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マレニア在籍二年目、一学期
・2年生代表グレイボーンの入学式 - なんだいつものことか -
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本校舎から回廊に出ると、西の空には沈みかけの真っ赤な太陽が浮かんでいた。
リチェルは後ろ歩きになって夕焼け空を見上げ、俺はリチェルが転ばないように先を歩いた。
「お父さんとお母さんも、見てるかなぁ……?」
「ああ、きっとな。特にハンス先生は芸術家だからな、いつも飽きもせず空を見上げていたな」
「えへへ……お兄ちゃん、明日はがんばってね。リチェル、お兄ちゃんが凄いの認められて、嬉しい……!」
「あの時はお前も大活躍だっただろ」
イザヤの校門は修復されたが、知恵のカラスの像はもう残っていない。
我が妹ながら恐るべき破壊力だった。
俺たちは兄妹で仲良く並びながら歩いた。
やがて寮のエントランスホールに到着すると、リチェルが足を止めた。
「あれ……レーティアちゃん……?」
リチェルがレーティアを見つけた。
レーティアの方もこっちを待っていたのか、すぐに駆けて来た。
「ボンちゃんとリチェルじゃん!」
「ああ、しばらくだな。……ん?」
しかし、何か違和感がある。
俺たちがこっちに戻ってきたのが、レーティアはそんなに嬉しいのだろうか。
今日のレーティアはいつも以上に明るかった。
「どうしたのさー、ボンちゃん?」
「何か、いつもと違うような気がする……」
「へへへ……」
「なんだ?」
「いいよー? 特別に、顔近付けて見てみなよっ! わぁっっ、顔にじゃないよっ、服っ、服を見ろよーっ!」
顔が少し赤かったがそれ以外はいつも通りだった。
服を見ろと言うので続いて俺はかがんで、レーティアの胸元の辺りに顔を寄せた。
するとそこに驚きというか、朗報があった。
「ち、近過ぎだってばっ、ボンちゃんのエッチーッ!」
「見ろと言ったのはお前だろ。で、まさか、合格したのか……?」
レーティアは用務員のつなぎではなく、マレニアの制服をまとっていた。
しかもその上に、以前俺がプレゼントしたスカウト装備を身に着けていて、そいつが悪ガキみたいに得意そうな顔で笑っていた。
「失礼だなー、ボンちゃんはーっ! ま……補欠入学だったけどさー……」
「おめでとーっ、レーティアちゃんっ!」
「ありがとう、リチェル! ボンちゃんはともかくリチェルに伝えたかったんだー、オレ!」
「すごいっ、すごいよっ、レーティアちゃん!」
二人は手を取り合ってはしゃぎだした。
「まあねー。はーー、セラ先生の実験台になって、よかったぁ……っ」
……は?
「おい、ちょっと待て」
「なーにー、ボンちゃーん?」
「実験台……だと……?」
「オレ、改造してもらったんだー!」
「すっごーいっ、さすがセラせんせーっ!」
実験台、改造、未成年、家出娘か……。
なんかヤバい臭いしかしないぞ……。
しかしまあ、セラ女史のやることにいちいちツッコミを入れてたら切りがないか。
ここは何も聞かなかったことにするのが、ベストアンサーだな……。
「ボンちゃーん?」
「ん、なんだ?」
「なんか忘れてなーい?」
「お兄ちゃんっ、お祝いだよっ! レーティアちゃんがっ、リチェルたちの後輩になるんだよっ!」
それはめでたい。
それはなんだか、家族のことのように嬉しく感じられてる。
「おめでとう、レーティア。その若さで入学なんて、リチェルも負けてられないな」
「ちょ……っ、な、何勝手に触ってるしーっ!」
リチェルにするように、褒めながらレーティアの頭を撫でた。
レーティアは猫みたいに飛び上がってリチェルの後ろに逃げた。
「すまん、癖が出た」
「子供扱いしないでよーっ! これでもボンちゃんよりしっかりしてんだからーっ!」
「そうだな。ああそういえば、お前、何歳だったっけ?」
「11だけど?」
え、若……っ!
「えっえっ、レーティアちゃんってっ、リチェルより年下だったのーっ!?」
そして11歳の家出娘に、改造なぁ……?
迷宮実習で怪我をされるよりはいいのか……?
「あら、リチェルちゃんとレーティアちゃんではございませんこと?」
すっかり仲良しの11歳と12歳を眺めながら、取り留めもないことを考えていると、そこにコーデリアの声が響いた。
「コーちゃんっ、レーティアちゃんがねっ、合格だってっ!」
「ええ存じておりますわ。それに今日から、レーティアちゃんはわたくしたちのルームメイトになりますのよ」
な……っ?!!
「えっえっ、本当っ!? やったぁーっ、嬉しいっ!!」
なん、だと…………?
3人定員の寮室に、3人目が現れた、だと……?
リチェルと同室で寝泊まり出来たのも今や遙か過去、俺は今、ガーラントさんと共に男子寮の部屋で暮らしている……。
だがいつかは、愛しいリチェルと同じ部屋に戻る予定だった……。
「ボンちゃーん? おーい?」
「残念でしたわね、シスコンさん。枠はもう埋まってしまいましたのよ」
「お兄ちゃん、リチェルは大丈夫だよ。コーちゃんと、レーティアちゃんと一緒なら、毎日楽しいと思うっ! ……お、お兄ちゃんっ?!」
兄は膝から崩れ落ちた……。
まさかこんな唐突に、希望を打ち砕かれるとは思ってもいなかった……。
マレニア2年目は、もうお先真っ暗だ……。
「いちいち大げさな人ですわね……」
「遊びにくればいいじゃん。本当に女装でもしてさー?」
「元気出して、お兄ちゃん。心配、いらないから……」
そう、心配はいらない。
リチェルとレーティアがさらに仲良くなってくれたら、兄として保護者として安心だ。
俺が同室にこだわるフェーズは、これにて終わったと言える……。
だが、なんだ、この全身が麻痺するような喪失感は……。
「そっとしておきましょう。こうなったらこの方、めんどくさいですもの……」
「そだねー。いこっかー、リチェル」
「えー、えーーっ!? で、でもぉ……」
「夕飯の後はレーティアちゃんの合格祝いをいたしましょう。わたくしたちのお部屋で、3人で」
「ありがとー、コーデリア! さ、行くよーっ!」
「お……お兄ちゃん……また後でねーっ!?」
俺はその後10数分ほど、エントランスホールの冷たい床にうずくまって、絶望に打ちひしがれた。
同級生も上級生も『なんだいつものことか』と俺をスルーして、石ころを避けるように横を素通りしていった。
・
悲劇に心まで冷たく凍えた体で、オレは男子寮の部屋に戻った。
するとでかい男、オロシャ村のガーラントさんが迎えてくれた。
「ガーラントさん……」
「おかえり」
「ただいま……」
「話、聞いた」
「ああ、そうだったか……」
「風呂、行こう。嫌なこと、忘れられる」
「すまん……すまん、ガーラントさん……」
「お前、いい兄。家族愛せる、素晴らしい、兄。ジーンも、そう言ってた」
ジーンの名前が出てくると俺は立ち上がり、ガーラントさんと部屋を出た。
それから俺は廊下を歩きながら、ガーラントさんに問いかけた。
「ガーラントさん……女になる方法、知らないか……?」
「…………え」
「女になれば女子寮で暮らせる……。何か方法を知らないか……?」
「く……詳しく、ない……すまん」
どうにかして、女になれないものだろうか。
そうしたら後はゴネるだけだ。
女にさえなれば、俺はリチェルと一緒に、楽しく充実した青春の日々を過ごせるというのに……。
なぜ俺は男に生まれてしまったんだ……。
神よ……。
天に召しますカマ様よ!!
どうか俺を女にしてくれっ!! 頼む!!
『はぁぁぁーっっ?!! バカ言ってんじゃないわよぉーっ!! それが出来るなら、あたしが先になってるに決まってるじゃないのよぉーっ!!』
あ、それもそうか。
性転換は不可能。
カマ様の存在こそが何よりもの証左だった。
リチェルは後ろ歩きになって夕焼け空を見上げ、俺はリチェルが転ばないように先を歩いた。
「お父さんとお母さんも、見てるかなぁ……?」
「ああ、きっとな。特にハンス先生は芸術家だからな、いつも飽きもせず空を見上げていたな」
「えへへ……お兄ちゃん、明日はがんばってね。リチェル、お兄ちゃんが凄いの認められて、嬉しい……!」
「あの時はお前も大活躍だっただろ」
イザヤの校門は修復されたが、知恵のカラスの像はもう残っていない。
我が妹ながら恐るべき破壊力だった。
俺たちは兄妹で仲良く並びながら歩いた。
やがて寮のエントランスホールに到着すると、リチェルが足を止めた。
「あれ……レーティアちゃん……?」
リチェルがレーティアを見つけた。
レーティアの方もこっちを待っていたのか、すぐに駆けて来た。
「ボンちゃんとリチェルじゃん!」
「ああ、しばらくだな。……ん?」
しかし、何か違和感がある。
俺たちがこっちに戻ってきたのが、レーティアはそんなに嬉しいのだろうか。
今日のレーティアはいつも以上に明るかった。
「どうしたのさー、ボンちゃん?」
「何か、いつもと違うような気がする……」
「へへへ……」
「なんだ?」
「いいよー? 特別に、顔近付けて見てみなよっ! わぁっっ、顔にじゃないよっ、服っ、服を見ろよーっ!」
顔が少し赤かったがそれ以外はいつも通りだった。
服を見ろと言うので続いて俺はかがんで、レーティアの胸元の辺りに顔を寄せた。
するとそこに驚きというか、朗報があった。
「ち、近過ぎだってばっ、ボンちゃんのエッチーッ!」
「見ろと言ったのはお前だろ。で、まさか、合格したのか……?」
レーティアは用務員のつなぎではなく、マレニアの制服をまとっていた。
しかもその上に、以前俺がプレゼントしたスカウト装備を身に着けていて、そいつが悪ガキみたいに得意そうな顔で笑っていた。
「失礼だなー、ボンちゃんはーっ! ま……補欠入学だったけどさー……」
「おめでとーっ、レーティアちゃんっ!」
「ありがとう、リチェル! ボンちゃんはともかくリチェルに伝えたかったんだー、オレ!」
「すごいっ、すごいよっ、レーティアちゃん!」
二人は手を取り合ってはしゃぎだした。
「まあねー。はーー、セラ先生の実験台になって、よかったぁ……っ」
……は?
「おい、ちょっと待て」
「なーにー、ボンちゃーん?」
「実験台……だと……?」
「オレ、改造してもらったんだー!」
「すっごーいっ、さすがセラせんせーっ!」
実験台、改造、未成年、家出娘か……。
なんかヤバい臭いしかしないぞ……。
しかしまあ、セラ女史のやることにいちいちツッコミを入れてたら切りがないか。
ここは何も聞かなかったことにするのが、ベストアンサーだな……。
「ボンちゃーん?」
「ん、なんだ?」
「なんか忘れてなーい?」
「お兄ちゃんっ、お祝いだよっ! レーティアちゃんがっ、リチェルたちの後輩になるんだよっ!」
それはめでたい。
それはなんだか、家族のことのように嬉しく感じられてる。
「おめでとう、レーティア。その若さで入学なんて、リチェルも負けてられないな」
「ちょ……っ、な、何勝手に触ってるしーっ!」
リチェルにするように、褒めながらレーティアの頭を撫でた。
レーティアは猫みたいに飛び上がってリチェルの後ろに逃げた。
「すまん、癖が出た」
「子供扱いしないでよーっ! これでもボンちゃんよりしっかりしてんだからーっ!」
「そうだな。ああそういえば、お前、何歳だったっけ?」
「11だけど?」
え、若……っ!
「えっえっ、レーティアちゃんってっ、リチェルより年下だったのーっ!?」
そして11歳の家出娘に、改造なぁ……?
迷宮実習で怪我をされるよりはいいのか……?
「あら、リチェルちゃんとレーティアちゃんではございませんこと?」
すっかり仲良しの11歳と12歳を眺めながら、取り留めもないことを考えていると、そこにコーデリアの声が響いた。
「コーちゃんっ、レーティアちゃんがねっ、合格だってっ!」
「ええ存じておりますわ。それに今日から、レーティアちゃんはわたくしたちのルームメイトになりますのよ」
な……っ?!!
「えっえっ、本当っ!? やったぁーっ、嬉しいっ!!」
なん、だと…………?
3人定員の寮室に、3人目が現れた、だと……?
リチェルと同室で寝泊まり出来たのも今や遙か過去、俺は今、ガーラントさんと共に男子寮の部屋で暮らしている……。
だがいつかは、愛しいリチェルと同じ部屋に戻る予定だった……。
「ボンちゃーん? おーい?」
「残念でしたわね、シスコンさん。枠はもう埋まってしまいましたのよ」
「お兄ちゃん、リチェルは大丈夫だよ。コーちゃんと、レーティアちゃんと一緒なら、毎日楽しいと思うっ! ……お、お兄ちゃんっ?!」
兄は膝から崩れ落ちた……。
まさかこんな唐突に、希望を打ち砕かれるとは思ってもいなかった……。
マレニア2年目は、もうお先真っ暗だ……。
「いちいち大げさな人ですわね……」
「遊びにくればいいじゃん。本当に女装でもしてさー?」
「元気出して、お兄ちゃん。心配、いらないから……」
そう、心配はいらない。
リチェルとレーティアがさらに仲良くなってくれたら、兄として保護者として安心だ。
俺が同室にこだわるフェーズは、これにて終わったと言える……。
だが、なんだ、この全身が麻痺するような喪失感は……。
「そっとしておきましょう。こうなったらこの方、めんどくさいですもの……」
「そだねー。いこっかー、リチェル」
「えー、えーーっ!? で、でもぉ……」
「夕飯の後はレーティアちゃんの合格祝いをいたしましょう。わたくしたちのお部屋で、3人で」
「ありがとー、コーデリア! さ、行くよーっ!」
「お……お兄ちゃん……また後でねーっ!?」
俺はその後10数分ほど、エントランスホールの冷たい床にうずくまって、絶望に打ちひしがれた。
同級生も上級生も『なんだいつものことか』と俺をスルーして、石ころを避けるように横を素通りしていった。
・
悲劇に心まで冷たく凍えた体で、オレは男子寮の部屋に戻った。
するとでかい男、オロシャ村のガーラントさんが迎えてくれた。
「ガーラントさん……」
「おかえり」
「ただいま……」
「話、聞いた」
「ああ、そうだったか……」
「風呂、行こう。嫌なこと、忘れられる」
「すまん……すまん、ガーラントさん……」
「お前、いい兄。家族愛せる、素晴らしい、兄。ジーンも、そう言ってた」
ジーンの名前が出てくると俺は立ち上がり、ガーラントさんと部屋を出た。
それから俺は廊下を歩きながら、ガーラントさんに問いかけた。
「ガーラントさん……女になる方法、知らないか……?」
「…………え」
「女になれば女子寮で暮らせる……。何か方法を知らないか……?」
「く……詳しく、ない……すまん」
どうにかして、女になれないものだろうか。
そうしたら後はゴネるだけだ。
女にさえなれば、俺はリチェルと一緒に、楽しく充実した青春の日々を過ごせるというのに……。
なぜ俺は男に生まれてしまったんだ……。
神よ……。
天に召しますカマ様よ!!
どうか俺を女にしてくれっ!! 頼む!!
『はぁぁぁーっっ?!! バカ言ってんじゃないわよぉーっ!! それが出来るなら、あたしが先になってるに決まってるじゃないのよぉーっ!!』
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