視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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マレニア在籍二年目、一学期

・『ハラペ家の野望』烈風伝 - 迷宮を攻略 -

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「すまない、コーデリア……。恥ずかしいところをお見せしましたな、オルヴィン様」

 そう考えると、この金貨203枚の使い道が変わってくる。

「条件を変更したい。浪費の話はもういい。この金の一部を利息の支払いにあてがうとして、残りの金の用途を指定したい」
「おお、貸して下さるのですか……!?」

「残った金は、ハラペ子爵領の買い直しに回すこと。それが条件だ」
「な、なん――」
「なんでっすってっ?!」

 やはり家と学校で性格が違う娘なのだろうか。
 ご両親はコーデリアの声に驚いていた。

「この地の土地の価値は、今が底値だ」
「なぜそう――」
「なんでそんなことが言えますのっ!?」

 父親のセリフを食うなよ、コーデリア。

「俺とコーデリアが価値を上げるからだ」
「な――」
「どういうことですのっ!? わたくし聞いておりませんことよっ!?」

 父親は黙った。
 マレニアでたくましく育った娘を、二度見、三度見した。
 母親は慣れてきたのか、明るいコーデリアの姿に笑った。

「隣の未攻略領域には、水があるんだろ?」
「あ、貴方、何を言ってますの……? まさか、貴方、め……迷宮を攻略するつもりでいますのっ?!」
「そうだが?」

「わたくしたち、まだ学生ですのよっ!?」
「だからなんだ、そんなもの関係ない。俺たちならば必ず出来る!」

 コーデリアは立ち上がっていたが、めまいでも起こしたのかイスに崩れ落ちた。

「本当にそれが実現すること前提の話になりますが、そうなると東部、水源地に近い土地を優先して買い直すべきですね、オルヴィン様」
「そうしてもらえるか? 俺とコーデリアは必ず迷宮を攻略し、水源地を安全地帯にしてみせる」

「ですが……なぜ、そこまでして下さるのですか……? もしや、本当はうちの娘にゾッコン――」
「いらん」
「断るにしてももっと遠回しに言って下さいましっっ!!」

 これだ。この鋭いツッコミがなければ始まらん。
 コーデリアが元気になってくれてよかった。

「いいか、想像してみろ、コーデリア」
「な、何をですの……?」

「お前の家と両親を破滅させかけた諸悪の根元は、誰だ?」
「考えるまでもありませんわっ! それは水の価格をつり上げたあの最悪領主ですわっ!」

「そういうことだ。そいつらに一杯食わせたら、きっと最高に楽しい」

 迷宮攻略のモチベも上がる。
 迷宮を攻略する具体的な動機がこれで生まれた。

 一石二鳥どころか、友人のコーデリアまで幸せになれる上に、水をぼったくるクズにザマァまで出来る!
 こんなに理想的なスポットは他にないだろう。

「本当に……手伝って、下さいますの……? オルヴィン様……」

 うっとりするかのような声色で名前を呼ばれてしまった。

「ああ! しかしそのためには下準備がいる。特にお前だ、お前は現状、迷宮に挑む権利、推薦状を持っていない。成績をさらに上げろ!」
「元よりそのつもりでしたものっ、そんなの望むところですわっっ!」

 コーデリアはギルドで仕事を請けるための許可証を手に入れる。
 俺も切磋琢磨して、さらに実力を高める。

 そしてカミル先輩を仲間に引き込んで、困窮するこの地を救う。
 完璧な計画だ。俺とカミル先輩とコーデリアが組めば、踏破出来ない迷宮などない。

 と、熱くなっているところで、何やらノックが響いた。

「間の悪い客だな、俺が追い払おう」
「人の実家で余計なことしないで下さいましっ!!」

 コーデリアと並んで玄関に立ち、粗末扉を開いた。

「あ、先輩っ!」
「な……ティオ? なんでお前がここにいる……?」

 それは入学式に出会ったどこか媚び媚びしい後輩、ティオ・ディオニソスだった。

「先輩こそなんでこちらに……? 私は先週から配達のバイトを始めたんです」
「安息日にバイト? 元気だな……」

「都のことを知るのにいいと思って! それにしてもすごい偶然ですねっ、先輩と私、ご縁があるのかも……!」

 本当に偶然なのだろうか。
 偶然に対して、根拠もなしに疑ってしまうのが人間って生き物だ。

「あら、本当にこれ、うち宛てですわ……。ありがとうございます、ティオさん。わたくしは――」
「コーデリア先輩ですね。噂の、金ぴか鎧の!」

「あれはわたくしの趣味ではございませんことよっっ?!」

 無理もない。
 あの鎧はインド映画の主人公より派手だ。

「あの、それで私、実は皆さんの話を立ち聞きしてしまったんですけど……」
「そうなのか」

「それでもしよろしければ、私も手伝わせてはくれませんかっ!?」
「な、なんですってっ!?」
「……1つ聞くが、動機は?」

 疑うわけではないが直感任せにそう聞いた。

「コーデリア先輩に失礼かもしれませんが……とても、面白そうだと思ったからです」
「素直だな。……よし、いいぞ、1学期の終わりまでに、マレニアから推薦状を手に入れたら協力してくれ」
「それ、遠回しに断っていませんこと……?」

 俺はティオの実力を知らない。
 最低限それくらいの実力者でないと、連れてなど行けない。

「グレイ先輩がそうおっしゃるなら、私っ、もっともっとがんばりますっ!」

 とにかくそういうことになった。
 相応の実力者ならメンバーに加え、そうでないなら攻略後の活動を手伝ってもらおう。

「お……おぉぉーっっ?!」
「お父様? どうなされましたの?」

 ちなみにティオが運んできた配達物は、なんと金貨10枚と国からの手紙だった。

 地域安定に貢献している子爵家への援助だと、そう書かれていたようだ。
 ハラペ夫妻からすれば、長年の密かな苦労が認められた形になる。

 手紙に涙を流すほどに夫妻は感激していた。
 今日まで頼られるばかりの彼らに、やっと援助の手が差し伸べられたのだから、当然なのかもしれない。

「先に帰る。お前はもう少しゆっくりしてから帰れ」
「えっ!?」

「なんだ? 何を驚いている……?」
「あの……1人で、大丈夫ですの……?」

「バカにするな、大丈夫に決まっている。トラムに乗って帰るだけのことだろ?」
「いえ、貴方の場合はちょっと……」

 コーデリアは親と過ごしたい一方で、俺のことがよっぽど気になるのか、あちらとこちらを交互に見る。

「よろしかったら、先輩は私が送りましょうか?」
「まあっ! ですけど、お仕事は……?」

「ちょうどこれが最後の配達なのです。グレイ先輩、私とご一緒して下さいますよねー?」
「気づかいすまんな。必要ないとは思うが、世話になることにしよう」

 俺とティオはハラペ家の人々に見送られながら、小さな屋敷を出て、マレニアへの帰路についた。

「あのー……とても言いにくいのですが、先輩……」
「ん、なんだ?」

「のっけから、方角を間違えておられるのですが……」
「何……? いや、駅はこっちだろ?」

「あっちです」
「……ああ、そうだな。実は俺もそんな気がしていた」

「あははっ、絶対嘘ですよーっ、そんなのーっ!」

 たまたま配達に現れたティオのおかげで、俺はマレニアに真っ直ぐに帰ること成功した。
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