戦略RPGの悪役元帥の弟 落ちてた『たぬき』と夢のワンダーランドを築く - コンビニ、ガシャポン、自販機、なんでもあるもきゅ -

ふつうのにーちゃん

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【アプグレ】たぬき:たぬき

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――――――――――――――――――――
 アッキーへ。
 ザラキアでの生活が始まって10日が過ぎました。
 運よくも前任のロドという政務官が優秀であったため、引き継ぎの苦労もさほどなく、自然とここでの生活と仕事にとけ込めています。

 アッキーが手配してくれたお金で、僕はザラキアに【畑】と【商店街】を作りました。

 【畑】はとても奇妙な畑です。通常の4倍で植物が生育するのでやたらと手がかかりますが、この畑ならば季節を問わず兵糧収入を得ることができそうです。

 【商店街】はロリババァランドです。8種類のロリババァが楽しめます。純情からツンデレ、暴力から過保護、なんでもござれのロリババァたちの集合体です。
 だけど油断は禁物、気を抜くと余計な物を買わされます。ザラキアにお越しの際はどうか重々ご注意下さい。

 いつかここを訪れたアッキーは、道行く人々が誘蛾灯のように商店街へ引き込まれ、呼び込みのロリババァに捕食される光景を目の当たりにすることでしょう。

 念のため先に申し上げておきますが、僕はロリコンではありません。あらぬ噂を耳にしても、ゆめゆめそのこと信じる事なきようご注意下さい。

 僕はザラキアにきてよかった。
 ありがとう、アッキー。

 ――アッキーの唯一無二のダチ タケより

――――――――――――――――――――

 便せんに真紅の蜜蝋をたらし、まだそれしかないので皇帝家の印を押した。
 これで万一どこかで手紙をあらためられても『アッキーとタケとは誰ぞや?』と、空想上の不届き者は混乱することになるだろう。

「ふう、今のところ暇だな……。辺境伯って、こんなに暇してていいのかな……」

 今日の政務は1時間で片付いた。民からの陳情は1軒もない。寂れていた街が賑わい、ザラキアの民はそれなりに満足している。

 僕のやることと言ったら、書斎で自堕落に内政画面を眺めて、人口と民忠が増えているか確かめることばかりだった。

――――――――――――――――――
【人口】   513  (+13)
【民忠】60/100  (+ 8)
【治安】75/100  (+ 5)
【求職者】    4  (- 6)
――――――――――――――――――

 この10日間でザラキアは人口増加率+2%の大躍進を果たした。民忠の上昇からして、まあまあ僕も認められてきているようだ。

 ただ不思議なのは治安だ。僕はここで寝転がっているだけなのに、なぜか5ポイントも回復している。

「ふぁぁ……暇……。思ってたよりゆるいや、この生活……」

 今から布団に戻ったらノワールさんに呆れられるかな……。
 仕方ないし、やることないし、屋敷の掃除でもしよう。

 そう思ってボロ雑巾を握って書斎を出ようとすると、扉の前でノワールさんと鉢合わせした。

「ご領主様、また掃除でございますか?」

「うん、やることないし、廊下をピカピカにしようと思って」

 領主になっても家事手伝いの習慣は抜けなかった。

「メイドを雇われては?」

「そんなの雇ったら暇過ぎて死んじゃうよ」

 ノワールさんの前で廊下の雑巾掛けを始めた。帝都ホワイトアークでは毛皮のコートをまとっていたノワールさんも、こちらでは素足の露出する身軽で大胆な格好だった。

 具体的に言うと真っ黒な布服の上に、革の鎧と具足、ガンドレッドを身に着けている。

「ところでご領主様、先ほど見たこともない妙な野生動物を捕獲いたしました」

「え、傭兵のノワールさんでも知らない、動物……?」

「ええ、いまだかつてあんな生き物は見たことがありません。芸を仕込むなり、皮をはぐなり、売れば多少の足しになるでしょう」

 ノワールさんの綺麗な脚の前まで戻って、雑巾掛けを止めた。

「見せて」

「はっ、外に吊してありますので、こちらへ」

「つ、吊す……!?」

「はい、吊すと皮を剥ぐとき楽なのです」

「剥ぐって……うぇ…………」

 もしかしてこれ、僕がその動物の生殺与奪権を握っちゃった系……?
 おっかなびっくりでこぢんまりとしたエントランスホールを下り、玄関先の庭園に出た。

 荒れ果てていた酷い庭園は、暇していた僕の箱庭スキルの前にばっさり刈られ、今では花壇に可憐なコスモスが花咲いている。
 そんな少しだけ自慢できるうちの庭園の木に、茶色い四つ足動物が壮絶に吊されていた。

「ご覧下さい、このずんぐりむっくりとした奇怪な動物を」

 奇怪も何もただのたぬきだった。
 たぬきはこちらに気付くと、抵抗もせず、ただ悲しそうに僕の目を見た。

「怪我はないみたいだけど、この子どうしたの?」

「はっ! つい先ほど、マヌケにもご領主様のコスモス畑でひっくり返って眠っていたこの生き物を、私がその場で捕獲いたしました」

「へー、たぬきが鈍くさいって本当だったんだ」

「この生物をご存じなのですか?」

「どこからどう見ても、たぬきじゃないか」

 僕はたぬきを見つめて銀の目を使った。怖がらせてしまったみたいだ。鈍くさくて臆病なたぬきの毛が逆立った。

――――――――――――――――――――――
【名前】ポンデ・リン
【統率】 3
【武勇】12
【知略】75
【政務】60
【忠誠】たぬき
【戦法】遁走
【特性1】扇動
 扇動コマンドのコスト半減
【特性2】なし
【特性3】なし
【備考】満腹度2%

 『アップグレード可能』 
――――――――――――――――――――――

 なんとそのたぬきは俺と同じステータス形式を持っている、しかも謎の『アップグレード』が可能なすごいたぬきだった。

――――――――――――――――――――――
 このたぬきをアップグレードしますか?
 (コスト:金1 コスモス:1)
 →・是 ・否
――――――――――――――――――――――

 コストは金1(1000シルバー)とお花。
 まあそのくらいならいいかなと思って、是を押した。

――――――――――――――――――――――

 たぬきのアップグレードに成功!

【統率】 3 →  4
【武勇】12 → 14
【知略】75 → 80
【政務】60 → 64

 『【特性2】なし』は『【特性2】吹き出し』となった!

――――――――――――――――――――――

 あ、これ、金をドブに捨てたかも……。
 知略80の人材は喉から手が出るほど欲しいけど、しょせんはたぬきだ。
 たぬきじゃ知略は発揮できない。はぁ……っ。

「お気を付け下さい、ご領主様っ、タヌキとやらめ面妖な術を!」

「え……? わっっ!?」

 ところがどっこい、顔を上げるとたぬきから吹き出しが出ていたでござる。
 そう、マンガでよくあるあの吹き出しだ。

<「 命だけはお助けを! 」

<「 ポンちゃん、美味しくないもきゅ! 」

<「 助けて、助けて! このお姉さん、こわい! 」

 命乞いをするたぬきをノワールさんが冷たい狩人の目で見下ろしていた。
 僕としては助けてあげたいところだけど、ノワールさんはそういう顔をしていない。

「ご領主様、何やら必死に主張しておりますが、剥製にして売れば10万シルバーは下らないかと存じます」

「え、10万シルバーもっ!?」

 それだけの臨時収入があれば、領地運営の十分な足しになる。これはどうしたものだろう。
 剥製にされるかもしれないと知ったポンちゃんは、縛られた手足をバタ付かせてパニクっていた。

<「 あなたご主人様、ポンちゃん召使い! ポンちゃんなんでもするもきゅ! 」

<「 やだーやだー、こわいー! 動物虐待を強く抗議するもきゅ! 」

「この子、僕が買うよ……。それがノワールさん流でしょ……?」

「このような面妖な生き物を……?」

「意志疎通できるなら、それはもう人間と変わらないよ」

<( ジーン……ポンちゃん、感動…… )」

「は、では元々は私の獲物。1万シルバーで手を打ちましょう」

「特別手当を出すよ……。だから早くこの子を自由にしてあげて」

 有言実行の女ノワールは、ポンちゃんを縛る紐をほどいてくれた。
 ポンちゃんは背中から地面に落っこちると、逃げるように僕の胸に飛び込んできた。

<「 ポンデ・リンもきゅ! このご恩は忘れないもきゅ! 」

「お腹空いているんでしょ? 一緒に市場に行こう」

 毛皮がごわごわしているたぬきを抱っこして、僕は屋敷を出た。
 さっきは剥製にすると言っていたのに、情が移ったのかノワールさんは心配そうにポンちゃんを見ていた。

<「 ポンちゃん、あなた好き。ポンちゃん、なんでも食べれるもきゅ! 」

「ご領主様、こちらを」

 ノワールさんが後を追ってきてハードクッキーをくれた。
 それをポンちゃんの口先に運ぶと、両手で抱えてかじり始めた。

「犬だと思えばかわいいものですね」

<「 ポンちゃん犬じゃないもきゅ! 」

<( でもおいしい、おいしい……っ、恐いお姉さん、ありがともきゅ! )

 僕は商店街でたぬきを餌付けて、それから屋敷に戻ったら丸洗いしてから、詳しい事情を聞いた。
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