視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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マレニアの二学期

・誕生の夜 - 誕生 -

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 部屋に戻るとコーデリアは不在だった。
 もしやと思いテーブルを見ると、風呂に行って来ると書き置きがある。

「風呂、入るか?」
「……ほへ…………?」

「無理そうだな。なら一緒に卵と寝るか?」
「あれ……たまご、どこ……。リチェルの、たまご……」

「魔法の言葉があっただろう。サーモン・リボンだ」
「さーもん、りぼん……?」

 現れた卵をキャッチして、リチェルをベッドに寝かせた。
 すぐに寝息が上がり、俺も兄の当然の権利として一緒に横になった。

 今日は俺が卵に魔力を与えよう。
 卵を抱いて、リチェルと一緒に目を閉じた。

 いい休みだった。
 レーティアの処遇が少し心配だが、それは後で考えよう。
 俺の妹は眠っている姿も世界一かわいかった。


 ・


 あまり寝た感じはしなかった。
 急に目が覚めてしまい、暗くなった室内で俺は目を開いた。

 リチェルはまだ眠っている。
 コーデリアの気配はない。
 まだ風呂だろうか。

「ん……寝相の悪いやつだな。ん……?」

 手元でモゾモゾと何かが動いていたが、それはリチェルではなかった。

「リチェル、リチェル。起きろ、見逃すぞ?」
「んえ…………? お兄、ちゃん……?」

「寝てていいのか? なんか、お前の大事な卵が揺れているようだが?」
「…………えっっ?!!」

 リチェルは飛び起きた。
 明かりの魔法をパッと灯して、大事な卵がいつもある辺りを見下ろした。

 するとそこには、兄が言う通りグラグラと揺れる卵があった。

「ひび、入ってるっ! わっ、わあああーっっ!」
「さて、どんなやつが産まれて来るかな。かわいくなかったりしてな」

「かわいいに決まってるよーっ! あっあっあっ、なんか、白い!」

 見ると確かにそれは白かった。
 白くてふわふわとした口が卵を割って生えた。

「ちょっと待て……いやに、ふわふわしてないか?」
「ふわふわのドラゴンかもーっ!」

「そんなバカな」
「あっ、出てくる! がんばれっ、がんばれーっ、がんばれーっ!!」

 飛竜のヒナは少しずつ殻を割って外に出ようとしている。

 大丈夫だろうか……。
 途中で力尽きたりしないよな……?
 見ているだけで、なぜだか無性に心配になってくる……。

「リボンちゃん、がんばれーっ!」
「なあ、それ雄だったら――おっ」

 名前を呼ばれて反応したのか、竜はついに殻を割って姿を現した。
 頭に引っかかった殻を、リチェルは壊れ物に触れるかのように慎重に取り除く。

「お、お兄ちゃん、大変っ! か、かわいい……」
「そりゃヒナだからな。羽毛みたいな毛が生えてるが……こりゃ竜だ」

 リチェルはその子を抱いた。
 その子は俺とリチェルをジッと見つめている。

「ふ、ふわふわ……しっとり、ふわふわ……」
「シフォンケーキか?」

「ケーキより、ふわふわ! リボンちゃん、かわいい……」

 名前を呼ぶと、竜が小さく鳴いた。
 産まれたばかりの小鳥のヒナのような、小さな鳴き声だった。

 セラ女史が言った通り、かなり成熟した状態で産まれた。
 やがて竜はリチェルの両手の上で立ち、翼を広げて羽ばたいた。

 さすがにまだ飛べたりはしないようだ。
 だが動きはかなりしっかりして来ている。
 これならば心配はいらなそうだった。

「お兄ちゃん……かわいい……」
「そのセリフ3回目だぞ」

 リチェルがヒナを包み込むと、ヒナは甘えるようにリチェルにすり寄った。
 まあ確かに、胸の中が爆発しそうなほどに、ヤバいかわいさだった……。

「ただいまですわーっ、今日はすっかり長湯してしまいましたわーーっ!」
「ピィッ?!」

「あら……っ?」

 コーデリアのやつ、間が悪いな。
 白くてふわふわのヒナは、突然の外敵に驚き、翼を羽ばたかせた。

 するとそのやわらかな身体はリチェルの両手をすり抜け、なんと宙に浮き、部屋の奥へと飛んで行ってしまった。

「ああああーっ、リボンちゃーんっ?!」
「なんてタイミングで帰ってくるんだ、お前は」
「産まれましたのっ!? 産まれましたのねーっ!?」

 あの竜、リボンちゃんはどこだ……?
 リチェルがベッドを離れ、リボンちゃんの名前を呼んで部屋中を捜した。

「ピィィ……」

 そしたらなんか、俺の背中の後ろに隠れていた。
 抱き上げてみると、確かにほんのりしっとりのふわふわだった。

「あっ、お兄ちゃんのとこにいたー!」
「さ、ささささっ、触らせて下さいましーっ!」

「お前が落ち着いたらな」

 子供だからそうなのかもしれないが、その竜はずいぶんと甘えん坊だった。
 身をすり寄せられると、俺は男だが、ママになってもいいような、異常な庇護欲が脳髄を刺激した。

「セラ女史のところに報告に行って来る。しばらく任せた」
「えーーっ、お兄ちゃんと、リチェルの、子供だよーっ?」

「だからこそ、最大の功労者に祝って欲しいだろ」
「わたくし、落ち着きますの……落ち着いて、リボンさんに怖がられないやさしいおばさまになりますの……っ、スーハァスーハァスーハァッ……」

 今日何度目の感想かわからんが……。
 大丈夫か、お前?

「ピィ……」
「お兄ちゃんっ、娘が、娘が寂しがってるよー?」

 小さく鳴いたのはそういう意思表示だそうだ。
 俺はふかふかでやわらかい竜を小指で撫でた。

 あまり雑菌とかくっつけるのも心配だ……。
 こうして産まれたからには、健康に育ってくれないと……。

「わ……わたくしが行ってまいりますわ……。行かないでパパと、そう言っている気がしますの……」
「パパ? パパな……?」
「リチェルがママなのですっ!」

 まあ、お前がママというならママだろう。
 どうも気恥ずかしくなって来た俺はコーデリアの善意を断り、セラ女史のところまで報告に出た。
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