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マレニア在籍二年目、一学期
・2年生代表グレイボーンの入学式 - ティオ・デュオニソス -
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それから約30分後、学園外からきた話の長いおじさんたちのスピーチがようやく終わり、やっとのことで新入生の退場が始まった。
彼らの姿が講堂から消えると、誰もが疲れた様子で席から立ち上がる。
「お疲れでござる、オルヴィン殿。サボらずにまっすぐ帰るでござるよー?」
「なんで俺がそうするとわかる?」
「ナハハハッ、マレニアの生徒はみんな座学が嫌いと決まっているでござるよ。寄り道せず、まっすぐ帰るでござるよー?」
「仕方ない、そうするよ。また実習でな、教官」
「あのスピーチ、自分は面白かったでござるよ。拙者ならサーモン焼き定食を勧めるでござるが」
「ありがとう、サーモン定食も好きだ。ああそうだ、セラ女史にアンタの爪を飲ませておいてくれ」
「それはぶっ殺されるやつでござるよ」
ナスノ教官は無責任なところがいい。
いつも世話になってるナスノ教官と別れ、俺は講堂を出た。
外はいい天気だ。
快晴と言ってもいい気持ちのいい青空だった。
さて、サボるか、帰るべきか、どうするかべき……。
「もし……車輪の都ダイダロスの救世主、グレイボーン・オルヴィン様」
そんなことを考えながら空を見上げていると、若い女性に声をかけられた。
「そっちは?」
「私はアルコーン村のティオ・デュオニソスともうします」
「新入生か」
「はい、今年入学させていただきました。あの、先ほどのスピーチ、大変素晴らしかったです」
「はは、あれはアドリブだ。台本を寮に忘れてきてしまってな、適当にごまかしただけなんだ」
「いえ、大変楽しいスピーチでした。少なくとも、周囲の皆様には大ウケでしたもの」
「それはよかった」
周囲に人影はない。
ティオ・デュオニソスは入学早々にして、集団行動から離れるタイプの生徒のようだ。
どんな顔をしているのか興味が湧いた。
「どうぞ、お噂は存じております」
「あ、ああ……では失礼」
ティオ・デュオニソス、下級生ティオの顔をのぞき込んだ。
この感じだと背の高さは160cm前後。
薄緑色の髪をショートカットにした、なんというか理知的なわりに、かわいらしい雰囲気の人だった。
「おっと……っ?!」
「あら、逃げられてしまいましたわ……♪」
その小さな唇が男の唇に触れかかったところで、俺は反射的に後ずさっていた。
「おい、今のはなんのつもりだ……?」
「お嫌ですの? 私は貴方のような素敵な殿方と、お近付きになりたいだけですのに……」
「誘惑する相手を間違えているぞ。俺は噂よりもずっとバカで、自己中で、協調性のないクソ男だ」
「ええ、存じております」
「……そうか」
ティオ・デュオニソス、変なやつだ。
彼女の右手側には大きな何かが立てかけられている。
かがみ込んで確かめるとそれは、彼女の姿形にまるで似合わない戦斧だった。
「女斧使い……? 珍しいな……」
「はい。ですがこれでもなかなかの腕ですのよ」
「ほう……。斧使い、それも女斧使いとは組んだことがない」
「ええ、私もグレイ様に興味があります。噂通りの凛々しい方で、キュンキュンしてしまいましたわ……」
「そりゃそっちの思い込みだ」
単なるミーハーな新入生なのかと思ったが、これはもしかして、おだてられているのだろうか……?
わからん。
なんともつかみ所のないやつだった。
「あの、グレイ様」
「様は止めてくれ」
「ではグレイ先輩、よろしければ今度の休日、先輩にじっくりと、教えていただきたいことがあるのですが……」
なんか含みのある色っぽいような言い方だった。
もし狙ってやっているとしたら、それはそれで大したものだ。
とても年下とは思えない。
「すまん、次の安息日は妹との約束がある」
「ではその次の安息日に……」
「次の次の安息日も妹との約束がある。いや断り文句ではなく、妹との予定でいっぱいなんだ」
デボアさんの合コンとかでもそうだが、だいたいの女性がこれにドン引きして距離を取る。
だがティオはそれとはタイプが少し違う。
「ふふっ、うふふふふっ! 先輩は妹さんが大好きなのですね!」
おかしそうに俺のことを笑った。
「ああ、大好きだ。世界で一番、うちの妹がかわいいと思っている」
「その話、もう少し詳しくおうかがいしたいです」
ほぅ……?
この女、リチェルの話に興味を持つか。
このタイプはコーデリア以来だ。
「聞いてくれるか?」
「ええ、ぜひ」
「ティオと言ったか、お前とは気が合いそうだ」
「奇遇ですね、私もそう思います」
「では聞いてくれ、ティオ。最近はリチェルの話をすると、どことなくウザったがるやつばかりでな……!」
あいつらは同じ話を10回もするなと言ってきたり、必要もないのに話題を変えようとしてくる。
「まあ私としては、先輩のことも、じっくり……と、おうかがしたいのですけれども……♪」
「俺なんてどうでもいいだろう。それよりもリチェルの話の方が大切だ」
「私、リチェル先輩にも興味がありますの。いつか紹介して下さいませんか?」
「いいぞ。さて、では、俺とリチェルの出会いから順番に始めるか。当時俺は15歳だった。あの頃の俺は愚かで――」
その日俺は、リチェルの話をいくらしてもウザったがらない、とてもいい後輩と知り合った。
今一つ腹の底が読めない後輩だったが、そこは大して重要ではない。
俺の語るリチェルの姿に笑い、萌え、凄い凄いと賞賛するその姿に、演技のようなものは感じられなかった。
ティオは自己申告で、自分はグレイ先輩とリチェル先輩のファンであると、そう主張していた。
嘘か本当かかわらんが、当面は額面通りにその言葉を受け取ることにした。
彼らの姿が講堂から消えると、誰もが疲れた様子で席から立ち上がる。
「お疲れでござる、オルヴィン殿。サボらずにまっすぐ帰るでござるよー?」
「なんで俺がそうするとわかる?」
「ナハハハッ、マレニアの生徒はみんな座学が嫌いと決まっているでござるよ。寄り道せず、まっすぐ帰るでござるよー?」
「仕方ない、そうするよ。また実習でな、教官」
「あのスピーチ、自分は面白かったでござるよ。拙者ならサーモン焼き定食を勧めるでござるが」
「ありがとう、サーモン定食も好きだ。ああそうだ、セラ女史にアンタの爪を飲ませておいてくれ」
「それはぶっ殺されるやつでござるよ」
ナスノ教官は無責任なところがいい。
いつも世話になってるナスノ教官と別れ、俺は講堂を出た。
外はいい天気だ。
快晴と言ってもいい気持ちのいい青空だった。
さて、サボるか、帰るべきか、どうするかべき……。
「もし……車輪の都ダイダロスの救世主、グレイボーン・オルヴィン様」
そんなことを考えながら空を見上げていると、若い女性に声をかけられた。
「そっちは?」
「私はアルコーン村のティオ・デュオニソスともうします」
「新入生か」
「はい、今年入学させていただきました。あの、先ほどのスピーチ、大変素晴らしかったです」
「はは、あれはアドリブだ。台本を寮に忘れてきてしまってな、適当にごまかしただけなんだ」
「いえ、大変楽しいスピーチでした。少なくとも、周囲の皆様には大ウケでしたもの」
「それはよかった」
周囲に人影はない。
ティオ・デュオニソスは入学早々にして、集団行動から離れるタイプの生徒のようだ。
どんな顔をしているのか興味が湧いた。
「どうぞ、お噂は存じております」
「あ、ああ……では失礼」
ティオ・デュオニソス、下級生ティオの顔をのぞき込んだ。
この感じだと背の高さは160cm前後。
薄緑色の髪をショートカットにした、なんというか理知的なわりに、かわいらしい雰囲気の人だった。
「おっと……っ?!」
「あら、逃げられてしまいましたわ……♪」
その小さな唇が男の唇に触れかかったところで、俺は反射的に後ずさっていた。
「おい、今のはなんのつもりだ……?」
「お嫌ですの? 私は貴方のような素敵な殿方と、お近付きになりたいだけですのに……」
「誘惑する相手を間違えているぞ。俺は噂よりもずっとバカで、自己中で、協調性のないクソ男だ」
「ええ、存じております」
「……そうか」
ティオ・デュオニソス、変なやつだ。
彼女の右手側には大きな何かが立てかけられている。
かがみ込んで確かめるとそれは、彼女の姿形にまるで似合わない戦斧だった。
「女斧使い……? 珍しいな……」
「はい。ですがこれでもなかなかの腕ですのよ」
「ほう……。斧使い、それも女斧使いとは組んだことがない」
「ええ、私もグレイ様に興味があります。噂通りの凛々しい方で、キュンキュンしてしまいましたわ……」
「そりゃそっちの思い込みだ」
単なるミーハーな新入生なのかと思ったが、これはもしかして、おだてられているのだろうか……?
わからん。
なんともつかみ所のないやつだった。
「あの、グレイ様」
「様は止めてくれ」
「ではグレイ先輩、よろしければ今度の休日、先輩にじっくりと、教えていただきたいことがあるのですが……」
なんか含みのある色っぽいような言い方だった。
もし狙ってやっているとしたら、それはそれで大したものだ。
とても年下とは思えない。
「すまん、次の安息日は妹との約束がある」
「ではその次の安息日に……」
「次の次の安息日も妹との約束がある。いや断り文句ではなく、妹との予定でいっぱいなんだ」
デボアさんの合コンとかでもそうだが、だいたいの女性がこれにドン引きして距離を取る。
だがティオはそれとはタイプが少し違う。
「ふふっ、うふふふふっ! 先輩は妹さんが大好きなのですね!」
おかしそうに俺のことを笑った。
「ああ、大好きだ。世界で一番、うちの妹がかわいいと思っている」
「その話、もう少し詳しくおうかがいしたいです」
ほぅ……?
この女、リチェルの話に興味を持つか。
このタイプはコーデリア以来だ。
「聞いてくれるか?」
「ええ、ぜひ」
「ティオと言ったか、お前とは気が合いそうだ」
「奇遇ですね、私もそう思います」
「では聞いてくれ、ティオ。最近はリチェルの話をすると、どことなくウザったがるやつばかりでな……!」
あいつらは同じ話を10回もするなと言ってきたり、必要もないのに話題を変えようとしてくる。
「まあ私としては、先輩のことも、じっくり……と、おうかがしたいのですけれども……♪」
「俺なんてどうでもいいだろう。それよりもリチェルの話の方が大切だ」
「私、リチェル先輩にも興味がありますの。いつか紹介して下さいませんか?」
「いいぞ。さて、では、俺とリチェルの出会いから順番に始めるか。当時俺は15歳だった。あの頃の俺は愚かで――」
その日俺は、リチェルの話をいくらしてもウザったがらない、とてもいい後輩と知り合った。
今一つ腹の底が読めない後輩だったが、そこは大して重要ではない。
俺の語るリチェルの姿に笑い、萌え、凄い凄いと賞賛するその姿に、演技のようなものは感じられなかった。
ティオは自己申告で、自分はグレイ先輩とリチェル先輩のファンであると、そう主張していた。
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