視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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マレニアの二学期

・マレニアの二学期 - 採集クエスト保護者付き -

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「なんでさー?」
「ん……?」

「なんでそんなに強いのにー、またしょっぱいクエスト請けるのー?」

 トラムで目的地に向かっていると、レーティアに答えにくい質問をされた。

「組んでくれるやつがいないからだ」
「はぁー? ならオレはー?」

「お前はガイドであり観測手スポッターだ」
「へへへ、スポッターかぁ。なんかカッコイイなー」

 急に不機嫌になったかと思えば、今度はケラケラと笑って喜んでいる。
 レーティアは気分屋だ。

「重宝している。だが子供を連れて迷宮攻略なんて、ギルドは納得してくれない」
「迷宮かー。ちょっとだけ、行ってみたいかなー。今度連れてってよー!」

 レーティアは冒険者の仕事に興味が出て来たのだろうか。
 スポッターとしてはなかなか優秀で機転が利くが、筋力はなさそうだ。

「大きくなったらな。戦えるくらい身体がしっかりしてきたら、マレニアの入学試験を受けたらいい」
「は? だったらリチェルはー?」

「それは先週話しただろ。リチェルは魔法の制御に失敗したんだ。だから訓練のために、マレニアに入ることになったんだ」
「むーー。ボンちゃんとオレが組めば、迷宮なんて余裕なのになー……」

 その根拠のない自信はどこから来るんだ。
 怖いものを知らない子供らしいといえば、子供らしいが。

「止めておこう。何かあったらご親族に申し開きが出来ん」
「へーきだよ。誰もオレのことなんて気にしてないもん」

「そうなのか……?」
「さーね! にーちゃんやさしーから、同情誘うための嘘かもー……?」

「なら成功だな、同情した」

 人に構ってもらえない子供が、年上に大げさな嘘を吐くのはままあることだ。
 レーティアはなんというか、デリケートなところがあるかもしれん。

「嘘嘘、嘘だよー!」
「困ったらいつでも俺たちのところに来い」

「えー、リチェルがまた不機嫌になるよー?」
「お前が挑発するからだ」

 これは勝手な邪推となるが、レーティアはリチェルが羨ましくなったか、ただ単にまぶしかったのかもしれん。

「だってー! なんか……オレ、あの子と、どう接したらいいか、わかんないし……」
「お前、リチェルが恐いのか?」

「だってっ、だって初対面だもん!」
「それ、初対面の相手から、銀貨をかっぱらおうとしたやつのセリフか?」

「あの時はボンちゃんに嫌われても全然よかったしー! でも、今はそうじゃないし……」
「そうか」

 不器用なやつだ。
 ロリコン扱いされること承知で、レーティアの小さな手を握った。
 家出娘ってわりにすべやかな手だった。

「うちの妹は脳天気のお人好しだ。人に悪意なんて向けるやつじゃないから、普通に話を振ったりしてみればいい」
「でもオレ、ケンカ売っちゃったし……」

「ああ、リチェルが人にあんなに対抗しようとするなんて初めてだ! アレはアレで、兄として嬉しい!」
「ボンちゃんがそんなだからーっ、リチェルに嫉妬――あっ?!」

 嫉妬か。やはりそうだったのか。
 友達になった相手が、その妹にだだ甘な姿を見て、イラッとしたんだな。

 レーティアはそれっきり黙ってしまったので、俺の方は楽にして過ごすことにした。

 俺たちはトラムの座席に腰掛けて、流れゆく景色をぼんやりと眺めた。
 空と山と畑と町。
 そのくらいなら、大まかな色合いでわかる。

「あのさ……」
「お、復活したか。なんだ?」

「あの卵、なんか気になる……。時々、見に行ってもいい?」

 そういえばリチェルと一緒に興奮してたな。

「いいぞ。女史――魔法の教官が言うには、孵化まであと2、3週間らしい」
「へぇー……。ドラゴンのヒナって、どんななのかなぁーっ!?」

 教えてやると、レーティアが座席を揺らして興奮した。

「教官が言うには、ある程度、成熟した状態で生まれるものらしい」
「そうなんだーっ! オレ、また見に行くよ! 卵、ボンちゃんから横取りしなくてよかったー!」

「ああ、ちょこちょこネコババしてたのは知っていたぞ」
「え……っっ?!」

「世話になった礼と思えば、気にならなかった。今日もよろしく頼むな」

 特に案内な……。
 迷子になって目的地にたどり着けませんでした。
 と報告するのはさすがに俺も恥ずかしい……。

「ボンちゃんって、マジお人好しだねー……」
「そうか? そうかもな」

 レーティアのおかげで道中は退屈しなかった。
 第一印象はすれたお子様だったが、年齢相応の無邪気さがあって安心した。

 ただその後、目的地の駅で降りると、治安局の私服捜査官の方に声をかけられた。

『どういったご関係で?』

 と、聞かれた。
 そこで俺は堂々と胸を張って、こう答えた。

「この子はガイドだ」
「ガイド? なんのガイドだ?」

 堂々と返したのに、俺はさらに疑われた。

「そのままの意味だ。この子は俺に代わって物を見て、道を教えてくれる」
「ボンちゃんはねー、目が悪いんだよー。おじさん、目が悪い人をいじめる人ー?」

「そうか、それは不憫に……」

 治安局の捜査官は同情してくれた。

「いや、だがそれにしては……。えらく凄まじい物を背負っているように、見えるのだが……?」

 まあその同情が吹き飛ぶくらいに、父さんの重弩が悪目立ちをしていたんだが。

「視力0.01が重弩を持って何が悪い」
「悪くはないが……あっ! お前まさか、2年前にマレニアの主席入学を蹴ったって男じゃないか!?」

 まだあの時のことを覚えているやつがいるのか……。

「違う。イザヤに入るつもりが、間違えてマレニアの試験会場に行ってしまっただけだ」

 思い返してみればあの失敗が全ての始まりだった。

「え、何それっ?!」
「ははははっ、当時は笑わせてもらったよ!! いや疑って悪かった、行っていいぞ!!」

 噂の人物だと気付くと、捜査官さんは俺たちをあっさりと解放してくれた。


 ・


「あはははっ、はーーっ、焦ったーっ!」

 駅舎を出ると、レーティアはおかしそうに大声で笑いだした。
 なんかわからんが、えらくご機嫌だった。

「ああ、そういえばお前、家出娘だったな」

 危うく俺は、誘拐犯扱いされるところだった、ということか……。

「それにしてもボンちゃんって、昔から変な人だったんだねー!」
「いや、あれは、間違った行き先を教えたやつがいて……まあいい。それより道案内を頼む」

 現地に到着したのだから、ここからは気を引き締めて行こう。

「おっけー! 代わりに聞き込んでくるから、ここでおとなしくしててねー、ボンちゃん」
「任せた、ガイド」

 念のために重弩に矢を装填して、彼女の帰りを待った。
 レーティアは優秀なガイドで、すぐに聞き込みを終わらせて案内を始めてくれた。

 目的地は85号採取地。
 通称はキノコの森だ。
 なんかタケノコの村と果てしなきバトルを繰り広げていそうな名前だな。

 まあそういったわけで、先週は薬草採集なら、今週はキノコ採集だ。
 まだ秋と呼ぶには早いが、シーズン的に食用のキノコにも期待が持てる時期だった。
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