85 / 107
再びイザヤへ
・再びイザヤへ - 父親から娘へ -
しおりを挟む
「困りますよ、セラ教官……っ。結界剥がし液はご禁制! なぜそれがここにあるのですか……っ!?」
しかもその結界剥がし液は、議員先生の反応からしてなんか法律上ヤバい物らしい。
まあでも、少し考えてみればそうだろう。
こんな物が市場にあふれたら、国中の封印という封印が暴かれて大変なことになる。
臭い物に結界なファンタジー世界からすれば、その液体は超危険物だった。
「先日、幸運にも市街地で拾いました。何者かが隠し持っていたようですね」
んなわけあるかよ。
「そ、そうですか……。そうなん、ですね……」
「きっと窮地に陥った私たちへの、神からの賜り物でしょう」
「どうせ女史の私物だろ」
禁句なのはわかっていたが、とても突っ込まずにはいられなかった。
「き、君っ!? なんということを言うんだね……っ!? か、仮に思っていてもだねっ、それは言ってはならんよ……っ?!!」
女史は否定しなかった。
他の議員先生方は見て見ぬ振りをして、グレッグ大佐も両翼の指揮に忙しい。
たまたま落ちていたことにするのが一番だった。
「へへへーっ、パリパリーッ♪ ほわぁーっ、これっ、楽しーいっっ!」
「次、わたくしっ、わたくしにやらせて下さいましっ!」
手ぬぐいで液を霧の壁に塗って、少し待ってヘラでこそぎ取る。
シールや塗料剥がしよりはずっと綺麗で遊びがいがある。
なんか思っていたやつと違っていて、建前社会の片鱗を見せられたりもしたが、まあまあ面白い作業かもしれなかった。
「ん……?」
「ピィピィ……♪」
「ん、んん……?」
なんか足下に小さな気配がある……。
正体になんとなく察しが付いていたが、確認のために顔を近付けみると、やはりそれはうちの子だった。
白いふわふわの竜が口を開けて、結界の欠片が落ちてくるのを雛鳥のように待っていた。
「おい、腹壊すぞ……?」
「わぁーっ! リボンちゃん、鳥さんのヒナちゃんみたいで、かわいい……っ!」
「リチェル、しばらく指輪に引っ込めたらどうだ……?」
「え……。でもー……パパからご飯貰えて、リボンちゃん、嬉しそうだよー……?」
「ピィッ、ピィィーッ♪」
「ていうか、美味いのか、それ……?」
「キュィーッ♪」
「わ、わたくしにもっ、わたくしにもやらせて下さいませーっ!」
こちらのパリパリが全て落ちると、子竜はリチェルの方に寄ってまた口を空に向けて開けた。
大丈夫なのか心配になって女史に呼ぶと、全く問題ないとの回答だった。
むしろいい実験台になるので続けるようにと、そう言われた。
「霧のブレスを吐くようになったら、ちょっと素敵ですわね……」
「それっ、リチェルも同じこと思ったー! へへーっ、そしたらレーティアちゃん、ビックリさせられるねーっ!」
小さな竜は口から青白い粒子を漏らしながら、俺の足下にやって来てまた口を開けた。
「こらっ、それは俺の手だ、噛むな……っ!」
「ピィィ……ッ♪」
今は撫でてもらうことよりも、美味しいキラキラのパリパリを食べることに夢中のようだった。
・
軍と議員様とカミル先輩に守られながら、2時間ほど塗り塗り、パリパリをしてゆくと、ついにパリンと結界に亀裂が走った。
霧の結界はまるで舞台の書き割りであったかのように大きなヒビが入り、小さな穴の向こうにイザヤの正門をのぞかせていた。
「上出来です。突入隊、準備をなさい。貴方もです、グレイボーン」
「ああ、この時を待っていた」
隣のリチェルの頭を撫でて、俺は重弩を抱えて立った。
「ピィ……ピィィ……」
「気を付けてね、お兄ちゃん……?」
「誤射したら承知しませんことよ?」
リボンちゃんが羽ばたいて胸に突っ込んでくると、時間差でそこにリチェルまで加わった。
「そこは俺を操るカミル先輩次第だな。リチェル、ジュリオとトマスを必ず連れて戻るよ」
「うん……! ジュリオとトマス、助けて!」
「お兄ちゃんに任せろ」
俺はリボンとリチェルを慰め、コーデリアに明るく笑いかけて1人と1匹を任せて、その場を離れた。
連れて行くにはどちらも幼過ぎた。
突入隊の編成が終わると、結界で作業していた魔法使いたちがそこを離れた。
穴は子供1人分ほどの大きさになっていたが、部隊が突入するには小さい。
そんな状況下でちょっとした出来事があった。
「あ、お父さん!」
ハンス先生がリチェルの隣にやって来た。
「リチェル、よかったらこれを……」
あのアルミのように軽く綺麗な銀の杖を、リチェルに託すためだった。
「これはね、お父さんが昔使っていた杖なんだ。古くさくて気に入らないかもしれないけど……それでももし、気に入ってくれたのなら……リチェルが使ってくれないかな?」
ハンス先生はとてもいい父親だ。
リチェルが満開の笑顔で喜ぶと、先生は娘の両手に銀の杖を握らせて笑い返した。
「お父さんの杖、ピカピカしてきれーっ!」
「そうかい……?」
「あーーっ、それにこれっ、すーごく軽いよーっ!? わぁーっ、なにこれーっ!?」
「それは当時非力だった僕のために、両親が特注で……あ、いや……」
「リチェル、会ってみたい! リチェルのお爺ちゃんとお婆ちゃん!」
「それはどうかな……はは……」
リチェルはハンス先生から、あの軽い銀色の杖を受け継いだ。
ハンス先生は両親にリチェルを会わせたくないらしい。
そうして親子による杖の継承が終わると、リチェルはセラ女史と共に、壊れかけの結界にその杖を向けた。
「いいですか、リチェルさん?」
「はいっ、セラせんせーっ!」
「あそこに、同時にメテオを叩き込みますよ。いいですか、いきますよ?」
「うんっ、がんばる! いつもでもどーぞっ!」
いや、待て、メテオ……?
そんな危険な魔法をダブルでぶち込んだら、イザヤの校門が吹っ飛ばないか……?
いくら非常事態とはいえ、なんで、誰も止めないんだ……?
「なあ女史、ここでメテオをぶち込む必要って、本当にあるのか……?」
誰も止めないので俺が聞いてみた。
「イザヤを吹っ飛ばせたらただそれだけで気持ちがいい。それ以外の理由が必要ですか?」
クソみたいな理由だった……。
「ここは俺の母校でもあるんだが?」
「それはついていませんでしたね。では行きますよっ、リチェルさんっ!」
「は、はいっ!」
「ちょ、止めろっ、校門には知恵の象徴であるカラスの彫像が……っっ!!」
ぶっ壊れたら気持ちいいんだろうな、この人は……。
「メテオッ!!」
「め……めておーーっ!!!」
かくしてイザヤ学術院の正門と知恵のカラスは、結界ごとメテオの標的にされた。
星の世界より召喚されし2つの隕石が、飛行機でも降ってくるかのような凄まじい轟音を辺りに轟かせて、結界とその向こう側の正門へと降りそそいだ。
安っぽい表現になるがそれは――
『ゴゴゴゴゴゴゴ……ドゴォォォォーーーーンッッ!!!!』
といったオノマペトがよく似合う、もはややり過ぎってレベルじゃねー、テロ攻撃にも等しい暴挙だった……。
当然、結界は吹っ飛んだ。
そりゃあな、壊れかけていたし、メテオ2発分だ!
これにより正門部分の霧の結界は粉々に砕け散り、青白い破片や粒子となって辺りに飛び散ることになった。
しかもその結界剥がし液は、議員先生の反応からしてなんか法律上ヤバい物らしい。
まあでも、少し考えてみればそうだろう。
こんな物が市場にあふれたら、国中の封印という封印が暴かれて大変なことになる。
臭い物に結界なファンタジー世界からすれば、その液体は超危険物だった。
「先日、幸運にも市街地で拾いました。何者かが隠し持っていたようですね」
んなわけあるかよ。
「そ、そうですか……。そうなん、ですね……」
「きっと窮地に陥った私たちへの、神からの賜り物でしょう」
「どうせ女史の私物だろ」
禁句なのはわかっていたが、とても突っ込まずにはいられなかった。
「き、君っ!? なんということを言うんだね……っ!? か、仮に思っていてもだねっ、それは言ってはならんよ……っ?!!」
女史は否定しなかった。
他の議員先生方は見て見ぬ振りをして、グレッグ大佐も両翼の指揮に忙しい。
たまたま落ちていたことにするのが一番だった。
「へへへーっ、パリパリーッ♪ ほわぁーっ、これっ、楽しーいっっ!」
「次、わたくしっ、わたくしにやらせて下さいましっ!」
手ぬぐいで液を霧の壁に塗って、少し待ってヘラでこそぎ取る。
シールや塗料剥がしよりはずっと綺麗で遊びがいがある。
なんか思っていたやつと違っていて、建前社会の片鱗を見せられたりもしたが、まあまあ面白い作業かもしれなかった。
「ん……?」
「ピィピィ……♪」
「ん、んん……?」
なんか足下に小さな気配がある……。
正体になんとなく察しが付いていたが、確認のために顔を近付けみると、やはりそれはうちの子だった。
白いふわふわの竜が口を開けて、結界の欠片が落ちてくるのを雛鳥のように待っていた。
「おい、腹壊すぞ……?」
「わぁーっ! リボンちゃん、鳥さんのヒナちゃんみたいで、かわいい……っ!」
「リチェル、しばらく指輪に引っ込めたらどうだ……?」
「え……。でもー……パパからご飯貰えて、リボンちゃん、嬉しそうだよー……?」
「ピィッ、ピィィーッ♪」
「ていうか、美味いのか、それ……?」
「キュィーッ♪」
「わ、わたくしにもっ、わたくしにもやらせて下さいませーっ!」
こちらのパリパリが全て落ちると、子竜はリチェルの方に寄ってまた口を空に向けて開けた。
大丈夫なのか心配になって女史に呼ぶと、全く問題ないとの回答だった。
むしろいい実験台になるので続けるようにと、そう言われた。
「霧のブレスを吐くようになったら、ちょっと素敵ですわね……」
「それっ、リチェルも同じこと思ったー! へへーっ、そしたらレーティアちゃん、ビックリさせられるねーっ!」
小さな竜は口から青白い粒子を漏らしながら、俺の足下にやって来てまた口を開けた。
「こらっ、それは俺の手だ、噛むな……っ!」
「ピィィ……ッ♪」
今は撫でてもらうことよりも、美味しいキラキラのパリパリを食べることに夢中のようだった。
・
軍と議員様とカミル先輩に守られながら、2時間ほど塗り塗り、パリパリをしてゆくと、ついにパリンと結界に亀裂が走った。
霧の結界はまるで舞台の書き割りであったかのように大きなヒビが入り、小さな穴の向こうにイザヤの正門をのぞかせていた。
「上出来です。突入隊、準備をなさい。貴方もです、グレイボーン」
「ああ、この時を待っていた」
隣のリチェルの頭を撫でて、俺は重弩を抱えて立った。
「ピィ……ピィィ……」
「気を付けてね、お兄ちゃん……?」
「誤射したら承知しませんことよ?」
リボンちゃんが羽ばたいて胸に突っ込んでくると、時間差でそこにリチェルまで加わった。
「そこは俺を操るカミル先輩次第だな。リチェル、ジュリオとトマスを必ず連れて戻るよ」
「うん……! ジュリオとトマス、助けて!」
「お兄ちゃんに任せろ」
俺はリボンとリチェルを慰め、コーデリアに明るく笑いかけて1人と1匹を任せて、その場を離れた。
連れて行くにはどちらも幼過ぎた。
突入隊の編成が終わると、結界で作業していた魔法使いたちがそこを離れた。
穴は子供1人分ほどの大きさになっていたが、部隊が突入するには小さい。
そんな状況下でちょっとした出来事があった。
「あ、お父さん!」
ハンス先生がリチェルの隣にやって来た。
「リチェル、よかったらこれを……」
あのアルミのように軽く綺麗な銀の杖を、リチェルに託すためだった。
「これはね、お父さんが昔使っていた杖なんだ。古くさくて気に入らないかもしれないけど……それでももし、気に入ってくれたのなら……リチェルが使ってくれないかな?」
ハンス先生はとてもいい父親だ。
リチェルが満開の笑顔で喜ぶと、先生は娘の両手に銀の杖を握らせて笑い返した。
「お父さんの杖、ピカピカしてきれーっ!」
「そうかい……?」
「あーーっ、それにこれっ、すーごく軽いよーっ!? わぁーっ、なにこれーっ!?」
「それは当時非力だった僕のために、両親が特注で……あ、いや……」
「リチェル、会ってみたい! リチェルのお爺ちゃんとお婆ちゃん!」
「それはどうかな……はは……」
リチェルはハンス先生から、あの軽い銀色の杖を受け継いだ。
ハンス先生は両親にリチェルを会わせたくないらしい。
そうして親子による杖の継承が終わると、リチェルはセラ女史と共に、壊れかけの結界にその杖を向けた。
「いいですか、リチェルさん?」
「はいっ、セラせんせーっ!」
「あそこに、同時にメテオを叩き込みますよ。いいですか、いきますよ?」
「うんっ、がんばる! いつもでもどーぞっ!」
いや、待て、メテオ……?
そんな危険な魔法をダブルでぶち込んだら、イザヤの校門が吹っ飛ばないか……?
いくら非常事態とはいえ、なんで、誰も止めないんだ……?
「なあ女史、ここでメテオをぶち込む必要って、本当にあるのか……?」
誰も止めないので俺が聞いてみた。
「イザヤを吹っ飛ばせたらただそれだけで気持ちがいい。それ以外の理由が必要ですか?」
クソみたいな理由だった……。
「ここは俺の母校でもあるんだが?」
「それはついていませんでしたね。では行きますよっ、リチェルさんっ!」
「は、はいっ!」
「ちょ、止めろっ、校門には知恵の象徴であるカラスの彫像が……っっ!!」
ぶっ壊れたら気持ちいいんだろうな、この人は……。
「メテオッ!!」
「め……めておーーっ!!!」
かくしてイザヤ学術院の正門と知恵のカラスは、結界ごとメテオの標的にされた。
星の世界より召喚されし2つの隕石が、飛行機でも降ってくるかのような凄まじい轟音を辺りに轟かせて、結界とその向こう側の正門へと降りそそいだ。
安っぽい表現になるがそれは――
『ゴゴゴゴゴゴゴ……ドゴォォォォーーーーンッッ!!!!』
といったオノマペトがよく似合う、もはややり過ぎってレベルじゃねー、テロ攻撃にも等しい暴挙だった……。
当然、結界は吹っ飛んだ。
そりゃあな、壊れかけていたし、メテオ2発分だ!
これにより正門部分の霧の結界は粉々に砕け散り、青白い破片や粒子となって辺りに飛び散ることになった。
1
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
愛しのお姉様(悪役令嬢)を守る為、ぽっちゃり双子は暗躍する
清澄 セイ
ファンタジー
エトワナ公爵家に生を受けたぽっちゃり双子のケイティベルとルシフォードは、八つ歳の離れた姉・リリアンナのことが大嫌い、というよりも怖くて仕方がなかった。悪役令嬢と言われ、両親からも周囲からも愛情をもらえず、彼女は常にひとりぼっち。溢れんばかりの愛情に包まれて育った双子とは、天と地の差があった。
たった十歳でその生を終えることとなった二人は、死の直前リリアンナが自分達を助けようと命を投げ出した瞬間を目にする。
神の気まぐれにより時を逆行した二人は、今度は姉を好きになり協力して三人で生き残ろうと決意する。
悪役令嬢で嫌われ者のリリアンナを人気者にすべく、愛らしいぽっちゃりボディを武器に、二人で力を合わせて暗躍するのだった。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる