視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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再びイザヤへ

・再びイザヤへ - 消えた学生たち -

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「突破口を確認! これより我ら突入隊は作戦を決行する! 案内役のグレイボーンに続き、イザヤ学術院になだれ込め!!」

 突入隊の指揮官はグレッグ大佐だ。

「視力0.01の俺がまさかガイドをすることになるとはな……。まあいい、付いて来てくれ!」

 イザヤの敷地ならば俺が最も詳しい。
 俺はグレッグ大佐とカミル先輩に左右を守られながら、ガイドとして懐かしのイザヤ校門を駆け抜けた。

 セラ女史のせいで、無惨にも正門は吹き飛び、彼方でひしゃげ、オシャレな石畳に大きなクレーターが2つも出来ている。
 イザヤの知恵のカラス? もはや跡形もない。

「お兄ちゃん、がんばれーっ! ジュリオッ、助けてーっ!」
「ピィーッッ♪」

 後ろを振り返ると、空中で美味しいキラキラを踊り食いする子竜の姿が見えた。
 いや具体的には見えないが、白いのがご機嫌でしきりに鳴き、縦横無尽に空を飛び回っていることだけは確かだった。

 突入してみたところ、イザヤの学内にこれといった大きな変化はない。
 空と3方向を深い霧に覆われているため日暮れのように薄暗かったが、破壊や殺戮の痕跡はどこにもない。

「というわけだけど、安心したかい?」
「ああ……」

 そうカミル先輩に教えてもらった。
 外があの状態なのに、内側が無傷というのも妙な気もしたが……。
 きっとそういうこともあるのだろう。

 俺は突入隊を率いて正門から回廊に入り、校舎の前まで彼らを誘導した。

「手分けか。僕は賛成だけど、土地勘のあるグレイボーンの意見が聞きたいな?」
「俺も部隊を分けるべきだと思う。ここは広い、全域を回るのは面倒だ」

 そこまで到着すると、作戦を変更してそこで部隊を3つに分けることになった。
 モンスターの気配が全くないので、固まって動く必要がなくなったからだった。

「では我々は本校舎を、分隊は学生寮を調べる。グレイボーンとカミルくんには実習棟を任せた」
「了解だ、彼のことは僕に任せてくれ」

 俺とカミル先輩は兵士として見ると、扱いづらいどころではない規格外品だ。
 仲間が増えれば増えるほどに、俺たちはそれだけ動きにくくなる。

「では後ほど本校舎で合流するように! 各隊散開!」

 部隊が分けられ、俺たちは本校舎に入った。
 目指すは実習棟に通じる渡り廊下だ。
 大佐たち本体とも別れ、校舎をカミル先輩と並んで駆けた。

「本当にマレニアにそっくりだ……」
「ああ、建物の構造はほぼ同じだな。いつもは、こんなに不気味じゃぁないんだが……」

 結界の外はまだ正午前だというのに、ここはまるで宵時のように薄暗い。
 そんな暗闇の廊下を先輩と俺は進み、本校舎2階に上がった。

 階段を上がると窓のある渡り廊下が見えた。
 その渡り廊下を抜ければ、その先が実習棟だ。

「さっきから妙だ……。イザヤの生徒は、どこに消えた……?」

 声を低くしてカミル先輩がそう言った。

「どこかに隠れているんじゃないか? 俺なら学生寮にでも閉じこもる」
「君はね。でも皆が皆そうとは限らない」

「まあそうだな」
「なぜどこもかしこも無人なんだい……? これはおかし――あっ?!」

 渡り廊下を抜けて、実習棟に続く扉を開いた。
 するとその扉の奥から、結界の外でも立ちこめていたあの濃い霧が吹き出して来た。

 それを見て背筋がゾクリと震えた。
 カミル先輩は剣に手をかけ、俺もまた重弩を上げてトリガーに指をかけていた。

「出来の悪いホラーみたいだ。先輩、行けそうか?」
「ダメだ、霧が深くて奥が何も見えない……。ここを進むのは危険かもしれない……」

「ならあれだ、セラ女史がやったように、学校に火でも放つか?」

 冗談のつもりだった。
 だけどカミル先輩は黙り込んだ。

「セラ教官と君は、かなり似通ったところがあると思う……」
「さすがにそれは不服だ。俺はあんな暴君じゃない」

「そうかな……」
「そうだとも」

「やることなすこと強引で、メチャクチャなところが、そっくりなような……」
「公園や議員宿舎を焼く人と同列は、さすがに畏れ多いだろ」

「僕から見れば君の方が驚きに満ちているよ。……グレッグ大佐に報告しよう。この先がたぶん、原因・・だ、グレイボーン」
「ああ」

 都の中心部に霧が立ちこめて、イザヤ学術院を霧の結界が覆った。
 そしてその内部に突入すると、今度は実習棟からドライアイスみたいに濃い霧が漏れていた。

 この先に原因となる何かがある。
 カミル先輩の推理は妥当だった。
 状況的に、この先に何もないはずがないだろう。

「待った」
「ん、何かな?」

「俺の名前、やはり長いな……」
「こんな時に君は何を言ってるんだ……?」

「いい機会だ、これからはレーティアのように、俺をボンと呼んでくれ。短い方が聞き分けやすい」
「え、うん……? ボン……こうかい?」

 カミル先輩は突然のことに戸惑い気味だった。
 だがこっちは人に壁を作ってばかりの先輩に略称で呼ばれると、さらに親しくなれたような気分になった。

「ああ、なかなか悪くないな、先輩」
「そうかい……? ……ボン?」

「ああ、少なくとも俺は気に入った」
「こっちはなんだか気恥ずかしいよ……」

 普段クールで強気なカミル先輩とは思えない反応で、俺は先輩の様子にしばらく気を取られてしまった。

「とにかくグレッグ大佐に報告に戻ろう。ん……なんだ、急に霧が…………え……?」

 ところが先輩の言葉に引き返そうとしたところで、実習棟の霧が途端に晴れた。
 いやそれどころか、俺たちは見てしまった。

 学生たちの人影が突然現れ、廊下を忙しなく行き交い始めるという突然の怪奇現象を。

「な、なんだ、これは……っ!? これは、まさか……ゆ、幽、霊……っ?!」

 幽霊と言われても困る。
 何せ見えん。
 詳しくは見えんので俺には恐怖のしようがなかった。
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