視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
54 / 107
マレニアの二学期

・マレニアの二学期 - やっぱロリコンじゃん -

しおりを挟む
 ここから先はモンスターが出る。
 依頼書によると、Bランク相当のオオムカデとゴブリン系、希に中型のワイバーンが現れるので、遭遇したら死なないように上手く切り抜けろ、とある。

 地形は起伏のある丘陵。
 木々の豊かな林と、草も生えない貧しい赤土が入り交じる変わった土地だった。

「ちょっとっ、ストップ!」
「……ああ、やはり付いて来てしまったか。なんだ、少女?」

「にーちゃんが探してるのって、この赤いハーブでしょ。素通りしていいの?」
「…………おおっ!」

 少女の足下にしゃがみ込んでみると、おぞましいほどに真っ赤な草が生えていた。
 依頼書にデッサンが印刷されているので、見比べてみよう。

「あ、これ? 返すね」
「……なんでお前がそれを持っている?」

「気になったから、すすーっと」
「人からスリ取ったと?」

「ごめんねー。なんか見てらんなくてー」

 返却された依頼書と、少女の足下に生える赤い草を並べて見ると、それがレッドハーブだとわかった。

 モノクロの印刷ではわからなかったが、茎は緑色で、ギザギザの葉っぱと茎に鋭いトゲを持っている。

 根を残してそれを切り取って、背中の採集籠に入れた。

「ありがとう、これで銅貨3枚の稼ぎだ」
「これだけで3枚? まあまあ美味しいじゃん」

「だがこれ以上は危険だ、帰れ」
「えーー? 気付かずに素通りしたくせにー?」

「ああ、これで臭いは覚えた。次からは見逃さない」

 鼻を鳴らしてみせると、何が面白かったのかその子に吹き出された。

「なんか心配……。他の2つが見つかるまで手伝ってあげる」
「いや、まあ……そうしてくれると助かるが……。わかった、見つかったら出口まで送ろう」

「オレ、ピカピカの銀貨欲しいなぁ……?」
「はは、うちの妹よりしっかりしているな」

「え、妹いるの?」
「ああ、いる。お前よりちょっと年上だろうな」

「へーー……歳離れてるんだー?」
「ふ……っ、言っておくが、うちの妹は国一番の美少女なんだぞ。やさしく、愛嬌があって、甘え上手な理想の家族だ」

 つい饒舌に語ってしまうと、その子は返答に困ったのか黙り込んでしまった。

「にーちゃん、やっぱロリコンじゃん……」
「違う、これは家族愛だ」

「オレ、親いないからわかんないけど、それ、フツーの愛し方じゃないと思う……」
「……さっきも言ってたな。親、いないのか?」

「いないよ。でもそれがオレのフツーだし。にーちゃんがなんも見えないのと同じだよー。あっ、イエローハーブってあれじゃない!?」

 少女が茂みのあたりに飛び出そうとすると、何か嫌な感じがした。
 念のため俺は装填済みの重弩を構え、様子をうかがった。

 ボウガンの強みはこれだ。
 事前に装填しておけるので、弓なんかよりずっと早く敵をぶち抜ける。
 何かあったらトリガーを引くだけでいい。

「ちょ、何やってんだよ、にーちゃんっ?!」
「少女っ、一応確認だがっ!! お前の後ろにーる黄土色のでかい塊はっ、敵か!?」

「へ……? うっ、わっ、わっ、うわああああーっっ?!」

 なんだ、敵か。

「ならヨシッ!!!」

 トリガーを引いて、やけにでかい塊をぶち抜いた。

 その黄土色の塊は大地を揺らして崩れ、次弾を装填して構えると、既に動かなくなっていた。

 近付いて正体を確かめようとすると、あと一歩のところで消えてしまった。

「にーちゃん……すっげぇぇーー……」
「大丈夫か? 歩けないなら背中に乗るか?」

「うわ、でもやっぱロリコンだ……」
「助けてもらっておいて、なんだその言いぐさは……」

「あ、なんか落ちてる! これって、ドロップってやつでしょ!?」
「見せてみろ」

「やだー! これ、オレが拾ったんだしー、もうオレの物っ!」

 本当にたくましい子だな……。
 恐い目に遭ったというのに少女は立ち上がり、ネコババしたお宝に目を輝かせている。

 手を引っ込めて宝に顔だけ近付けてみると、それはべっこう飴みたいに輝く拳大の琥珀だった。

 しかしその中には、小さなムカデが入ってしまっている。

「いいのか? ムカデ入りだぞ?」
「いいよ、カッコイイじゃん!」

「そうか……?」

 欲しいか欲しくないかで言えば、ムカデ入りは別に欲しくない。

「まあ、そんなに欲しいならやる。うちの妹が見たらひっくり返る」
「マジでー!? ありがとうっ、ロリコンのにーちゃんっ!」

 子供って自由だな……。
 俺は鋼鉄の矢を回収して、イエローハーブを採集籠に入れた。

 しかしそのすぐ隣にあった草が、どうも依頼書のベースハーブに似ている気がする。
 依頼書と見比べてみると、それが目当ての草だった。

 それも根を残して切り取って、籠に入れた。

「ありがとう、サンプルも見つかったことだし、出口まで送ろう。後は臭いだけでどうにかなる」
「ううん、やっぱ最後までつき合ったげる」

「おい……それはダメだ」
「そんなことより、ボンちゃんの妹の話してよー!」

「ボ、ボン……? へ、変な略し方するなっ。それじゃまるで、ボンボンみたいだろ……」
「違うの?」

「お前にはノーコメントだ」
「それよりさー、妹の話してよー! ハーブ探しながらさー!」

「む……そうか、ならいいぞ。妹の話が終わるまでは、付き合わせてやろう。いいか、俺の妹はな……?」

 リチェルの話をしながら薬草採集をした。
 ときおり邪魔な魔物が視界に入っては、一応少女に確認を取ってから、ズドンとぶち抜いた。

 あるいは逆に少女が敵に気付き、ぶち抜くように俺を誘導した。

 今日までなんとなくの現場ヌコ感覚でコイツを撃って来たが、誘導者スポッターがいるというのはいいものだ。

「さらにうちのリチェルはな、その気になればメテオを1日200発撃てる」
「嘘だぁー! そんな子いるわけないよーっ!」

「いる。何せ俺の妹は――」
「天才だからだ! でしょ。それもう10回くらい言ってるよ?」

「……まさか。いや、それくらい言ったかもしれんか。無意識というのは、恐ろしいものだな……」

 ドロップは少女に任せ、鼻をフガフガ鳴らしてレッドハーブを採集した。
 運良く群生地が見つかり、一気に7株も採集出来た。

「ねぇ、そんなに強いのに、なんで薬草採集なんてしてるの……?」
「初クエストは薬草採集。そう相場が決まっているんだ」

「え、これが初仕事なの?」
「ギルド支部では散々冷やかされた。その目でどうやって薬草を採集するんだ、とな」

「それがフツーの反応でしょ」
「なら出口まで送ろうか?」

「なんだよ、別に不機嫌になんなくてもいいじゃん。ボンちゃん目悪いけど、ちゃんとやれてるんだしー?」
「ふっ、まあな」

「でも臭いだけでわかるもんなんだねー! すっごーっ、犬みたい!」

 こういうズゲズケと言う子もいいものだな。
 変に言葉を選ばない分、それが純粋に感じられて、腹の底を探らなくてもいいのが楽だ。

「よかったら今度、マレニアに遊びに来ないか?」
「へーー、ふううーん? そうくるんだぁー?」

「言っておくが変な意図はないぞ。うちの妹と一緒に買い物でもどうだ? 食事くらいならおごるぞ」
「リチェルかー……その子、本当に存在するの?」

「かわいいぞ?」
「はいはい、それはもう30回くらい聞いたから。じゃ、気が向いたら行くよ」

「ではリチェルの話の続きをするか」
「うげ……」

「そうだ、出会いの話をしよう。当時の俺は――」
「ちょ、その子の話はもういいよ……っ。いい加減飽きたしー……」

「遠慮するな。当時の俺は不器用でな、リチェルのことを逆恨みしていた。だが――」
「うわぁぁ……人の話聞いてないし、この人……」

 うちの妹の素晴らしさを語るには、薬草採集のクエストはいささか小規模だった。
 気付くと太陽が傾き始め、さらに語ると3時過ぎくらいの曖昧な空の色になっていた。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...