視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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マレニア魔術院の一学期

・終業式と夏期休暇 - 故郷にて -

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 俺たちは故郷、オルヴィン領に帰った。
 あっちで食べるチョコに、チョコクッキーに、チョコドーナッツと、チョコカステラと、チョコスコーンを土産に。

 工芸家でもあるハンス先生には、新しいノミと革グローブと、少し高級なウィスキー。

 母さんには、都で流行りの化粧品と、人様に見栄のはれる牛皮のバッグ、それとラピスラズリが付いた銀のネックレスを買って帰った。

「グレイボーンくん……。ああ、すまない……本当にすまない……」

 夕飯の席で、リチェルと一緒に2人に渡した。
 ハンス先生は半泣きになってプレゼントを喜んだ。
 生徒から母親を奪った咎は、いまだに先生の胸を苦しめているようだった。

「こんな物を……。グレイボーン、お金はどうしたのです?」
「迷宮実習の日に俺が稼いだ。母さん、父さんの目に狂いはなかったんだよ」

 そして金を見せた。
 10枚は豪遊に、もう10枚は友人に貸したので、金貨480枚が入った袋が食卓のド真ん中に輝くことになった。

 母さんは悲鳴を上げ、ハンス先生はひっくり返り、リチェルは倒れた先生を介抱した。
 どこかで父さんがこの光景を見てくれていたらと思う。

 父さんは間違っていなかった。
 まともな仕事に就けるかも怪しい息子を、重弩使いに育てようとしたのは、常識的に見れば正気の沙汰ではなかっただろうが――決して間違っていなかった。

「どうだ母さん、思い知ったか?」
「あの人が正しかった。貴方はそう言いたいのね?」

「そうだ。普通に考えたら虐待や異常行動だったかもしれないが、ロウドック・オルヴィンは、正しかった」
「そう、よかった……」

 どんな反応を返すか予想もつかなかった。
 けれど母さんが見せたのは安堵だった。
 大きなハンデを抱えた息子が、まさかの大金を手に入れて帰って来た。

 親からすれば喜ばしい以外に感想なんてないだろう。

「もっと悔しがってほしいんだが……?」
「貴方はお父さんっ子だったものね」

「あ、ああ、まあな……」

 席を立ち、ラピスラズリのブローチを母さんの胸元に着けた。
 女の身で領主の仕事を代行しているのは母さんだ。
 これで近隣の領主に舐められたりしないだろう。

「素敵」
「当然だ。リチェルが選んだんだからな」

 母さんに顔を近付けると、とても幸せそうに笑っていた。
 心から安心していて、なんか調子が狂う……。
 父さんが正しかったと、勝ち誇ってやるつもりだったのに。

「10枚は手元に残すとして、残りは家に入れるよ」

 袋から金貨10枚をつまみ取って、袋を閉めた。

「助かるわ。最近出費が多くて」
「出費? たとえば?」

「領地の風車が故障して、今はお隣の領地のものを借りているの」
「それは困るな……直そう」

「それと共用の荷馬車の車軸が壊れたり、街道もデコボコになっていて、前から苦情が来てるの。あの人がここを開拓して、もう20年以上が経っているから……」

 前向きに考えよう。
 金の使い道があるのはいいことだ。
 街道整備となるとたくさんの労働者が必要で、かなり予算がかさみそうだが……。

 足りなくなったらまた稼げばいい。
 最終的にそれらは、リチェルの物になるのだから。

「ここは当時、国の支援で一気に開拓されたのよ。だから一気に、ガタが来たのよ……」
「よし、なら俺も手伝おう。イザヤで学んだ工学の知識の出番だ」

 風車はさすがに無理だが、車軸くらいなら直せるはずだ。

「立派になったわね……」
「父さんの勝利だ」

「ええ、私の負けよ。あの人が正しかったわ」
「はは、その言葉が聞きたかった」

 目標達成だ。
 母さんへのマウントに満足すると俺は席に戻り、ハンス先生がこの日のために用意してくれたビーフシチューを口に入れた。

 ……もう、だいぶ冷めていたがな。
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