッキングも珍しくない……」
彼――いや、ヤツの顔から嘘くさい笑顔が消えた。
残忍な細い目が、獲物を見るように俺を見ていた。
「いいなぁ……羨ましいなぁ……? イーラジュ様の道場で教わったという肩書きだけで、門下生が道場いっぱいに集まるそうだよ……。いいなぁぁ、ついてるなぁぁ、君ぃぃ……」
私は好き好んで敵を作らない。
敵は増えれば増えるほどに生きづらくなるものだと、自営業を通じて学んだ。
しかしそんな私でも、この男はやはり受け付けない。
「下らねぇな」
「あ……? なんだとぉぉ……?」
私はこの男の腐った性根が好かない。
非常に不健全で未来のない思考回路をしている。
「テメェはイーラジュ様の名声に群がる害虫じゃねーか。人の名声で商売して、それがなんになる? 下らねぇ」
「ふ、ふふ……ふふふふ……自分は違うとでも、言うのかい……?」
「ああ、イーラジュはいずれ、この俺に最強の座を明け渡すことになるんだからな。……大陸最強となるのは、この俺だっ!!」
目指すは、大陸最強!!
いずれイーラジュ様もぶっとばす!!
「…………バ、バカじゃないのか、君……?」
「バカで何が悪い、バカでなきゃ武人になんてなんねーよっ」
ちょうど時間のようだ。
トッパは呆れのあまりか言葉すら失って、そのまま昇降機の中に消えた。
ヤツが視界から消えると、自分の番号が呼ばれていたことに気付いた。
指定のエレベーターに向かった。
「呼ばれたらすぐにきて下さい、次は失格にしますよ!」
「なら番号で呼ぶのを止めたらいいだろ」
「姓名は呼ばない。それが規則ですので」
「…………まあ、確かに、それはそれでまずいか」
それがなんのトラブルを引き起こすかわからない。
このエレベーターの下では、しばしば混線が引き起こされるそうなのだから。
「ご武運を」
マニュアル通りの熱意のない祝福を受けて、ソコノネの迷宮で行われる予選に挑んだ。
ソコノネの迷宮の地上施設は、デパートのフードコートによく似ていた。
外周は様々なテナント。
内周は人が休めるテーブル席。
そして中心核には多数のエレベーターが密集していた。
私は入って後ろ側にある受付に立ち、あの青い竜のコインを見せた。
「はい、クルシュ様ですね。正午になったら番号でお呼びしますので、施設内でしばらくおくつろぎ下さい」
「あ、ああ……。なんか、お役所みてぇだな……」
あるいは職業安定所……?
事務対応しかしてくれない受付の前を離れ、適当な席で待った。
中央のエレベーター群の前には大きな時計が設置されている。
あと17分待てば試験開始の時刻だった。
参加者たちがひっきりなしにエレベーターに乗り込み、地下へと消えてゆく光景は不気味だ。
「おや、確か貴方は、クルシュさんでしたか」
「へ……? あっ、アンタは、この前の――」
「トッパです。いや、奇遇ですなぁ……?」
「あ、ああ……」
苦手な人に会ってしまった。
「私は57分に出発です。貴方は?」
「00分だ。トッパさんも大会参加者だったのか」
「ええ、こう見えて私、常連なんですよ。私の予選通過回数、知りたいですか?」
「あ、ああ、参考に……。それとこの前は、悪かったよ、軽率な発言だったよ……」
「私、これでも竜将大会の予選を11回突破しているんです。トッパだから突破ってね、うふふふ……」
「それは凄いな」
人は見かけによらない。
私の目にはそこまで強そうには見えなかった。
「信じてないね、君? ほら、このコイン見て下さいよ、ここにサファイアが埋め込まれているでしょう? これが本戦入りした猛者の証なんですよ、ほら……っ」
そんなコインを彼は11枚もひけらかしてくれた。
やはり、彼とは気質が全く合いそうもない。
へぇ、11回もアンタ負けているのか。
場をわきまえない突然の自慢に対して、皮肉を言ってやりたくなった。
「おっと、時間のようだ」
「はぁっ、助かった……」
「運がよければまた下で会おう」
「下……?」
「ソコノネの迷宮は時折、混線を引き起こすのだよ。特に大会中は分単位で参加者を迷宮に降ろしているからね、ブッキングも珍しくない……」
彼――いや、ヤツの顔から嘘くさい笑顔が消えた。
残忍な細い目が、獲物を見るように俺を見ていた。
「いいなぁ……羨ましいなぁ……? イーラジュ様の道場で教わったという肩書きだけで、門下生が道場いっぱいに集まるそうだよ……。いいなぁぁ、ついてるなぁぁ、君ぃぃ……」
私は好き好んで敵を作らない。
敵は増えれば増えるほどに生きづらくなるものだと、自営業を通じて学んだ。
しかしそんな私でも、この男はやはり受け付けない。
「下らねぇな」
「あ……? なんだとぉぉ……?」
私はこの男の腐った性根が好かない。
非常に不健全で未来のない思考回路をしている。
「テメェはイーラジュ様の名声に群がる害虫じゃねーか。人の名声で商売して、それがなんになる? 下らねぇ」
「ふ、ふふ……ふふふふ……自分は違うとでも、言うのかい……?」
「ああ、イーラジュはいずれ、この俺に最強の座を明け渡すことになるんだからな。……大陸最強となるのは、この俺だっ!!」
目指すは、大陸最強!!
いずれイーラジュ様もぶっとばす!!
「…………バ、バカじゃないのか、君……?」
「バカで何が悪い、バカでなきゃ武人になんてなんねーよっ」
ちょうど時間のようだ。
トッパは呆れのあまりか言葉すら失って、そのまま昇降機の中に消えた。
ヤツが視界から消えると、自分の番号が呼ばれていたことに気付いた。
指定のエレベーターに向かった。
「呼ばれたらすぐにきて下さい、次は失格にしますよ!」
「なら番号で呼ぶのを止めたらいいだろ」
「姓名は呼ばない。それが規則ですので」
「…………まあ、確かに、それはそれでまずいか」
それがなんのトラブルを引き起こすかわからない。
このエレベーターの下では、しばしば混線が引き起こされるそうなのだから。
「ご武運を」
マニュアル通りの熱意のない祝福を受けて、ソコノネの迷宮で行われる予選に挑んだ。
11
お気に入りに追加
105
あなたにおすすめの小説
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する
平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。
しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。
だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。
そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる