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マレニア在籍二年目、一学期
・『ハラペ家の野望』烈風伝 - 貴方のせいですのよ -
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かくして4月最後の安息日がやって来た。
俺は早朝から寮のレクリエーションエリアでコーデリアを待ち、昨日の夕刊に目を通した。
しばらく待つとコーデリアが現れた。
コーデリアの左右にはリチェルとレーティアが並んでいた。
「やるじゃん、ボンちゃん」
「あ、ああ……?」
ひねくれ者のレーティアとは思えない、真っ直ぐな賞賛の言葉を送られた。
「リチェルはレーティアちゃんと遊ぶから、お兄ちゃんはコーちゃんをお願い! 話、聞いたからっ!」
「そうか、聞いたか。……約束してたのにごめんな、リチェル」
「うーうん、いいの!」
顔を寄せて確かめると、リチェルは嬉しそうにこちらに笑い返す。
「リチェルはさ、オレが面白いところ連れてってあげるからさー、ボンちゃんはさっさと、コーデリアの両親ぶん殴ってきてよー」
「はは、殴っただけで改心してくれるなら、今頃はみんな真人間だ」
ルームメイトの座を奪われた時は絶望したが、レーティアは俺の期待以上にいい友人をしていてくれた。
朝食を食べたら一緒に遊びに行こうと、リチェルとレーティアは子供みたいにはしゃいでいる。
いや実際、まだまだお子さまなんだが。
俺とコーデリアはそんな2人に手を振って寮を出た。
いつもの青のトラムに乗って、中央駅まで移動すると街に出た。
・
この世界にも銀行があると知ったのは、去年の10月頃のことだ。
使い道のない金が貯まって困っているとジュリオに相談すると、バロック次官にここを紹介してもらうことになった。
「これはこれはオルヴィン様、本日もまたご入金でございましょうか?」
「すまん、入金はまた今度だ」
ここはシャーロック銀行。
フルアーマーの戦士たちが守る正面玄関を抜けると、俺たちはちょび髭の銀行員に迎えられた。
しかし銀行といってもここは異世界だ。
紹介のない庶民は利用するどころか、軒先に近付くことすら困難な施設だった。
「お引き出しでございましたか」
「ああ、金貨1枚を残して全額を下ろしたい」
「な……っ、全額、でございますか……?」
「いきなりで悪いが、工面してはもらえないか?」
「あ、あの……っ、全額とは、いったいどういうおつもりですの……?」
「お前には世話になっている。俺はお前の問題を解決してやりたい」
半年もすれば、コーデリアはまた泣きながら金の無心をすることになる。
だったら今のうちに、彼女の問題を根本から解決させるべきだ。
「他でもない都の救世主の言葉となれば、断るわけにはいきませんな……。オルヴィン様、しばしお待ちを」
「すまん」
「融資が入り用な時はいつでも我々シャーロック銀行をお訪ね下さい」
ちょび髭の銀行員は奥の金庫に入った。
しばらくすると、銀行員はトレイに金貨の山を乗せて帰って来た。
「な……っっ、なんなんですのっっ?!!」
そう、山だ。
知らんうちにだいぶ貯まっていたようだった。
「グレイボーン・オルヴィン様。金貨203枚、確かにお返しいたします」
「にっっ、にににににっっ、にひゃくさん枚っっ?!! なっ、なっ、なっ、何を考えていますの貴方って方はーっっ?!!」
金貨の隣には皮袋が置かれている。
ありがたくその皮袋に、俺は金貨203枚を詰め込んだ。
「これでオルヴィン様の残高は、金貨1枚となりました。またのご利用をお待ちしております」
「はは、やってみるとなかなか気持ちいいな」
「わ、わたくし……っっ」
「さあ行こう、コーデリア。ご両親を紹介してくれ」
「わたくし……お金を、借りる相手を……間違えたかも、しれませんの……」
大金にあたふたするコーデリアの手首を引っ張って銀行を出た。
彼女の故郷は中央駅から赤のトラムに乗った先にあるという。
「わたくし、目が回ってきましたの……」
「寝不足か?」
「貴方のせいですのよっっ?!」
目指すはハラペ子爵領。
俺はコーデリアとトラムの座席に並んで腰掛けて、ぼやけるこの目で車窓を眺めた。
コーデリアはツッコミ上手な上に世話焼きな女性だ。
彼女との旅は全く退屈しなかった。
俺は早朝から寮のレクリエーションエリアでコーデリアを待ち、昨日の夕刊に目を通した。
しばらく待つとコーデリアが現れた。
コーデリアの左右にはリチェルとレーティアが並んでいた。
「やるじゃん、ボンちゃん」
「あ、ああ……?」
ひねくれ者のレーティアとは思えない、真っ直ぐな賞賛の言葉を送られた。
「リチェルはレーティアちゃんと遊ぶから、お兄ちゃんはコーちゃんをお願い! 話、聞いたからっ!」
「そうか、聞いたか。……約束してたのにごめんな、リチェル」
「うーうん、いいの!」
顔を寄せて確かめると、リチェルは嬉しそうにこちらに笑い返す。
「リチェルはさ、オレが面白いところ連れてってあげるからさー、ボンちゃんはさっさと、コーデリアの両親ぶん殴ってきてよー」
「はは、殴っただけで改心してくれるなら、今頃はみんな真人間だ」
ルームメイトの座を奪われた時は絶望したが、レーティアは俺の期待以上にいい友人をしていてくれた。
朝食を食べたら一緒に遊びに行こうと、リチェルとレーティアは子供みたいにはしゃいでいる。
いや実際、まだまだお子さまなんだが。
俺とコーデリアはそんな2人に手を振って寮を出た。
いつもの青のトラムに乗って、中央駅まで移動すると街に出た。
・
この世界にも銀行があると知ったのは、去年の10月頃のことだ。
使い道のない金が貯まって困っているとジュリオに相談すると、バロック次官にここを紹介してもらうことになった。
「これはこれはオルヴィン様、本日もまたご入金でございましょうか?」
「すまん、入金はまた今度だ」
ここはシャーロック銀行。
フルアーマーの戦士たちが守る正面玄関を抜けると、俺たちはちょび髭の銀行員に迎えられた。
しかし銀行といってもここは異世界だ。
紹介のない庶民は利用するどころか、軒先に近付くことすら困難な施設だった。
「お引き出しでございましたか」
「ああ、金貨1枚を残して全額を下ろしたい」
「な……っ、全額、でございますか……?」
「いきなりで悪いが、工面してはもらえないか?」
「あ、あの……っ、全額とは、いったいどういうおつもりですの……?」
「お前には世話になっている。俺はお前の問題を解決してやりたい」
半年もすれば、コーデリアはまた泣きながら金の無心をすることになる。
だったら今のうちに、彼女の問題を根本から解決させるべきだ。
「他でもない都の救世主の言葉となれば、断るわけにはいきませんな……。オルヴィン様、しばしお待ちを」
「すまん」
「融資が入り用な時はいつでも我々シャーロック銀行をお訪ね下さい」
ちょび髭の銀行員は奥の金庫に入った。
しばらくすると、銀行員はトレイに金貨の山を乗せて帰って来た。
「な……っっ、なんなんですのっっ?!!」
そう、山だ。
知らんうちにだいぶ貯まっていたようだった。
「グレイボーン・オルヴィン様。金貨203枚、確かにお返しいたします」
「にっっ、にににににっっ、にひゃくさん枚っっ?!! なっ、なっ、なっ、何を考えていますの貴方って方はーっっ?!!」
金貨の隣には皮袋が置かれている。
ありがたくその皮袋に、俺は金貨203枚を詰め込んだ。
「これでオルヴィン様の残高は、金貨1枚となりました。またのご利用をお待ちしております」
「はは、やってみるとなかなか気持ちいいな」
「わ、わたくし……っっ」
「さあ行こう、コーデリア。ご両親を紹介してくれ」
「わたくし……お金を、借りる相手を……間違えたかも、しれませんの……」
大金にあたふたするコーデリアの手首を引っ張って銀行を出た。
彼女の故郷は中央駅から赤のトラムに乗った先にあるという。
「わたくし、目が回ってきましたの……」
「寝不足か?」
「貴方のせいですのよっっ?!」
目指すはハラペ子爵領。
俺はコーデリアとトラムの座席に並んで腰掛けて、ぼやけるこの目で車窓を眺めた。
コーデリアはツッコミ上手な上に世話焼きな女性だ。
彼女との旅は全く退屈しなかった。
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