視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
79 / 107
再びイザヤへ

・再びイザヤへ - ふわふわの飛竜のいる冬 -

しおりを挟む
 12月に入ると、肌で感じられるほどに学内が慌ただしくなった。
 前期に続き、期末の現地実習が迷宮で行われることに決まり、マレニアの学生たちは少しでもいい成績を得ようと、水面下での勧誘活動を始めていた。

 俺たち一年生にあてがわれたのは、3人編成の迷宮だ。
 それもまあまあ実入りのいいところだそうだ。

 前回失態を冒した冒険者組合は、しばらくはマレニアに頭が上がらない。
 よってこういったことになったそうで、クラスの仲間たちも小金が稼げるかもしれないと喜んでいた。

「ボンちゃんおはよー」
「ああ、おはよう、レーティア」

「ちょいストップ! そこ凍ってるからひっくり返っても知らないよーっ!」
「そうか、助かった。そっちは雪かきか?」

「うん、感謝してよねー。夜明けからずーっと、やってあげてんだから!」

 都では一昨日から雪が降ったり止んだりとしている。
 その雪を10月頃に雇われた新人用務員が、息を白くして回廊からどけてくれていた。

 そう、セラ女史はレーティアを用務員として雇った。
 レーティアは来年、この若さでここの試験を受けるつもりだ。

 合格出来るかはわからないが、自分なりにやれるところまでやってみるそうだ。

「ねー、リチェルとあの子はー?」
「まだ寮だ」

「リボンの炎の息でさー、この雪どけてくれないかなー……」
「凍ったのが解けて、余計面倒になると思うが?」

「うーー、今年寒過ぎだよー! これじゃ訓練どころじゃないしー!」
「わかった、手伝おう」

「え、いいのーっ!? あっ、リボンだ! ねぇねぇっ、この雪、あの火で解かしてよーっ!」
「おい、止めろ、アイスバーンになるぞ!」

 また寮を抜け出して来たのか、白くてふわふわの飛竜がレーティアの視界を横切った。
 リボンはレーティアに懐いている。
 お子さま同士だからな。

「ピィッ♪」

 リボンは頼られたのが嬉しかったのか、鷹のように高い声で鳴いた。
 それから生後2ヶ月とは思えない飛翔能力で、レーティアがどかした雪の塊の前に飛んで来た。

 そして俺の話も聞かずに、その雪に炎のブレスを吐いたとくる……。

「あははっ、すっごーーいっ!!」
「止めろ、お前らっ、女史にまた叱られるぞ……っ!」

 雪は見る見るうちに液体となり、調子に乗ったリボンは除雪された雪を次々と解かし回っていった。

「ピィィ……フゥ、フゥ……」

 だが竜はすぐにガス欠になった。
 疲れた竜は体当たりをするように俺の胸に飛び込み、甘え上手にも自分を抱かせた。

「ほら言わんこっちゃない、アイスバーンになるぞ、これ……」
「でも一応消えたし、いいじゃん」

「よくねーよ……」

 雪は枯れた芝生の上で、解けかけのグズグズのシャーベットになっている。
 俺は甘えん坊の竜を撫でて、その子をレーティアに抱かせて、除雪に使っていたスコップを奪った。

 こうなったら固まる前に、人の通らない端っこに寄せるしかない。

「よーしよし、ありがとうなー、リボン!」
「ピィー♪」

 余計な仕事を増やしただけじゃないか……。
 とは言えん。
 リボンは人の言葉がわかるようだった。

「あーーっ、いたーーっっ!! もーっ、勝手に外出ちゃダメって、言ってるでしょーっ!」
「あ、逃げたー」

 そこにリチェルが現れた。
 消えたリボンちゃんを捜していたようだ。

「こらーーっ、リチェルの言うこと聞きなさーいっ!」
「リチェル、指輪の力を使ったらどうだ? ステイ・リボンだ」

「可哀想だからダメーッ!」
「そうか」

 逃げる子竜を追ってリチェルは走り出した。

「あっ、そこっ!」

 そこは凍っているところだと、さっきレーティアに教わった。
 俺はスコップを捨てて駆けた。

「あ……っ?!」

 後ろにひっくり返りかかっていた妹に飛びかかり、寸前のところでどうにか抱き支えた。

「ナイス、ボンちゃんっ!」
「あわわわ……び、びっくりしたぁ……」

 今年の冬は異常だ。
 軽いリチェルをわざわざ下ろすのもなんなので、このまま通学してしまおうか。

「ピィ……?」
「あはは、戻って来たじゃん。リボンはいい子だなー!」

 そう考えていると、白いふわふわが引き返して来て、今度はリチェルの腹の上で丸まった。

「もーっ、心配させないでーっ!」
「過保護過ぎないか?」
「はぁー? それボンちゃんが言っていいセリフじゃないんだけどー?」

 まったくもってその通りだな。
 だがそれはそれ、これはこれだ。
 改める気は欠片もない。

 俺はそのまんま、竜とお子さまを抱いて教室まで通学した。
 その日はそんな寒い冬の日だった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

処理中です...