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エピローグ:そしてパンツは守られた
・エピローグ:そしてパンツは守られた 2/3
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・パルヴァス
世界が平和になった後もオルヴァールは慌ただしかった。
秘密の計画が動き出していると、最近やっと友達になってくれたカリストくんが教えてくれた。
最近で一番嬉しかったのは、祖国レイクナスの話だ。
祖国はついに長い包囲を打ち破り、隣国への使者を送るに至った。
世界各地で孤立していた国と国との国交が始まり、それは新たな戦乱の始まりを予感させた。
どこかでもう、国境や水源、肥沃な大地をめぐっての小競り合いが始まっていてもおかしくない。
それでも凄惨な全滅と隣り合わせの頃よりもずっとよかった。
エイケ産チョコレートもきっと安くなるだろう。
また入荷したら、ファフナさんと一緒に食べたい。
「大将、今日は店の女の子たちと深夜の散歩に行く。恐らくは朝帰りとなろう」
「シルバくん、お帰りしまーす!」
「あーんシルバ様、今日も凛々しいですぅ……」
酒場になった宿屋コルヌコピアで日記を付けていた。
するとそこにシルバと店の女の子たちがやってきて、またモテモテっぷりを見せつけられた。
「どうした大将、嫉妬か? 大丈夫だ、大将への俺の愛は変わらない」
「これが嫉妬せずにいられると思う? 俺の狼なのに……ってなるよ」
しゃがんだ女の子にたちに抱きつかれていたシルバが、立ち上がって俺の頬を舐めた。
「心配ない、俺は一生大将の飼い犬だ」
「君は狼だよっ! どんだけモテるんだよ、君はっ、また女の子が変わってるじゃないかっ!」
「ああ、皆に愛され過ぎて少しつらい」
「全然そうは見えないよ……。じゃ、先に寝てるね……」
「ウォォーンッ♪ お互いモテてつらいな」
シルバと店の女の子たちは仕事に戻った。
俺はもうママに上がっていいと言われていたから、日記の残りを席で書き上げてから、自分の部屋に帰った。
俺の狼なのに、最近散歩の回数が減っている……。
うちのシルバってもしかしたら、とんでもない浮気性なんじゃないだろうか……。
「はぁぁ……っっ、俺の、シルバなのに……」
ため息を漏らしながら部屋に入ってかんぬきをかけた。
どこかで嗅いだことのある甘くてやさしい匂いが鼻をかすめた。
「あ、どうも……」
「…………え」
俺のベッドにミルディンさんがいた。
なんか、なぜか、クリームまみれの……。
「遅いです……」
「ご、ごめん……っ。ってなんでここにいるのっ!?」
なんかこのパターン、前もあったような……。
前もシルバが女の子たちと散歩に行くとか言って、部屋に戻ったら、布団の中にミルディンさんがいた。
「私がここにいる理由ですか……? 私がクリームまみれになって貴方を待っていた理由を、知りたいのですね……?」
「知りたいっていうかっ、先に服着てよっ!!」
「嫌です……」
「なんで!?」
「そんなの、決まっているではないですか……」
注目するとミルディンさんが恥ずかしそうに目を落とした。
それはもう、すごい格好だったから。
「ファフナばかり、ずるいです……」
「え……。ええええーー…………」
そんな理由で、ここまでするの……?
そんなに恥ずかしいなら止めればいいのに……。
「すみません、違いました。私はただ、参謀として、加護【フォボスの手】の力を検証したいのです。別に、娘に嫉妬なんてしてません……」
してるじゃないか……!
ずるいってさっき言ったばかりじゃないか!
「さ、さあ、どうぞ……っ」
「いや、どうぞと言われても……」
本当に検証する必要があるのだろうか。
検証するにも危険極まりない力だ。
意識して触れるだけで、対象を狂わせる力なんて、もう使わない方がいいのでは……。
「ごめん、できないよ……」
「そんな、どうしてですか……っ!? 私の胸があの子より小さいからですか……っ!?」
「ち、違うよっ!! 危険だしっ、こんなふしだらなこと、女の子に気軽にするべきじゃないと思うんだよ!」
あの頃はどんな手を使ってでも勝たなければならなかった。
でも世界は平和になった。
あの頃にあった大義名分はもう俺にはない。
「では、嫌ではないのですね……?」
「嫌なわけないよ! だって、こんなに……うっ?! ごめん……」
溶けかけのクリームの向こうに何かが見えた。
「もう一つ聞きます。興味はあるのですね……? 行動に移す動機に、著しく欠けているだけで……」
「う、うん……。でももう、今は平和だから……え、あれっ?!」
足が勝手に動いた。
足は勝手に俺をベッドに連れて行くと、ベッドに倒れ込ませた。
そしたら今度は手まで動いて、俺は横たわるミルディンさんの前まではいつくばっていた。
「わっわっわっ、身体が勝手に……っっ!!」
「すみません……私、どうしても、ファフナに先を越されるのは嫌なんです……」
「これっ、ミルディンさんが動かしてるのっ?!」
「はい……自分がこんなに嫉妬深いなんて、知りませんでした……。ではそういうことで」
「わっ、うわああっっ?!」
ミルディンさんが操り人形のように俺を動かして、恐ろしい【フォボスの手】をもたらす術を再現した。
ファフナさんから聞き出したのか、最初に胸元へ滑って倒れ込むところまで再現されていた。
操られているとはいえ、とんでもないことをさせられてしまった……。
「なるほど、こういった感じですか……」
「ごめんなさい……」
「ふふ……なぜ貴方が謝るのでしょう。さて、後は誰かを傷つければ検証ができるのですが……生憎、オルヴァールには人体実験にできるような罪人がいません……」
「なんで人で試すこと前提なのっ!?」
「あ、言われてみればそうでした……。もっと下等な、死んでもいい生き物で試してみましょう……」
ミルディンさんのこういうところ、怖い……。
俺はやっと自由の戻った手で、口元にべったりとこびり付いたクリームを舐め取った。
少しだけミルディンさんの匂いがしたかもしれない。
そこに窓からノックの音が響いた。
「あ、シルバかも……!」
俺は駆け寄って窓を開け放った。
けれど窓の向こうに隠れていたのは、シルバではなく、逆さになって浮遊するファフナさんだった。
世界が平和になった後もオルヴァールは慌ただしかった。
秘密の計画が動き出していると、最近やっと友達になってくれたカリストくんが教えてくれた。
最近で一番嬉しかったのは、祖国レイクナスの話だ。
祖国はついに長い包囲を打ち破り、隣国への使者を送るに至った。
世界各地で孤立していた国と国との国交が始まり、それは新たな戦乱の始まりを予感させた。
どこかでもう、国境や水源、肥沃な大地をめぐっての小競り合いが始まっていてもおかしくない。
それでも凄惨な全滅と隣り合わせの頃よりもずっとよかった。
エイケ産チョコレートもきっと安くなるだろう。
また入荷したら、ファフナさんと一緒に食べたい。
「大将、今日は店の女の子たちと深夜の散歩に行く。恐らくは朝帰りとなろう」
「シルバくん、お帰りしまーす!」
「あーんシルバ様、今日も凛々しいですぅ……」
酒場になった宿屋コルヌコピアで日記を付けていた。
するとそこにシルバと店の女の子たちがやってきて、またモテモテっぷりを見せつけられた。
「どうした大将、嫉妬か? 大丈夫だ、大将への俺の愛は変わらない」
「これが嫉妬せずにいられると思う? 俺の狼なのに……ってなるよ」
しゃがんだ女の子にたちに抱きつかれていたシルバが、立ち上がって俺の頬を舐めた。
「心配ない、俺は一生大将の飼い犬だ」
「君は狼だよっ! どんだけモテるんだよ、君はっ、また女の子が変わってるじゃないかっ!」
「ああ、皆に愛され過ぎて少しつらい」
「全然そうは見えないよ……。じゃ、先に寝てるね……」
「ウォォーンッ♪ お互いモテてつらいな」
シルバと店の女の子たちは仕事に戻った。
俺はもうママに上がっていいと言われていたから、日記の残りを席で書き上げてから、自分の部屋に帰った。
俺の狼なのに、最近散歩の回数が減っている……。
うちのシルバってもしかしたら、とんでもない浮気性なんじゃないだろうか……。
「はぁぁ……っっ、俺の、シルバなのに……」
ため息を漏らしながら部屋に入ってかんぬきをかけた。
どこかで嗅いだことのある甘くてやさしい匂いが鼻をかすめた。
「あ、どうも……」
「…………え」
俺のベッドにミルディンさんがいた。
なんか、なぜか、クリームまみれの……。
「遅いです……」
「ご、ごめん……っ。ってなんでここにいるのっ!?」
なんかこのパターン、前もあったような……。
前もシルバが女の子たちと散歩に行くとか言って、部屋に戻ったら、布団の中にミルディンさんがいた。
「私がここにいる理由ですか……? 私がクリームまみれになって貴方を待っていた理由を、知りたいのですね……?」
「知りたいっていうかっ、先に服着てよっ!!」
「嫌です……」
「なんで!?」
「そんなの、決まっているではないですか……」
注目するとミルディンさんが恥ずかしそうに目を落とした。
それはもう、すごい格好だったから。
「ファフナばかり、ずるいです……」
「え……。ええええーー…………」
そんな理由で、ここまでするの……?
そんなに恥ずかしいなら止めればいいのに……。
「すみません、違いました。私はただ、参謀として、加護【フォボスの手】の力を検証したいのです。別に、娘に嫉妬なんてしてません……」
してるじゃないか……!
ずるいってさっき言ったばかりじゃないか!
「さ、さあ、どうぞ……っ」
「いや、どうぞと言われても……」
本当に検証する必要があるのだろうか。
検証するにも危険極まりない力だ。
意識して触れるだけで、対象を狂わせる力なんて、もう使わない方がいいのでは……。
「ごめん、できないよ……」
「そんな、どうしてですか……っ!? 私の胸があの子より小さいからですか……っ!?」
「ち、違うよっ!! 危険だしっ、こんなふしだらなこと、女の子に気軽にするべきじゃないと思うんだよ!」
あの頃はどんな手を使ってでも勝たなければならなかった。
でも世界は平和になった。
あの頃にあった大義名分はもう俺にはない。
「では、嫌ではないのですね……?」
「嫌なわけないよ! だって、こんなに……うっ?! ごめん……」
溶けかけのクリームの向こうに何かが見えた。
「もう一つ聞きます。興味はあるのですね……? 行動に移す動機に、著しく欠けているだけで……」
「う、うん……。でももう、今は平和だから……え、あれっ?!」
足が勝手に動いた。
足は勝手に俺をベッドに連れて行くと、ベッドに倒れ込ませた。
そしたら今度は手まで動いて、俺は横たわるミルディンさんの前まではいつくばっていた。
「わっわっわっ、身体が勝手に……っっ!!」
「すみません……私、どうしても、ファフナに先を越されるのは嫌なんです……」
「これっ、ミルディンさんが動かしてるのっ?!」
「はい……自分がこんなに嫉妬深いなんて、知りませんでした……。ではそういうことで」
「わっ、うわああっっ?!」
ミルディンさんが操り人形のように俺を動かして、恐ろしい【フォボスの手】をもたらす術を再現した。
ファフナさんから聞き出したのか、最初に胸元へ滑って倒れ込むところまで再現されていた。
操られているとはいえ、とんでもないことをさせられてしまった……。
「なるほど、こういった感じですか……」
「ごめんなさい……」
「ふふ……なぜ貴方が謝るのでしょう。さて、後は誰かを傷つければ検証ができるのですが……生憎、オルヴァールには人体実験にできるような罪人がいません……」
「なんで人で試すこと前提なのっ!?」
「あ、言われてみればそうでした……。もっと下等な、死んでもいい生き物で試してみましょう……」
ミルディンさんのこういうところ、怖い……。
俺はやっと自由の戻った手で、口元にべったりとこびり付いたクリームを舐め取った。
少しだけミルディンさんの匂いがしたかもしれない。
そこに窓からノックの音が響いた。
「あ、シルバかも……!」
俺は駆け寄って窓を開け放った。
けれど窓の向こうに隠れていたのは、シルバではなく、逆さになって浮遊するファフナさんだった。
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