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マレニア魔術院の一学期
・最凶の二人 - 罠? ならば踏み抜くまでのこと -
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「変更……? また突然だな」
「しょうがねぇだろ、今日試験を受けるのはあいつらだけなんだ。リソースを割いてもらえるだけ、ありがてぇだろがよ」
職員室を訪ねると、奥から聞き覚えのある声が聞こえた。
片方は護衛術担当のラズグリフ教官で、彼は2年前に世話になったあの声の野太い試験官でもあった。
そしてもう片方は――
「ジーン? 何やってんだ、お前?」
「はっ、野暮用に決まってんだろ。んじゃ、確かに伝えたぜ」
だみ声のジーンだ。
やつは俺の顔を見るなり、まるで逃げるように職員室を出て行った。
「くわばらくわばら……最悪のコンビだぜ、ありゃ……」
いちいち余計な言葉を言い残しながらな。
ま、ジーンの口が悪いのは今に始まったことじゃない。
「教官殿、何か問題でも?」
「おう、カミル、ペアが見つかってよかった。まさかその相手が、2年前に逃した大物とは思わなかったけどよ、だはははっ!」
「僕は単独で潜る予定だった。ペアじゃないと潜らせないと、余計なルールを追加したのはそっちでしょう」
「はっ、お前らはどっちも、1人で突っ走りたがるところがあるからな!」
2人のそのやり取りは、俺とクルト教官との関係に少しだぶって見えた。
「ジーンはここに何しに来てたんだ?」
「ヤツか……。ヤツはただ連絡を届けに来ただけだ。予約していた迷宮を、今さら貸せないと冒険者組合が言ってきてな、代わりの迷宮を紹介された」
「それはわかったが……なぜジーンが?」
「ああ……まあ、んな細けぇこたぁどうでもいいだろ」
……なぜはぐらかす?
俺のルームメイトのジーンは、俺が言うのもなんだがだいぶ変というか不審な男だ。
朝になっても部屋に帰ってこないことも、もはや数え切れないほどだった。
「さあ行くぞ。さっさと終わらせて、昼間っから一杯やろうぜ!」
「僕は遠慮するよ、店に迷惑がかかる」
「そもそも未成年に酒を勧めるな」
時代が時代なら炎上ものだぞ。
ラズグリフ教官は手書きの地図を片手に俺たちを校門の外へと導いて、すぐそこの青のトラムに乗せた。
・
目的の迷宮は、トラムを乗り継いで1時間半。さらにそこから30分ほど駅馬車で移動し、未攻略領域を徒歩で10分ほど歩いた場所にあった。
「だぁぁぁぁぁーーっっ、ふざけんなよっ、組合のボンクラどもがっっ!! 昼過ぎからパブでほろ酔いになってご機嫌で帰る予定がっ、台無しだろがよぉーっっ!!」
「ま、普通に遠いな……。突入前に昼寝でもしたい気分になって来た」
リチェルとコーデリアが挑んだ迷宮は、片道1時間もかからなかった。
片道2時間オーバーとか、だれるし、だるいし、遠距離通勤のサラリーマンより過酷だろ……。
「僕の見た限り、ここには人が滞在した痕跡がない。本当にここなのか?」
「おう、俺もちょいと変だな……と思いかけていたところだ」
言われて目を石柱や壁に近付けてみたが、俺にはてんでわからない。
ただ1つ気付いていたことがあった。
「2人とも、先週の新聞を覚えているか?」
「新聞? 見ねぇよ、んなもん!」
「迷宮を攻略したパーティが現れたとあった」
「ああ、あれな! 最初からそう言えよ!」
「とにかく彼らは、カタリーニャ地方の迷宮のうち1つを攻略したそうだ」
「ん……んんーー……? なんか、聞き覚えがあるな? それも最近か?」
教官はたくましい腕を組み、考える彫像と化した。
「うちの担任は大ざっぱで困るよ。教官殿、さっき下りた駅の名前が、カタリーニャ駅だ」
「おおっ!!」
手を叩いて教官は納得した。
つまりここに人気がないのは、これまでずっと手付かずだったからだ。
「なぁぁぁるほどっ!! つまりここは、新たに解放された新迷宮ってことか!! ……ん、新迷宮? んなんだとぉぉっっ?!! ちょい待てや聞いてねぇぜ、そんなんよぉっ?!!」
迷宮攻略に飛び石作戦は許されない。
人間が攻略した領土に隣接していなければ、迷宮は門を閉ざしたまま進入を拒む。
座学でそう習った。
「どうする、グレイボーン? 僕は君の判断に従おう」
「明日は予定がある。行くしかないだろう」
「ちょ待てやお前らよっ?!」
重弩の再点検をした。
問題なさそうだ。
どんなやつが出て来ても、こいつでズドンとワンショットキルだ。
「明日は外せない予定があるんだ、今日終わらせたい」
「僕も赤点はごめん被る。やむを得ないね」
「決まりだな。教官、俺たちは行くぞ」
カミル先輩を前衛にして、俺は迷宮の大きな階段を下った。
「待ちやがれお前らっ! こりゃ何かの間違いだ、無茶は止めろやバカ野郎ども!」
俺たちは扉の前に立った。
するとその迷宮は巨大な石の扉を音を立てて開き、俺と、腐食のカミルと、追って来たラズグリフ教官を神秘の世界へと飲み込んだ。
「しょうがねぇだろ、今日試験を受けるのはあいつらだけなんだ。リソースを割いてもらえるだけ、ありがてぇだろがよ」
職員室を訪ねると、奥から聞き覚えのある声が聞こえた。
片方は護衛術担当のラズグリフ教官で、彼は2年前に世話になったあの声の野太い試験官でもあった。
そしてもう片方は――
「ジーン? 何やってんだ、お前?」
「はっ、野暮用に決まってんだろ。んじゃ、確かに伝えたぜ」
だみ声のジーンだ。
やつは俺の顔を見るなり、まるで逃げるように職員室を出て行った。
「くわばらくわばら……最悪のコンビだぜ、ありゃ……」
いちいち余計な言葉を言い残しながらな。
ま、ジーンの口が悪いのは今に始まったことじゃない。
「教官殿、何か問題でも?」
「おう、カミル、ペアが見つかってよかった。まさかその相手が、2年前に逃した大物とは思わなかったけどよ、だはははっ!」
「僕は単独で潜る予定だった。ペアじゃないと潜らせないと、余計なルールを追加したのはそっちでしょう」
「はっ、お前らはどっちも、1人で突っ走りたがるところがあるからな!」
2人のそのやり取りは、俺とクルト教官との関係に少しだぶって見えた。
「ジーンはここに何しに来てたんだ?」
「ヤツか……。ヤツはただ連絡を届けに来ただけだ。予約していた迷宮を、今さら貸せないと冒険者組合が言ってきてな、代わりの迷宮を紹介された」
「それはわかったが……なぜジーンが?」
「ああ……まあ、んな細けぇこたぁどうでもいいだろ」
……なぜはぐらかす?
俺のルームメイトのジーンは、俺が言うのもなんだがだいぶ変というか不審な男だ。
朝になっても部屋に帰ってこないことも、もはや数え切れないほどだった。
「さあ行くぞ。さっさと終わらせて、昼間っから一杯やろうぜ!」
「僕は遠慮するよ、店に迷惑がかかる」
「そもそも未成年に酒を勧めるな」
時代が時代なら炎上ものだぞ。
ラズグリフ教官は手書きの地図を片手に俺たちを校門の外へと導いて、すぐそこの青のトラムに乗せた。
・
目的の迷宮は、トラムを乗り継いで1時間半。さらにそこから30分ほど駅馬車で移動し、未攻略領域を徒歩で10分ほど歩いた場所にあった。
「だぁぁぁぁぁーーっっ、ふざけんなよっ、組合のボンクラどもがっっ!! 昼過ぎからパブでほろ酔いになってご機嫌で帰る予定がっ、台無しだろがよぉーっっ!!」
「ま、普通に遠いな……。突入前に昼寝でもしたい気分になって来た」
リチェルとコーデリアが挑んだ迷宮は、片道1時間もかからなかった。
片道2時間オーバーとか、だれるし、だるいし、遠距離通勤のサラリーマンより過酷だろ……。
「僕の見た限り、ここには人が滞在した痕跡がない。本当にここなのか?」
「おう、俺もちょいと変だな……と思いかけていたところだ」
言われて目を石柱や壁に近付けてみたが、俺にはてんでわからない。
ただ1つ気付いていたことがあった。
「2人とも、先週の新聞を覚えているか?」
「新聞? 見ねぇよ、んなもん!」
「迷宮を攻略したパーティが現れたとあった」
「ああ、あれな! 最初からそう言えよ!」
「とにかく彼らは、カタリーニャ地方の迷宮のうち1つを攻略したそうだ」
「ん……んんーー……? なんか、聞き覚えがあるな? それも最近か?」
教官はたくましい腕を組み、考える彫像と化した。
「うちの担任は大ざっぱで困るよ。教官殿、さっき下りた駅の名前が、カタリーニャ駅だ」
「おおっ!!」
手を叩いて教官は納得した。
つまりここに人気がないのは、これまでずっと手付かずだったからだ。
「なぁぁぁるほどっ!! つまりここは、新たに解放された新迷宮ってことか!! ……ん、新迷宮? んなんだとぉぉっっ?!! ちょい待てや聞いてねぇぜ、そんなんよぉっ?!!」
迷宮攻略に飛び石作戦は許されない。
人間が攻略した領土に隣接していなければ、迷宮は門を閉ざしたまま進入を拒む。
座学でそう習った。
「どうする、グレイボーン? 僕は君の判断に従おう」
「明日は予定がある。行くしかないだろう」
「ちょ待てやお前らよっ?!」
重弩の再点検をした。
問題なさそうだ。
どんなやつが出て来ても、こいつでズドンとワンショットキルだ。
「明日は外せない予定があるんだ、今日終わらせたい」
「僕も赤点はごめん被る。やむを得ないね」
「決まりだな。教官、俺たちは行くぞ」
カミル先輩を前衛にして、俺は迷宮の大きな階段を下った。
「待ちやがれお前らっ! こりゃ何かの間違いだ、無茶は止めろやバカ野郎ども!」
俺たちは扉の前に立った。
するとその迷宮は巨大な石の扉を音を立てて開き、俺と、腐食のカミルと、追って来たラズグリフ教官を神秘の世界へと飲み込んだ。
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