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・狂気の弟 骨肉の争いに終止符を打つ
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「ヴァレリウスッッ、貴様さえっ、貴様さえ産まれて来なければっっ!!」
お前さえいなければ、こんなに苦しい思いをすることはなかった。
「そっくりそのまま返すぜ、ネルヴァッッ!! お前さえいなければっ、お前さえいなければ俺は普通に生きられたっっ!! お前がいたから俺は破滅したんだっっ!!」
雷剣に全身が引き裂かれようと、ネルヴァは止まらない。
術に焼かれ、吹き飛ばされ、闇の術に手足を蝕まれようと、ヴァレリウスもまた止まらなかった。
殺す。殺す。殺す。殺す。
もはやここにいるのは俺ではなく、俺の中に眠る狂気のヴァレリウスそのものだった。
古来より続く兄と弟の骨肉の争いは、あまりに醜く野蛮だった。
「貴様など死んでしまえっっ、ヴァレリスッッ!!」
『お前こそ死ね、ネルヴァ――』と、言葉にしかけて俺は思った。
そんなひねりのないセリフを吐くなんて、それこそモブキャラみたいだ。こんなセリフは、主人公の座を乗っ取ったやつの口から出すものではない。
ネルヴァのマジックアローの嵐の中を俺は駆け抜けた。
「はっ、悪ぃな、ネルヴァッ!! やっぱそういうノリは――性に合わねぇっ!! まおー様っ!!」
「へっ、しょーがねーな、せわのやける――わぁーっっ?!」
ファイアーウォールのちょうどいいところで暖を取っていたまおー様を、俺は飛び込むようにポケットへ回収した。
「卑怯な……!! またソイツを使う気かっ!!」
「ちげーよ」
ファイアーウォールの向こうは落ち着いていた。死霊系の襲撃を全て片付け終わったようだ。
「使うのは、まおー様だけじゃない。全テイムモンスターだっ!!」
「な、なんだとっ!?」
「再召喚っっ、我が下に集えっ、なんかキャワイイ軍勢よっっ!!」
キューちゃんとガルちゃんとこちら側に再召喚した。
各個撃破なんてさせねぇ。俺は襲い来るネルヴァの腕よりも先に、雷剣の片方をその本体に投げ付けた!
発動を解除された雷剣は、激しいスパークを引き起こしてネルヴァの動きを封じた。
「キューちゃんっ、ガルちゃんっ、まおー様っ、今だっ!! 【灼熱の業炎】!!」
「ギュルルルゥゥッッ!!」
「アオーンッッ!!」
「へっ、おいしいとこ、もらってやんぜー!」
キューちゃんは俺に投げられたまおー様と、飛び付いて来たガルちゃんを背中に乗せた。
それから翼を激しく羽ばたかせると、一瞬でネルヴァに肉薄する。
「そんな、雑魚など、返り討ちにしてくれる――ヌ、ヌワアアアッッ?!!」
ギリギリで間に合わなそうなので、残りもう1本の雷剣も投げ付けてスパークさせた。
「今だっ、まおー様御一行っ!!」
「あばよーっ、すとーかーやろーっ!!」
灼熱の業炎。命中率は限りなく低いが、威力値は999の当たれば必殺のブレス攻撃。
それが飛び上がったまおー様、地に降りたガルちゃん、喰らい付かんするところまで顎を近付けたキューちゃんにより、ネルヴァだった存在を焼き払った。
結果はあっけなかった。
「殺してやるぞ……殺してやるからな……ヴァレリウス……殺して……やる……。貴様……だけ……は…………」
ネルヴァはそう言い残し燃え尽きた。
まるでヴァレリウスの身代わりとなるように、ネルヴァは破滅の時を迎えた。
本編のヴァレリウスは、黒幕の手により魔物と錬成された後、滅びることなく生きていた。
そしてクライマックスの舞台で、惨めな姿を主人公たちにさらし、討たれることになる。
ネルヴァが生み出したファイアーウォールは消滅し、メメさんとミシェーラ皇女がすぐにボロボロの俺に回復魔法を使ってくれた。
「救えませんでしたね……」
「おう、救いようのねぇバカだったわ、アイツ」
プレイヤーだったジェードからしても、ネルヴァを救いたいところだったろう。
だが人体錬成に手を染めた時点で手遅れだった。ストーリーのボスと融合されては消滅させる他にない。
「あれ、なんでしゅか……?」
「そうね、船の錨に似ているけど……船なんてどこにもないものね……?」
それこそが2つの世界を繋ぐ楔だ。
魔法学院とこの魔界と呼ばれる世界の相を重ねるために打たれた、待ち針みたいなものだ。
「ミシェーラ、試しにそれ、ぶっ壊してみたらどうだ?」
「あら、どうして私の考えていることがわかったのですか?」
「姫様ぁーっ!? 後先考えずに物を壊すのは良き淑女ではごじゃいませぬでしゅよっっ!?」
「師匠が言うなら間違いないですよ。壊してみて下さい」
「何言ってるでしゅかっ、一番信用ならないのがこの男でごじゃいましゅっ!!」
ミシェーラ皇女が静かに剣を抜いた。
ボスとの死闘でハブられたことに少し鬱憤がたまっているのか、鋭い気迫だ。
「貫通必殺【スパイラルソード】っっ!!」
いかにも硬そうな魔法の錨に防御力50%無視の一撃を叩き込み、ミシェーラ皇女は魔法学院を縛り付けるくびきを一撃で断った。
これにより天高く続いていた時計塔ダンジョンは消滅し、俺たちは不思議な力に時計塔の外へと弾き飛ばされることになった。
・
元の世界に帰るまでに、ほんの少しのタイムラグがあった。
魔界との繋がりが断たれたことにより、分棟周辺を徘徊していたモンスターたちは透けるように消えてゆき、本校舎から喜びの歓声が聞こえて来た。
俺たちは堂々と正門側に回り込み、焦げてしまった並木道を目指した。
剣や杖を持った学生たちがそこに集まていた。
「ヴァレリウスッ、お前がやってくれたのか!? そうなんだよなっ!?」
あのちょっと嫌みな『2-D』のやつが飛んで来て、俺の肩を揺すってそう言った。
「痛ぇよ、こっちは怪我人なんだ、勘弁してくれよ……!」
「アンタ、あの光る時計塔に行って来たの……? なんであたしを連れてかないのよっ、水くさいわね!!」
「そうですよっ、私でも少しは力になれたかもしれないのに……」
シャーロットとコルリに不平を言われた。
事実を俺がはぐらかす暇もなく、ミシェーラとジェードが時計塔に救う怪物を倒して来たと勝手に明かしてしまった。
「やっぱりそうか! 君はすごい人だっ、ありがとう、ヴァレリウス! 『2-A』を代表して君たちに感謝を表明するよ!」
「『2-D』を代表して俺たちからも感謝しよう。これで、やっと帰れるんだよな……?」
その答えはあと10分ほど待たないとわからない。そういうことになっている。
「おう、帰れるぜ。あの空を見ろ、どう見たってこりゃ、そういう流れだろ?」
血のように赤い魔界の空が薄れていっている。
星々の輝きは鈍り、正門の彼方に広がる果てしない荒野には蜃気楼のような陽炎がかかっていた。
「帰れる……俺たち、帰れるのか……いやったぁぁーっっ!!」
誰かがそう叫ぶと、それが根拠のない事実になった。
帰れる。元の世界に帰れる。みんなの喜びが爆発した。
原作ではもっと描写があっさりとしていた。
さっと終わらせた方が話の締まりが良いとシナリオライターは考えたのだろう。
だが俺とジェードには展開のカットなんて発生しない。
「やったな、ジェード。悪くないオチだと思わねぇか?」
「はい! あ、いえ、でも……ネルヴァくんのことは、とても残念でした……」
「気にしてられるかよ、あんなバカなやつ。おいジェード、お前いい子ちゃんだろ? 俺は気にしねぇよ、あんな野郎のことなんて1ミリもよ」
「やっぱりこの男クズでしゅ……」
クズで上等。メソメソするのは性に合わない。まかり間違っても、『ネルヴァが俺の代わりに破滅してしまった悲しい、申し訳ない』なんて俺は考えない。
「私は今日まで屠った相手の数を覚えておく派です。日記に付けて、戦いを思い返しながらお茶を飲むのが生きがいです」
それは皇女ではなく、シリアルキラーの余暇の過ごし方ではないだろうか。
「あいあい、まことに雅なご趣味かと存じましゅ」
薄れゆく赤い空を見上げながら、俺は心の中でネルヴァに別れの言葉を贈った。
俺の身代わりになってくれてありがとよ、ネルヴァ。お前には心の底から感謝しているぜ。
まもなくして繋がれていた2つの世界は完全に分離した。俺たちは夢にまで見た当たり前の光景――晴れやかな夏の青空と、銀色に輝く積乱雲を見上げることになったのだった。
お前さえいなければ、こんなに苦しい思いをすることはなかった。
「そっくりそのまま返すぜ、ネルヴァッッ!! お前さえいなければっ、お前さえいなければ俺は普通に生きられたっっ!! お前がいたから俺は破滅したんだっっ!!」
雷剣に全身が引き裂かれようと、ネルヴァは止まらない。
術に焼かれ、吹き飛ばされ、闇の術に手足を蝕まれようと、ヴァレリウスもまた止まらなかった。
殺す。殺す。殺す。殺す。
もはやここにいるのは俺ではなく、俺の中に眠る狂気のヴァレリウスそのものだった。
古来より続く兄と弟の骨肉の争いは、あまりに醜く野蛮だった。
「貴様など死んでしまえっっ、ヴァレリスッッ!!」
『お前こそ死ね、ネルヴァ――』と、言葉にしかけて俺は思った。
そんなひねりのないセリフを吐くなんて、それこそモブキャラみたいだ。こんなセリフは、主人公の座を乗っ取ったやつの口から出すものではない。
ネルヴァのマジックアローの嵐の中を俺は駆け抜けた。
「はっ、悪ぃな、ネルヴァッ!! やっぱそういうノリは――性に合わねぇっ!! まおー様っ!!」
「へっ、しょーがねーな、せわのやける――わぁーっっ?!」
ファイアーウォールのちょうどいいところで暖を取っていたまおー様を、俺は飛び込むようにポケットへ回収した。
「卑怯な……!! またソイツを使う気かっ!!」
「ちげーよ」
ファイアーウォールの向こうは落ち着いていた。死霊系の襲撃を全て片付け終わったようだ。
「使うのは、まおー様だけじゃない。全テイムモンスターだっ!!」
「な、なんだとっ!?」
「再召喚っっ、我が下に集えっ、なんかキャワイイ軍勢よっっ!!」
キューちゃんとガルちゃんとこちら側に再召喚した。
各個撃破なんてさせねぇ。俺は襲い来るネルヴァの腕よりも先に、雷剣の片方をその本体に投げ付けた!
発動を解除された雷剣は、激しいスパークを引き起こしてネルヴァの動きを封じた。
「キューちゃんっ、ガルちゃんっ、まおー様っ、今だっ!! 【灼熱の業炎】!!」
「ギュルルルゥゥッッ!!」
「アオーンッッ!!」
「へっ、おいしいとこ、もらってやんぜー!」
キューちゃんは俺に投げられたまおー様と、飛び付いて来たガルちゃんを背中に乗せた。
それから翼を激しく羽ばたかせると、一瞬でネルヴァに肉薄する。
「そんな、雑魚など、返り討ちにしてくれる――ヌ、ヌワアアアッッ?!!」
ギリギリで間に合わなそうなので、残りもう1本の雷剣も投げ付けてスパークさせた。
「今だっ、まおー様御一行っ!!」
「あばよーっ、すとーかーやろーっ!!」
灼熱の業炎。命中率は限りなく低いが、威力値は999の当たれば必殺のブレス攻撃。
それが飛び上がったまおー様、地に降りたガルちゃん、喰らい付かんするところまで顎を近付けたキューちゃんにより、ネルヴァだった存在を焼き払った。
結果はあっけなかった。
「殺してやるぞ……殺してやるからな……ヴァレリウス……殺して……やる……。貴様……だけ……は…………」
ネルヴァはそう言い残し燃え尽きた。
まるでヴァレリウスの身代わりとなるように、ネルヴァは破滅の時を迎えた。
本編のヴァレリウスは、黒幕の手により魔物と錬成された後、滅びることなく生きていた。
そしてクライマックスの舞台で、惨めな姿を主人公たちにさらし、討たれることになる。
ネルヴァが生み出したファイアーウォールは消滅し、メメさんとミシェーラ皇女がすぐにボロボロの俺に回復魔法を使ってくれた。
「救えませんでしたね……」
「おう、救いようのねぇバカだったわ、アイツ」
プレイヤーだったジェードからしても、ネルヴァを救いたいところだったろう。
だが人体錬成に手を染めた時点で手遅れだった。ストーリーのボスと融合されては消滅させる他にない。
「あれ、なんでしゅか……?」
「そうね、船の錨に似ているけど……船なんてどこにもないものね……?」
それこそが2つの世界を繋ぐ楔だ。
魔法学院とこの魔界と呼ばれる世界の相を重ねるために打たれた、待ち針みたいなものだ。
「ミシェーラ、試しにそれ、ぶっ壊してみたらどうだ?」
「あら、どうして私の考えていることがわかったのですか?」
「姫様ぁーっ!? 後先考えずに物を壊すのは良き淑女ではごじゃいませぬでしゅよっっ!?」
「師匠が言うなら間違いないですよ。壊してみて下さい」
「何言ってるでしゅかっ、一番信用ならないのがこの男でごじゃいましゅっ!!」
ミシェーラ皇女が静かに剣を抜いた。
ボスとの死闘でハブられたことに少し鬱憤がたまっているのか、鋭い気迫だ。
「貫通必殺【スパイラルソード】っっ!!」
いかにも硬そうな魔法の錨に防御力50%無視の一撃を叩き込み、ミシェーラ皇女は魔法学院を縛り付けるくびきを一撃で断った。
これにより天高く続いていた時計塔ダンジョンは消滅し、俺たちは不思議な力に時計塔の外へと弾き飛ばされることになった。
・
元の世界に帰るまでに、ほんの少しのタイムラグがあった。
魔界との繋がりが断たれたことにより、分棟周辺を徘徊していたモンスターたちは透けるように消えてゆき、本校舎から喜びの歓声が聞こえて来た。
俺たちは堂々と正門側に回り込み、焦げてしまった並木道を目指した。
剣や杖を持った学生たちがそこに集まていた。
「ヴァレリウスッ、お前がやってくれたのか!? そうなんだよなっ!?」
あのちょっと嫌みな『2-D』のやつが飛んで来て、俺の肩を揺すってそう言った。
「痛ぇよ、こっちは怪我人なんだ、勘弁してくれよ……!」
「アンタ、あの光る時計塔に行って来たの……? なんであたしを連れてかないのよっ、水くさいわね!!」
「そうですよっ、私でも少しは力になれたかもしれないのに……」
シャーロットとコルリに不平を言われた。
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「やっぱりそうか! 君はすごい人だっ、ありがとう、ヴァレリウス! 『2-A』を代表して君たちに感謝を表明するよ!」
「『2-D』を代表して俺たちからも感謝しよう。これで、やっと帰れるんだよな……?」
その答えはあと10分ほど待たないとわからない。そういうことになっている。
「おう、帰れるぜ。あの空を見ろ、どう見たってこりゃ、そういう流れだろ?」
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星々の輝きは鈍り、正門の彼方に広がる果てしない荒野には蜃気楼のような陽炎がかかっていた。
「帰れる……俺たち、帰れるのか……いやったぁぁーっっ!!」
誰かがそう叫ぶと、それが根拠のない事実になった。
帰れる。元の世界に帰れる。みんなの喜びが爆発した。
原作ではもっと描写があっさりとしていた。
さっと終わらせた方が話の締まりが良いとシナリオライターは考えたのだろう。
だが俺とジェードには展開のカットなんて発生しない。
「やったな、ジェード。悪くないオチだと思わねぇか?」
「はい! あ、いえ、でも……ネルヴァくんのことは、とても残念でした……」
「気にしてられるかよ、あんなバカなやつ。おいジェード、お前いい子ちゃんだろ? 俺は気にしねぇよ、あんな野郎のことなんて1ミリもよ」
「やっぱりこの男クズでしゅ……」
クズで上等。メソメソするのは性に合わない。まかり間違っても、『ネルヴァが俺の代わりに破滅してしまった悲しい、申し訳ない』なんて俺は考えない。
「私は今日まで屠った相手の数を覚えておく派です。日記に付けて、戦いを思い返しながらお茶を飲むのが生きがいです」
それは皇女ではなく、シリアルキラーの余暇の過ごし方ではないだろうか。
「あいあい、まことに雅なご趣味かと存じましゅ」
薄れゆく赤い空を見上げながら、俺は心の中でネルヴァに別れの言葉を贈った。
俺の身代わりになってくれてありがとよ、ネルヴァ。お前には心の底から感謝しているぜ。
まもなくして繋がれていた2つの世界は完全に分離した。俺たちは夢にまで見た当たり前の光景――晴れやかな夏の青空と、銀色に輝く積乱雲を見上げることになったのだった。
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