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マレニア在籍二年目、一学期
・2年生代表グレイボーンの入学式 - ブーツで頭をガチ殴り -
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するとちょうど式典が始まるタイミングだったようだ。
「遅いでござるよっ、何をしていたのでござるかっ」
「文句ならクルト教官に言ってくれ」
参列席に加わり、用意されていた自分の席に腰掛けた。
隣はナスノ教官だった。
「マレニアの教官はいい加減なやつが多すぎにござるな……」
「ナスノ教官だって大概だろ。さ、リチェル、座れ」
飛び入り参加のリチェルに席は用意されていない。
なので俺は自分の膝を叩いて、兄としてやさしくリチェルを誘った。
「オルヴィン殿……っ。ああ、これは素でやっているようでござるな、リチェル殿……」
「お、お兄ちゃん……っ、ここでは、無理だよぉ……」
「オルヴィン殿はやはり恐るべき男にござる……。空気読めないを通り越して、男の度量を感じさせられるでござるよ……!」
「さあリチェル、恥ずかしがることはない、さあっ」
「レ、レーティアちゃんに、笑われちゃうよぉ……っ」
リチェルは俺の膝に座ってくれなかった。
周囲の目など気にすることないというのに、なんということだ……。
リチェルが徐々に、兄離れを始めている……。
「あ……」
「ん、どうした、リチェル。やっぱり膝に――ンゴッッ?!!」
後ろに立った何者かが、何か硬い物で俺の後頭部をぶん殴った。
ていうかこういうことするやつ、あの人の他にいねぇ……っ!
「何すんだよっ、女史っっ?!」
「黙りなさい。貴方は今、新入生たちの注目の的なのですよ?」
「…………そうなのか?」
「新入生の皆が皆、オルヴィン殿のバカ兄っぷりを、現在進行形で観察しているでござるよ」
「それ早く言えよ」
そういうことならばと、俺は席を立ち、代わりにリチェルを座らせた。
俺はその隣から焦点の合わない新入生たちを観察した。
『あれがグレイボーン……都の救世主……』
『やっぱり、カッコイイ……』
『家族愛の強い人とは聞いていたが、想像以上のお人だ』
『ボンちゃんはブレないなーー』
『あの人今、ブーツで頭をガチ殴りされてなかったか……?』
さっきのアレはブーツだったのか。
わざわざ講壇から降りて来てまでして、ツッコミを入れてくれるところが、さすがの女史だ。
『俺、あの人に助けられたんだ……。あの人が撃ったでかい矢が、目の前のドラゴンをやっつけて、そのおかげで俺は生き残ったんだ……』
『うちの母さんもそうだ! あの人に助けられた!』
『ちくしょう、なかなかクールじゃねーかよ……っ!』
しかしなるほど。
彼らの私語に鋭敏な耳を傾けていると、教官たちの不安も今さらになってわかった。
俺は彼らが思うような立派な人間ではない。
どっちかというと、自己中極まったクソ先輩であると断言出来よう。
『キャーッッ、今グレイ様と目が合ったわっ!』
いや合ってないし。
『違うわよっ、私と合ったのよっ!』
だから合ってないって。
『グレイ様……なんて凛々しいお姿……』
すまん。
幻滅すること確実の存在で申し訳ない。
「モテモテにござるなぁ、オルヴィン殿~」
「問題ない、3日で失望させてみせる」
「教官としては、失望させないルートを目指してほしいところでござるよ」
「リチェルのお兄ちゃんなのに……」
ナスノ教官は俺のお目付役だろうか。
彼は左隣の席から動かない。
「ワシがマレニア魔術院学長ッッッ!!!! ブランチ・インスラーであるっっっ!!!!」
学院長の挨拶が始まった。
いや、一瞬で終わり、学院長は舞台裏に消えた。
新入生たちは『え……?』『終わり?』『今の何だったの?』『てか声でかいな』『本当にあの人が学院長なのか?』などと、当然の私語を漏らしていた。
続いてセラ教官、次にロートゥル武術主任、さらに3年生代表へと、スピーチが引き継がれていった。
「オルヴィン殿、出番にござるよ。ささ、演壇へ」
「お兄ちゃんっ、がんばってねっ!」
ついに出番だそうだ。
俺は席を離れて舞台裏から講壇に上がり、中央の演壇まで寄ると、眼下の新入生たちに振り返った。
『わっっ』と、彼らの興奮が会場に広がった。
さて、ここでやることをやったら、校庭の芝生でリチェルと昼寝でもしてから帰るか。
俺は内ポケットに手を入れて、台本を取り出した。
「…………うん」
いや違う。
取り出そうとはしたのだが……。
そこに台本はなかった。
どうやら俺は、寮に台本を置き忘れてきてしまったようだな。
新入生たちはなかなかスピーチを始めない憧れの先輩を、そりゃ当然いぶかしんだ。
『なかなか始まらないな……?』
『グレイ様って、意外と口下手だったりするのかしら……?』
『あの人、腕を組んでこっちを凄い目で睨んでないか……?』
ちなみに台本は一度も読んでいない。
ぶっつけ本番で乗り切るつもりでいた。
さすがにこれは困ったな。
こうなってしまっては、アドリブでどうにかするしかないだろう……。
「遅いでござるよっ、何をしていたのでござるかっ」
「文句ならクルト教官に言ってくれ」
参列席に加わり、用意されていた自分の席に腰掛けた。
隣はナスノ教官だった。
「マレニアの教官はいい加減なやつが多すぎにござるな……」
「ナスノ教官だって大概だろ。さ、リチェル、座れ」
飛び入り参加のリチェルに席は用意されていない。
なので俺は自分の膝を叩いて、兄としてやさしくリチェルを誘った。
「オルヴィン殿……っ。ああ、これは素でやっているようでござるな、リチェル殿……」
「お、お兄ちゃん……っ、ここでは、無理だよぉ……」
「オルヴィン殿はやはり恐るべき男にござる……。空気読めないを通り越して、男の度量を感じさせられるでござるよ……!」
「さあリチェル、恥ずかしがることはない、さあっ」
「レ、レーティアちゃんに、笑われちゃうよぉ……っ」
リチェルは俺の膝に座ってくれなかった。
周囲の目など気にすることないというのに、なんということだ……。
リチェルが徐々に、兄離れを始めている……。
「あ……」
「ん、どうした、リチェル。やっぱり膝に――ンゴッッ?!!」
後ろに立った何者かが、何か硬い物で俺の後頭部をぶん殴った。
ていうかこういうことするやつ、あの人の他にいねぇ……っ!
「何すんだよっ、女史っっ?!」
「黙りなさい。貴方は今、新入生たちの注目の的なのですよ?」
「…………そうなのか?」
「新入生の皆が皆、オルヴィン殿のバカ兄っぷりを、現在進行形で観察しているでござるよ」
「それ早く言えよ」
そういうことならばと、俺は席を立ち、代わりにリチェルを座らせた。
俺はその隣から焦点の合わない新入生たちを観察した。
『あれがグレイボーン……都の救世主……』
『やっぱり、カッコイイ……』
『家族愛の強い人とは聞いていたが、想像以上のお人だ』
『ボンちゃんはブレないなーー』
『あの人今、ブーツで頭をガチ殴りされてなかったか……?』
さっきのアレはブーツだったのか。
わざわざ講壇から降りて来てまでして、ツッコミを入れてくれるところが、さすがの女史だ。
『俺、あの人に助けられたんだ……。あの人が撃ったでかい矢が、目の前のドラゴンをやっつけて、そのおかげで俺は生き残ったんだ……』
『うちの母さんもそうだ! あの人に助けられた!』
『ちくしょう、なかなかクールじゃねーかよ……っ!』
しかしなるほど。
彼らの私語に鋭敏な耳を傾けていると、教官たちの不安も今さらになってわかった。
俺は彼らが思うような立派な人間ではない。
どっちかというと、自己中極まったクソ先輩であると断言出来よう。
『キャーッッ、今グレイ様と目が合ったわっ!』
いや合ってないし。
『違うわよっ、私と合ったのよっ!』
だから合ってないって。
『グレイ様……なんて凛々しいお姿……』
すまん。
幻滅すること確実の存在で申し訳ない。
「モテモテにござるなぁ、オルヴィン殿~」
「問題ない、3日で失望させてみせる」
「教官としては、失望させないルートを目指してほしいところでござるよ」
「リチェルのお兄ちゃんなのに……」
ナスノ教官は俺のお目付役だろうか。
彼は左隣の席から動かない。
「ワシがマレニア魔術院学長ッッッ!!!! ブランチ・インスラーであるっっっ!!!!」
学院長の挨拶が始まった。
いや、一瞬で終わり、学院長は舞台裏に消えた。
新入生たちは『え……?』『終わり?』『今の何だったの?』『てか声でかいな』『本当にあの人が学院長なのか?』などと、当然の私語を漏らしていた。
続いてセラ教官、次にロートゥル武術主任、さらに3年生代表へと、スピーチが引き継がれていった。
「オルヴィン殿、出番にござるよ。ささ、演壇へ」
「お兄ちゃんっ、がんばってねっ!」
ついに出番だそうだ。
俺は席を離れて舞台裏から講壇に上がり、中央の演壇まで寄ると、眼下の新入生たちに振り返った。
『わっっ』と、彼らの興奮が会場に広がった。
さて、ここでやることをやったら、校庭の芝生でリチェルと昼寝でもしてから帰るか。
俺は内ポケットに手を入れて、台本を取り出した。
「…………うん」
いや違う。
取り出そうとはしたのだが……。
そこに台本はなかった。
どうやら俺は、寮に台本を置き忘れてきてしまったようだな。
新入生たちはなかなかスピーチを始めない憧れの先輩を、そりゃ当然いぶかしんだ。
『なかなか始まらないな……?』
『グレイ様って、意外と口下手だったりするのかしら……?』
『あの人、腕を組んでこっちを凄い目で睨んでないか……?』
ちなみに台本は一度も読んでいない。
ぶっつけ本番で乗り切るつもりでいた。
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