視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
6 / 107
プロローグ 重弩使いの少年

・重弩使いの少年 - 鎮魂の鐘 -

しおりを挟む
「さあ! でもねっでもねっ、リチェル、嬉しい! お兄ちゃんっ、来てくれた! だーいすきっっ!!」

「俺もだよ、リチェル。こうなっては仕方ない、夜が明けるまで中で待とう。朝になれば、炊事の煙が上がるはずだ」
「あははっ、お兄ちゃんも迷子ーっ!? リチェルとおんなじだーっ!」

「方位磁針、思い切って買った方がよさそうかな……」

 俺は迷宮の入り口に引き返し、薄暗いその中にリチェルと身を潜めた。

「そうだ! 明かり、つけるね!」
「ん、火種があるのか?」

「うーうんっ、こうするのっ!」

 リチェルはまるでゴムボールでも上にほおるように、迷宮の天井に手を振った。
 すると迷宮の天井に、あの強烈なイエローの輝きが灯った!

「さっきね、リチェル、まほー覚えた!」
「マ……ッ?! 魔法っ!?」

 俺の妹は誰に師事したわけでもなく、極限状態に身を置いただけで、たった8歳で明かりの魔法を使いこなしてしまう天才魔法使いだった。


 ・


 俺はその後、一晩中リチェルの背中をすっぽりと後ろから包んで、兄妹で夜が明けるのを待った。
 朝になると炊事の煙を頼りに町に引き返し、荘園の皆に無事を喜ばれながら屋敷に戻った。

 リチェルは母さんに厳しく叱られた。
 こうなるのが必然と考えて、俺は昨晩リチェルを叱らなかった。

 そちらは母さんに任せて、俺は病床の父さんに報告を入れた。
 元英雄的冒険者ロウドックは、我が子の一晩の冒険物語をとても楽しんで聞いてくれた。

「父さん。この重弩、貰ってもいいかな?」
「ああ……もちろんだとも……。いつかお前に渡すために、欠かさず維持してきた物だ……」

「ありがとう、大切にするよ」
「それは、俺の魂だ……。受け取ってくれ、息子よ……」

 父は快く己の魂を譲ってくれた。

「それにしても、これは凄いいしゆみだね。一撃で魔物が吹っ飛んで、後も残らない」
「む…………? これは、そこまでの破壊力では、ない、はずだが……」

 腑に落ちない様子で父上は疑問を呈した。

「妙、だな……。リチェルは、どの領境を越えたのだ……?」
「南だよ、小麦畑のある辺り。何が疑問なんだ?」

 昨晩聞けばリチェルは、これまで何度も領境を出ていたという。
 少しでも綺麗で心が落ち着く花を、お父さんに見てもらうために。

「ふ、ふふふ……ふは、ははははは……うっ、ゲホッゲホッ?!」
「ちょっと、大丈夫?」

 父さんの背中をさすると、父さんは息子の行動に驚いた。
 こういった気づかいをするようには、この父親は息子を育ててこなかった。

「領域レベル299……。中型のドラゴンや、巨人族。刃通さぬ大型蟲類が跋扈する……あの土地で、一撃、だと……?」
「ああ……そういえば昔、父さんがそんなことも言っていたような……」

 てか見えなかったし、父さんが大げさにとらえているだけで、俺が撃ったのはその中の雑魚枠だったのかも。

「進学……」
「え……っ?」

「進学したいと……お前は小さな頃、言っていたな……。今でも、進学、したいか……?」
「……うん、勉強もしたいよ。冒険者として、自由気ままに生きるには、少し早過ぎ気がするし……。あと、友達も欲しいな……」

「それだけ強ければ、なんの心配もない……。今日からは、お前の好きにしなさい」

 父が自由をくれると言い出すと、我が身が震えた。
 失った夢への身勝手な妄執もあったかもしれないが、彼は息子グレイボーンに、生きるすべを与えたかった。

 切り口を変えて見れば、まあそう見えなくもない。

「いや……進学はもう少し後にするよ。せっかく妹が出来たんだ、今のうちに兄貴らしいことをしておかないと」
「そうか……。まあ……そう長くは、かからぬはずだ……。出発の準備を、怠らぬ、ようにな……」

 ならば荘園をリチェルに譲りたいと持ちかけると、元冒険者ロウドックは怒るどころか、その決断をとても喜んだ。
 理由を語ると、さらに気を良くした。

 迷宮を攻略して土地を得る。
 それはこの世界の冒険者の夢だ。
 しかしこの地を継承してしまっては、その夢が陳腐化してしまう。

「もう、なんの心配もない……。こんなちっぽけな土地よりも、遙かに不変の、遺産を遺せたのだから、な……」

 進学の許しは得られた。
 けれど己が師事した男が終わりを迎えるその日まで、俺はこの地に留まった。

 彼は傲慢で視野狭窄もいいところだったが、子の幸せを願う一人の父親でもあった。

 ロウドックはそれから半年後の冬、温かい春の兆しが見えかけた頃、その名声を永遠のものとした。
 忘れられていた冒険譚が再び人々の間で語られ、ロウドックは失われた名声を取り戻した。

 父よ、どうか安らかに。
 ようやく妄執から解き離れた男に、どうか安息を。
 鎮魂の鐘は夜になっても鳴り止まず、母も妹も領民も、誰もが英雄の死を嘆き悲しんだ。

 ロウドックの来世にどうか幸あれ。


 ・


『んまかせてぇんっっ♪ あらおじさまいらっしゃぁぁーぃっっ、近くで見るとしっぶっ!! ああんっ渋いわぁぁーっ、キャーーッッ!!』
『なっ、なんだっ!? なんだこのトロル――うっ、ウオオオオオーーーッッ?!!』

『今日はアタシサービスしちゃうっっ!!』
『や、止めろっ、離せっ、俺にそういう趣味はないっっ、ヌオオオオオッッ!??』

 でももし、死後に行き着くのがあの酒場だとすると、あまり安息や悲壮感はないかもしれないな……。
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...