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マレニア魔術院の一学期
・終業式と夏期休暇 - 金貨500枚 -
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今日は遠距離系の授業はなかったので、身軽な手ぶらで歩けた。
俺はぼやける目で廊下を歩き、勘で階段を上り、明らかに俺を避けて通る生徒たちの間を抜けて、学院長室の前に立った。
「遅いです、早く入りなさい!」
ノックをしようとすると、中からセラ女史に叱責された。
立派な学院長室の扉を押し開いて入室すると、書斎に腰掛ける学院長らしき姿の隣に、セラ女史っぽい人が立っていた。
「私を待たせるとはいい度胸ですね」
「学院長室でそれを言うか?」
「ワ、ワシが……マレニア学じゅちゅ院院長……ブランチ・インスラーである……」
気のせいか、萎縮してないか……?
今さり気なく、ちょっとかまなかったか……?
学院長ほどの人でも、セラ女史が苦手なのか……?
「グレイボーン・オルヴィン、こちらへ」
「なんでいちいち高圧的に言わないと気が済まないんだ、アンタは」
「よ、よせ……刺激するな……」
動揺に震える声で、学院長が俺に警告した。
マレニアの真の支配者は、セラ女史なのか……?
ヒュンッと、鼻先にビンタがかすめた。
「ロウドックに似た顔で言われると、無性に殴りたくなってくるわ……」
「殴ろうとしてから言うな」
「ワ、ワシ……ワシ、ブランチ・インスラーは、席を外したい……」
「ここに居なさい」
「は、はい……ブランチ・インスラー残ります……」
この女は生徒の手を豚足にするような女だ。
キレるとメテオだって落とすし、逆らうのは賢明ではない。
「喜びなさい、グレイボーン。学院長の許可が下りたわ」
「本当か?」
「学院長、例の物を」
「は、はい……っ」
気迫の人ブランチー・インスラーは震え上がりながら、書斎机のこちら側にジャラジャラとした布袋を置いた。
「お約束の金貨500枚です。このたびのご迷惑のおわびに、どうぞお受け取り下さい。……機密は守っていただきたかったですけれど、まあいいでしょう……」
不満を持ちながらもキッチリを約束を守ってくれるところが素敵だ。
強欲な俺は、ずっしりと重たい金貨袋を受け取った。
金貨500枚が詰まった頑丈な麻袋は、筋トレにもピッタリそうだ。
「漏らしたのは俺でもリチェルでもない」
「あら、でしたらどこの誰が、マレニアに都合の悪い不祥事を漏らしたというのですか?」
「ラズグリフ教官あたりじゃないか? あの時ちょうど酒も入ってたぞ? ふ、ふふふ……金ピカの金貨が、本当に500枚あるな……」
現代に持ち帰ったら、これだけで豪邸を建てられる。
そう思うとその不変の輝きを持つ硬貨がますます輝いて見えてきた。
「あるいは、ジーンですね」
「ジーンが? アイツは組合側だろう」
「あの後、組合の上層部が調査に難色を示しましてね。彼は心の底から怒っていました」
「アイツが? そんな熱いやつだとは思わなかったな」
人の第一印象なんてあてにならないな。
ま、俺の場合は節穴どころじゃないんで、大目に見てもらいたい。
「彼は何がなんでも真犯人を見つけたいようです」
「そこまで行くと尊敬ものだ。あいつに対する評価を変えないとな」
「ええ、同感です。『査察官が不正に目をつぶっていたら、誰が不正を見つけんだバカ野郎』と叫ばれては、評価を改める他にありません」
そりゃいい、気に入った。
上に逆らってまで正義を求めるなんて、そうそう出来るものではない。
「ワシがマレニア学術院院長!!! ブランチ・インスラーである!!!」
「うわビックリしたぁっっ?!!」
「許せんっっっ!!!」
「変な自己主張はいいからそれだけ言えよっっ?!!」
学院長もまたご立腹だった。
そんな学院長の光沢あるハゲ頭を女史が撫でると、みるみるうちに顔が青ざめていったのも印象的だった。
それほどか。
それほどまでにこの女は恐ろしいのか。
「私も同感です。マレニア側からも働きかけることにいたしましょう。そうですね、学院長?」
「ひゃ、ひゃい……」
なんか気の毒だし、貰う物も貰ったし、帰るか。
俺は金貨袋を担いで、夏期休暇にふわふわと浮ついた廊下を抜け、緑豊かな回廊に出て、住み慣れた学生寮へと戻った。
今晩はこの金で豪遊だ。
金貨をジャラジャラ鳴らして、ジュリオたちに冒険譚を語ろう。
俺はぼやける目で廊下を歩き、勘で階段を上り、明らかに俺を避けて通る生徒たちの間を抜けて、学院長室の前に立った。
「遅いです、早く入りなさい!」
ノックをしようとすると、中からセラ女史に叱責された。
立派な学院長室の扉を押し開いて入室すると、書斎に腰掛ける学院長らしき姿の隣に、セラ女史っぽい人が立っていた。
「私を待たせるとはいい度胸ですね」
「学院長室でそれを言うか?」
「ワ、ワシが……マレニア学じゅちゅ院院長……ブランチ・インスラーである……」
気のせいか、萎縮してないか……?
今さり気なく、ちょっとかまなかったか……?
学院長ほどの人でも、セラ女史が苦手なのか……?
「グレイボーン・オルヴィン、こちらへ」
「なんでいちいち高圧的に言わないと気が済まないんだ、アンタは」
「よ、よせ……刺激するな……」
動揺に震える声で、学院長が俺に警告した。
マレニアの真の支配者は、セラ女史なのか……?
ヒュンッと、鼻先にビンタがかすめた。
「ロウドックに似た顔で言われると、無性に殴りたくなってくるわ……」
「殴ろうとしてから言うな」
「ワ、ワシ……ワシ、ブランチ・インスラーは、席を外したい……」
「ここに居なさい」
「は、はい……ブランチ・インスラー残ります……」
この女は生徒の手を豚足にするような女だ。
キレるとメテオだって落とすし、逆らうのは賢明ではない。
「喜びなさい、グレイボーン。学院長の許可が下りたわ」
「本当か?」
「学院長、例の物を」
「は、はい……っ」
気迫の人ブランチー・インスラーは震え上がりながら、書斎机のこちら側にジャラジャラとした布袋を置いた。
「お約束の金貨500枚です。このたびのご迷惑のおわびに、どうぞお受け取り下さい。……機密は守っていただきたかったですけれど、まあいいでしょう……」
不満を持ちながらもキッチリを約束を守ってくれるところが素敵だ。
強欲な俺は、ずっしりと重たい金貨袋を受け取った。
金貨500枚が詰まった頑丈な麻袋は、筋トレにもピッタリそうだ。
「漏らしたのは俺でもリチェルでもない」
「あら、でしたらどこの誰が、マレニアに都合の悪い不祥事を漏らしたというのですか?」
「ラズグリフ教官あたりじゃないか? あの時ちょうど酒も入ってたぞ? ふ、ふふふ……金ピカの金貨が、本当に500枚あるな……」
現代に持ち帰ったら、これだけで豪邸を建てられる。
そう思うとその不変の輝きを持つ硬貨がますます輝いて見えてきた。
「あるいは、ジーンですね」
「ジーンが? アイツは組合側だろう」
「あの後、組合の上層部が調査に難色を示しましてね。彼は心の底から怒っていました」
「アイツが? そんな熱いやつだとは思わなかったな」
人の第一印象なんてあてにならないな。
ま、俺の場合は節穴どころじゃないんで、大目に見てもらいたい。
「彼は何がなんでも真犯人を見つけたいようです」
「そこまで行くと尊敬ものだ。あいつに対する評価を変えないとな」
「ええ、同感です。『査察官が不正に目をつぶっていたら、誰が不正を見つけんだバカ野郎』と叫ばれては、評価を改める他にありません」
そりゃいい、気に入った。
上に逆らってまで正義を求めるなんて、そうそう出来るものではない。
「ワシがマレニア学術院院長!!! ブランチ・インスラーである!!!」
「うわビックリしたぁっっ?!!」
「許せんっっっ!!!」
「変な自己主張はいいからそれだけ言えよっっ?!!」
学院長もまたご立腹だった。
そんな学院長の光沢あるハゲ頭を女史が撫でると、みるみるうちに顔が青ざめていったのも印象的だった。
それほどか。
それほどまでにこの女は恐ろしいのか。
「私も同感です。マレニア側からも働きかけることにいたしましょう。そうですね、学院長?」
「ひゃ、ひゃい……」
なんか気の毒だし、貰う物も貰ったし、帰るか。
俺は金貨袋を担いで、夏期休暇にふわふわと浮ついた廊下を抜け、緑豊かな回廊に出て、住み慣れた学生寮へと戻った。
今晩はこの金で豪遊だ。
金貨をジャラジャラ鳴らして、ジュリオたちに冒険譚を語ろう。
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