視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん

文字の大きさ
上 下
5 / 107
プロローグ 重弩使いの少年

・重弩使いの少年 - たぶん人じゃないヨシッッ!! -

しおりを挟む
 荘園の民に見守られながら領境のロープをまたぎ、手付かずの草原が続く大地を進んでいった。

「意外といいところだな。……なんも見えんけど」

 遠方は全く見えないが、近くはぼんやりとあいまいに見える。
 林が育つには土地が貧しいのか、辺りの木々がまばらなのがボウガン使いとして助かる。

「リチェルッ、リチェルッ!! 聞こえたら返事しろっ、迎えに来たぞ!!」

 俺は大声を上げながら草原地帯を歩く。
 まあそうなると、こちら側で暮らすモンスターたちからすれば、カモがネギを持って歌いながらねり歩いているも当然の状態になる。

 しかしそのカモは、ネギではなく一撃必殺の重弩を抱えていた。

「邪魔をするなっ!!」

 この目は確かにド近眼だ。
 だが眼球の動きの速さと正確さ、要するに動体視力は並外れている。

 相も変わらずぼんやりとして大まかな映像しか見えんが、とにかくそこに人よりでかい怪物がいることだけはわかる。

 かつて父は言った。
 ボウガン使いに最も必要なのは、勘と思い切りだと。

 つまり――


「たぶん人じゃないヨシッッ!!」


 リチェルに見えない者は全て撃った。
 命を失ったモンスターは消滅するため、鋼鉄の矢の回収も容易だった。

 俺は進み、狩り、進んだ。

「リチェルッ、いい加減姿を現せっ!! このままでは、地上のモンスターを刈り尽くしてしまうぞっ!!」

 そう叫び、はたと気付いた。
 こんな草原で追いつめられた人間は、どこに身を隠す?

 高い木の上?
 いやもっと良い場所がある。
 それは地下。この世界にあまねく存在する地下構造物、迷宮だ。

 古くは父さんもその迷宮の討伐を果たし、それにより人類の物となったその土地を荘園として与えられた。

 迷宮を攻略すると土地が得られる。
 それがこの世界の特異なルールだった。

「困った……。この目では、そんな物見つけようがないぞ……」

 それでも可能性があるとすれば迷宮の入り口だろう。
 そこに身を隠せば、あの子でも怪物をやり過ごせるはず。

「邪魔をするなと言っているっっ!!」

 モンスターは絶命すると消えてしまうので、いったい俺はどんな相手を撃ったのか確かめようがなかった。

 まあ一撃で死ぬくらいだ。
 そこまでの大物ではないだろう。

「リチェルッ、リチェルッ! どこにいるんだ、出てこい! くっ……次から次へと……っ。こっちは急いでいるんだっ、邪魔をするな雑魚どもっ!!」

 撃って、回収して、捜して、撃った。
 そうしてゆくうちに少しずつ日が沈み、ついに夕闇が世界を包み込んだ。

 けれども暗闇が色濃く世界を染めることで、日中には見えないものが見えるようになった。
 それは光だ。人が暮らせない草原に、黄色い光が現れていた。

 もしかしてあれが、迷宮?
 俺はまともな映像を結ばないその目で、薄黄でもなければ黄緑でもない、強烈なイエローの光を追う。

 それはまるで夜のテーマパークのように強い光だった。

「リチェルッ、いるか、リチェルッ!!」

 返事はない。
 ここにいないなら、もうモンスターに喰われているだろう……。

 深い絶望が全身を麻痺させた。
 俺はどうして、母への恨みをリチェルに向けてしまったのだろう。
 あの子を幸せにしてやりたかった。
 俺はまた良い兄貴をやれなかった……。

「…………お、お兄、ちゃん……?」
「リ……リチェルッ!? 無事だったか、よかったっっ!!」

「お兄ちゃん……っ!! リチェルを、捜しに来て、くれたんだ……っ。お兄ちゃんっっ!!」

 やはりそこは迷宮で、リチェルは迷宮の入り口の先に隠れていた。
 石造りの立派な門の辺りから、桃色と肌色のぼんやりした何かが顔を出し、駆けて、兄の胸に飛び付いた。

 自分から領境を越えたくせにリチェルは震えていた。

「はぁ、焦ったよ……。無事で本当によかった……」
「ごめんなさい……。お花、取りに来たら……どっちがお家か、わからなく、なっちゃって……。ぁ……っ?!」

 小さな身体を抱き締めて、あやすように背中を撫でて、妹の顔をのぞき込んだ。

 ヤベ、俺の妹かわい過ぎるだろ……。
 こんなにかわいい子を邪険にしていただなんて、俺はなんてバカだったんだ。

「お……お兄ちゃん……」
「父さんに花を見せるんだろ? どこにやった?」

「落としちゃった……」
「ならお兄ちゃんと一緒に摘んで帰ろう」

 まだ小さく震えている妹にやさしい声で微笑みかけた。

「ぇ…………お兄、ちゃん……?」
「どうした?」

「なんか……今日のお兄ちゃん、へん……」
「違う。変なのは今日までの俺だった。これから俺は心を入れ替えて、やさしいお兄ちゃんになる。今でも母さんは許せないけど、リチェルに罪はない」

「お兄ちゃんは、いつもやさしいよ」
「ならもっとやさしくする」

 重弩。一撃必殺の破壊力はいいのだが、これがあってはリチェルをおぶれない。
 俺は妹を胸から解放すると、小さな手を引いて歩き出し――いや、しかしこれは……。

「ところでリチェル、付かぬことを聞くんだが……」
「なあに、お兄ちゃん!」

 リチェルは元気を取り戻したようだ。
 ホッとしながら、かわいいリチェルにこう聞いた。

「どっちが家だ?」
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...