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マレニアの二学期

・マレニアの二学期 - シスコン野郎と呼んでくれ -

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 安息日が終わったらどうなる?
 平日がやって来て、それからまた安息日がやって来る。

 マレニアでのやりがいある教練の日々を過ごした俺は、翌週の朝も冒険者ギルドに出かける準備をしていた。

「今週も、いくの……?」
「すまん、リチェル。今週からが本番なんだ」

「そうなんだ……」

 注意しなければ聞き取り損ねてしまいそうなほどに、リチェルの声は小さく悲しそうだった。

 胸が痛む……。
 今の俺は良い兄貴ではない。
 妹を置き去りにする悪い兄貴だ……。

 だがそれでも、俺は降りかかる火の粉をどうにかこうにかしておかなくてはならない!

「出来るだけ早く帰ってくるから、夜はまた一緒に寝よう」
「うん……」

 膝を落として最愛の妹を抱き締めた。
 リチェルは俺の背中に両手を回して、浸るように兄の胸に顔を埋めた。

「その件ですけれど……。わたくし、治安局に通報するべきか、毎晩悩んでおりますのよ……?」

 そんな俺たちにコーデリアが冷めたような声でそう言った。

「なぜ? 兄と妹が一緒に寝て何が悪い?」
「うんっ、全然、悪くないよーっ! リチェル、今日もお兄ちゃんと一緒に寝るもんっ!」

「ふっ、リチェルもこう言っている。俺たちに後ろ暗いところは何もない」
「はぁ……っ。わたくしとしては、早く男子寮に帰っていただきたいですわ……」

 かわいいリチェルの頭を撫でて胸から離すと、俺は重弩の最終点検を済ませた。
 問題なしだ。そろそろ行くことにして、その重弩を背負って立ち上がった。

 ところが部屋を出ようとすると、ちょうど目の前からノックの音が響いた。

「わたくしが出ますわ、殿方は下がっていて下さいまし」
「酷い言いぐさだな」

 コーデリアに重弩越しに後ろへ引っ張られた。

「ここは女子寮ですの。殿方がいきなり現れたら向こうは、『まあビックリ!』ですわ」
「それが面白いんじゃないか」

「少しは自重して下さいましっ! 貴方には女子寮に居るという、自覚が足りませんことよっ?!」
「俺の居場所は俺が決める。俺は俺の居たい場所に居るだけだ」

「世間様はそれを変態と呼ぶんですのっっ!!」

 一理ある。
 だが俺は変態と呼ばれようともリチェルと一緒に暮らせる生活を選ぶ。
 俺は他でもない、兄だからな。

「えと、リチェルが出るねーっ!」

 客人はきっとセラ女史だろう。
 あれからというもの、女史は研究対象である卵を定期的に観測に来るようになった。

 あの人はエゴイストだ。
 自己中心的で己の欲望や研究欲に忠実だ。
 そう考えると、女史と俺は似ているのかもしれない。

「あれ……?」
「どうした、リチェル?」

「う、うん……。なんかー……」
「わぁー! リチェルって、ホントに存在したんだーっ!?」

 部屋を訪ねて来たのは女史ではなく、先週出会ったレーティアだった。
 学生寮にいきなり歳の近い子が現れたら、まあ当然リチェルからしたら驚くだろう。

「よく来たな、レーティア。まさか本気でクエストに付き合うつもりなのか……?」
「まあかわいい……」
「お兄ちゃんの、友達?」

 リチェルとレーティアが顔を合わせて向き合っている。
 何せ歳が近いからな、相手が気になって当然だ。

「そ、友達になってあげたの」
「そうなんだー……」

「ふーん……。『俺の妹は世界一の美少女だ!』は言い過ぎだけど、まあまあかわいいじゃん」
「え……? え、えぇぇぇぇーーっっ?!! お、お兄ちゃんっ、そんなこと言ったのーっ?!!」

 ただの事実を人に自慢しただけだ。
 そんなに驚くようなことではない。

「お、お兄ちゃん……っ、困るよぉ……っ」
「バカ兄ここに極まれり、ですの……」
「何を言っている。俺の妹が世界で一番かわいいに決まっているだろう。お前も世界一かわいいんだから、堂々としろ」

「う、うう……うぅぅぅ……っっ」

 リチェルは恥ずかしがる声も最高だった。
 最高にかわいい妹をレーティアに見せられたのも、兄として気分がよかった。

「ボンちゃんってさー、やっぱ……ロリコンじゃん?」
「違う、俺はロリコンではない。むしろそこは、このシスコン野郎と呼んでくれ」

「うっわああ……」
「わたくしも同感ですわ。うっわああ……ですわ……」

 俺がロリコンかどうかの是非はおいといて、この展開は困ったな。
 ぶっちゃけ、今回の冒険は危険だ。
 どんなクエストを請けようと、等しく危険だ。

 俺がジーンから事件の証拠を引き継いだと、まことしやかな噂を流してもらった後だからだ。
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