視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

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マレニア魔術院の一学期

・終業式と夏期休暇 - 人の話を聞かない○ -

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 昨晩は大騒ぎだった。

 誰が広めたのやら、弱視の重弩使いグレイボーンと腐食のカミルが、冒険者組合にハメられてAAA迷宮に挑まされ、そしてまさかの生還をしたと、夜になると寮はその話で持ちきりになっていた。

 そのせいで俺とリチェルとカミル先輩は職員寮に呼び出され、話を故意に広めたのではないかと疑われた。
 冒険者組合とマレニア魔術院はこの不祥事を内密にしたかったようだ。

 俺からは『知らん』とだけ答えておいた。
 明日は昼から終業式で、俺の頭は故郷と土産物と、リチェルと、ジュリオたちとのパーティのことでいっぱいだった。

 試験の結果のことなんて、すっかり忘れていた。

「ワシがマレニア学術院院長!!! ブランチ・インスラーである!!!」

 午前には今学期最後の授業がみっちりと詰まっていた。
 その最後のしごきを乗り越えると、700名が集まれるでかい講堂にて、終業式が執り行われた。

 ちなみに学長の挨拶は一瞬で終わった。
 長ったらしくああだこうだ説教されるよか、よっぽど素晴らしい名スピーチだった。
 ただの自己紹介だったような気もするが、誰もそんなことは気にしなかった。

 かくして、一学期の全課程の終了が告げられると、俺たちはあっけないほどに短い終業式を終えて、教室に戻った。

「がんばったな、リチェルくん。二学期に期待しているぞ」
「は、はいっ、来年も、明るく元気にがんばりますっ!」

 そこで俺たちは通信簿――ではなかった。学業成績表をクルト先生に渡された。
 なんか学生に戻ったかのような気分だ。
 いや、戻ってるんだった。

「年は越さなくていい。夏が終わったらまた会おう」
「はいっ! お兄ちゃんと、戻って来ます!」

「はははっ、任せたよ、リチェルくん」
「任せて!」

 リチェルが隣の席に戻り、後ろの席の生徒に通信簿――じゃなかったやつが渡されてゆくと、やがて俺の番が来た。

「グレイボーン」
「ああ」

「うっ、そんなに顔を近付けなくてもいい……っ」
「いや悪い、しばらく会えないとなると、教官の顔を忘れてしまいそうでな」

 俺が顔を寄せると、クルト教官は黒板まで後ずさって逃げた。
 ようやく打ち解けてきた同級生たちが、このやり取りに笑ってくれた。

 最初はどうなるかと思ったが、リチェルのおかげか上手くやれている。

「お前というやつは……。イザヤでも・・主席だったくせによく言う」

 教官のその言葉に教室が大きくざわついた。

 『やっぱりか』とか『すげぇ』とか『リチェルの兄貴やべー』とか『そりゃそうよねー』とか、色々な言葉がこだました。

「お前が学年トップだ」
「お兄ちゃんっ、しゅごーいっっ!!」
「マジか」

「マジだ。勘で重弩を撃ちまくるやつが一学期主席とは、こっちも驚きだよ。不利を物ともせずよくやった」
「そうか、トップか……。ありがとう、クルト教官。来年もがんばるよ」

「兄弟揃っていちいちボケるなっ! 夏が終わったらちゃんと帰って来い!」

 またクラスのみんなが笑ってくれた。
 リチェルの言葉に釣られてしまって、素で間違えたとは言えなかった。

「それとインスラー学院長がお呼びだ、これが終わったら学院長室に寄って行くように」
「わかった」

 席に戻って通信簿的なやつに目を通した。
 一学期は最高点800点中、759点だったそうだ。

 ただ備考欄の【人の話を聞かない○】【協調性に問題あり△】【パーティプレイ×】が気になった。
 俺はちょっと自分があるだけなのに……。

「貰ってないやつはいないよな? では、夏が明けたらまた会おう。俺も真夏の間は現役に戻る、お互い生きてたらまた会おう」

 最後にクルト先生はカッコ付けて、カッコ付けんなと生徒に茶々を入れられながら、少し寂しそうに振り返りながら教室を出ていった。

 同級生たちは皆が皆、学期の終わりというこの独特の開放感に酔い、教室を言葉で埋め尽くした。

 特にリチェルの周囲が最も賑やかで、兄はリチェルがクラスメイトとの別れを済ます姿を盗み聞きしながら、食堂からパクッて来た新聞を読み返して聞き耳を立てた。

「またな、グレイボーン。妹かわいさにこれ以上バカやんなよ?」
「ああ、また9月にな」

 最近は声をかけてくれるやつも増えた。
 故郷に妹を持っている兄貴たちなんかは、俺のことを好意的に見てくれる傾向がある。

「総合成績では負けたが、近接戦闘術では俺の勝ちだ。忘れるな」
「しかし総合成績では俺の勝ちだ。またな」

 また一ヶ月後にと約束して、俺たち兄妹は去りゆくクラスメイトたちと別れた。
 そうしていると、コーデリアのやつが俺から新聞を引ったくった。

「学院長に呼ばれているんではなくて?」
「……あ。ああ、忘れていた」

「あ、貴方って人は……っ。リチェルちゃんはわたくしが寮まで送りますから、さっさと行って来なさい!」

 クラスメイトと別れるのが惜しいが、学院長を待たせるのも悪いか。

「悪いな、ではリチェルを頼む。悪口を言う者がいたら、俺の代わりに睨み付けておいてくれ」
「お、お兄ちゃぁん……っ、そういうのは、いいよぉ……っ」

「冗談はほどほどにして早く行きなさいっ!」
「俺は本気だ」

「ますます悪いですわっ!」
「お兄ちゃん、また後でね……! 夜、楽しみ!」
「わたくしもですわ! タダ飯っ! これ以上に美しい言葉が世にあるでしょうか……っ! いいえっ、ありませんっっ!!」

 どうも心配だが、コーデリアのやつが目を輝かせながら背中を押すので、俺はおとなしく教室から追い出されることにした。
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