視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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マレニアの二学期

・誕生の夜 - 俺の妹は社交能力の怪物か!? -

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 ただし、1つだけ計算外があった……。

「リチェルが心配だ……。あれだけかわいいと、いつ変質者に目を付けられるかもわからん……っ。や、やはり、俺が様子を見に行くべきか……!?」

 そうなると俺とリチェル、カミル先輩とレーティアの組み合わせになるはずだろう。
 しかしそうはならなかった。

 気まぐれを起こしたレーティアはリチェルの手を引いて、子供2人だけで屋台に並んでしまった……。

「レーティアが付いていれば心配いらないよ。あの子は気配りの出来るいい子だ」
「ああ、カミル先輩にはな……?」

「そんなことはないよ。薬草採集のとき、君だってたくさん世話になっただろう?」
「そういや、先輩は見てたんだよな……」

「そうさ。あの時、何より辛かったのは……君にツッコミを入れられなかったことだ……。君はとにかく見てられない人だよ……」

 そんなに心配されていたのか……。
 あの時の潜伏と尾行は、俺の想像以上に大変な仕事だったようだ。

「先輩にも世話になった。俺は人を頼らんと生きてはいけんらしい」

 本気でそう思った。
 マレニアの中ではなんでもなかったが、いざ都に出るとジュリオが輝いて見える始末だ。

 ところが先輩は何を思ったのか、それからずっと黙り込んでしまった。
 弱者アピールがうざかったのだろうか……?

「こんなふうに、沢山の人とイベントに出かけるなんて……こんなの何年ぶりだろう……」

 いや、違った。
 先輩は感慨に浸っていたようだ。

 そこで励ましのつもりで先輩の肩を叩くと、驚かせてしまったのか猫みたいにその身が跳ね上がった。

「すまん、驚かせたか」
「君は……変な病気をもらったらどうしようとか、そうは考えないのかい……?」

「ん? 先輩に触ると病気になるのか?」
「ならないよ……。そんなの、力が暴走した時に限る……」

「ふーん……」

 先輩の肩をもう1度叩くと、なんかわからんが深いため息を吐かれた。

「僕と付き合ったこと、後悔してもしらないよ……」
「後悔どころか、散々世話になって感謝している。お、そろそろだ?」

 次が俺たちの番だった。
 スパイスの混じった香ばしい香りが目の前からムワッと漂っている。

「6人前――いや、9人前頼む。1人とんでもない大食らいがいるんだ」

 正体不明の異国料理を9人前買って、俺たちは行列を離れた。


 ・


 集合場所はフードコートの一角にした。

 いや、テーブルと呼ぶにはあまりに素材そのままの板切れと、長イスと呼ぶには斜めっている板切れが集まった場所を、果たしてフードコートと呼んでいいのか悩むところだが……。

 まあとにかくここがフードコートだ。
 俺たちはそれぞれの戦利品をテーブルに並べ、圧倒的大勝利を確信した。

 ぼやけるこの目であっても、量が量だけに素晴らしい壮観だ。
 腹減った。すぐに食いたい。

 そう思ったところで、屋台の店主に聞いておいた話を、カミル先輩がみんなに解説し始めた。

「これはファラフェル。潰したヒヨコ豆を使った異国風コロッケだ。パセリ、クミン、コリアンダー、その他スパイスを加えて丸めて、油で揚げたものだそうだよ」

 説明はいいから早く食いたい。
 ファラフェルはコロッケよりも小さく、丸くてコロコロとしている。

「わたくしコロッケ大好きですわーっっ!!」
「リチェルもーーっっ!!」

 ファラフェルはリチェルとコーデリアに好評だった。
 釣られて俺も食べてみると、サクサクとしていて香ばしかった。

 1つや2つでは到底足りない魅惑の味わいだ。
 豆は揚げるとこんなに美味くなるのかと、感動した……!

「わたくしが買ってきたのはコレですわっ! 本場もののっ、ケバフサンドですのよーーっっ!!」
「リチェルお肉好きーーっっ!!」

「わたくしもですわーーっっ!!」

 もちもちの薄焼きパンに、レタス、トマト、タマネギ、ピーマン、ニンジンに、牛の薄切り肉が入った本格的なやつだった。

 小麦粉と牛肉。それはもはや裏切ろうにも裏切りようのない、決して間違いのない最強の組み合わせだ。
 とろける牛脂が薄焼きパンに染み込んで……また感動した!!

「僕が頼んだレンティルスープもどうぞ。これはレンズ豆とタマネギをすり潰したものを、チキンスープで汁物にしたものだよ。以前、外交官の方にご馳走になったんだ」

 要するにレンズ豆のポタージュ、だろうか?
 ケバフとファラフェルで脂っこくなった口に、レンティルスープがよく合った。

 味はというと、スパイシーで豆豆しい。
 潰した豆のスープだなんて初めて食べたので、味よりも物珍しさがずっと勝った。

「リチェルとオレはねー、結局、別々の屋台に並んだんだー」
「あら、またケンカしましたの?」

「違うよー。超迷って決められなかったからー、二手に分かれたの!」
「うんっ、リチェル、1人でがんばりましたっ!」

 な、なんだと!?
 この歳で1人で屋台に並んで買い物だとっ!?

 なんというコミュニケーション能力……!
 俺の妹は、社交能力の怪物かっ!?

「まずはオレからねー。じゃーんっっ!!」

 じゃーんと言われても、別に容器で隠されていたわけでもない。
 姿形を確認出来ていないのは、ド近眼の俺だけだった。

「ずっと気になっていたけど、なんだい、これは……?」
「それがさー、オレにもよくわかんないんだよねーっ!」
「あのねっ、白くて、いい匂いだから、買うことにしたのっ!」

「そーそー! えと、名前は……なんだっけ? リチェル覚えてるー?」
「え……? えと……うーんと、うー……リチェルも、忘れちゃった……」

 好奇心最優先で飯を選ぶところが子供らしい。
 それとリチェルとレーティアは、少し仲良くなったように見えなくもない。

 俺はその正体不明の白い塊に顔を近付けた。
 するとすぐにわかってしまった。
 それがこちらの世界での正式な名称かはわからないが、明らかにそれはアレだった。

「ギョウザ……? ギョウザって、あるんだな……」
「あっ、そうっ、ギョザーッ! お兄ちゃんすごーーいっっ!!」
「へーー、やるじゃーん」

 それは日本でおなじみの焼きギョウザだった。
 木のフォークでそれを刺して口に運ぶと、ああ、美味い……。

 いや美味いことは美味いが足りない……。
 その焼きギョウザには、肝心かなめのポン酢調味料が付いていなかった!
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