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・ドラゴンズ・ティアラ第一章 偽典となりてここに終幕する
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7月21日――
1日遅れの終業式を迎えた俺は、教室で解散するなり食堂を訪れた。
魔界での約87時間は、こちらでの24時間ほどだった。
こちらの世界の人たちからすれば、カテドラルごと魔法学院が消滅したことになる。
当然大騒ぎとなり、昨日は終業式どころではなかった。
「なんだい、アンタかい! あっちでは世話になったね! 特別におまけしてあげるよ!」
「ふっふっふっ……その前にこれを見ろっ、食堂のお姉さんっ!」
「ひかえろぉぃ、ひかえろぉぃ!」
『ぽいんぽいん』と跳ねるまおー様が俺の学生証をお姉さんに見せた。
そこには『学生ランクA』とある。そう、この学生証があれば、憧れのAランクのランチが食べられるのだ!!
「あっはっはっはっ、もちろん聞いてるよ! 恩賞ですぐにAランクにしてもらったんだってねぇ! 謙虚じゃないかい、見直したよ!」
「みんな戦ったんだ、あんま欲張るとまた陰口が増えちまう。……それに、お姉さんの美味しいご飯が食べたかったんだ」
「そうかいそうかい。ん……そうだね、なら今度うちの家で食事でもどうだい? ごちそうしてあげるよ」
「すまん、それは遠慮する」
「そう言わないで来なよ。取って食おうってんじゃないからさ……? ね……? ああもうっ、いいから来なっ、良いねっ!?」
「か……考えておく……」
今日のAランクのランチは、牛フィレ肉のワイン煮と、ふわふわのバターたっぷりのデニッシュパン、トマトと赤タマネギのマリネに、デザートにホイップの乗ったメロンが付く。
「おにくー、おにくー、さいこーだぜー。がんばって、よかったなー、しもべー」
「おう、こりゃ美味過ぎるぜっ! Dランクの飯もまあ美味かったが、満足感が違うな……」
まおー様を突っつきながら最高のランチを平らげた。
最後に残したのは当然、トマトのマリネだ。
そのマリネの前に俺はくすんだ青色の石を置く。
「それ、なんですか?」
「ヴァレリーッ、姿を消すならメメに一言言うのが礼儀でしゅよっ!!」
するとそこにいつもの2人がやって来た。
どうやら探してくれていたようだ。
「すまん、どうしてもここのAランクが今すぐ食いたくて」
「どんだけ食い意地張っとるでしゅかっ!!」
俺は石の前で両手を重ねて軽く祈った。
それから赤々としたトマトのマリネをフォークで刺し、生タマネギと一緒に口へ運んだ。
「美味い……美味過ぎるぜ、ネルヴァ」
「えっ、ネルヴァ、様……?」
「おう、コレ、ネルヴァ」
フォークで叩くと、ネルヴァの癖にガラス質の綺麗な音がした。
「ああ、そんな、ヴァー様……。お兄様を殺めてしまった罪悪感で、お心が……」
「壊れてねーよ、拾ったんだよ、あの後」
あの後、裏世界でこれを拾った。
場所は時計塔マップ付近。バグ・フラグメントとはならず、本来の姿を取っていた。
俺はミシェーラ皇女たちの前で、青い石にアイデンティファイをかけて、その正体を明かしてやった。
―――――――――――――――――――――
【名称】ネルヴァ・Vの核
【区分】錬成アイテム
【効果】錬成でネルヴァ・Vが誕生?
【解説】忠誠心ゼロ、要・服従化推奨
どんな姿になるかは触媒次第
―――――――――――――――――――――
つくづく運のないやつだ。
ネルヴァはボスモンスターと融合しため、錬成アイテムである核が残るようになってしまったようだ。
それをまさか、憎しみ合っていた弟に拾われるとか、マジついてねーな、コイツ。
「へへへ、何に創り替えてやろうかなぁ……? バッタ? ヒキガエル? タコ? カブトムシ? ロバ? カメムシ? うーん、迷う……」
フォークで何度もチンチン鳴らしてやった。
「悪魔がいるでしゅ……」
「へっへっへーっ、こきつかってもー、こころ、いたまねー、わく? みてーなー?」
「おう、そういうことだよな。やさしくされるくらいなら、こき使われる方が喜ぶよな、アイツ、プライドくそたけーし」
ネルヴァの前で俺はまおー様とトマトのマリネをシェアした。
お前が食べたくても食べられなかった憧れのAランチだぞ、ネルヴァ、羨ましかろう。
「ドン引きでしゅ……」
「でしたら、かわいい猫ちゃんにされてはどうでしょう……?」
「ま、それはそれで面白そうだな。ゆっくり考えるとするよ」
最後のマリネをまおー様にあげて完食した。過去最高に優雅なランチだった。これ以上の満足度のランチをこの先食べられるかもわからないほどの、過去最高級の味わいだった。
「それでヴァー様、夏休みのご予定は?」
「聞くまでもない。真っ白だ」
「でしたら私と、メメは抜きで――」
「それはまかり通りることなきにごじゃりましゅ、姫様」
ミシェーラ皇女は子供みたいに唇を突き出して、メメさんと見つめ合う。
こうして見るとどっちが姉貴分なのかわからない。
「残念ながらメメ込みで、私と夏のバカンスでもいかがでしょうか?」
「貧乏なのは知ってるでしゅ。予算はこちらで持ってやるでしゅよ、ありがたく思うでしゅ!」
「そういうことですので、夏休みは私たちと、どこか遠くに遊びに行きませんか……?」
「それ、俺なんかで良いのか?」
「はい! ヴァー様の他に候補は居ません! ヴァー様が行かないなら、私も寮に残ります!」
「そうか、なら行くしかないな。一緒に遊びに行こう、ミシェーラッ! メメさんっ!」
2章は夏休み編。
ミシェーラ皇女に主人公が誘われる形で始まる。
原作【ドラゴンズ・ティアラ】で描かれた最高に刺激的な夏が、乗っ取りを果たした俺を主人公にして始まろうとしていた。
俺はネルヴァだったものを乱雑にポケットへ突っ込むと、ミシェーラ皇女たちとこれからの予定を立てるために旅行本を求め、図書館へと歩き出した。
食べ物の恨みは恐いのだよ、ネルヴァくん。
お前の運命はあの日、俺のトマトをかじった瞬間に決まったのだ。あの仕打ちさえなければ、俺はお前との和解ルートを望んだだろう。
しかしお前は俺のトマトを食った。有罪!
あの日無惨に食われたトマトの仇を討った俺の胸は、魔界帰りに見上げたあの青空よりも晴れやかだった。
ー 偽典ドラゴンズ・ティアラ第一章 終幕 ー
1日遅れの終業式を迎えた俺は、教室で解散するなり食堂を訪れた。
魔界での約87時間は、こちらでの24時間ほどだった。
こちらの世界の人たちからすれば、カテドラルごと魔法学院が消滅したことになる。
当然大騒ぎとなり、昨日は終業式どころではなかった。
「なんだい、アンタかい! あっちでは世話になったね! 特別におまけしてあげるよ!」
「ふっふっふっ……その前にこれを見ろっ、食堂のお姉さんっ!」
「ひかえろぉぃ、ひかえろぉぃ!」
『ぽいんぽいん』と跳ねるまおー様が俺の学生証をお姉さんに見せた。
そこには『学生ランクA』とある。そう、この学生証があれば、憧れのAランクのランチが食べられるのだ!!
「あっはっはっはっ、もちろん聞いてるよ! 恩賞ですぐにAランクにしてもらったんだってねぇ! 謙虚じゃないかい、見直したよ!」
「みんな戦ったんだ、あんま欲張るとまた陰口が増えちまう。……それに、お姉さんの美味しいご飯が食べたかったんだ」
「そうかいそうかい。ん……そうだね、なら今度うちの家で食事でもどうだい? ごちそうしてあげるよ」
「すまん、それは遠慮する」
「そう言わないで来なよ。取って食おうってんじゃないからさ……? ね……? ああもうっ、いいから来なっ、良いねっ!?」
「か……考えておく……」
今日のAランクのランチは、牛フィレ肉のワイン煮と、ふわふわのバターたっぷりのデニッシュパン、トマトと赤タマネギのマリネに、デザートにホイップの乗ったメロンが付く。
「おにくー、おにくー、さいこーだぜー。がんばって、よかったなー、しもべー」
「おう、こりゃ美味過ぎるぜっ! Dランクの飯もまあ美味かったが、満足感が違うな……」
まおー様を突っつきながら最高のランチを平らげた。
最後に残したのは当然、トマトのマリネだ。
そのマリネの前に俺はくすんだ青色の石を置く。
「それ、なんですか?」
「ヴァレリーッ、姿を消すならメメに一言言うのが礼儀でしゅよっ!!」
するとそこにいつもの2人がやって来た。
どうやら探してくれていたようだ。
「すまん、どうしてもここのAランクが今すぐ食いたくて」
「どんだけ食い意地張っとるでしゅかっ!!」
俺は石の前で両手を重ねて軽く祈った。
それから赤々としたトマトのマリネをフォークで刺し、生タマネギと一緒に口へ運んだ。
「美味い……美味過ぎるぜ、ネルヴァ」
「えっ、ネルヴァ、様……?」
「おう、コレ、ネルヴァ」
フォークで叩くと、ネルヴァの癖にガラス質の綺麗な音がした。
「ああ、そんな、ヴァー様……。お兄様を殺めてしまった罪悪感で、お心が……」
「壊れてねーよ、拾ったんだよ、あの後」
あの後、裏世界でこれを拾った。
場所は時計塔マップ付近。バグ・フラグメントとはならず、本来の姿を取っていた。
俺はミシェーラ皇女たちの前で、青い石にアイデンティファイをかけて、その正体を明かしてやった。
―――――――――――――――――――――
【名称】ネルヴァ・Vの核
【区分】錬成アイテム
【効果】錬成でネルヴァ・Vが誕生?
【解説】忠誠心ゼロ、要・服従化推奨
どんな姿になるかは触媒次第
―――――――――――――――――――――
つくづく運のないやつだ。
ネルヴァはボスモンスターと融合しため、錬成アイテムである核が残るようになってしまったようだ。
それをまさか、憎しみ合っていた弟に拾われるとか、マジついてねーな、コイツ。
「へへへ、何に創り替えてやろうかなぁ……? バッタ? ヒキガエル? タコ? カブトムシ? ロバ? カメムシ? うーん、迷う……」
フォークで何度もチンチン鳴らしてやった。
「悪魔がいるでしゅ……」
「へっへっへーっ、こきつかってもー、こころ、いたまねー、わく? みてーなー?」
「おう、そういうことだよな。やさしくされるくらいなら、こき使われる方が喜ぶよな、アイツ、プライドくそたけーし」
ネルヴァの前で俺はまおー様とトマトのマリネをシェアした。
お前が食べたくても食べられなかった憧れのAランチだぞ、ネルヴァ、羨ましかろう。
「ドン引きでしゅ……」
「でしたら、かわいい猫ちゃんにされてはどうでしょう……?」
「ま、それはそれで面白そうだな。ゆっくり考えるとするよ」
最後のマリネをまおー様にあげて完食した。過去最高に優雅なランチだった。これ以上の満足度のランチをこの先食べられるかもわからないほどの、過去最高級の味わいだった。
「それでヴァー様、夏休みのご予定は?」
「聞くまでもない。真っ白だ」
「でしたら私と、メメは抜きで――」
「それはまかり通りることなきにごじゃりましゅ、姫様」
ミシェーラ皇女は子供みたいに唇を突き出して、メメさんと見つめ合う。
こうして見るとどっちが姉貴分なのかわからない。
「残念ながらメメ込みで、私と夏のバカンスでもいかがでしょうか?」
「貧乏なのは知ってるでしゅ。予算はこちらで持ってやるでしゅよ、ありがたく思うでしゅ!」
「そういうことですので、夏休みは私たちと、どこか遠くに遊びに行きませんか……?」
「それ、俺なんかで良いのか?」
「はい! ヴァー様の他に候補は居ません! ヴァー様が行かないなら、私も寮に残ります!」
「そうか、なら行くしかないな。一緒に遊びに行こう、ミシェーラッ! メメさんっ!」
2章は夏休み編。
ミシェーラ皇女に主人公が誘われる形で始まる。
原作【ドラゴンズ・ティアラ】で描かれた最高に刺激的な夏が、乗っ取りを果たした俺を主人公にして始まろうとしていた。
俺はネルヴァだったものを乱雑にポケットへ突っ込むと、ミシェーラ皇女たちとこれからの予定を立てるために旅行本を求め、図書館へと歩き出した。
食べ物の恨みは恐いのだよ、ネルヴァくん。
お前の運命はあの日、俺のトマトをかじった瞬間に決まったのだ。あの仕打ちさえなければ、俺はお前との和解ルートを望んだだろう。
しかしお前は俺のトマトを食った。有罪!
あの日無惨に食われたトマトの仇を討った俺の胸は、魔界帰りに見上げたあの青空よりも晴れやかだった。
ー 偽典ドラゴンズ・ティアラ第一章 終幕 ー
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