視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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マレニアの二学期

・誕生の夜 - しっとりふわふわだ -

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 うっかり女子寮の廊下をスキップの鼻歌交じりで通過してしまったが、問題ない。
 いくら白い目で見られようとも、こっちは、見えん! からだ。

 俺は夜の正門を乗り越えると、近所のセラ女史のお宅を訪ねた。

「はーい、どなたですかー?」

 正門の呼び鈴を鳴らすと、どこかで聞いたような低い声がして、夜中なのに応対に出てくれた。

「夜分すまない、だが怪しい者ではない。俺はマレニアの生徒のグレイボーン・オルヴィン。セラ女史に報告したいことがあるんだ」
「むぅ……っ!?」

「ん、なんだ?」
「貴様……もしや……。もしやっ、見えておらんなっ!?」

「ああよくわかったな、俺は目が悪い。すまんが取り次ぎを頼む」
「む、うむ、しばし待て……。だが決して、ワシに顔を近付けてはならぬぞ……」

「気を付ける。セラ女史にはそれでよく殴られるからな」

 どこかで聞き覚えのあるおじさんが取り次ぎをしてくれると、家の方からバタバタと音が鳴って、すぐにセラ女史が現れた。

「でかしました、すぐに参りましょう」
「ああ、そうしよう」

「ちょっと、貴方は来ないのですかっ!?」
「い、行けぬっ!!」

「情けない……それでも男ですか!」
「尻に敷かれているなどと知られたらっ、ワシ、明日から学校いけないもん……っっ」

 ご親族との関係はよくわからんが、早くしてほしい。

「……参りましょう。アレは、どのような個体になりましたか?」
「そうだな……。一言で言うなら……しっとりふわふわだ」

「意味がわかりません」
「白い羽毛が生えた」

「は? ますますわかりません」
「セラ女史がそう細工したんじゃないのか? ふわふわの竜になった」

「竜と言えば超硬質の鱗に覆われているものです。もし羽毛が生えているというなら、それは竜ではなく鳥です」

 想定外の結果らしい。
 とにかく見た方が早いと説明して、俺はセラ女史を部屋へと連れて行った。

 女子寮から鼻歌とスキップで出て行った男が、マレニアの影番であるセラ女史を連れて帰って来た。
 これはこれでミステリーだったろう。


 ・


 その後は大変だった。
 リボンを目にした女史は普段の強圧っぷりが嘘のようにやさしく母性にあふれ、さらには興奮に舞い上がっていた。

 それが落ち着くと、俺は女史のお宅に拉致された。
 魔力の供給元のデータ取りだの、正確なレポートだのなんだのと、拘束されまくった。

 当然、寝かせてなんてもらえなかった。

 そんな夜がようやく明けた。
 西の空がうっすらと白くなり始めた頃に、女史のお宅から解放された俺は女子寮に戻り、すっかり冷たくなったベッドで目を閉じた。

 ところがだ。
 俺の安眠はほどなくして破られた。
 何かがガサガサと、部屋の片隅で音を立ててうごめいていることに気付いてしまった……。

 一般的な飛竜は、肉を中心にネギ以外は食うと聞いた。
 ネギだけは竜には有毒だからダメだそうだ。

 ……猫か?
 いや、これはネギだけがダメで、他はなんだって食ってしまうということでもある。

 たとえば、人間だとか……。
 ガサガサ、ゴソゴソと、バリバリと、不気味な音が早朝の室内に響いている。

「おい、リボンちゃん、何やってるんだ? もう少し待ってくれたら、セラ女史が飯を工面――」

 ん……?
 あそこって、普段俺の荷物を置いているところでは……?

 まさか、重弩の弦とか食ってないだろなっ!?
 そう思い、俺は自分の荷物に駆け寄った。

 幸い、父さんの重弩は無事だった。
 しかしホッとしたのもつかの間、リボンちゃんが食っていたのは――

「ちょおまっ、ぉぉぉぃぃーっっ?!!」

 昨日バザールで仕入れた、黒色火薬だった……。

「朝からうるさいですわっ!」
「どうしたのー、お兄ちゃん……?」
「リボンちゃんがっ、俺の火薬をっ、食ったーっ!!」

「かやく……? なんですの、それ……」
「花火の原料だよ! 引火すると爆発するやつだっ!」
「えっ、ええええーーーっっ?!!」

「なんて物を食べさせますの、貴方ーっっ?!!」

 幸い、リボンちゃんの健康状態に異変らしい異変はない。
 むしろ食欲が満たされて機嫌がよく、羽をパタパタとさせている。

 バリバリと聞こえたのは、火薬を収めた木製容器をかじった音だった。

「キュー……♪」
「へ、平気、なのか……? いやなんでも食うとは女史が言っていたが、いや、だが、火薬は――」

「けぷ……っ」
「ぬぁっ、ンッギャーーーッッ?!!」
「わあああああ、お兄ちゃーんっっ?!!」

 うちのリボンちゃんはかわいいげっぷをした。
 産まれたばかりなのに、自分でげっぷが出来るなんてすごい!!

 なんか火とか出て、俺のまゆ毛や髪の毛が焦げたりしたが。
 女史の魔法教練を受けていなかったら、火傷の上に、チリチリのアフロヘアになっていたところだった。

「すごいですわっ! リボンさんは、小さいのにもう炎が吐けるのですねっ!」
「いや、凄いだけじゃ済まない気がするんだが……?」

 火の吐ける野良猫がその辺りをうろついていたらどうなる?
 消防隊は大忙しだ!
 大丈夫か、この竜!?

「リボンちゃん、すごーいっ!! さすが、リチェルとお兄ちゃんの子供っ!!」
「これで気軽にお芋が焼けますわねー」
「のん気だな、お前ら……」

 こうしてマレニアの女子寮側に、少しでも危険を感じると火を吐く、ちょっとヘタレでふかふかの白い竜が住み着いた。
 一方で俺は、火薬を寮に持ち込んだ件で、女史にこっぴどく絞られたという……。

 火を吐く幼飛竜と、火薬を寮に持ち込むバカ。
 自分で言うのも反省がないようだが、最悪と言えよう。
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