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マレニアの二学期
・マレニアの二学期 - ある男の末路 2/2 -
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「クノル家の当主、長男、次男坊。色んな悪党と一緒になって、行けば帰って来れない迷宮にー、目障りな冒険者を送り付けてたんだものねぇー?」
「お、おまえ……ほんとうに、神、なのか……っ」
「だからそう言ってるじゃなーいっ!? なーんでみんなっ、揃いも揃って最初は信じてくれないのよぉぉーっ!?」
愉快なグレイボーンに転生したあの坊やは、最後までツッコミの手を緩めない面白いお客様だったわ。
だけどこのクマさんは、ダメね……。
全ての悪行を神に見られていたと知って、すくみ上がってしまったわ。
こうなるとつまんないわー。
さっさと終わらせちゃいましょ……。
「アアタの次の人生……最悪よ」
「なんでだよ……っ!?」
「そりゃ悪さしたからに決まってるじゃーない。あの舎弟の坊やを殺したのだって、自分が関わってた悪事を、あの子が暴こうとしたからじゃなーい?」
「ジーンが俺の警告を聞かねぇのが悪ぃんだっ!」
「かーわいそぉーー……。いくら態度の悪いクソ客でもぉー、信じてた叔父貴に殺されちゃうなんてぇー……かーわいそぉぉー♪」
ジーン坊やが可哀想で可哀想で、ついアタシ笑っちゃった。
そしたらクマさんったら、真っ青に青ざめちゃったの。
んもぅ、失礼しちゃうわー。
「神様、お、俺は、どうなる……?」
「大丈夫♪ アタシが加護をあげるわ」
「お、おお……」
「特別よ? 特別に、前世の記憶を引き継がせてあげる♪」
アタシ、来世が面白そうな相手には、こうしてあげてるの。
観察がますます楽しくなるから。
「最初から、ズル賢く生きれるってことか……?」
「そうよ。はいっ、このお酒をどーぞ。これを飲めば、アアタは強くてニューカマーしちゃえるわぁー♪ カマの加護だけに、ニューカマー……オホホホホッ!!」
「ありがてぇ……助かるぜ、神様!」
彼はアタシのお酒を飲み干した。
惚れ惚れするくらい、クマっぽかったわー。
やっぱり蜂蜜酒にしておけばよかったかしらー?
「はーいっ、ではではーっ、一名様来世にご案なぁーいっ♪」
「おいちょっと待て、神様! ちゃんと説明してくれよ! 俺はどこの家のガキになんだよ?」
「家……? 家らしい家はないわね……」
「ないのか……? いきなり捨て子かよ……」
いえ、捨て子というか、育児の概念がないというか、なんて説明したものかしらねぇん……♪
「違うわ。アアタ、卵から孵るのよ」
「…………は? まさかこの俺が、貧弱な小鳥ちゃんになるとか言うなよ……?」
「いいえ、最強よ」
「おおっ!!」
「どんな熱にも堪えられ、氷の中に閉じこめられても死なない」
「つまりモンスターか……っ? まあ、それだけつええなら、別にいいかっ!」
「まあ、強いっちゃ強いわね。空気がなくても生きられる上にー、放射線も効かない上にー、凍ってる間は老いが止まっちゃうものぉー! このクマ、無敵ねぇ」
「最強のクマかっ、そりゃ最高じゃねぇか! ダハハハハッ、いいぜ、山ほど人間ぶっ殺してやるところ、見せてやんよっ!!」
それはちょっと無理というか、絶望的じゃないかしらねぇ……?
「そっ、がんばってねぇーんっ♪ それじゃ♪ 不死の最強生物の世界にぃーっ、ご案なぁーーいっっ♪」
クマはクマでも、ミクロの世界の最強のムシケラ、クマムシちゃんなのだけど……。
ま、住む世界のサイズが違うだけでー、最強に変わりはないわよねーっ♪
捕食者から逃げ延びられれば、ミクロの世界最強の座はアアタのものよっ!!
アタシはクマさんを、クマムシの世界にご案内して、表のお仕事を終わりにしたわ。
パチリと指を鳴らすと、透明になってもらっていた2人のお客様がカウンター席に現れた。
「若い頃はあんな男ではなかった……」
「おい、何考えてやがんだ、テメェ? 叔父貴をクマなんかにしたら、それこそ大変なことになんだろが……っっ」
「いや、その心配はなかろう。神様がいやに親切なときは、必ず裏があるものだ」
あら、わかってるわねぇ、ロックちゃん。
いつか転生させなきゃいけないのが、惜しいくらいだわー……。
「……ははぁ? 実は、クマじゃなくて、野ウサギに生まれ変わるとかだろ?」
「うふふふっ、ざぁーんねんっ、もっとちっちゃいわーっ♪」
アタシが陽気に祝杯を上げると、ロックちゃんがニヤリと笑ってくれたわ。
「ほう? ならば……ダンゴムシくらいか?」
「いやダンゴムシ以下はねーだろっ!?」
「やーだぁっ、もっとよぉーっ!」
「マ、マジかよ……っ?!」
「そーよ? もっともっと、もーっとちっちゃい虫ちゃんになるのよぉーっ!」
「虫……虫か……。哀れな……」
「彼はぁーっ、クマムシちゃんにーっ、転生しましたーっ!! キャーッ、すごぉーいっ、ぱちぱちぱちーっ♪」
恨まないでね、クマさん。
選択肢が1つしかなかったのはアアタだしー、アタシにはどうにも出来なかったのー。
「おめぇ、悪魔かよ……」
「生前の記憶――いや、人間だった頃の記憶を残してやったのは、そういうことか……」
「うふふ、なんのことかしらーん? アタシ、賢く生きられるようにしてあげただけよぉー? ていうかー、神が知恵を授けて何が悪いのぉー?」
「そうかよ……。もうどん引きしかねーわ……」
「恐ろしい神様もいたものだ。ウィスキー、おかわり」
さてさて、坊やの続きの人生でも眺めながら、もう一度祝杯を上げるとしましょ。
転生したらクマムシだったっ!!
キャーッ、素敵っ! 出オチ過ぎて開幕1話だけでアタシ十分っ♪
せいぜい、がんばってらっしゃいねーっ♪ クマさん♪
「お、おまえ……ほんとうに、神、なのか……っ」
「だからそう言ってるじゃなーいっ!? なーんでみんなっ、揃いも揃って最初は信じてくれないのよぉぉーっ!?」
愉快なグレイボーンに転生したあの坊やは、最後までツッコミの手を緩めない面白いお客様だったわ。
だけどこのクマさんは、ダメね……。
全ての悪行を神に見られていたと知って、すくみ上がってしまったわ。
こうなるとつまんないわー。
さっさと終わらせちゃいましょ……。
「アアタの次の人生……最悪よ」
「なんでだよ……っ!?」
「そりゃ悪さしたからに決まってるじゃーない。あの舎弟の坊やを殺したのだって、自分が関わってた悪事を、あの子が暴こうとしたからじゃなーい?」
「ジーンが俺の警告を聞かねぇのが悪ぃんだっ!」
「かーわいそぉーー……。いくら態度の悪いクソ客でもぉー、信じてた叔父貴に殺されちゃうなんてぇー……かーわいそぉぉー♪」
ジーン坊やが可哀想で可哀想で、ついアタシ笑っちゃった。
そしたらクマさんったら、真っ青に青ざめちゃったの。
んもぅ、失礼しちゃうわー。
「神様、お、俺は、どうなる……?」
「大丈夫♪ アタシが加護をあげるわ」
「お、おお……」
「特別よ? 特別に、前世の記憶を引き継がせてあげる♪」
アタシ、来世が面白そうな相手には、こうしてあげてるの。
観察がますます楽しくなるから。
「最初から、ズル賢く生きれるってことか……?」
「そうよ。はいっ、このお酒をどーぞ。これを飲めば、アアタは強くてニューカマーしちゃえるわぁー♪ カマの加護だけに、ニューカマー……オホホホホッ!!」
「ありがてぇ……助かるぜ、神様!」
彼はアタシのお酒を飲み干した。
惚れ惚れするくらい、クマっぽかったわー。
やっぱり蜂蜜酒にしておけばよかったかしらー?
「はーいっ、ではではーっ、一名様来世にご案なぁーいっ♪」
「おいちょっと待て、神様! ちゃんと説明してくれよ! 俺はどこの家のガキになんだよ?」
「家……? 家らしい家はないわね……」
「ないのか……? いきなり捨て子かよ……」
いえ、捨て子というか、育児の概念がないというか、なんて説明したものかしらねぇん……♪
「違うわ。アアタ、卵から孵るのよ」
「…………は? まさかこの俺が、貧弱な小鳥ちゃんになるとか言うなよ……?」
「いいえ、最強よ」
「おおっ!!」
「どんな熱にも堪えられ、氷の中に閉じこめられても死なない」
「つまりモンスターか……っ? まあ、それだけつええなら、別にいいかっ!」
「まあ、強いっちゃ強いわね。空気がなくても生きられる上にー、放射線も効かない上にー、凍ってる間は老いが止まっちゃうものぉー! このクマ、無敵ねぇ」
「最強のクマかっ、そりゃ最高じゃねぇか! ダハハハハッ、いいぜ、山ほど人間ぶっ殺してやるところ、見せてやんよっ!!」
それはちょっと無理というか、絶望的じゃないかしらねぇ……?
「そっ、がんばってねぇーんっ♪ それじゃ♪ 不死の最強生物の世界にぃーっ、ご案なぁーーいっっ♪」
クマはクマでも、ミクロの世界の最強のムシケラ、クマムシちゃんなのだけど……。
ま、住む世界のサイズが違うだけでー、最強に変わりはないわよねーっ♪
捕食者から逃げ延びられれば、ミクロの世界最強の座はアアタのものよっ!!
アタシはクマさんを、クマムシの世界にご案内して、表のお仕事を終わりにしたわ。
パチリと指を鳴らすと、透明になってもらっていた2人のお客様がカウンター席に現れた。
「若い頃はあんな男ではなかった……」
「おい、何考えてやがんだ、テメェ? 叔父貴をクマなんかにしたら、それこそ大変なことになんだろが……っっ」
「いや、その心配はなかろう。神様がいやに親切なときは、必ず裏があるものだ」
あら、わかってるわねぇ、ロックちゃん。
いつか転生させなきゃいけないのが、惜しいくらいだわー……。
「……ははぁ? 実は、クマじゃなくて、野ウサギに生まれ変わるとかだろ?」
「うふふふっ、ざぁーんねんっ、もっとちっちゃいわーっ♪」
アタシが陽気に祝杯を上げると、ロックちゃんがニヤリと笑ってくれたわ。
「ほう? ならば……ダンゴムシくらいか?」
「いやダンゴムシ以下はねーだろっ!?」
「やーだぁっ、もっとよぉーっ!」
「マ、マジかよ……っ?!」
「そーよ? もっともっと、もーっとちっちゃい虫ちゃんになるのよぉーっ!」
「虫……虫か……。哀れな……」
「彼はぁーっ、クマムシちゃんにーっ、転生しましたーっ!! キャーッ、すごぉーいっ、ぱちぱちぱちーっ♪」
恨まないでね、クマさん。
選択肢が1つしかなかったのはアアタだしー、アタシにはどうにも出来なかったのー。
「おめぇ、悪魔かよ……」
「生前の記憶――いや、人間だった頃の記憶を残してやったのは、そういうことか……」
「うふふ、なんのことかしらーん? アタシ、賢く生きられるようにしてあげただけよぉー? ていうかー、神が知恵を授けて何が悪いのぉー?」
「そうかよ……。もうどん引きしかねーわ……」
「恐ろしい神様もいたものだ。ウィスキー、おかわり」
さてさて、坊やの続きの人生でも眺めながら、もう一度祝杯を上げるとしましょ。
転生したらクマムシだったっ!!
キャーッ、素敵っ! 出オチ過ぎて開幕1話だけでアタシ十分っ♪
せいぜい、がんばってらっしゃいねーっ♪ クマさん♪
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