視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
25 / 107
マレニア魔術院の一学期

・妹は同級生 - ハラペコーデリア -

しおりを挟む
「まあっ! お肉っ、朝から鶏肉のバターソテーですわよ、リチェルちゃん!」
「ほんとーっ!? リチェル、ここのお肉好き! ほわぁぁ、いい匂い……っ」

 小学生か、お前らは。

 大きなパンと鶏のバターソテー。
 蒸しキャベツと豆のサラダをトレイに受け取って、俺たちは食堂の一角に腰を落とした。

 やる気のある生徒はもう食器を片付けて、自主練のために食堂を出て行く。

 リチェルとコーデリアとの縁がなかったら、俺もあっち側だったろうな。

「はぁぁぁ……っっ! 入って、よかった……マレニア、魔術院……っ!」
「飯食うだけでそれだけ言えるんだから、大したもんだよ、お前」

「うふふふっ、今のわたくしに皮肉は効きませんわーっ! ああっ、鶏の脂と上等なバターが舌にとろけて……はっ、はぁぁ……っっ」
「ごめんなさい、コーちゃん。お肉は、残せないかも……」

「いいんですのよ……。わたくし、豆一粒でも残して下されば、むせび泣いて喜びますのよ……」

 濃いな……。
 いや、味ではなく、マレニアの生徒たちの個性が。
 イザヤはもっと真面目というか、普通のやつばかりだった。

 騒がしい友人と言葉を交わしながら、とろけるほどに美味い鶏肉でパンをほおばっていった。

 年上の食事のペースに合わせようと、一生懸命食べるリチェルが愛らしかった。

「身体を動かすからか、こっちに来てからというもの飯が美味い。ごちそうさま」
「あらっ、あらあらっ、では……失礼っ♪」

 一通り平らげると、コーデリアは人の食器にひょいと手を伸ばして、視力弱者の食べ残しを拝借した。
 まあ、今に始まったことではなかった。

「ごちそーさま……。やっぱり、食べ切れなかった……コーちゃん、お願い……」
「まあっ!? こんなによろしいんですのーっ!?」
「いいから食え、うっとうしい……」

 コーデリアはこの通りの女性だが、リチェルが大変お世話になっている。
 モリモリと食事を平らげる音をBGMに、俺は食堂に置かれていた新聞を開いた。

 ド近眼につき、顔面から10cmの距離で。
 活字の上の世界はぼやけたり、見間違えたりしなくていい。
 記者は嘘を吐くかもしれないが、文字は嘘を吐かない。

「お、迷宮攻略に成功したパーティが出たらしいぞ。クルト教官の今日の話題はこれだな」
「まあ美味しそう――あら、間違えましたわ。わたくしたちも負けてられませんわね」

 コーデリアのその返しに、俺は新聞を顔から遠ざけた。

「なんだ、まさかお前も迷宮を攻略して、領主になりたいのか?」
「ええ、まあ……」

「子爵さんの娘なのにか?」

 コーデリアは問いかけに黙り込んだ。
 銀色に光るフォークを口にくわえたまま、食事の手を止めてしまっていた。

「…………ずっとお二人に黙っておりましたが、実は、わたくし……。わたくしの実家は、凄くっ、貧乏なんですの……っ!!」

「それは知らなんだ」
「リ、リチェルも……気付かなかった……かも……?」

 うちの妹はいい子だな。
 まだ11歳なのに人に気を使うとか、やはりうちの妹はただ者ではない。

 コーデリア・ハラペからは化粧や香水、保湿クリームの匂いが一切しない女性だった。

「困窮のあまり、我がハラペ子爵家は、土地も全て手放してしまっておりまして……」
「そりゃ詰んでるな」
「お兄ちゃん……っ」

 リチェルが身を寄せて抗議して来た。
 俺は友達思いで偉いその子の頭を撫でた。
 するとリチェルは猫みたいになった。

「お父様もお母様も仕事をえり好みしてまともに働こうともせず……。もはやこうなったらっ、わたくしがっ、このわたくしがお家を再興させる他にないのですわーっっ!」

 彼女に1つ聞きたい。
 席を立ち、フォークを天にかざす必要性はあるのだろうか、と。

「笑われるかもしれないが、俺も迷宮攻略が夢だ」
「あら……? ですけど、ご実家は領主一族とうかがいましてよ……?」

「家はリチェルが継ぐ。領地なんて継いだら、冒険者をする楽しみが台無しだ」
「みんなのお家は、リチェルが守りますっ!」

「おお、頼もしい女領主様だ。きっとリチェルは、領民に愛される伝説的な領主様になるぞ」

 再びリチェルを撫で撫でして褒めまくった。
 うむ、このサラサラ感。
 やはり全てが素晴らしいと言わざるをえないな、うちの妹は。

「でへへ……お兄ちゃん、ありがとうっ」
「ますます貴方が信じられませんわ……。みすみす、自ら将来の安定を手放すだなんて、とて――」

 そこで予鈴が鳴ってしまった。
 いいところだったが、この話はここまでのようだ。

「そろそろ教室に行こう。早く食え」
「コーちゃん、もう食べ終わってるよー」

「なっ、早……っ」
「この程度余裕ですわっ!」

 俺たちは食器を片付けて、教室1-Cに移動した。
 そこでクルト先生の下手くそな座学を受ける。
 それが俺たちのいつもの朝だった。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...