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マレニア在籍二年目、一学期
・『ハラペ家の野望』烈風伝 - 気前の良さが常軌を逸しておりますの -
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ご挨拶もそこそこにして、俺は布袋の中身、金貨203枚を突き付けた。
「なっ、んなぁぁぁっっ?!!!」
「コ、コーデリアッ、これがあの、オルヴィン様なの……っっ?!」
夫人はイスから転げ落ちかけ、子爵様は両手を上げてぶったまげてくれた。
このリアクションを期待していなかった言うと、嘘になる。
「いかにも、俺がグレイボーン・オルヴィンだ。金に困っていると聞いてな、様子を見に来た」
「わたくしがお願いしましたの……。今月の支払い期限を守るためには、オルヴィン様を頼るしかないと、勝手ながら……」
ハラペ夫妻は聞いていた話とだいぶ印象が違った。
メンツにこだわる浪費家の夫婦だと勝手に思っていたのだが、ドレスは木綿製で、裁縫の修繕の跡がいくつもある。
「金を貸して下さるのか、オルヴィン様?」
「様付けは止めてくれ、子爵様。俺はこの金を、条件次第では全額無利子で貴方に貸すつもりだ」
そう伝えるとご両親から興奮の声が上がり、続いて冷静になったのか黙り込んだ。
「わかりました……。私の娘が、欲しいのですね……」
は……?
「コーデリアはオルヴィン様の話をするときは、いつだって笑顔でした……。ええ、少し早い気もしますが、コーデリアが幸せなら、私はそれで……」
勘違いがあるようだ。
男が女に莫大な金を貸すときは、恋慕という下らない理由があると、ご両親は思い違いをしていた。
「お父様、お母様、オルヴィン様はそんな方ではありませんわ。幸いと申しますか、残念ながらと申しますか、この方は、本当に……っっ」
な、なんだ……?
そう言葉を溜められるとおっかないぞ……。
「気前の良さが常軌を逸しておりますのっっ!!!」
なんだそんなことか。
ご両親は叫ぶ娘の姿に驚いていた。
「まあ、そういうわけだ。コーデリアは別にいらん」
友人として末永く付き合っていきたいが、今のところ俺には、恋人が欲しいとかそういう感情はない。
保護者としてリチェルを見守るだけで、今は精一杯だからな。
「オルヴィン様……そういう言い方されると、それはそれで傷つきますのよ……?」
「では条件というのは、いったい……?」
ハラペ子爵はよっぽど金に困っているのか、期待のこもった声でそう言った。
「大したことではない。これ以上の散財、無謀な投資を止めることが出資の条件だ」
俺はゆるゆるの条件を提示した。
ところが子爵と夫人の反応はかんばしくなかった。
「それは少し難しい……」
「難しい……? なぜだ? コーデリアがあんなに苦しんでいたのに、なぜムダな浪費を続けるっ?! コーデリアは昨晩俺に――」
泣きながら身体を差し出そうとしたんだぞ!!
と叫ぼうとすると、テーブルの下からコーデリアに蹴られた。
「そのこと喋ったらわたくしっ、死んで化けて出て差し上げますわよ……っっ」
あまつさえ、耳打でそんな大げさなことを言われた。
いっそ知ってもらったらいい。
そこまでしてお前が家を守ろうとしているという、誇り高き事実を!
「お金持ち様っ、お、お待ち下せぇっ!!」
「そうですっ、ハラペ様はなーんにも悪くないんですよーっ!」
ところがだ。
せまい家に突然の来客があった。
それはいかにも貧しい農民風の夫婦で、彼らは必死で元領主を弁護しようとしだした。
「どういうことだ?」
「どういうことですのっっ!?」
いやコーデリア、お前まで何を言い出す。
「止めてくれ、リットナー夫妻」
「いいやもう黙ってられねぇべよ! 聞いて下せぇ、お嬢様!」
もう我慢し切れない。
そうセリフに付け加えてもよさそうなほどの剣幕だった。
「壊れた馬車の修理! 税金の立て替え! 不作の農家への援助! 種代! 水代! 全部全部っ、子爵様が出して下さっていたのです、お嬢様!」
は……?
ハラペ家は、土地を全て失ったんだよな……?
「そうだべっ、あの借金はハラペ様の借金じゃねぇ! 借金出来ねぇオラたちのために、代わりに借りて下さった借金なんだべよぉっ!」
土地を失った以上、そこまでする義理は全くと言ってないだろ……。
しかもこの様子だと、利息もまともに受け取ってないんじゃないか……?
「お父様……? お母様……? この話、本当のことなのでございますか……?」
「う……うむ……。もしお前が知ったら、反対されると――」
「当たり前ではございませんかっ!」
想像していた展開と違う……。
説教して、金を叩き付けて、コーデリアに飯でもおごってご機嫌で帰るつもりだった。
「ごめんなさい、コーデリア……。でもね、私たちは……腐っても貴族なのよ」
「助けを求められれば、助けぬわけにはいかぬ……」
ところがコーデリアの両親は立派な人たちだった。
お人好しにもほどがあるだろうが、彼らは困窮を極めても民を見捨てなかった。
「1つ1つは、そこまでの額じゃねぇべ……。けどみんなが領主様を頼ったせいで、こんなことになっちまったんだべ……」
「お父様とお母様はお人好し過ぎですわっ! そもそも領地を失ったのもっ、その性格のせいではありませんかっ!」
となるとだ。
ハラペ子爵は金をムダにしていたわけではなく、本当に投資をしていたということになる。
貸した金が返ってこれば、彼らは生活を立て直せるかもしれない。
「なっ、んなぁぁぁっっ?!!!」
「コ、コーデリアッ、これがあの、オルヴィン様なの……っっ?!」
夫人はイスから転げ落ちかけ、子爵様は両手を上げてぶったまげてくれた。
このリアクションを期待していなかった言うと、嘘になる。
「いかにも、俺がグレイボーン・オルヴィンだ。金に困っていると聞いてな、様子を見に来た」
「わたくしがお願いしましたの……。今月の支払い期限を守るためには、オルヴィン様を頼るしかないと、勝手ながら……」
ハラペ夫妻は聞いていた話とだいぶ印象が違った。
メンツにこだわる浪費家の夫婦だと勝手に思っていたのだが、ドレスは木綿製で、裁縫の修繕の跡がいくつもある。
「金を貸して下さるのか、オルヴィン様?」
「様付けは止めてくれ、子爵様。俺はこの金を、条件次第では全額無利子で貴方に貸すつもりだ」
そう伝えるとご両親から興奮の声が上がり、続いて冷静になったのか黙り込んだ。
「わかりました……。私の娘が、欲しいのですね……」
は……?
「コーデリアはオルヴィン様の話をするときは、いつだって笑顔でした……。ええ、少し早い気もしますが、コーデリアが幸せなら、私はそれで……」
勘違いがあるようだ。
男が女に莫大な金を貸すときは、恋慕という下らない理由があると、ご両親は思い違いをしていた。
「お父様、お母様、オルヴィン様はそんな方ではありませんわ。幸いと申しますか、残念ながらと申しますか、この方は、本当に……っっ」
な、なんだ……?
そう言葉を溜められるとおっかないぞ……。
「気前の良さが常軌を逸しておりますのっっ!!!」
なんだそんなことか。
ご両親は叫ぶ娘の姿に驚いていた。
「まあ、そういうわけだ。コーデリアは別にいらん」
友人として末永く付き合っていきたいが、今のところ俺には、恋人が欲しいとかそういう感情はない。
保護者としてリチェルを見守るだけで、今は精一杯だからな。
「オルヴィン様……そういう言い方されると、それはそれで傷つきますのよ……?」
「では条件というのは、いったい……?」
ハラペ子爵はよっぽど金に困っているのか、期待のこもった声でそう言った。
「大したことではない。これ以上の散財、無謀な投資を止めることが出資の条件だ」
俺はゆるゆるの条件を提示した。
ところが子爵と夫人の反応はかんばしくなかった。
「それは少し難しい……」
「難しい……? なぜだ? コーデリアがあんなに苦しんでいたのに、なぜムダな浪費を続けるっ?! コーデリアは昨晩俺に――」
泣きながら身体を差し出そうとしたんだぞ!!
と叫ぼうとすると、テーブルの下からコーデリアに蹴られた。
「そのこと喋ったらわたくしっ、死んで化けて出て差し上げますわよ……っっ」
あまつさえ、耳打でそんな大げさなことを言われた。
いっそ知ってもらったらいい。
そこまでしてお前が家を守ろうとしているという、誇り高き事実を!
「お金持ち様っ、お、お待ち下せぇっ!!」
「そうですっ、ハラペ様はなーんにも悪くないんですよーっ!」
ところがだ。
せまい家に突然の来客があった。
それはいかにも貧しい農民風の夫婦で、彼らは必死で元領主を弁護しようとしだした。
「どういうことだ?」
「どういうことですのっっ!?」
いやコーデリア、お前まで何を言い出す。
「止めてくれ、リットナー夫妻」
「いいやもう黙ってられねぇべよ! 聞いて下せぇ、お嬢様!」
もう我慢し切れない。
そうセリフに付け加えてもよさそうなほどの剣幕だった。
「壊れた馬車の修理! 税金の立て替え! 不作の農家への援助! 種代! 水代! 全部全部っ、子爵様が出して下さっていたのです、お嬢様!」
は……?
ハラペ家は、土地を全て失ったんだよな……?
「そうだべっ、あの借金はハラペ様の借金じゃねぇ! 借金出来ねぇオラたちのために、代わりに借りて下さった借金なんだべよぉっ!」
土地を失った以上、そこまでする義理は全くと言ってないだろ……。
しかもこの様子だと、利息もまともに受け取ってないんじゃないか……?
「お父様……? お母様……? この話、本当のことなのでございますか……?」
「う……うむ……。もしお前が知ったら、反対されると――」
「当たり前ではございませんかっ!」
想像していた展開と違う……。
説教して、金を叩き付けて、コーデリアに飯でもおごってご機嫌で帰るつもりだった。
「ごめんなさい、コーデリア……。でもね、私たちは……腐っても貴族なのよ」
「助けを求められれば、助けぬわけにはいかぬ……」
ところがコーデリアの両親は立派な人たちだった。
お人好しにもほどがあるだろうが、彼らは困窮を極めても民を見捨てなかった。
「1つ1つは、そこまでの額じゃねぇべ……。けどみんなが領主様を頼ったせいで、こんなことになっちまったんだべ……」
「お父様とお母様はお人好し過ぎですわっ! そもそも領地を失ったのもっ、その性格のせいではありませんかっ!」
となるとだ。
ハラペ子爵は金をムダにしていたわけではなく、本当に投資をしていたということになる。
貸した金が返ってこれば、彼らは生活を立て直せるかもしれない。
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