視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
62 / 107
マレニアの二学期

・マレニアの二学期 - これを人に向けて撃っては、いけないでござるよ? -

しおりを挟む
「ホント、ロリコンだよねー、ボンちゃん」
「シスコンと言え。子供に興味はない」

「へへへ……ごめんね。からかいやすいところだから、つい」
「お前な……」

「んーーっっ、人から奪ったお菓子って、美味しーっ!」

 どんな事情を抱えているの知らんが、歪んでいる……。
 うちのリチェルとは正反対だ。

「これからもよろしくねぇー、お人好しのボンちゃ――」

 そんな困った女の子を、俺は飛び込むように地へ押し倒した。
 誤解したのか小さな悲鳴がレーティアの喉から漏れたが、それどころじゃない。

 弓が空を切る危険な音が頭上で立て続けに響くと、誤解もすぐに解けた。

「えっ、なに……っ、誰が撃って……こ、怖い……」
「だから言っただろう、今回は危険だと。身を屈めていろ」

 何もこんなタイミングで釣れてくれなくてもいいのに。
 俺は重弩を両手に樹木を盾にして、標的の姿をうかがった。

 まあ、見えんが。

「ボ、ボンちゃん……? なんで、こんな状況で笑ってるの……?」
「当然だろう」

「な、何が……?」
「俺はこの時をずっと待っていた。最初から、アイツらが俺の標的だったんだ」

「ぇ……?」

 弓を撃ち込まれたのがよっぽど怖ろしかったのか、レーティアの声は小さく弱々しかった。

「薬草採集も、キノコ狩りも、やつらに俺を襲わせるための茶番だった」
「え、ええええ……っ?! で、でもっ、あんな大勢の悪い人たち、どうやって……やっつけるの……?」

「見えるか? 何人くらいいる?」
「さ……30人、くらい……」

「多いな。だが、コイツでどうにでもなる」

 突出して来たやつの足下に牽制の1発をぶっ放して足止めすると、俺はとある特別製の矢を重弩に装填した。

 いや、矢と呼ぶのは適切ではない。
 これは弾丸であり、ボウガンを使って飛ばす飛翔体だ。
 ソイツを上空に構えた。

 報復の矢が次々と辺りに突き刺さってヤマアラシのようになっていったが、射線を樹木でふさげば恐れることはない。

「念のため耳をふさいでいろ」
「そ、それ、何……っ?!」

「コイツか? コイツは、弓使いの新しい未来だ。撃つぞ!」
「う、うん……っ!」

 特別製のソイツを、俺は天へとぶっ放した。


 ・


「いいでござるか? 絶対に、絶対に、いくら敵に恨みがあろうとも絶対に……! これを人に向けて撃っては、いけないでござるよ……っ!?」

 その特別製の弾丸は、マレニアの教官方のお手製だ。
 制作者は他でもないセラ女史と、遠隔術担当のナスノ教官によるものだった。

「正当防衛です、皆殺しにしなさい」
「よすでござるよ、セラ教官っ!!」

「我が学院の生徒を襲った悪漢です。司法取引は任せなさい」
「司法取引まで行くようなことを生徒にさせるのは、よくないのでござるよーっ?!」

 これは魔法式の弾丸ではあるが、さすがにあの時の実習で使った超危険物ではない。

「残念ながら死にはしません。恐ろしい衝撃を受けるでしょうが、命を奪うことは出来ません」
「残念だ」
「オルヴィン卿も何を言っているでござるかっ!?」

「しかし対人性能は破格と言えましょう。使用後は正確にレポートを提出するように」
「助かるよ、女史」

 いや、ある意味であっちよりもたちの悪い爆弾だ。

「実験台にしても胸の痛まないモルモットというものは、いいものですね」
「いやまったくだ」
「と、止めた方がいいのでござろうか……。む、無茶は止すでござるよーっ!?」


 ・


 ……とまあ、そんな感じでいただいた銃弾が、高い曲射で弧を描き、敵陣のど真ん中に落下した。

 するとたちまちに、ドカンだ。
 耳を塞いでもなおやかましい爆音が辺りに轟き、それが振動となって、うつ伏せにした腹越しに伝わった。

「ヒッ、ヒィィーッッ?!」

 レーティアは意外に小心者なところがある。
 凄まじいその爆音に悲鳴を上げていた。

 ん、爆心地の連中か?
 阿鼻叫喚だ。
 やつらは耳を抱えてうずくまり、世にも恐ろしい苦悶の声を上げている。

「あ、あいつら、逃げてくよ……!? ボンちゃん、やっつけなくていいの……っ!?」

 もはや襲撃どころではないのか、リーダー格の男が声を上げても仲間たちは止まらず、森から逃げ出していった。

「ああ、そうしたいところなんだが……。追撃は止めろと言われている」
「なんで……っ!?」

「向き不向きの問題だ。俺には、殺さずにあいつらを生け捕る方法が、ない……」

 大半のモンスターがワンショットキルのぶっとい矢だ。
 一般的な弓と異なり、重弩はプレートアーマーだって貫く貫通力を持つ。

 そんなのを人に撃ったら、まず死ぬ。

「で、でも……あいつらを、ボンちゃんは待ってたんじゃないの……?」
「俺に人の逮捕は無理だ。だが、俺には、頼れる仲間がいる」

「え……仲間……?」

 俺は身を隠し、聞き耳を立てて彼方をうかがった。

「まあ、アイツはアイツでヤバいんだが、きっと俺よかマシだろう」
「だ、誰のこと……?」

「腐食のカミル。今回も、前回も、潜伏して、罠に獲物がかかるのを待っていた。罠が俺で、狩人がカミルで、やつらが獲物だ」

 さて、そろそろカミル先輩の援護に入るか。
 直撃はさせられないが、重弩の破壊力で脅かすくらいならば可能だ。

 俺はレーティアを安全な木に上らせると、樹木から樹木へとジグザグに進みながら、敵との距離を詰めていった。

 なんでも1人でこなしてしまうスーパーマンには、俺という半端者はなれない。
 こういった目に生まれた以上、強情を張らず人を頼るべきだ。

 頼れるスポッターのレーティアに、俺はそんな当たり前のことを教わっていた。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...