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マレニア在籍二年目、一学期

・2年生代表グレイボーンの入学式 - アンタ仕事好き過ぎだろ -

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「ワシがマレニア魔術院院長ッッ、ブランチ・インスラーであるッッッ!!!」

 マレニアの始業式は相変わらずスピーディだった。

「連絡事項は以上です。本日の座学は省略、職員と生徒は速やかに解散し、午前の実習に入りなさい」

 セラ女史が解散を言い渡すと、周囲の生徒たちは口々に私語を漏らしながら講堂を出ていった。

「また後でな、リチェル」
「うんっ、またお昼にねっ!」
「わたくしもお昼はお供いたしますわーっ!」

「お前は残り物が食いたいだけだろ……」
「ええっ、残り物っ! なんて素晴らしい音色の言葉でしょうっ!」

 変わらずに元気そうなコーデリアに笑い返して、俺も講堂を出て、実践剣術の訓練場に向かった。

 担当教官はうちの担任、クルト教官だ。
 長期休暇が明けたばかりだというのにクルト教官はやる気でいっぱいで、俺たちはみっちりと彼にしごかれた。

「休みボケしてるんじゃないか、グレイボーン!! もっと強く打ち込んでこい!!」
「アンタこそ、新学期だからってバカみたいに張り切り過ぎだ……」

 筆頭であるセラ女史を見れば一目瞭然のことだが、マレニアの教官方は化け物揃いだ。
 そして女史を頂点とする四天王の一角が、このクルト教官だと俺は勝手に思っている。

「アイツ化け物かよ……っ、またクルト教官と渡り合ってやがる……」
「はぁっはぁっ、助かったぁ……。おかげで少し、休めそう……」
「時々疑わしくなるわ……。あの人、本当に見えてないのかしら……?」

 休み明けで身体がなまっていたところに、やる気いっぱいの脳筋教官からのしごきが入って、他の連中は大半が地にはいつくばっている。

「はははっ、お前と訓練していると楽しくてなぁ!」
「加減しろ、受講者が減るぞ」

「生徒の訃報を聞くよりはいい!」
「まあ、そうだが」

 ここの教官方が厳しいのはそういったわけだ。
 教え子の訃報に心を痛めるくらいなら、今のうちに徹底的に鍛え上げる。

 逆の立場だったら俺だってそうするだろう。

「では、ギアを上げてゆくぞっ、グレイボーンッッ!!」
「いやアンタ仕事好き過ぎだろっっ?!」

 一合で剣が吹き飛ぶような攻撃を受け止め、こちらも同じようにやり返して、限界知らずの教官と武勇を競った。

 育てれば育てるほどに強くなり、賢明に競い合ってくる生徒に、クルト教官は元気はつらつの好青年と化していた。

「ハハハハッッ、楽しいなっ、グレイボーンッッ!!」
「楽しいのはアンタだけだってのっっ!!」

 マレニアには教える側に情熱がある。
 俺と教官は互いに限界を迎えて大の字になってぶっ倒れるまで、汗だくになって剣と剣を打ち鳴らしていった。


 ・


 夕方はラズグリフ教官の実践護衛術を受講した。
 教官が言うには重弩にシールドを取り付ければ、味方の盾役にもなれるという。

 なんかのゲームでこんなのがあったような気もするが……。
 とにかくこれでリチェルを守りやすくなると言うのだから、今年から受講することに決めた。

「ん……? なんだ、もう授業の時間終わってんじゃねーか。そういうことは早く言えよな、お前らっ!」
「言った……」

 ああ、ガーラントさんの言う通りだ。
 酒好きのたくましい重戦士、ラズグリフ教官は豪快で大ざっぱで人の話を聞かない。

 そんなラズグリフ教官も兄を迎えに来たリチェルの姿を見つけると、やっと時間に気付いた。
 教官はバカでかい大盾とメイスを片手で抱えて、ここ野外実習場を去っていった。

「お兄ちゃん、おつかれさまー」
「お疲れリチェル。2年生の勉強にはなじめそうか?」

「うんっ! 難しいことはわかんないけど……なんとなく、出来てる!」
「そうかそうか、こっちの方は大変だったよ。ここの教官たちは、どいつもこいつも化け物の上にやる気があり過ぎる」

 と、リチェルに笑いながら愚痴ると、何やら大きな陰がリチェルの背後に現れた。

「化け物に化け物言われるのは心外だぜ」
「なんだよ、忘れ物か?」

 さっき帰って行ったはずのラズグリフ教官だった。

「言い忘れたんだが、学院長室に急げ。授業が終わったら、お前を行かせるって約束だった」

 授業終了の鐘は今から10分ほど前に鳴った。

「おい……まさか、セラ女史も待ってるとか言うなよ……?」
「だったら俺の顔は今頃ブルースライムみたいになってるところだぜ」

「だろうな」
「女史は臨時出張だ。さあ早く行け、大事な仕事・・が待ってんぞ」

 言葉そのままの意味ではなく、何か含みのある言い方だった。

「リチェル、背中に乗れ。学院長室まで走るぞ」
「ええ……っ!? で、でも、学校ではそういうのは……レーティアちゃんに見られたら、笑われちゃうかも、しれないし……」

「んなの気にするなっ、ほら早く、行くぞっ!」
「う、うん……」

 成長を感じる一方でやはり少し寂しい。
 俺はひかえめに兄の背に乗るリチェルを抱えて、学院長室に猛ダッシュした。
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