視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
87 / 107
再びイザヤへ

・再びイザヤへ - 幽霊たち -

しおりを挟む
「本当に幽霊なのか?」
「み、見ればわかるだろうっ! みんな透けているっ!」

「ならたぶん幽霊だな。……ん、なんだ、こいつら……お、おっとっ!?」

 1人の女生徒の影がこちらに駆けて来た。
 相手はこちらが見えていないのかもしれん。

 ぶつかりそうになったところを避けようとすると、その影は俺の身体をすり抜けて、本校舎の方に消えていった……。
 いや訂正しよう。その女子生徒の影は消えながら消えていった……。

「グ、グレイボーン……」
「ボンと呼んでくれ」

「ボ、ボン……お、お化けだ……」
「そうみたいだな。ありゃお化けであり幽霊だな」

「ぅ…………」
「……先輩? いやまさか、お化けが苦手だなんて、そんなかわいらしいこと言わないでくれよ?」

「そ、そっちこそ、なんで平気なんだ……っ!?」
「なんでと言われても」

「こんな、得体の知れない……怖いだろうっ、普通は……っ!」

 先輩はあれだけ強いのに、こんなものに何を怖がる必要があるんだ?
 先輩はいつだってカッコイイが、意外とかわいいところもあるものなんだな……。

 震える先輩を尻目に俺は幽霊たちを観察した。
 すると気付くことがあった。

「こいつら、俺の知ってるやつらだ」
「ぇ……」

 今、小さな声を上げたのはカミル先輩だろうか……?
 そんな小さな女の子みたいな声を出されたら、誰の声かわからなくなる。

 行き交う幽霊たちは俺たちを無視して言葉を交わし、イザヤでの日常を今も謳歌していた。

「こいつらはイザヤの在校生だ」
「ど、どういう、こと……? みんな、死――いや、ごめん……でも、何がどうなっているんだ……」

「落ち着け、先輩」

 ついリチェルにしている習慣で、先輩の手をやさしく握ってしまった。
 聞き手の右はガサガサ、左手はスベスベ。先輩は不思議な人だった。

「ただ……妙だな……。こいつら、俺の知ってるイザヤの連中そのものだ……」
「そんなの当然だろ……っ。手、離して……っ」

「ああすまん、つい癖でな。だがこいつら、こいつらの中に……おかしいな」
「だからっ、何が……っっ!?」

「いや……もう卒業しているはずの、先輩方の声が混じっている……」
「ぇ…………」

 だとしたらこれは――幽霊ではないな。
 まだ断定は出来ないが、こいつらは過去の何か・・ではないだろうか。

 たとえば、オカルト用語で言うところの残留思念だとか、あるいは録画された映像だとか。

 とにかく先輩方がいる以上、こいつらは本人ではない。
 本物の先輩方はここを門出して、今は社会でエリートとして活躍しているからだ。

「フ……フフ……ッ」
「先輩?」

「はぁ……っっ、怖がって、損したよ……。つまり彼らは幽霊ではない、ということだよね……っ!?」
「さすが先輩だ、気付くのが早い」

 そう返しながら、俺は重弩を構えながら実習棟の内部に入った。
 するとあれだけ怖がっていたカミル先輩が前に出てくれた。

「奥はまだ霧が深い。何かがあるとすれば、霧の濃い方角だね。進むかい?」
「ああ、もう少し奥を見てから報告したっていいだろう。……俺たちは集団戦が苦手なんだからな」

「それに君がいればどんな怪物も一撃だ。不意打ちだけ注意して行こう」

 そう決まり、俺たちは霧を追って実習棟を歩いた。
 この実習棟でかつての俺は、工学などの専門的な学問を教わった。

 イザヤの学生たちの影は、薄く立ちこめる霧を気にも止めず廊下を行き交う。
 楽しそうに笑う者、ふざける者、雑談を交わす者。当時の流行話。全てが記憶のままだった。

 もしセラ女史の策略で予定が狂わず、ここにもう1年通えたら……。
 そんな有り得たかもしれない幻想が脳裏に浮かび、頭から振り払うことになった。

「ボン、霧の発生源はこの教室だ」
「ここか。ここは考古学の第一実習室だ、俺もよくここに通った」

「考古学……? 君が考古学だって……?」
「冒険者になった時に使えると思ってな。トマス――トーマスっていう同級生とジュリオと、ここで学んだ」

 2人ともいい同級生だった。
 そういえばトマスは、考古学の教授に気に入られていたな……。

「なら中を確かめよう。考古学がらみとなると、納得の出来る理由が見つかるかもしれない」
「そうなのか?」

「かもしれない、だよ。どちらにしろ中を見れば何かがわかるはずだ」

 先輩がそう言うので、俺は付近の下り階段の陰に移動した。
 そこから重弩を構えながら身を屈めて待機し、射撃の態勢を作った。

「いくよ」

 先輩の言葉にうなずいた。
 先輩は壁際に身を隠しながら、考古学実習室の扉を引き開く。

 すると再びあの深い霧が立ち込めた。
 真っ白な霧はどこまでも広がってゆき、またたく間に俺たちから視界を奪い取った。

 とはいえ霧以外に何も変化はない。
 カミル先輩は重弩の射線に立つわけにもいかないので、どこかに身を隠しているのだろう。

「グレイ……? そんなところで、何をしているの?」
「……その声は、トマス、か?」

 何も見えない濃霧の中で、トマスの声だけが響くように聞こえた。

「ちょ、ちょっと、それって……君のあのいしゆみっ?! な、なんでこっちに向けているのっ!?」
「緊急事態だからだ。よくわからんが、とにかくこっちに来い、トマス」

 霧で何も見えない中、トマスの男子にしては軽い足音がこちらにやって来た。

 ああ、トマスが無事でよかった。
 最近あまりかまって貰えなくて、友達として寂しかった。

 どんな嫌みを言ってやろうかと、俺は安堵に下がっていた顔を上げた。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...