21 / 107
マレニア魔術院の一学期
・妹は同級生 - 牛さんより大きい! -
しおりを挟む
翌年の春、俺はリチェルと手を繋いで故郷を出た。
ろくすっぽ前が見えなくて難儀した街道を、リチェルに導かれて歩くのはとてもいい気分だった。
「えへへー、お兄ちゃんと、同じ学校! 同じ学校だよ、お兄ちゃん!」
「なんか夢みたいだな」
数え年で俺は18歳、7つ下のリチェルは11歳を迎えた。
歳は離れているがこれからは同級生だ。
「うんっ、ずっと夢だった! セラ先生、ありがとうだね!」
「はは、俺はハメられた側だけどな」
兄妹で気ままに歩いてゆくと、やがてトラム駅に着いた。
さてリチェルはどんな反応をしてくれるかな。
「お、お兄ちゃん大変大変っ!! 牛さんより大きいのがっ、動いてるよーっ!?」
「リチェル、牛を基準にすると田舎者だと思われるぞ。気持ちはわかるけどほどほどにな」
最後まで言い切る前に視界からリチェルが消えた。
「初めましてっ! あのおっきいのに乗りたいのです! お兄ちゃんとリチェルを乗せて下さい!」
リチェルは駅員の前に駆けて行って、そうお願いした。
俺の妹は礼儀正しいな。
少し恥ずかしいが、俺の妹がすることに間違いはない。
「おや、かわいいお嬢さんだね。魔導トラムは無料だよ、気を付けて乗るようにね」
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん大変大変っ、あれっ、無料だってーっ!!」
「あ、ああ……。リチェル、声はもう少し小さくな?」
「うんっ! 教えてくれて、ありがとう、おじさん!」
「楽しい旅を」
トラム駅のベンチで次のトラムを待った。
やがて軌道を鳴らしてトラムがやって来ると、リチェルの手を引いて乗り込んだ。
俺たち乗客が乗り込むと運転手がトラムを発進させる。
やわらかな風が頬を撫で始めた。
「ほ、ほわぁぁぁ……っ?!」
「リチェル、他のお客さんに迷惑だぞ」
「で、でもっ、でも凄いよ、お兄ちゃんっ! おっきいのがっ、牛さんより大きいのが動いてるっ!」
「そりゃトラムだしな。ほら座れ、立ってると落っこちるぞ」
そう警告すると、リチェルは兄の膝に座ろうとした。
さも当然と。
「いや、リチェル、人前でそれはまずい」
「え、なんでー?」
「なんでって……ちょっと仲が良過ぎるだろう? しかし似合うな」
人の膝に座ろうとするものだから、リチェルの制服に目の焦点が合った。
「えへへ……お兄ちゃん、もう50回くらいそれ言ってるよーっ!」
今日からリチェルは学生服だ。
ブレザーに魔法使いらしいマントを羽織って、学生帽子をかぶっている。
まるでアメリカの大学の卒業式みたいな帽子だった。
「言わずにはいられないんだ。うちの妹は世界で1番――いや、人前で言う言葉じゃないな、これは」
とにかくリチェルを隣に座らせて、あまりはしゃぐなと唇の前に人差し指を立てた。
転入を決めたのは正しかった。
こんな子を1人で王都に行かせられない。俺が面倒を見なければ、悪いやつにさらわれたり、騙されたりするに決まっている。
ああ、考えるだけでも肩がゾワゾワする……!
「いいか、リチェル。少しでも嫌だと感じる同級生がいたら、お兄ちゃんに言うんだ」
「うんっ。でも、なんでー?」
「それは、その子とお兄ちゃんが仲良しになるためだよ。そしたらその子も、リチェルと仲良しになれるだろう?」
「う、うん……」
うちの妹は天才だ。
いずれ必ずやっかまれる。
おまけにかわいくて性格がいいのだから、トラブルが起きないはずがない!
リチェルに少しでも妙なことをするやつがいれば、俺が排除する他にない……。
「それよりリチェル、目の前の風景をお兄ちゃんに語ってくれないか? さっきからがんばってはいるんだが、やはり、なんにも見えん……」
「うんっ、いいよー! あのね、今は青い小麦畑が見える! そよそよーって、風が見えるの!」
「おお、いいな、リチェルが言うと目に浮かぶようだ」
「えへへ……そうでしょー!」
「だけどもう少し、小さい声で頼むな」
他の乗客からすれば迷惑だったかもしれないが、俺たち兄妹にとってはとても楽しいトラムの旅になった。
2年前のあの日は何も見えなかったが、今日はハッキリと俺の目にも車窓が見えた。
ろくすっぽ前が見えなくて難儀した街道を、リチェルに導かれて歩くのはとてもいい気分だった。
「えへへー、お兄ちゃんと、同じ学校! 同じ学校だよ、お兄ちゃん!」
「なんか夢みたいだな」
数え年で俺は18歳、7つ下のリチェルは11歳を迎えた。
歳は離れているがこれからは同級生だ。
「うんっ、ずっと夢だった! セラ先生、ありがとうだね!」
「はは、俺はハメられた側だけどな」
兄妹で気ままに歩いてゆくと、やがてトラム駅に着いた。
さてリチェルはどんな反応をしてくれるかな。
「お、お兄ちゃん大変大変っ!! 牛さんより大きいのがっ、動いてるよーっ!?」
「リチェル、牛を基準にすると田舎者だと思われるぞ。気持ちはわかるけどほどほどにな」
最後まで言い切る前に視界からリチェルが消えた。
「初めましてっ! あのおっきいのに乗りたいのです! お兄ちゃんとリチェルを乗せて下さい!」
リチェルは駅員の前に駆けて行って、そうお願いした。
俺の妹は礼儀正しいな。
少し恥ずかしいが、俺の妹がすることに間違いはない。
「おや、かわいいお嬢さんだね。魔導トラムは無料だよ、気を付けて乗るようにね」
「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん大変大変っ、あれっ、無料だってーっ!!」
「あ、ああ……。リチェル、声はもう少し小さくな?」
「うんっ! 教えてくれて、ありがとう、おじさん!」
「楽しい旅を」
トラム駅のベンチで次のトラムを待った。
やがて軌道を鳴らしてトラムがやって来ると、リチェルの手を引いて乗り込んだ。
俺たち乗客が乗り込むと運転手がトラムを発進させる。
やわらかな風が頬を撫で始めた。
「ほ、ほわぁぁぁ……っ?!」
「リチェル、他のお客さんに迷惑だぞ」
「で、でもっ、でも凄いよ、お兄ちゃんっ! おっきいのがっ、牛さんより大きいのが動いてるっ!」
「そりゃトラムだしな。ほら座れ、立ってると落っこちるぞ」
そう警告すると、リチェルは兄の膝に座ろうとした。
さも当然と。
「いや、リチェル、人前でそれはまずい」
「え、なんでー?」
「なんでって……ちょっと仲が良過ぎるだろう? しかし似合うな」
人の膝に座ろうとするものだから、リチェルの制服に目の焦点が合った。
「えへへ……お兄ちゃん、もう50回くらいそれ言ってるよーっ!」
今日からリチェルは学生服だ。
ブレザーに魔法使いらしいマントを羽織って、学生帽子をかぶっている。
まるでアメリカの大学の卒業式みたいな帽子だった。
「言わずにはいられないんだ。うちの妹は世界で1番――いや、人前で言う言葉じゃないな、これは」
とにかくリチェルを隣に座らせて、あまりはしゃぐなと唇の前に人差し指を立てた。
転入を決めたのは正しかった。
こんな子を1人で王都に行かせられない。俺が面倒を見なければ、悪いやつにさらわれたり、騙されたりするに決まっている。
ああ、考えるだけでも肩がゾワゾワする……!
「いいか、リチェル。少しでも嫌だと感じる同級生がいたら、お兄ちゃんに言うんだ」
「うんっ。でも、なんでー?」
「それは、その子とお兄ちゃんが仲良しになるためだよ。そしたらその子も、リチェルと仲良しになれるだろう?」
「う、うん……」
うちの妹は天才だ。
いずれ必ずやっかまれる。
おまけにかわいくて性格がいいのだから、トラブルが起きないはずがない!
リチェルに少しでも妙なことをするやつがいれば、俺が排除する他にない……。
「それよりリチェル、目の前の風景をお兄ちゃんに語ってくれないか? さっきからがんばってはいるんだが、やはり、なんにも見えん……」
「うんっ、いいよー! あのね、今は青い小麦畑が見える! そよそよーって、風が見えるの!」
「おお、いいな、リチェルが言うと目に浮かぶようだ」
「えへへ……そうでしょー!」
「だけどもう少し、小さい声で頼むな」
他の乗客からすれば迷惑だったかもしれないが、俺たち兄妹にとってはとても楽しいトラムの旅になった。
2年前のあの日は何も見えなかったが、今日はハッキリと俺の目にも車窓が見えた。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。
狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。
街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。
彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる