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マレニアの二学期
・誕生の夜 - フードフェス&大バザール -
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異国街駅でトラムを降りた。
そして到着5秒で感動した。
1人だと右往左往確実の見知らぬ駅も、我らがシティボーイ・ジュリオが側にいれば、こんなもの余裕のよっちゃんだった。
「やっぱりお前は、イケメンだ……」
「え、急になんだい?」
「こういうところがイケメンだ……」
「だから、なんの話だい……?」
いい友人を持った。
こいつがいれば俺はどこにでも行ける気がする。
まあ都内に限るだろうが、こういった時のジュリオの頼もしさは異常だった。
「男に生まれてよかった。もし俺が女だったら、お前のイケメンムーブにコロッといっていただろう……」
「もしかして会場までの道案内のことかい? グレイは道に迷いやすいんだから、仕方がないよ」
ほらこれだ。
これで彼女がいないなんて嘘だ。
こんなにいい男なんだから、ストーカー女の1人や2人くらい生えてこないとおかしいだろう……。
「都生まれの方々が、時々まぶしくなるそのお気持ち、わたくしもよくわかりますのよ……。トラム路線は地上の迷宮ですの……」
異議なし。
特に中央トラム駅はもうわけがわからん。
「ふーんだっ、道案内ならオレだって出来るんだからーっ!」
「ああ、レーティアの土地勘もちょっとしたものさ。少なくとも、グレイボーンのガイド役としては完璧だった」
「へへへっ、ほらねーっ!」
いやお前、ドロップをちょろまかしていた気がするんだが?
まあともかく、そんなことを語りながら駅舎を出た。
目的地はすぐそこの記念公園だ。
シティボーイのジュリオが言うには、今日の異国街は普段よりずっと賑わっているらしい。
会場である記念公園の入り口には早くも長蛇の列が出来ていて、俺たちは駆け足でその最後尾に加わった。
すると無性に腹が減って来た。
下ごしらえか何かか、既に辺りには香辛料と肉の焼ける美味い匂いが立ち込めていた。
リチェルが鼻をスンスン鳴らしている姿が、まるで子犬のように感じられた。
「驚いた……。これが都ダイダロスの祭りか……。屋台の数が想像の倍以上だ……!」
人との交流を避け続けて来たカミル先輩らしい反応だと思った。
それほどまでに沢山の店が並んでいるのかと、俺もつられて想像が膨らんだ。
「お、お腹が……っ、お腹が嵐のようにーっ! あーれー狂ってーーっ、おりますわーーっっ!」
背伸びをすると、低木の向こうに屋台か何かが見えるらしい。
そうかそういうことならばと、俺は要求される前に身をかがめた。
「お兄ちゃんっ、おんぶしてっ!」
「ああ、妹には当然その権利がある。乗れ」
「えへへーー♪ あっ、あーーーっっ?!」
リチェルをおぶろうとすると、俺にのし掛かる体重が2倍になった。
「ボンちゃん、お願ーい」
「ちゃっかりしてるな……。よっとっ」
ケンカが始まる前に両方を抱き上げた。
騎馬戦では2~3人が1人を抱えたりするものだが、これはその逆だった。
後ろに回した俺の腕を足場にさせて、両肩に腕を突かせた。
「わーーっ、確かに凄い! 店いっぱい来てんじゃーん! わあああーっ!」
「う、ううー……。ううううーー……っっ!」
「うなってないであれ見なよー、リチェル! 奥のあれがバザールかなーっ!? でっかぁーっ!」
「もーっ、お兄ちゃんの背中はーっ、リチェルだけのものなのーっっ!!」
「あははっ、そう言うと思ったーっ!」
「うーっ、うーうーうーうーっ! ううーーっっ!!」
うちの妹は獣みたいにうなってもかわいいな。
レーティアに対抗しようにも、具体的な悪口や嫌味が出て来ないところも、さすがは俺が認めた世界最かわの妹だった。
鐘が鳴ればバザール&フードフェスの始まりだ。
俺は2人の言い合いに聞き耳を立てて、空腹が満たされるその時を待った。
大人の友人もいいが、こうやって本音で言い合える同い年の友人が、やはりリチェルには必要だったのだ。
普段聞き分けのいいリチェルが譲らない姿が、俺には何よりも愛らしく感じられた。
・
10時の鐘が鳴ると、行列はイベント会場に飲み込まれていった。
屋台はどれも馴染みのない異国料理ばかりだ。……ま、見えんが。
さて、戦の始まりだ。
もしもこの戦に覚悟なき者が挑めば、どの店に並ぶべきが迷いに迷い果てた末に、大きく出遅れることになるだろう。
だが俺たちは既に、戦法を構築済みだ!
どうせわかんない異国の飯なのだから!!
嗅覚と胃袋に従って、直感で並ぶべし!!
「散れっ!!」
「うんっ、行ってきまーすっ!」
俺たちは4手に分散して、それぞれの信じる行列に並んだ!!
そして到着5秒で感動した。
1人だと右往左往確実の見知らぬ駅も、我らがシティボーイ・ジュリオが側にいれば、こんなもの余裕のよっちゃんだった。
「やっぱりお前は、イケメンだ……」
「え、急になんだい?」
「こういうところがイケメンだ……」
「だから、なんの話だい……?」
いい友人を持った。
こいつがいれば俺はどこにでも行ける気がする。
まあ都内に限るだろうが、こういった時のジュリオの頼もしさは異常だった。
「男に生まれてよかった。もし俺が女だったら、お前のイケメンムーブにコロッといっていただろう……」
「もしかして会場までの道案内のことかい? グレイは道に迷いやすいんだから、仕方がないよ」
ほらこれだ。
これで彼女がいないなんて嘘だ。
こんなにいい男なんだから、ストーカー女の1人や2人くらい生えてこないとおかしいだろう……。
「都生まれの方々が、時々まぶしくなるそのお気持ち、わたくしもよくわかりますのよ……。トラム路線は地上の迷宮ですの……」
異議なし。
特に中央トラム駅はもうわけがわからん。
「ふーんだっ、道案内ならオレだって出来るんだからーっ!」
「ああ、レーティアの土地勘もちょっとしたものさ。少なくとも、グレイボーンのガイド役としては完璧だった」
「へへへっ、ほらねーっ!」
いやお前、ドロップをちょろまかしていた気がするんだが?
まあともかく、そんなことを語りながら駅舎を出た。
目的地はすぐそこの記念公園だ。
シティボーイのジュリオが言うには、今日の異国街は普段よりずっと賑わっているらしい。
会場である記念公園の入り口には早くも長蛇の列が出来ていて、俺たちは駆け足でその最後尾に加わった。
すると無性に腹が減って来た。
下ごしらえか何かか、既に辺りには香辛料と肉の焼ける美味い匂いが立ち込めていた。
リチェルが鼻をスンスン鳴らしている姿が、まるで子犬のように感じられた。
「驚いた……。これが都ダイダロスの祭りか……。屋台の数が想像の倍以上だ……!」
人との交流を避け続けて来たカミル先輩らしい反応だと思った。
それほどまでに沢山の店が並んでいるのかと、俺もつられて想像が膨らんだ。
「お、お腹が……っ、お腹が嵐のようにーっ! あーれー狂ってーーっ、おりますわーーっっ!」
背伸びをすると、低木の向こうに屋台か何かが見えるらしい。
そうかそういうことならばと、俺は要求される前に身をかがめた。
「お兄ちゃんっ、おんぶしてっ!」
「ああ、妹には当然その権利がある。乗れ」
「えへへーー♪ あっ、あーーーっっ?!」
リチェルをおぶろうとすると、俺にのし掛かる体重が2倍になった。
「ボンちゃん、お願ーい」
「ちゃっかりしてるな……。よっとっ」
ケンカが始まる前に両方を抱き上げた。
騎馬戦では2~3人が1人を抱えたりするものだが、これはその逆だった。
後ろに回した俺の腕を足場にさせて、両肩に腕を突かせた。
「わーーっ、確かに凄い! 店いっぱい来てんじゃーん! わあああーっ!」
「う、ううー……。ううううーー……っっ!」
「うなってないであれ見なよー、リチェル! 奥のあれがバザールかなーっ!? でっかぁーっ!」
「もーっ、お兄ちゃんの背中はーっ、リチェルだけのものなのーっっ!!」
「あははっ、そう言うと思ったーっ!」
「うーっ、うーうーうーうーっ! ううーーっっ!!」
うちの妹は獣みたいにうなってもかわいいな。
レーティアに対抗しようにも、具体的な悪口や嫌味が出て来ないところも、さすがは俺が認めた世界最かわの妹だった。
鐘が鳴ればバザール&フードフェスの始まりだ。
俺は2人の言い合いに聞き耳を立てて、空腹が満たされるその時を待った。
大人の友人もいいが、こうやって本音で言い合える同い年の友人が、やはりリチェルには必要だったのだ。
普段聞き分けのいいリチェルが譲らない姿が、俺には何よりも愛らしく感じられた。
・
10時の鐘が鳴ると、行列はイベント会場に飲み込まれていった。
屋台はどれも馴染みのない異国料理ばかりだ。……ま、見えんが。
さて、戦の始まりだ。
もしもこの戦に覚悟なき者が挑めば、どの店に並ぶべきが迷いに迷い果てた末に、大きく出遅れることになるだろう。
だが俺たちは既に、戦法を構築済みだ!
どうせわかんない異国の飯なのだから!!
嗅覚と胃袋に従って、直感で並ぶべし!!
「散れっ!!」
「うんっ、行ってきまーすっ!」
俺たちは4手に分散して、それぞれの信じる行列に並んだ!!
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