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【改変】職人娘:突然生えてきた僕の彼女

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 たぬきを抱いて僕は駆けた。
 背中の後ろでロリババァが『待て、わらわもおぶれ!』と世迷い事をもうしていたけどそれはぜひスルーさせていただいて、絶賛老朽化中の揺れる橋を越えた。

 橋を渡ればすぐそこが魔法の【畑】で、そこから川上に250メートル進んだところに僕が創った【職人街】がある。

 生まれたばかりだというのに5つの工房が点在するその小さな街からは、早くも鉄を打つ音、のこぎりを使う音、水車の歯車による淀みのない音色が響いている。

<「 第一職人さん発見もきゅ! あれは、女の子もきゅよっ! 」

 水車のそばの水辺で女の子が腰を休めていた。
 髪は水色で、背丈は小柄な僕と同じくらい。工房労働者らしいつなぎの腰に、小さなハンマーを吊している。

 彼女の名前はロゼッティア。年齢は1つ上の17歳。こんな成りでも彫金工房の女主人だ。
 やはり、僕の力は恐ろしい。まだ出会すらいない相手なのに、彼女の名前や職業が頭に浮かんできていた。

 僕の力は全てを改変する。それは僕自身も例外ではない……。

「あ、おはよーっ、アルト! そんなに急いでどうしたのー?」

「え……あ、いや、その……」

 『なんで君、いきなり馴れ馴れしいの?』なんて言えない。

「もしかしてー、彼女の顔を見にきてくれたとかー?」

「えっっ、ええええええっっ?!!」

 一気に血の気が引いた。胸のたぬきを胸から落っことしてしまうほどに、僕はこの力のデメリットに恐怖した。

「あーーっ、何やってるんだよーっ! ポンちゃんがかわいそうじゃないかーっ!」

<「 ポンちゃん大丈夫もきゅ。こんにちは、ロゼッティアちゃん 」

「ポンちゃーんっ! ポンちゃんって本当に性格いいねーっ、世界一かわいいと思うよっ!」

<「 ポンちゃんより、ロゼッティアちゃんの方がかわいいもきゅ! 」

 ポンちゃんは無警戒にも抵抗せずロゼッティアに抱き上げられた。そしてかわいい者同士でキャッキャウフフを始める。

 僕はそんな2人を見ながら苦悩した。
 交際なんて、そんなこと、した覚え――あるのだから、頭を抱えずにはいられない……。

「どうしたのー? よそよそしい目で見られているようなー、なーんか変な感じがするんですけどー?」

 僕たちは初対面の他人だ。他人も他人のはずなのに、僕の中には存在しないはずの思い出が生まれていた。

 半月前、屋敷の枯れかけのコスモス畑の前で、僕は彼女からの愛の告白を幸せいっぱいの苦しい胸で受け止めた。そんな事実はどこにもないのに、そういうことになっていた。

 使ったらなんの前触れもなく彼女が生えてくるとか、そんな取り返しの付かない仕様だなんて聞いてないよ!!

「ひっひっひっ、なるほどのぅ……」

 頭を抱えていると、のんびり歩いてきたニジエールさんが僕の腰に腕を回した。

「あーでたーっ、妖怪押し売りババァッ!」

「ふむ、そんなこともあったかのぅ……。まあよい、初めましてじゃな、ロゼッティア」

「しらばっくれるなぁーっ!」

「うむ、知らぬのじゃが、知っておる。坊やの力は凄まじいのぅ……クックックッ……」

 ニジエールさんは僕にぴったりとくっついて、16歳男子のお尻を堂々と撫でてロゼッティアを挑発した。

「ちょっとっ、それあたしのっ!!」

<「 ポンちゃんのご主人様もきゅっ! 」

 そう自己主張したたぬきはニジエールさんに押し付けられ、僕は強引なロゼッティアに腕を引っ張られて自由の身となった。

「大丈夫? あのババァに変なことされなかった? あたしの方が少し年上なんだから、アルトはあたしが守ってあげるからねっ!?」

「あ、ありがとう、ロゼッティア……」

<「 ポンちゃんまた捨てられちゃったもきゅ~…… 」

 外のこの騒ぎを聞き付けてか、残りの工房から職人さんたちが姿を現した。
 職人街にある工房はそれぞれ、彫金工房、鍛冶工房、革工房、製材工房、家具工房だ。知らないはずなのに僕は知っていた。

「やあニジエールさん。言われた通りに『女性向けの小さなバッグ』を作ってみたのだが、見ていってくれないかい?」

「ほぅ……わらわがそんなことを? だが興味深い、よかろう、見せてみよ」

 残りの職人たちはチビ・デブ・ハゲ・マッチョのむさ苦しい男たちだった。ニジエールさんを見つけると、領主である僕を鮮やかに無視して商談を持ちかけ始めた。

「ガハハ、よう領主様! おめぇの兄貴、元帥になったんだってな! 今度うちの武器を紹介してくれよ!」

 鍛冶工房のマッチョのおじさんだけ僕の前に残ってくれた。
 おじさんは鞘に収められたグラディウスを僕に手渡した。

 鞘から抜いてみると、おじさんのグラディウスは磨かれた鏡のように美しい銀色に輝いている。これがすごい物であるくらい、ド素人の僕にだってわかった。

 ぜひこの剣の詳細を知りたい。そう心に描くと、僕の銀の目がひとりでに発動していた。

――――――――――――――――――――
【頑固オヤジのこだわりグラディウス】
 耐久:400/400 ATK:600
 備考:手間暇2倍、しかし性能も2倍
――――――――――――――――――――

「その銀の目、職人からすると震え上がっちまうほど、おっかねぇ目だ。いともたやすく手抜きを見抜いてくるんだからな、ガハハハッッ!」

「いい物だね。次の兄上への定期連絡で、おじさんの仕事をべた褒めしておくよ。うちにとんでもない鍛冶職人がいるって」

「おおっ、助かるぜ、領主様!」

 ちょっと兄弟の繋がりを使った癒着臭いけど、僕の鑑定の力で優れた物を推薦できるなら、それは正しいことだ。良い物が正当に評価されることは消費者の利益になる。

「お兄さんの元帥就任おめでとう! ということでアルトッ、あたしの魔装具も鑑定してっ! あたしもミュラー様に推薦してよーっ!」

 職人街の人たちは既に僕の力を知っていて、この力を受け入れていた。

「……ロゼッティアは僕の目が不気味じゃないの?」

「何言ってんの? そんなのカッコイイって以外の感想なんてないよーっ!」

「ほ、本当……? ジメピカリャー、とか言わない……?」

「普通に考えてさー、気味が悪いって思ってる相手にさー、『貴方が好きです……』なんて告白なんてするわけないよ。あたし、君のやさしい顔とその銀の目が好き! 領主様にしてはゆるーい人柄も!」

 改変されたこの世界の僕が、なぜ彼女の告白を受け止めたのかわかったような気がした。こんな彼女がいてもいいのかもしれない。

 そんな僕の感激を無視してロゼッティアが急かすので、目を銀色に『ピャーッ』っと輝かせて鑑定の力を使った。

―――――――――――――――――――――――――
【ロゼッティアのマジックリング】
 耐久:300/300 MATK:450
 備考:銀と綱玉のリングに緻密な紋章を刻んだもの
    通常の品よりMATKが200高い
―――――――――――――――――――――――――

「えへへ……どうだぁーっ! ちょっとでもアルトのお兄さんに認めて欲しくて、あたしがんばったんだからっ!」

「うん、これなら兄上も認めてくれるよ。これ、いくら? 手紙に同封してみるよ」

「あげるーっ! 『僕の彼女が作った!』ってちゃんと言っておいてねーっ!」

「うん、わかったよ。ロゼッティアは、僕の彼女だもんね」

 僕の力は僕に、ロゼッティアとのかけがえのない思い出を植え付けた。
 真実を知る僕にとって、それらは全て真っ赤な嘘。けれどこの世界の事実は既に塗り替えられてしまっている。

 僕は見ず知らずのロゼッティアと交際していた現実を受け止めた。
 だってこれ、僕にはなんの損もない話だ。女の子との交際すら絶望的だったジメピカリャーに、こんなに明るくてかわいい彼女ができた!

 この改変に逆らう理由ある? いやない! あるはずがない! ロゼッティアってよく見るとすごくかわいい!
 それに僕はまだ16歳。ある日突然、空から彼女が降ってくることもあるのだと、そう信じたい年頃だ。

 そういうわけで、僕はこれまで通りの軽いノリに徹して、空から彼女が降ってきたこの幸せを享受した。

<「 ポンちゃんも彼女になりたいもきゅ…… 」

<「 ポンちゃん、そういう世界線を期待するもきゅ! 」

 さすがにそんな世界はあり得ない。
 ……とも言い切れないのが、僕の力の恐ろしいところだった。

 むしろ事実の帳尻合わせのためなら、なんだって引き起こされると考えるべきだろう。おそろしや、おそろしや……だった。
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