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マレニア魔術院の一学期
・警告:パーティが見つかりません - 許せ。俺、命、惜しい -
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その晩、ガーラントさんに話を持ちかけた。
「許せ。俺、命、惜しい」
「俺に後ろから撃たれると思っているのか?」
「そうだ」
「大丈夫だ、ガーラントさんはでかいから――オークとかトロルとか、でかいのが現れなきゃ間違えない」
逆に言うと同じサイズのが現れたら、間違えて太い鋼鉄の矢でガーラントさんを背中から串刺しにしてしまうかも……。
「俺たち、友達」
「そうだ、俺たちは友達だ! だからわかってくれるよな、ガーラントさん!?」
「けど俺、まだ、死にたくない……。許せ」
「だから撃たないって!? ガーラントさんと同じ体格のが出てこない限り、大丈夫だって!」
自分で言っておいてなんだが、全然大丈夫ではないかもしれない。
だがそれでも、ペアが見つからないと俺は迷宮に挑めない!
せっかくの冒険者ライフの第一歩だというのに!
いやしかし、ガーラントさんならまだ説得の可能性がある。
背が高く温厚な彼は、しばしば小鳥に止まり木にされたり、突っつかれたり、糞をされたりしているが、全く気するような素振りがない。
そんなガーラントさんは草食系ならぬ、草食動物系だ。
よって諦めずに食い下がってゆけば、もしかしたら、あるいは……。
「へっ、ガーラントは俺と組むんだ、他を見つけな」
ところがそこにジーンという名のルームメイトが帰って来て、あろうことか俺のガーラントさんにラブコールをかけた。
「すまん。ジーンにも、誘われている」
ジーンは面白いだみ声の変わった男だ。
髪は褐色で、1学期がもう終わるというのに、いまだに人と馴れ合おうとしない。
1度だけジーンの顔を確かめたことがあるが、不良マンガの舎弟キャラみたいな老け顔だった。
「わかった、諦めるよ。悪かったな、ガーラントさん」
「すまん。俺、遠くから見ると、オーク。よく言われる」
初日、勧誘失敗。
明日からがんばろう。だった。
・
2日目。
勧誘を投げ捨てて都ダイダロスを出た。
目的地は都の郊外のそのさらに先だ。
同行者はリチェルとコーデリア、それに同級生と先生方と、ボランティアの冒険者さんたちだ。
トラムを使って近隣まで直行し、そこで別れて、それぞれの迷宮がある未攻略領域を訪れた。
迷宮の入り口は石造りのホールになっていて、古い石柱が下り階段に向けて立ち並んでいた。
「リチェル、危なくなったらコーデリアなんて見捨てて戻って来い」
「お、お兄ちゃんっ、そういうのはダメだよー……っ!」
「慎重に行け? 一歩先は落とし穴で、底には人喰いワニがいるかもしれない。それくらいの覚悟で挑むんだ!」
「こ、怖いこと言わないでよぉーっ!?」
ペアは見つからないが、今日はここで待機する。
実習の制限時間は1時間で、夕方までに6組のペアがこの迷宮に挑む。
俺は何か問題が起きたときに突入する役だ。
この迷宮は本来3組用で、もう1名入るゆとりがあるそうだ。
「リチェルのことはわたくしに任せて下さいまし。朝昼晩、貴重なご飯を譲ってもらったあのご恩を、このコーデリア・ハラペ忘れてなどおりませんわ……っ!」
「リチェルとコーちゃん、最強ですから! 大丈夫だよ、お兄ちゃん!」
リチェルとコーデリアのペアは第一陣として、迷宮の奥底に消えていった。
ちなみにコーデリアだが、貧乏貴族の娘だというのに、黄金に輝く鎧を身に着けていた。
モンスターを引き付けそうな見た目だが、俺から見た視認性はバッチリだった。
「心配だ……」
「自分の心配をしなさいと、何度言ったら貴方はわかるのです」
「ああああ、リチェルの指がモンスターにかじられたらどうしよう……?! うわああああっっ、どうすりゃいい、女史ぃっ!?」
「心配はいりません」
そう言って女史はいつものビンタを――くれなかった。
女史はとても知能の高い女性だ。
知能が高いということは、行動のバリエーションが豊富ということだ。
相手をいきなりやさしく抱擁して、当惑させてくるとは俺にも予想外だった。
「何も問題はありませんよ。敵が近付く前に、あの子は術で敵を吹き飛ばします。そんな子に、どうやって近付けというのですか?」
「そう、なんだが……。後ろから不意打ちを仕掛けられる可能性も……」
「座学では、そうならないように教えたはずですよ?」
「そ……そろそろ離してくれ……。なんか、落ち着かん……は、離れろ……っ」
「やはりそうですか。貴方には体罰より、コレが効くようですね、フフフ……」
やっと女史が解放してくれると、俺は彼女から遠く距離を取った。
理屈はわかるが、不測の事態は起こり得る。
俺は父さんの重弩を抱いて、迷宮の石柱に背中を預けて、その万一の可能性のために控えた。
「許せ。俺、命、惜しい」
「俺に後ろから撃たれると思っているのか?」
「そうだ」
「大丈夫だ、ガーラントさんはでかいから――オークとかトロルとか、でかいのが現れなきゃ間違えない」
逆に言うと同じサイズのが現れたら、間違えて太い鋼鉄の矢でガーラントさんを背中から串刺しにしてしまうかも……。
「俺たち、友達」
「そうだ、俺たちは友達だ! だからわかってくれるよな、ガーラントさん!?」
「けど俺、まだ、死にたくない……。許せ」
「だから撃たないって!? ガーラントさんと同じ体格のが出てこない限り、大丈夫だって!」
自分で言っておいてなんだが、全然大丈夫ではないかもしれない。
だがそれでも、ペアが見つからないと俺は迷宮に挑めない!
せっかくの冒険者ライフの第一歩だというのに!
いやしかし、ガーラントさんならまだ説得の可能性がある。
背が高く温厚な彼は、しばしば小鳥に止まり木にされたり、突っつかれたり、糞をされたりしているが、全く気するような素振りがない。
そんなガーラントさんは草食系ならぬ、草食動物系だ。
よって諦めずに食い下がってゆけば、もしかしたら、あるいは……。
「へっ、ガーラントは俺と組むんだ、他を見つけな」
ところがそこにジーンという名のルームメイトが帰って来て、あろうことか俺のガーラントさんにラブコールをかけた。
「すまん。ジーンにも、誘われている」
ジーンは面白いだみ声の変わった男だ。
髪は褐色で、1学期がもう終わるというのに、いまだに人と馴れ合おうとしない。
1度だけジーンの顔を確かめたことがあるが、不良マンガの舎弟キャラみたいな老け顔だった。
「わかった、諦めるよ。悪かったな、ガーラントさん」
「すまん。俺、遠くから見ると、オーク。よく言われる」
初日、勧誘失敗。
明日からがんばろう。だった。
・
2日目。
勧誘を投げ捨てて都ダイダロスを出た。
目的地は都の郊外のそのさらに先だ。
同行者はリチェルとコーデリア、それに同級生と先生方と、ボランティアの冒険者さんたちだ。
トラムを使って近隣まで直行し、そこで別れて、それぞれの迷宮がある未攻略領域を訪れた。
迷宮の入り口は石造りのホールになっていて、古い石柱が下り階段に向けて立ち並んでいた。
「リチェル、危なくなったらコーデリアなんて見捨てて戻って来い」
「お、お兄ちゃんっ、そういうのはダメだよー……っ!」
「慎重に行け? 一歩先は落とし穴で、底には人喰いワニがいるかもしれない。それくらいの覚悟で挑むんだ!」
「こ、怖いこと言わないでよぉーっ!?」
ペアは見つからないが、今日はここで待機する。
実習の制限時間は1時間で、夕方までに6組のペアがこの迷宮に挑む。
俺は何か問題が起きたときに突入する役だ。
この迷宮は本来3組用で、もう1名入るゆとりがあるそうだ。
「リチェルのことはわたくしに任せて下さいまし。朝昼晩、貴重なご飯を譲ってもらったあのご恩を、このコーデリア・ハラペ忘れてなどおりませんわ……っ!」
「リチェルとコーちゃん、最強ですから! 大丈夫だよ、お兄ちゃん!」
リチェルとコーデリアのペアは第一陣として、迷宮の奥底に消えていった。
ちなみにコーデリアだが、貧乏貴族の娘だというのに、黄金に輝く鎧を身に着けていた。
モンスターを引き付けそうな見た目だが、俺から見た視認性はバッチリだった。
「心配だ……」
「自分の心配をしなさいと、何度言ったら貴方はわかるのです」
「ああああ、リチェルの指がモンスターにかじられたらどうしよう……?! うわああああっっ、どうすりゃいい、女史ぃっ!?」
「心配はいりません」
そう言って女史はいつものビンタを――くれなかった。
女史はとても知能の高い女性だ。
知能が高いということは、行動のバリエーションが豊富ということだ。
相手をいきなりやさしく抱擁して、当惑させてくるとは俺にも予想外だった。
「何も問題はありませんよ。敵が近付く前に、あの子は術で敵を吹き飛ばします。そんな子に、どうやって近付けというのですか?」
「そう、なんだが……。後ろから不意打ちを仕掛けられる可能性も……」
「座学では、そうならないように教えたはずですよ?」
「そ……そろそろ離してくれ……。なんか、落ち着かん……は、離れろ……っ」
「やはりそうですか。貴方には体罰より、コレが効くようですね、フフフ……」
やっと女史が解放してくれると、俺は彼女から遠く距離を取った。
理屈はわかるが、不測の事態は起こり得る。
俺は父さんの重弩を抱いて、迷宮の石柱に背中を預けて、その万一の可能性のために控えた。
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