視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
92 / 107
エピローグ 世界を照らす灯火

・エピローグ 4/5 - この素晴らしい友情に報いるために -

しおりを挟む
「父上が言うにはね、あの災厄の日に僕は、霧の結界の中で、終わらない学校生活を夢見ていたそうなんだ」
「ああ、その話は今朝聞いた」

 ジュリオは俺の返答に言葉を詰まらせて絶句した。

「父上め、勝手なことを……」

 しかし次官は『これは秘密だ』なんて一言も言わなかった。
 よって俺は悪くない。

「今日は大目に見てやれ。お前の卒業がよっぽど嬉しいのか、今日の次官はいつもの次官じゃなかった」
「はは、それ、ちょっと見てみたかったなぁ……」

 父親の様子を聞かされて、ジュリオは嬉しいというより恥ずかしそうな顔をした。
 その表情がまた真剣なものに戻っていった。

「グレイ……君はあそこで、君が居た頃のイザヤを見たそうだね……?」
「ああ、2つ上の先輩方の姿もあった。つまりお前は、俺たちが1年生だった頃の夢を見ていたんだろうな」

「そうだったんだと思う……。あの頃は楽しかった……」
「うん。グレイが毎日騒動を起こすから、あの頃は退屈しなかったよね」

 当時は上手く同級生と馴染めず苦労した。
 だが隣にはいつだってジュリオとトマスがいて、いい友達でいてくれた。

「リチェルちゃんが羨ましいよ……」

 いつもは気配りの出来るジュリオが、突然リチェルを深く羨んだ。

「ごめんね、ジュリオ……。リチェルがお兄ちゃん、取っちゃったせいで……」
「ああ、僕は何は言っているんだ……。ごめん、君のせいではないよ……」

「ううん、リチェルが悪いよ……!」
「違うよ。セラ・インスラー、あの人のせいだ。父と僕は同じ見解に落ち着いた。悪いのは、セラ・インスラーだ!」

 ジュリオが誰かに敵意を持つなんて、珍しいこともあったものだった。

「で、でも……セラせんせー、やさしいよ……?」
「それはない」

 そこばかりはツッコミを入れずにはいられず、俺は即答していた。
 面倒見のいい立派な人であるのは認めるが、アレはいい人ではないぞ。

 どっちかというとセラ女史は、悪い大人だ。

「えーーっっ、セラせんせー、やさしいのに……!」
「リチェル、やさしい人は公園や建物を焼いたりはしないんだ」

「そ、それは……そーだけど……。でも、リチェルにはやさしいもん……」
「ああ、女性と子供にはやさしい人だな」

 わかっているからと、リチェルの背中を撫でてなだめた。
 そうしながら周囲に耳を澄ますと、たくさんの言葉が聞こえて来る。

 最も多いのが『おめでとう』で、その次に多いのが『さようなら』だ。

「またな、グレイボーン!」
「さよなら! マレニアでがんばってね!」

 俺に気付いた元クラスメイトが、さよならの言葉を残して校門の先に消えてゆく。
 それはとてもとても、寂しい光景だった。

 もう2度と、あいつらとは会うこともないかもしれない。
 そう思うと、俺まで少ししんみりとした気分になる。

「グレイ、これからは開拓省の役人として、君を陰から支えるよ」
「僕の方からも、グレイにいつか仕事を回せるようにがんばるよ! 僕たちここでお別れじゃないよ! これからもずっと友達だよ!」

 トマスに肩へと手を置かれると、ジュリオも同じようなことをして来た。
 関係が卒業や就職で終わることを、この2人は恐れているのだろうか。

 いや程度の差はあれど、俺も同じかもしれない。
 卒業を契機に関係が疎遠になることは、もはや必然と言ってもいい宿命だ。

「ジュリオ、トマス、聞いてくれ」

 だったらここで、この友情を永遠のものにすると、誓いを交わせばいいと俺は思った。

「俺は冒険者として、生涯ジュリオとトマスの力になると、ここに誓うよ。だからその代わりに、2人は俺の力になってくれ」
「グレイ! うんっ、喜んでっ! 僕は学者として、生涯グレイとジュリオの力になると誓う! だからたまに僕の力にもなってね!」

 宣言するとすぐにトマスが続いてくれた。
 ひねくれたところのないトマスらしかった。
 こうして誓ってもらえると、友達として嬉しくて胸が熱くなった。

 一方でジュリオは、全校の誰もが尊敬する卒業主席の優等生とは思えないほどにまた大粒の涙を流して、袖でその整った顔を拭った。

「ぼ、僕は……役人として……生涯、グレイと、トマスと……ぅ……ぅぅ……ぅぁ……っ」
「ジュリオッ、がんばれーっ、がんばれーっ!」

 ジュリオはまるで子供みたいに泣いた。

「僕は……君たちの力になるよ……。僕たちは、ずっと、友達だ……。いや、今日からは、誓いを共にした盟友だ……っ! 僕は役人として、君たちを支えるっ! この素晴らしい友情に報いるためにっ!!」

 洗練されたシティーボーイのジュリオ・バロックもいいが、感極まって熱い涙を流すジュリオも友達がいがあってよかった。
 こっちまで目頭が熱くなって、つられ涙を流しそうになってヤバかった……。

 俺たちは互いを支え合うという盟約を交わして、この関係がこれからもずっと続くように願った。

「さてリチェル、そろそろ俺たちは帰るか。母さんとハンス先生へのお土産、何がいいかな……?」
「あ、グレイが涙声になった!」

「これは、つられ涙だ……」
「あはははっ、グレイが泣くなんて、なんか珍しいなぁ!」
「お兄ちゃん!」

 そんなに兄貴の泣き顔が気になるのか、リチェルに正面に回り込まれて、顔をそむけることにもなった。

「またね、グレイ。君に任せられそうな仕事はどんどん振ってゆくつもりだ。君が冒険者としての大成を望むなら、僕は役人としての出世や国の改革を目指すよ。僕が陰から君を支える」

「じゃあ僕はグレイとジュリオの力を借りて、偉い学者になる。またね、グレイ!」

 ジュリオとトマスに手を振って別れた。
 まだ名残惜しそうなリチェルの手を引いて、イザヤの校門を出た。

 それから昼食を済ませ、繁華街で山ほどの土産を買って、中央トラム駅から故郷に続くトラムに乗り込んだ。

 心地よい風を感じながら、俺たちは西へ西へと運ばれる。
 1人では車窓を楽しみようのない俺だが、隣にリチェルがいれば、空想の翼をいくらでも広げられた。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...