視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
36 / 107
マレニア魔術院の一学期

・最凶の二人 - 頼む、ネコババさせてくれ -

しおりを挟む
「レッドドレイクが、たった、2発だと……? な、なんじゃお前……」
「1フロア目でこれだ、奥はもっと期待できそうだな。ん……なんか臭くないか?」

 なんか、イカの腐ったような、質の悪いチーズのような……酷い匂いが空気に混じっている。

「カミルが腐食の魔法剣を使ったんだよ……。アレが見えねぇお前は幸せもんだ……」

 辺りを見回すと、2体の緑色のでかいのも消えていた。
 強いな、カミル先輩。

 不快な臭いは一時的なもので、モンスターの消滅の共に悪臭もかき消えていった。

「引いただろ……。これが僕の力だ……」
「いや、引こうにもなんも見えんかったし」

 そう軽く返すと、カミル先輩は黙り込んでしまった。

「そういえば君は、そうだったな……」
「ハハハハッ、いいコンビじゃねぇか、お前ら! グロいのなんて、なーーんも見えねーってよっ、カミル! よかったな!」

 地に落ちていた鋼鉄の矢を回収した。
 それと何か赤く光る物が落ちていることに気付いた。

 拾い上げて目に近付けてみると、それは真紅と灰色が混じる真っ赤な原石だった。

「ネコババするにはでかいな……。教官、ここは相談なんだが、これ、闇ルートかなんかで売りさばけないか?」
「お前な……。お前は俺のことを、なんだと思ってんだ……。こういうのを買ってくれるやつなら、知っちゃぁいるが」

「頼む、ネコババさせてくれ」

 男らしく精悍なラズグリフ教官の顔をのぞき込み、俺は真摯にお願いをした。

「俺はリチェルに、かわいい服とお菓子と人形と小づかいと、それに新しい装備や快適なベッド、女の子が好む小物や、その他もろもろを、買ってやりたいんだ……」
「君、意外に強欲な男だな……」

 教官はそんな俺から大きな原石を引ったくった。

「ほう、特大のガーネット原石か。俺の見たところ……金貨1400枚ってところか」

 え……?
 そ、ん、な、に……?

「マジか……? それだけあればっ、欲しいもの全部買ってやった上に、実家のリフォームまで出来るじゃないか!」

 金貨1400枚の価値のある宝石!
 特大の万馬券を拾ったようなものだ!

「学校に引き渡せば、2人それぞれで金貨70枚だな」

 だが俺の興奮は、教官のその一言に冷めた。
 俺の取り分は、たった5%だそうだ。

「横暴にもほどがあるだろっ! ネコババさせろっ!」
「なるほどね、言われてみたら段々腹が立って来たな。ハメられた僕たちから、学校は9割も持っていくのかな?」

 それが学校の運営資金になり、美味い食事と快適な環境になり、充実した設備と、迷宮を使った実習に繋がる。
 それはわかる。

 だが1人あたり金貨700枚の稼ぎがたった70枚になるのは、さすがに酷いってか人でなしの所行だろ!?

「しょうがねぇ、学長に話付けてやるよ。そもそもこの実習、俺たち大人のしくじりでこうなったんだ。さすがにこれ以上は、生徒の信頼を裏切れねぇよ」
「おお……っ、いいのかっ!?」
「話がわかるじゃないか、教官殿」

「全額は無理だぜ。だが半額くらいならどうにかなんだろ。落ち度は組合と学校側にあんだからな」

 となると、1人辺り金貨350枚を期待してもいいということか!
 おあつらえ向きに明日はパーティ!
 明後日は土産を持って故郷に帰る日!

「ふ、ふふ、ふふふふ……これが一攫千金の人生! 大きな臨時収入ってやつか! 冒険者って、素晴らしいな!!」

 え、ボーナス?
 うちのスーパーにはそんなものなかった!
 店長とパートのおばちゃんに挟まれる毎日だった!

「大げさに受け止め過ぎとは思うけど……僕も同感だ。僕たちをハメたやつには感謝してやらないとね」
「金の使い道は帰ってから考えろ。浮ついてると、足をすくわれるぜ」

 俺たちは教官にお宝を託し、地上へのポータルを求めて迷宮を進んでいった。


 ・


 ポータルは地下5階入り口に配置されていた。
 そこにたどり着くまでに、幾多のフロアを抜けることになった。

 が、この迷宮は竜頭蛇尾だった。
 最初のレッドドレイク以降は小物ばかりで、カミル先輩がチーズのような酸っぱい匂いを漂わせながら、雑魚を次々と片付けてしまった。

 いや俺の標的にちょうどいい、でかいのもいたが、どいつこいつも1撃で絶命するあたり、まったくもって味気ないと言わざるを得なかった。

 まあ、そういったわけだ。
 俺たちは青白く光る美しい空間、地上へのポータルエリアにたどり着き、名残惜しいがこの新しい迷宮から地上に戻った。

 いったい誰が俺たちをハメたのか。
 コレは事故なのか、故意なのか、ジーンの関与はどれほどなのか。

 なんか気になる謎を残したまま。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...