83 / 107
再びイザヤへ
・再びイザヤへ - 来ちゃった -
しおりを挟む
入れなかったそうだ。
イザヤ学術院の外周全てに、進入を拒む霧の壁が発生し、救援隊は弾き返されてしまった。
それを聞いて俺は少しホッとした。
全滅の報告よりはずっとよかった。
女史とグレッグ将校と議員たちは話し合いを始め、俺はカミル先輩と見晴らし台に戻った。
「大活躍だったそうじゃないか、黄色い声が聞こえたぞ」
「意外だ……心底意外だよ……。敵だ、撃てっ!」
「全く見えんがヨシッ!!」
夜に入っても議員宿舎と市民公園はまだ燃えている。
さらには狙撃のためのかがり火が四方に配置され、こんな時間だがまだまだ敵をぶち抜けた。
やはりスポッターがいると非常に楽だ。
独りでも狙撃そのものは勘任せでいけるんが、それが撃っていい相手とは限らない。
それを信頼するカミル先輩が示してくれると、迷うことなく重弩のトリガーを弾けた。
「イザヤの件、困ったね……。ジュリオさん、無事だといいのだけど……」
「そうだな……。ところで……」
「西かがり火に敵発見っ、撃てっ!!」
「ヨシッッ!!」
俺たちは敵を狙撃しながら、気ままに言葉を交わした。
議事堂が拠点に選ばれたのは堅牢さもあるが、ここに重弩が設置されていたからだろう。
ここならば重弩用の矢の備蓄があるため、補充が容易だった。
「グレイボーン、さっき、何を言おうとしたんだ?」
「ああ……イザヤの霧なんだが。報告を聞く限り、この霧と同じものなんじゃないのか?」
「有り得るね」
「イザヤが霧の真ん中だと言っていたやつもいた。なら――」
「発生源はイザヤ学術院……? そう言いたいのかい?」
「そうだ。セラ女史も同じ仮説に行き着いているはずだ。イザヤ学術院の中に、この怪異の原因があるんじゃないか?」
「だが中に入れない。どうする?」
「さあな、それを考えるのは俺たちの仕事じゃない。女史とか頭のいいやつに任せておけばいい」
そんな結論を出したところで、最後の矢が切れた。
外からまとまった数が回収されるまで、しばらく休憩だ。
俺たちは見晴らし台を下り、打ち止めの報告をした。
「今日はもう休みなさい。霧の発生源はイザヤ学術院です」
「本当か? それは驚いた」
「結界破りの人員をこちらに呼び寄せています。結界の破壊に成功次第、突入します。鋭気を養っておくように」
「了解です、教官」
「そこの部屋にソファーがあります。2人はそこを使いなさい」
「誰かさんが議員宿舎を焼き払ったからな」
「ええ、なかなかあれは快感でした」
「だろうな……」
その日はカミル先輩とソファーを半分こにして寝た。
先輩は自分の危険な力が友人に及ぶ可能性を危惧したが、こっちはそんなの気にしない。
お先に寝させてもらった。
・
俺はリチェルの保護者だ。
ジュリオとトマスのために隣を離れたが、俺はリチェルの安全を常に願っている。
「お兄ちゃんっ、リチェル、来ちゃったーっ!」
「な……なん、だと……!?」
しかし翌朝、補充された矢を気持ちよくぶっ放していると、議事堂に早朝の来客があった。
「公園を焼き払ったのは貴方ですわねっ、わたくしには、わかりますのよっ!」
他でもない、リチェルとコーデリアだった……。
まさか、結界破りの、人員って……。
「や、やあ……は、ははは……」
「なんでアンタまでいるんだ、ハンス先生……」
「呼び出されたんよ、あの人に……」
「女史か?」
「他にいないよっ!」
「リチェルは、お父さんに会えて嬉しい! お父さん、昔、魔法使いだったんだってーっ!」
「そりゃ驚いた。知らなかったな」
ちなみにリボンちゃんは指輪の中だ。
さすがに飛竜の子供を外には出せなかった。
他はというと、マレニアの魔法の先生たちもいた。
それと、いかにもやり手に見える若い魔法使いさんや、足腰の少し怪しいお婆さん魔法使いの姿まである。
召集出来るやつを手当たり次第にかき集めた、って感じだ。
充実したトラム網あっての緊急動員だった。
「呼んでいただけて嬉しいわぁ、セラ教官」
「来て下さり助かりました。後ほど親交をあ暖めるといたしましょう」
今……。
50過ぎくらいの魔法使いに、セラ女史が教官と呼ばれていたように、俺の耳には聞こえたんだが……どうなっているんだ?
いや、ただ1つ確かなことがあるとすれば、それは召集された男たちが皆、漏れなくセラ女史に恐怖していたことだ。
セラ女史は、いったいいつからセラ教官なんだ……?
「サーモン・リボンッ!」
「ピィ……ッ! ピ!? ピィィーッッ!!」
「おっと……っ」
関係性に妄想を膨らませていると、青いサファイアの指輪から白いふわふわが現れた。
ソイツはまた俺の胸に体当たりをして、しがみついて、自分を抱かせた。
「リボンちゃん、寂しがってたんだよー。リボンのパパどこーって、探しに行こうとしてたの!」
「胸の痛くなる話だな……」
甘える小さな飛竜を慰めて、これから始まる突入作戦の覚悟を決めた。
「その不思議な竜、君の子なのかい……?」
ハンス先生にそう聞かれた。
ハンス先生には、父さんから母さんを奪われた恨みがある。
「ああ、リチェルと俺の愛の子だ」
「そ、そうかい……。ところで君、リチェルには……」
「さあ、どうだろうな? リチェルは最近、少し女らしくなった」
「ぼ、僕は君を信じているよっ、グレイボーンくんっ!?」
冗談だと笑い返すと、ハンス先生は心底ホッとしたのかガクリとうなだれた。
「約15分後に出発します。だべってないで準備を急ぎなさい」
「わかった。だがハンス先生はともかく、リチェルの安全は最優先で頼む」
「グ、グレイボーンくん……勘弁してよ……」
俺は甘えん坊の飛竜を肩に乗せて、重弩の再点検に入った。
「あら、不貞を働いた貴方が悪いのでは? まさか人妻を寝取るような男になるとは」
「すみません、勘弁してください……」
突入し、ジュリオとトマスを助け、怪異を終わらせて自分のベッドで眠る。
リチェルを勝手に呼ばれたのは女史に腹が立ったが、日常の奪還まであと一歩に見えた。
イザヤ学術院の外周全てに、進入を拒む霧の壁が発生し、救援隊は弾き返されてしまった。
それを聞いて俺は少しホッとした。
全滅の報告よりはずっとよかった。
女史とグレッグ将校と議員たちは話し合いを始め、俺はカミル先輩と見晴らし台に戻った。
「大活躍だったそうじゃないか、黄色い声が聞こえたぞ」
「意外だ……心底意外だよ……。敵だ、撃てっ!」
「全く見えんがヨシッ!!」
夜に入っても議員宿舎と市民公園はまだ燃えている。
さらには狙撃のためのかがり火が四方に配置され、こんな時間だがまだまだ敵をぶち抜けた。
やはりスポッターがいると非常に楽だ。
独りでも狙撃そのものは勘任せでいけるんが、それが撃っていい相手とは限らない。
それを信頼するカミル先輩が示してくれると、迷うことなく重弩のトリガーを弾けた。
「イザヤの件、困ったね……。ジュリオさん、無事だといいのだけど……」
「そうだな……。ところで……」
「西かがり火に敵発見っ、撃てっ!!」
「ヨシッッ!!」
俺たちは敵を狙撃しながら、気ままに言葉を交わした。
議事堂が拠点に選ばれたのは堅牢さもあるが、ここに重弩が設置されていたからだろう。
ここならば重弩用の矢の備蓄があるため、補充が容易だった。
「グレイボーン、さっき、何を言おうとしたんだ?」
「ああ……イザヤの霧なんだが。報告を聞く限り、この霧と同じものなんじゃないのか?」
「有り得るね」
「イザヤが霧の真ん中だと言っていたやつもいた。なら――」
「発生源はイザヤ学術院……? そう言いたいのかい?」
「そうだ。セラ女史も同じ仮説に行き着いているはずだ。イザヤ学術院の中に、この怪異の原因があるんじゃないか?」
「だが中に入れない。どうする?」
「さあな、それを考えるのは俺たちの仕事じゃない。女史とか頭のいいやつに任せておけばいい」
そんな結論を出したところで、最後の矢が切れた。
外からまとまった数が回収されるまで、しばらく休憩だ。
俺たちは見晴らし台を下り、打ち止めの報告をした。
「今日はもう休みなさい。霧の発生源はイザヤ学術院です」
「本当か? それは驚いた」
「結界破りの人員をこちらに呼び寄せています。結界の破壊に成功次第、突入します。鋭気を養っておくように」
「了解です、教官」
「そこの部屋にソファーがあります。2人はそこを使いなさい」
「誰かさんが議員宿舎を焼き払ったからな」
「ええ、なかなかあれは快感でした」
「だろうな……」
その日はカミル先輩とソファーを半分こにして寝た。
先輩は自分の危険な力が友人に及ぶ可能性を危惧したが、こっちはそんなの気にしない。
お先に寝させてもらった。
・
俺はリチェルの保護者だ。
ジュリオとトマスのために隣を離れたが、俺はリチェルの安全を常に願っている。
「お兄ちゃんっ、リチェル、来ちゃったーっ!」
「な……なん、だと……!?」
しかし翌朝、補充された矢を気持ちよくぶっ放していると、議事堂に早朝の来客があった。
「公園を焼き払ったのは貴方ですわねっ、わたくしには、わかりますのよっ!」
他でもない、リチェルとコーデリアだった……。
まさか、結界破りの、人員って……。
「や、やあ……は、ははは……」
「なんでアンタまでいるんだ、ハンス先生……」
「呼び出されたんよ、あの人に……」
「女史か?」
「他にいないよっ!」
「リチェルは、お父さんに会えて嬉しい! お父さん、昔、魔法使いだったんだってーっ!」
「そりゃ驚いた。知らなかったな」
ちなみにリボンちゃんは指輪の中だ。
さすがに飛竜の子供を外には出せなかった。
他はというと、マレニアの魔法の先生たちもいた。
それと、いかにもやり手に見える若い魔法使いさんや、足腰の少し怪しいお婆さん魔法使いの姿まである。
召集出来るやつを手当たり次第にかき集めた、って感じだ。
充実したトラム網あっての緊急動員だった。
「呼んでいただけて嬉しいわぁ、セラ教官」
「来て下さり助かりました。後ほど親交をあ暖めるといたしましょう」
今……。
50過ぎくらいの魔法使いに、セラ女史が教官と呼ばれていたように、俺の耳には聞こえたんだが……どうなっているんだ?
いや、ただ1つ確かなことがあるとすれば、それは召集された男たちが皆、漏れなくセラ女史に恐怖していたことだ。
セラ女史は、いったいいつからセラ教官なんだ……?
「サーモン・リボンッ!」
「ピィ……ッ! ピ!? ピィィーッッ!!」
「おっと……っ」
関係性に妄想を膨らませていると、青いサファイアの指輪から白いふわふわが現れた。
ソイツはまた俺の胸に体当たりをして、しがみついて、自分を抱かせた。
「リボンちゃん、寂しがってたんだよー。リボンのパパどこーって、探しに行こうとしてたの!」
「胸の痛くなる話だな……」
甘える小さな飛竜を慰めて、これから始まる突入作戦の覚悟を決めた。
「その不思議な竜、君の子なのかい……?」
ハンス先生にそう聞かれた。
ハンス先生には、父さんから母さんを奪われた恨みがある。
「ああ、リチェルと俺の愛の子だ」
「そ、そうかい……。ところで君、リチェルには……」
「さあ、どうだろうな? リチェルは最近、少し女らしくなった」
「ぼ、僕は君を信じているよっ、グレイボーンくんっ!?」
冗談だと笑い返すと、ハンス先生は心底ホッとしたのかガクリとうなだれた。
「約15分後に出発します。だべってないで準備を急ぎなさい」
「わかった。だがハンス先生はともかく、リチェルの安全は最優先で頼む」
「グ、グレイボーンくん……勘弁してよ……」
俺は甘えん坊の飛竜を肩に乗せて、重弩の再点検に入った。
「あら、不貞を働いた貴方が悪いのでは? まさか人妻を寝取るような男になるとは」
「すみません、勘弁してください……」
突入し、ジュリオとトマスを助け、怪異を終わらせて自分のベッドで眠る。
リチェルを勝手に呼ばれたのは女史に腹が立ったが、日常の奪還まであと一歩に見えた。
1
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない…
そんな中、夢の中の本を読むと、、、
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
転生幼女の怠惰なため息
(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン…
紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢
座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!!
もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。
全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。
作者は極度のとうふメンタルとなっております…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる