上 下
14 / 107
勘違いド近眼の入学試験

・弩近眼の入学試験 - ここ、イザヤ学術院じゃねぇ…… -

しおりを挟む
 父さんが進学を許してくれたあの時、俺はすごく嬉しかった。
 彼は自分の夢を息子に押し付けることを止めて、息子が息子の人生の舵取りを担うことを認めてくれた。

 俺はこのイザヤ学術院で、死んだ父さんが誇れるような、立派な生徒になる。
 そう信じて迎えた本試験で、俺は……ようやく、気付いた……。

 さあやるぞ!
 と、テスト用紙に刮目かつもくしたその瞬間、全ての違和感の答えを見つけた!!

 動揺のあまり、ボキリとペン先がへし折れ、テスト用紙が破けた!!!

 そこには、こうあった……。

【問1.アルファベッドをABC順に正しく書きなさい】
【問2.次の足し算と引き算の答えを書きなさい】
【問3.ブルータスくんは金貨1万枚を持って軍艦を買いに行きました。軍艦の値段は金貨810枚です。さて、何隻買えたでしょう】
【問4.太陽は東、西のどちらから昇るでしょう】

 これ、違う……。
 ここ……違う……。

「どうした、グレイボーン?」
「違う……」

「は、何がだ?」

 すまない、クルト教官。
 すまない、クラウザー様。
 すまない……。

 キッチリと答案用紙に答えを書き込んで、自己採点で満点を確認したところで、俺は叫んだ!!



「ここ…………イザヤ学術院じゃ、ねぇぇぇぇぇぇーっっ!!!!!!」



 筆記試験を受け持っていたクルト教官は、俺の突然の発狂にさぞ驚いただろう。
 思い返してみれば最初から全部がおかしかった。

 学者と官僚を育成する学校で、筋力テストなんてするわけがねーーっっ!!

「おい、待て、どこに行くグレイボーンッ?! お前は主席入学確実なんだぞっ!?」
「すまん、間違えた……」

「何がだ!? いいから席に着け!」
「そうはいかない……。なぜなら、俺は……このマレニア魔術院に入学する気はないからだっ!!」

「な、なんだってぇーっっ?!!」
「すまんっ、すまんっ!! 俺はっ、試験会場を間違えた!!」

 そう叫ぶと、周囲の志望者に大爆笑された。
 そりゃそうだ。
 入学試験会場を間違えるバカなんて、それこそ前代未聞だ。

 パーフェクトと言ってもいい大バカだ。
 それが俺だ。
 俺は、俺は、パーフェクトバカだ!!

「ま、待てっ! お前の才能、イザヤなんかで腐らせるわけにはいかないっ!」
「止めるな、クルト教官!」

 クルト教官は教室の出口をふさいだ。
 騒ぎを聞き付けて、試験の飛び入り参加を許してくれた、あの声の太い教官までそこに加勢した。

「おい、ルーキ! もったいねぇこと言うんじゃねぇよ!」
「そうだ! マレニアで冒険者になれっ、グレイボーンッ!」
「いいや俺はイザヤに行く! 冒険者になるのは、その後だ!」

「あっ、あの野郎っ!?」

 正規ルートが使えないなら道は1つ。
 俺が抜け道を使うと、筆記試験会場から『飛び降りた!?』とか『ここ3階だぞ!?』とか、少し愉快な声が頭上から聞こえた。

「追えっ、追えっ! 全職員っ、あの重弩を持った若者を追えーっ!!」
「入試試験主席が逃げたぞーっっ!! ヤツはイザヤに入学するつもりだっ、絶対に捕まえろーっっ!!」

 なんと熱意ある教師たちだろうか。
 ふんじばってでもマレニアで教育を受けさせたい、その熱意はしかと受け取った!

 素晴らしい教育精神だ!
 この学校は、教える側に情熱がある!
 実に素晴らしい!

 だが俺は、決めた予定を変えられるほど器用じゃない!

 うっかり間違えて別の学校にはいっちゃいました、てへっ!
 なんて報告、リチェルに出来るわけがねーしっ!!

 俺は逃げた。
 阻む教師たちの隙間をすり抜けて、自慢の脚力でマレニア魔術院を飛び出した!

「考え直せっ、グレイボーンッ!! お前はマレニアで学ぶべき人材なんだっ!!」
「しつこいぞ、クルト教官!」

「お前は主席入学なんだぞ! それを蹴ってイザヤに入学だってっ!? マレニアのメンツを潰すつもりかお前はっ!!」
「だからすまんっ、間違えたんだ!!」

「ダメだ、今更間違えましたじゃ、済まさないっ!!」

 都ダイダロスの裏路地を、大通りを、時に魔導トラムを盾にして、俺は教官の追撃から逃げた!

 マレニア魔術院、恐るべし。
 クルト教官はいくら逃げても振り切れなかった。

「あら坊や、どちらへ?」
「うっっ、女史……っ?!」

「どうやら貴方、ロウドック以上の大バカみたいね。メテオッ!!」

 町中で隕石降らすオバちゃんに待ち伏せされたけど、俺は元気です。
 俺は逃げて、逃げて、隕石を避けて、避けて、イザヤ学術院の敷地に逃げ込んだ。

「はぁ……バカな子……。でもあの男の息子なんだから、当然よね……」
「マレニアはいつでも君の入学を待っているぞ、グレイボーン。イザヤの試験になんか、落ちちまえーっっ!!」

 それが大人のセリフかよ!
 せめてそこは祝福しろよ、クルト教官!

「私に妙案があるわ。クルト、今回は退きましょう。フフフ……逃げられると、急に惜しくなるものね……」
「すまん……すまん!」

 謝罪して、俺は重弩を抱えてイザヤ学術院の敷地深くへと入った。
 すると誰かがこちらに駆け追って来る。
 まだ追走劇が終わっていないのかと身構えた。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

召喚魔法使いの旅

ゴロヒロ
ファンタジー
転生する事になった俺は転生の時の役目である瘴気溢れる大陸にある大神殿を目指して頼れる仲間の召喚獣たちと共に旅をする カクヨムでも投稿してます

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

処理中です...