視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
105 / 107
マレニア在籍二年目、一学期

・『ハラペ家の野望』烈風伝 - 気前の良さが常軌を逸しておりますの -

しおりを挟む
 ご挨拶もそこそこにして、俺は布袋の中身、金貨203枚を突き付けた。

「なっ、んなぁぁぁっっ?!!!」
「コ、コーデリアッ、これがあの、オルヴィン様なの……っっ?!」

 夫人はイスから転げ落ちかけ、子爵様は両手を上げてぶったまげてくれた。
 このリアクションを期待していなかった言うと、嘘になる。

「いかにも、俺がグレイボーン・オルヴィンだ。金に困っていると聞いてな、様子を見に来た」
「わたくしがお願いしましたの……。今月の支払い期限を守るためには、オルヴィン様を頼るしかないと、勝手ながら……」

 ハラペ夫妻は聞いていた話とだいぶ印象が違った。
 メンツにこだわる浪費家の夫婦だと勝手に思っていたのだが、ドレスは木綿製で、裁縫の修繕の跡がいくつもある。

「金を貸して下さるのか、オルヴィン様?」
「様付けは止めてくれ、子爵様。俺はこの金を、条件次第では全額無利子で貴方に貸すつもりだ」

 そう伝えるとご両親から興奮の声が上がり、続いて冷静になったのか黙り込んだ。

「わかりました……。私の娘が、欲しいのですね……」

 は……?

「コーデリアはオルヴィン様の話をするときは、いつだって笑顔でした……。ええ、少し早い気もしますが、コーデリアが幸せなら、私はそれで……」

 勘違いがあるようだ。
 男が女に莫大な金を貸すときは、恋慕という下らない理由があると、ご両親は思い違いをしていた。

「お父様、お母様、オルヴィン様はそんな方ではありませんわ。幸いと申しますか、残念ながらと申しますか、この方は、本当に……っっ」

 な、なんだ……?
 そう言葉を溜められるとおっかないぞ……。


「気前の良さが常軌を逸しておりますのっっ!!!」


 なんだそんなことか。
 ご両親は叫ぶ娘の姿に驚いていた。

「まあ、そういうわけだ。コーデリアは別にいらん」

 友人として末永く付き合っていきたいが、今のところ俺には、恋人が欲しいとかそういう感情はない。
 保護者としてリチェルを見守るだけで、今は精一杯だからな。

「オルヴィン様……そういう言い方されると、それはそれで傷つきますのよ……?」
「では条件というのは、いったい……?」

 ハラペ子爵はよっぽど金に困っているのか、期待のこもった声でそう言った。

「大したことではない。これ以上の散財、無謀な投資を止めることが出資の条件だ」

 俺はゆるゆるの条件を提示した。
 ところが子爵と夫人の反応はかんばしくなかった。

「それは少し難しい……」
「難しい……? なぜだ? コーデリアがあんなに苦しんでいたのに、なぜムダな浪費を続けるっ?! コーデリアは昨晩俺に――」

 泣きながら身体を差し出そうとしたんだぞ!!
 と叫ぼうとすると、テーブルの下からコーデリアに蹴られた。

「そのこと喋ったらわたくしっ、死んで化けて出て差し上げますわよ……っっ」

 あまつさえ、耳打でそんな大げさなことを言われた。
 いっそ知ってもらったらいい。
 そこまでしてお前が家を守ろうとしているという、誇り高き事実を!

「お金持ち様っ、お、お待ち下せぇっ!!」
「そうですっ、ハラペ様はなーんにも悪くないんですよーっ!」

 ところがだ。
 せまい家に突然の来客があった。
 それはいかにも貧しい農民風の夫婦で、彼らは必死で元領主を弁護しようとしだした。

「どういうことだ?」
「どういうことですのっっ!?」

 いやコーデリア、お前まで何を言い出す。

「止めてくれ、リットナー夫妻」
「いいやもう黙ってられねぇべよ! 聞いて下せぇ、お嬢様!」

 もう我慢し切れない。
 そうセリフに付け加えてもよさそうなほどの剣幕だった。

「壊れた馬車の修理! 税金の立て替え! 不作の農家への援助! 種代! 水代! 全部全部っ、子爵様が出して下さっていたのです、お嬢様!」

 は……?
 ハラペ家は、土地を全て失ったんだよな……?

「そうだべっ、あの借金はハラペ様の借金じゃねぇ! 借金出来ねぇオラたちのために、代わりに借りて下さった借金なんだべよぉっ!」

 土地を失った以上、そこまでする義理は全くと言ってないだろ……。
 しかもこの様子だと、利息もまともに受け取ってないんじゃないか……?

「お父様……? お母様……? この話、本当のことなのでございますか……?」
「う……うむ……。もしお前が知ったら、反対されると――」

「当たり前ではございませんかっ!」

 想像していた展開と違う……。
 説教して、金を叩き付けて、コーデリアに飯でもおごってご機嫌で帰るつもりだった。

「ごめんなさい、コーデリア……。でもね、私たちは……腐っても貴族なのよ」
「助けを求められれば、助けぬわけにはいかぬ……」

 ところがコーデリアの両親は立派な人たちだった。
 お人好しにもほどがあるだろうが、彼らは困窮を極めても民を見捨てなかった。

「1つ1つは、そこまでの額じゃねぇべ……。けどみんなが領主様を頼ったせいで、こんなことになっちまったんだべ……」
「お父様とお母様はお人好し過ぎですわっ! そもそも領地を失ったのもっ、その性格のせいではありませんかっ!」

 となるとだ。
 ハラペ子爵は金をムダにしていたわけではなく、本当に投資をしていたということになる。

 貸した金が返ってこれば、彼らは生活を立て直せるかもしれない。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...